再)民事執行手続で確認する知的財産権換金の非現実性
(本コンテンツは再掲記事です。)著者自身、とある理由で民事執行法について調べてきたのですが、やはり知的財産権の強制執行というものは、かなり時間もコストもかかるため、現実的ではない、というのが暫定的な結論です。本稿では著者自身の実体験も踏まえつつ、民事執行法の規定などをもとに、不動産、金銭債権、動産、その他資産(とくに知的財産権)についての強制執行(売却命令)について概観しておきたいと思います。
【お知らせ】
本稿は今朝の『民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」』とほぼ同じ内容のコンテンツです。ただし、一部の端末において原因不明のエラーによりコンテンツが表示されない事象が生じているため、改めて再掲します。(なお、先ほどの記事については読者コメントもいただいているため、消去せずに掲載したままにしておきます。)
民事訴訟と民事執行手続
債権者が裁判所の手続を使い、債務者から強制的に金銭を取り立てる方法としては、いったい何があるのか――。
以前の『個人的実体験に基づく「自称元徴用工訴訟の不自然さ」』でも議論したとおり、著者自身はかつて、とある「事件」で裁判を起こし、事実上の勝利を得たという経験があります(「事実上の」、と申し上げるのは、最終的には「判決」ではなく「和解」に至ったからです)。
(※注:過去記事リンクがエラーの原因であると特定したため、一部リンクについては削除しております。)
このときの個人的な実体験を含めて申し上げるならば、一般に裁判(民事訴訟)の手続を使うのは、「法律の力を借りて、おカネを払おうとしない相手からおカネを取り立てるとき」であり、もしも裁判で勝ったとしても、相手におカネがなければ、それを取り立てることはできません。
悪質なケースだと、訴えられた瞬間に自分名義の預金口座にある資金をこっそりと他人(配偶者、子供、自分が設立した会社など)の口座に移し替えるなどして資産を隠匿したり、自分名義の不動産の所有権を部分的に譲渡することで不動産の差し押さえを逃れたりすることもあります。
不動産と預金(債権)を差し押さえたことが勝利の秘訣だった
著者自身のケースだと、非常に幸いなことに、訴えた相手がそれほど賢くなかったため、訴えを起こすのとほぼ同じタイミングで、預金口座とともに、商業用不動産(※第三者に賃貸中)についても仮差押えを行うとともに、その賃料債権についても差押えを行うことができました。
そうすることによって、著者自身が訴えている相手(=被告)は自分の財産(預金)が差し押さえられるとともに、不動産の賃料収入が凍結(供託)されてしまったため、こちらの裁判に応じざるを得なくなり、こちら側としては裁判所に対し、思う存分に相手の不法行為を列挙し、その言い分を認めさせることができました。
(※ただし、審理の途中で裁判官が異動し、経験年数が浅く、正直、あまり出来が良くない裁判官に交代してしまったため、結局は判決ではなく半ば強引に和解を勧められてしまったという経緯もありますが…。)
いずれにせよ、こうした実体験で得た教訓としては、裁判で差し押さえるならば、次のようなものが理想的でしょう。
不動産(とくに第三者に賃貸中の物件)→オーナーチェンジの形で換金が容易である
預貯金→裁判が終わったら直ちに分配できる
金銭債権(賃料債権・売掛債権等)→供託されることが一般的。裁判が終わったら直ちに分配できる
民事執行法とは?
