韓国大統領府の公然たる言論弾圧と米朝首脳会談の大きな課題
韓国政府が自国内の言論機関に「都合の悪いことを報じるな」と、暗黙の命令を出したようです。ただ、その一方で朝鮮半島核問題をめぐり、ロシアの動きが見えてきたことも事実です。
朝鮮日報「米国が韓国に『非核化問題に関わるな』」
少し前から、当ウェブサイトでは韓国国内で『朝鮮日報』という新聞が文在寅(ぶん・ざいいん)政権に対して批判的である、という話題を取り上げています。たとえば、朝鮮日報が5月29日付で掲載した次の記事も、韓国政府にとっては都合が悪いものです。
米国が韓国に要請「非核化問題に深入りするな」(2018/05/29 10:08付 朝鮮日報日本語版より)
朝鮮日報の記事の概要は、韓国の李洛淵(り・らくえん)首相が欧州歴訪中の現地時間27日、ロンドンで特派員および記者団と昼食会を開き、
「米国が、非核化問題に関して韓国はあまり深く入り込まないでほしいという要請を行った」
と明らかにした、とするものです。早い話が、韓国政府が米国から「それ以上、首を突っ込むな」と叱られた、とする記事ですね。
ところが、朝鮮日報がこうした報道姿勢を示し始めたからでしょうか、韓国大統領府は、なかば公然と言論弾圧を開始しました。文在寅政権に近い『ハンギョレ新聞』(日本語版)によると、韓国大統領府は先月29日、朝鮮日報と系列のTV朝鮮を強く批判したのだそうです。
大統領府、論評で朝鮮日報・TV朝鮮を批判「足を引っ張るのをやめてほしい」(2018-05-31 07:46付 ハンギョレ新聞日本語版より)
ハンギョレ新聞の報道によれば、
「最近の南北・朝米会談の局面で相次いで未確認の誤報を出している朝鮮日報とTV朝鮮に対し、強い遺憾を表明した」
としていますが、ここでいう「未確認の誤報」とやらが、上記の「米国から韓国へのお叱り」なども含んでいるのかどうかは、よくわかりません。
しかし、先進国ではメディアによる政権批判は当然のことです。それなのに、政権批判をするメディアを、逆に政権が厳しく批判するとは、法治主義、言論の自由などの基本的な理念が備わっていない証拠でしょう。安倍晋三総理大臣が韓国を「価値も利益も共有しない」と位置付けたことは、ある意味で正しい判断だと思います。
※ちなみに日本の場合は「報道の自由」が行き過ぎていて、極左の朝日新聞から比較的右寄りの産経新聞に至るまで、安倍政権の足を引っ張る報道をたくさん見掛けますが、言い掛かりレベルでの安倍政権批判は、逆に困ったものです。もし韓国で同じレベルの報道がなされていたら、これらのマス・メディア産業関係者は「大統領に対する名誉棄損」などの罪で、逮捕・投獄されているかもしれませんね(笑)
ロシアがどう関わって来るのか?
おもむろにロシアが出現
ところで、ハンギョレ新聞は論調自体が北朝鮮に寄り過ぎていて、読んでいると正直、感覚がおかしくなってしまうメディアです。いっそのこと、ハンギョレ新聞は「韓国国内にある北朝鮮メディア」と決めつけた方がすっきりします。
ただ、これは中央日報などの中途半端なメディアと違い、「北朝鮮寄り」のハンギョレ新聞だからこそ、ときどき、思わぬ「掘り出し物記事」に出会うことがあります。その典型的な記事が、これです。
ロシア外相、31日に平壌訪問(2018-05-31 08:33付 ハンギョレ新聞日本語版より)
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が(5月)31日に、北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)を訪れる、とする記事です。といっても、昨日の記事であり、現段階ではすでにこの訪問は終わっているはずなので、本日当たり、もしかしたらハンギョレ新聞に記事が更新されるかもしれません。
では、なぜこれが重要な情報なのでしょうか?