こうしたなか、日本国内で裁判を通じて債務者から強制的におカネを取り立てる方法を包括的に規定した法律が『民事執行法』ですが、裁判所のウェブサイトによれば、民事執行手続のうち強制執行手続については、「不動産」、「債権」の規定が用いられることが多いのだそうですが、「その他」の3つに大別されています。
民事執行法上の強制執行手続
不動産執行手続【競売、強制管理】
債権執行手続
その他【動産、船舶、その他の財産権】
(【出所】裁判所ウェブサイト『民事執行手続』および民事執行法を参考に著者作成)
ちなみに「強制執行手続」とは、「勝訴判決を得たり、裁判上の和解が成立したりしたにもかかわらず、相手方がおカネを支払ってくれないなどの場合に、『債務名義』(判決文などの公の文書)を得た人の申立てに基づき、相手方に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続」のことです。
そのうえで、これらの財産権の換金については、形態としては「譲渡命令」(裁判所が定めた価格で相手に引き渡さなければならないという命令)と、「売却命令」(競売など裁判所が定める方法で売却させる命令)という手段がありますが(同第161条第1項)、本稿では「売却命令」のみを取り上げます。
(※なお、民事執行手続としては、他にも「担保権の実行手続」などの規定もありますが、本稿に関してはそれは関係ありませんので割愛します。)
不動産の場合
不動産の場合は、債務名義を持つ強制執行を申し立てたら、裁判所はその申し立てが適法であると認めた場合、「不動産執行を開始する」などの宣言を行い、管轄の法務局に対し不動産の登記簿に「差押」の登記をするよう嘱託。
そのうえで事前準備として不動産の評価人などに調査を命じ、その調査結果に基づいて売却基準価額を決定したうえ、入札はその基準価額の80%(=買受可能価額)以上でしなければならない、というルールがあります。
たとえば売却基準価格が5000万円なら、買受可能価額はその80%の4000万円と決定され、『不動産競売物件情報サイトBIT』を通じて売却物件に関する情報を記載した「三点セット」(現況調査報告書、評価書、物件明細書)のダウンロードが可能となります(※本当に簡単にダウンロードできます)。
ただし、不動産を競り落としたとしても、「引き続いて居住する権利を主張できる人が住んでいる場合には,すぐに引き渡してもらうことはできない」とされているようですが、このあたりについてはまた別の論点があるようですので、ご注意ください(詳しくは裁判所ウェブサイトなどをご参照ください)。
金銭債権の場合
一方で、債権執行手続は、もう少し簡単です。
金銭債権(さいけん)とは、ある人が他人に対しておカネを払うように請求する権利のことです(この場合、おカネを払わなければならない義務を負っている人のことを債務者、おカネを払ってもらう権利を持っている人のことを債権者と呼びます)。
たとえばA社がB社から代金後払い契約で製品を購入した場合、B社はA社に対し、その製品の代金を払ってほしいと請求することができます(つまりA社が債務者、B社が債権者)。
しかし、Cさんという人物がB社を訴え、B社に対し、「Cさんにカネを払え」と命じる裁判所の判決が確定した場合、CさんはB社のA社に対する金銭債権を差し押さえることができます(この場合のA社のことを、法律用語では「第三債務者」と呼びます)。
つまり、本来の商取引では、A社はB社から購入した製品の代金をB社に支払うのが筋ですが、Cさんとしては、B社が損害賠償金を支払わない場合、第三債務者であるA社に対して直接、金銭を支払うように請求することができるのです(第三債務者に対する取立権)。
また、A社はCさんに直接カネを払うのではなく、供託をすることもできるのですが、この場合は供託されたカネを裁判所がCさんに対して支払います。つまり、債権の執行が行われた場合は、不動産の場合と比べ、より迅速に現金化ができる、というわけです。
動産の場合
さて、ここで問題となるのは、不動産でも債権でもない財産の強制執行でしょう。
いちおう、民事執行法には「動産」、「船舶」、「その他」という規定が設けられていますが、「船舶」に関しては本稿では取り上げません。
このうち「動産」に関しては、テレビドラマやマンガなどでよく見る、「執行官が自宅にやってきて、『差し押さえ』の紙をペタペタと貼る」というシーンを想像していただくのがわかりやすいと思います。
ただ、この場合も、差し押さえるのは現金や有価証券、宝飾品、高価な家具・調度品・機器などであるとされますが、債務者の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、1ヵ月の生活に必要な食料・燃料、2カ月分の生計費などについては差し押さえができません(民事執行法第131条各号)。
それに、「動産執行」の手段を講じるときというのは、たいていの場合、債務者に換金できる財産がほとんどないときでしょうから、正直、動産執行をしてもほとんどカネを回収することはできないのではないかと思います(著者私見)。
知的財産権の場合
そのうえで、「その他の財産権の強制執行」についても考えておきましょう。
民事執行法第167条第1項によれば、「その他の財産権」は「不動産、船舶、動産、債権以外の財産権」と定義されており、その強制執行については「特別の定めがあるもの」以外については、基本的に債権執行の例によることとされています。
(※なお、同第2項によれば、「その他の財産権」のうち「権利の移転について登記等を要するもの」に関しては、強制執行の管轄はその登記の地にあるものとされています。)
ただ、いろいろと事例を調べてみたのですが、やはり民事執行手続において「その他の財産権」を強制執行しているという事例は、あまり見当たりません。
いちおう、理屈のうえでは株券不発行の場合の株式(株式会社の社員としての権利)や知的財産権(商標権、特許権、実用新案権、意匠権、著作権など)についても差押えできなくはなさそうですが、やはり異例でしょう。
このうち知的財産権についての民事執行法の規定を読んでいくと、特許権や商標権、意匠権や著作権などについては、いちおう譲渡することが可能ですので、理屈の上では差押、強制執行などの手続をとることができるはずです。
その際、特許権や商標権などについては登記が必要であるため、差押の効力についてはその登記がなされた時点で発生します(民事執行法第167条第4号)。
そのうえで、裁判所がこれらの知的財産権についての売却命令を下す場合は、民事執行法上は不動産の売却と同様の形式で売却が行われると考えられます(著者私見)。つまり、裁判所が評価人を選任してその財産権の価額を決定するのでしょう。
この点、特許権に関しては、第三者からの収入が得られるなどの事情があれば、そのキャッシュ・フローをもとに価額を決定することができるかもしれません。しかし、商標権に関しては、正直、その価値をどうやって算出するのかについては、極めて難しいのが実情ではないかと思います。
知的財産権については会計上は無形固定資産に計上されることが多く、帳簿価額は取得原価によることが一般的ですが、その理由もおそらくはそれらの知的財産権がもたらすキャッシュ・フローを正確に見積もることが困難だ、という理由もあるのでしょう(※著者私見)。
なお、例外として、商標権に関する「使用差し止め」を要求する、というニーズが発生するケースも考えられます。
たとえば某著名レストランや某社のように、兄弟が別々の会社を設立し、それぞれ同じ商標を使ってトラブルになり、「本家争い」をしているようなケースにおいては、相手に対して「その商標を使うな」と請求することが考えられるでしょう。
ただ、こうした例外を除けば、知的財産権などを差し押さえるというのは極めて異例であるとともに、その売却の前提となる財産権の評価についても、そもそも高い専門性を持つ評価人がカネと時間をかけて実施せざるを得ないため、大変いにコストがかかることは間違いありません。
さらには、そうした知的財産権を「買う人」が出現するかどうか、といった問題もあり得ます(商標権の場合は、特にそうでしょう)。
いずれにせよ、民事執行の「やりやすさ」でいえば、やはり伝統的な財産権である不動産や金銭債権を差し押さえるというのが基本形と考えておいて良いのでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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そういえば、金銭債権を差し押さえないことへの疑問に対して、いろいろと難癖を付けるコメンターさんが現れていたのを思い出しました。
徴用工側の弁護士がわざとやってるなんてことは絶対ない、的な主張でしたっけ。理屈は意味不明でしたけど。
その後結局、徴用工側は一度は売掛債権を差し押さえようとしたものの、対象の会社が全然関係ないことがわかり、そのまま沙汰止みになりましたね。
なんでもっと、積極的に金銭債権を差し押さえにいこうとしないんでしょうかね。不思議だなぁ。
>積極的に金銭債権を差し押さえにいこうとしないんでしょうかね
私の見立てでは、金銭債権の差し押さえ=重工側に代金が入金しない=今後は売らないということになると債務を負っていた韓国側の会社にビジネス上の不都合が出るためではないか。
要するに一連の訴訟は反日勢力の日本に対するいやがらせ、日本が譲歩すればさらに違う問題を次々提起するきっかけにしたいというもので、韓国側に不都合が生じると批判されるのを恐れているのではないか。
それもあるかもしれませんね。
弁護士稼業ですし、韓国国内に敵を作らないで済むならそのほうがいいですしね。
どうも先日の差押の一件は、当初から無理筋感があり、取り下げ方が淡々としすぎていたし、弁護士談も言い訳じみていました。
歌舞伎感を感じています。
あっちの弁護士にとって「金銭債権を差し押さえろ」は言われたくないことかも知れません。
>財産権の評価についても、そもそも高い専門性を持つ評価人がカネと時間をかけて実施せざるを得ないため、大変いにコストがかかることは間違いありません。
新宿会計士様の持論ですが、確かに日本のような法治国では難しいのでしょう。
そもそも正しく評価しないと買い手が現れませんし、買う方も正しい価格で買わないと、株主訴訟を喰らうかも知れません。
しかし、何と言っても相手は韓国なんですよ。
法治の概念を理解してれば今回のような「事件」は起こりゃあしませんて。
大法院(がするのかどうか知りませんが)の評価だって、1ウォンだろうが1億ウォンだろうがでっち上げ可能です。大法院長はムンのウリなのですから、ユンに義理立てする必要はありません。
1億ウォンだって、反日の烈士が言い値で買うと言い出すかもしれません。ヒーローになれるのですから安いものです。
原告だって金も欲しいでしょうが、嫌がらせ半分でやっているので、1ウォンでも売ると言うかも知れません。一度実績が出来れば何度でも集れるのですから。
長い目で見れば、これで基本協定が反故にできるのですから、反日の韓国人としては右も左も大歓迎でしょう。
「地裁が差し押さえを認めた三菱重工の資産は、請求した商標権2件と特許権6件の全て。原告側は、これら資産は原告4人分の損害賠償金と遅延損害金の計約8億ウォン(約7700万円)に相当する価値があるとみている」
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190326/bsc1903260500010-n1.htm
https://www.shikoku-np.co.jp/national/international/20190325000392
「7700万円」はどうやって計算したのでしょう。単なる願望??