これは、昨年秋口以降、北朝鮮の核危機が高まっていたなかで、存在感を見せていなかったロシアが公然と動き出したという、初めての兆候だからです。
地図を広げてみれば分かりますが、朝鮮半島を取り巻いている周辺大国は、中国、ロシア、日本の3ヵ国です。そして、日本が1945年に米国に敗戦して以降は、日米両国は世界でも最も緊密な同盟国となっているため、日米中露の4ヵ国が、事実上、この地域の平和と安定に強い利害を持ちます。
本来であれば、この4ヵ国が合意すれば、朝鮮半島処分(朝鮮半島を独立させるか、南北分断のままとどめ置くか、南北統一させるか、4ヵ国で分割占領するか、など)は自由自在です。
ところが、この4ヵ国が朝鮮半島処分で合意することは、ほとんどありません。なぜなら、4ヵ国(といっても日米は一体なので、事実上は日米陣営、中国、ロシアという、実質3陣営)は、朝鮮半島で何かと利害が対立しているからです。
いわば、100年以上前に、鮮半島の勢力を巡り日清、日露戦争が勃発したときと、基本的に構図は変わっていないのです(このあたりについては、いちど、別稿にてじっくりと考えてみたいと思います)。
ロシアの主張の要点
ところで、現在のロシアはいったい何を主張しているのでしょうか?ハンギョレ新聞の記事から、該当する下りを抜粋しておきましょう。
「6カ国協議の参加国であるロシアは、「4・27板門店(パンムンジョム)宣言」で朝鮮半島平和体制構築条項からロシアが外れたことと関連して(中略)意に介さないという立場を明らかにした。しかし、北東アジア平和体制構築については「この目標の達成手段はロシアが参加する6カ国協議の枠組みであり、他に代案はない」として積極的な参加の意志を明らかにした。」(下線部は引用者による加工)
つまり、ロシアのスタンスは、「朝鮮戦争の終戦」にはまったく興味がないが、東アジア平和体制の構築のためには「ロシア自身を含めた6ヵ国が必要だ」、とするものです。
4月27日の板門店(はんもんてん)宣言では、南北朝鮮は「米国+南北朝鮮」、もしくは「米国+中国+南北朝鮮」という枠組みで朝鮮戦争の終結を協議することが謳われていて、ロシアと日本は「蚊帳の外」に置かれていましたが、ロシアとしては、この部分には興味がない、というものです。
(※ついでに朝鮮戦争が続こうが終結しようが、南北朝鮮が一緒になろうがなるまいが、興味も関心もないという点では、日本も同じかもしれません。)
しかし、朝鮮半島の非核化を巡っては、「6ヵ国協議の枠組み」を通じてなされるべきだ(つまりロシアも混ぜろ)、と主張しているのです。シンガポール会談直前になって、やっとロシアがプレイヤーとして姿を現した格好となっています。
密かに「4ヵ国協議」にも注目
といっても、ロシアのことですから、「世界平和のために北朝鮮から核を取り上げる」、という単純な理念で動く国ではありません。ロシアは常に、自国の利益が拡大することを最も重視している国であり、北朝鮮の核放棄が結果的にロシアの利益になるなら、それを実現させるだけの話でしょう。
北朝鮮核問題の最善の解決策とは、周辺4大国(日米中露)が協議して、朝鮮半島から核をいっさい取り上げ、朝鮮半島を非核化したうえで、朝鮮半島における4ヵ国の勢力を決めることです(余談ですが、私はいっそのこと、朝鮮半島の全域を中国に委ねても良いと考えています)。
しかし、中国、ロシア、米国はそれぞれ、朝鮮半島に足掛かりを作っておきたいと思うでしょう。このため、日米中露4ヵ国がすべて納得できるような「新秩序」などありません。いずれかの国が妥協し、譲らなければならないのです。
一番手っ取り早いのは、6月12日のシンガポール会談の場に、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席とロシアのウラジミル・プーチン大統領、米国のドナルド・J・トランプ大統領に日本の安倍晋三総理大臣の4者が集まってしまうことでしょう。
もしうまい具合にそうなれば、米国は北朝鮮の命運を決めるのに、別に金正恩(きん・しょうおん)など相手にする必要はありません。周辺の4ヵ国が談合すれば良いだけの話です。意外と、6月12日のシンガポール会談には金正恩が訪れず、日米中露4ヵ国で首脳会談、というオチになるのかもしれません。
いずれにせよあと2週間弱で6月12日が到来しますが、このシナリオは、あながち間違いではないと私は個人的に思っています。つまり、「果たして本当に米朝首脳会談は行われるのか」よりも、「米国が中国・ロシアをうまく使うことができるか」などの方が、実は隠れた大きな課題であるように思えてなりません。
朝鮮半島核危機を巡っては、中国、ロシアの動きについても、興味・関心を持たなければならないことは、言うまでもなさそうです。
(※なお、韓国のことは無視しておいても差し支えないと思いますが…笑)
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
米朝首脳会談12日?
翌日13日韓国統一地方選挙、お得意の世論操作…
< 毎日の更新ありがとうございます。
< 韓国は自由社会・民主国家にいちおう分類されますが、やっぱり『法治主義』『三権分立』『主権在民』等、あらゆる部分で日米英仏豪加等と違うなと感じました。ハンギョレ新聞を使った朝鮮日報、テレビ朝鮮への政府からの攻撃がそうです。
< 朝鮮人とか中国人は、個人の自由、果たすべき義務、また多彩な生き方の尊重等といったことより、『右向け右ッ』の全体主義の方が馴染むんでしょう。ずっと以前、もちろん戦後ですが、似たような事を李承晩がやりました。京郷新聞というのを廃刊に追いやった(1959年)。自分の意に染まぬ記事を書いた為です。確か1年以上発禁だったと思う。最終的には李が政権を追われた後、京郷新聞は復活しています(今もあるようです)。
< 日本人から見て、どこが反体制側か分からない朝鮮日報でも、韓国では真ん中よりも右傾と言われる。というより、事実を有り体に書いたらレッドカードなんでしょう。
< とうとうロシアが北朝鮮絡みでしゃしゃり出て来ましたね。『特にウチは文句は無いんだがね、、、でも用があるんなら聞くよ』てな感じでしょうか(笑)。強欲丸出しやろッこの灰色熊ッ。6か国協議と言いながら、実際は日米中露の4か国です。韓国、北朝鮮はテーブルに置かれた『苺ケーキ』(不味そう、不細工)。しかし私個人としては、あまり『苺ケーキ』に関わりたくないと言うのがホンネです。どうせタカられるだけ(笑)。
< よく『釜山、済州島に紅旗が翻ってもいいのか!』という議論が持ち上がりますが、『今既に敵国やで』と言いたい。な~んの国益にもならん友邦は害だけ、要りません。6月12日シンガポールには金正恩不参加、日米中露+韓国が集まる可能性ありますね。でも文は「蚊帳の外」で席には呼ばれない、でいいんじゃないですか。
< 失礼します。