なお、商標権は、標識に蓄積された事業者の信用を保護するものです。つまり、ある特定の商標を特定の事業者(三菱重工)が使い続けることで、その商標に信用が蓄積されることに意味があるので、他人の手に渡れば、商標に蓄積された信用(≒商標の価値)は当然リセットされると思われます。
差押えの商標と特許を仮に買ったとして何ができるか想像してみました。ニュースでは「”MHI”を含む三菱重工グループのロゴマークと合わせた2件の商標権」としか分かりません。多分”MHI”および、三菱のダイヤマークと”MITSUBISHI HEAVY INDUSTRIES”が組み合わさったロゴだと思います。
さて、その商標で何ができるか。”MHI”と聞いて三菱重工のことだと知っているのは業界人だけで、一般には日本人でも知らないでしょう。使えるとしたら、饅頭にMHIの焼き印を押して「三菱重工けしからん!」とか「MHIこわい」とか皆で言いながらパクパク食べるくらい。
一方のダイヤマーク付きのMITSUBISHI HEAVY INDUSTRIESの方は結構使えるかも。昔、バンコクでポータブルの発電機を買いに市場に行ったら、”HATACHI”やら”MITUBISI”等のプレートが付いた、ぱっと見は日本製のパチモンがたくさん置いてありました。商標を得られればこれらパチモンに堂々と”MITSUBISHI”のプレートを付けて売ることができるということになりませんか。但し韓国内だけしか販売できないので、買って損をするのは韓国民だけでしょうけど。
特許についてはニュースには発電関係とだけありました。今時は機器全体が丸ごと特許になっていることはなく、製造法やパーツの組み合わせ等細かく分かれており、一つの機器だけでも6個と言わずもっと多くの特許でカバーされているのが普通です。もし、交換部品の特許だとして、それを作ろうとしたら、先ず製造設備が必要になります。設備だけあってもモノは出来ないので作れるノウハウを蓄積した技術者と職人が必要です。そこまでクリヤーできたとして、買ってくれるのは非常に限られた業界で、例えば韓国電力公社のような大手になります。しかし、一部の部品の不具合でも機器全体を壊してしまうことが多々あるので、しっかりした大手はよほど愛国的でなければ買わないでしょうし、もし機器全体が壊れても、当然本家の三菱重工の保証範囲外となるでしょう。
製造することは諦めて、ライセンス料で稼ぐ方法もあります(こちらの方が一般的かな)。特許をもっていれば15年間は韓国内の三菱重工に製品の5~10%の特許料を請求できるので、これは結構な金にはなるかもしれません。但し三菱重工がそれを認めて、自分の特許にライセンス料を払ってまで韓国内で企業活動を続けるかどうかは分かりませんが。
当方法には疎いんですが…
知財や商標差押えて、どこぞをそれを購入して原告が現金手にしたとして…
その知財や商標って韓国国内だけで法的には通用するものでしかないですよね?
それを使って輸出しようとして領海や領空を離れた途端に他国では違法な知財剽窃や商標侵害になるのでは?
拡大解釈すれば知財・商標買った企業なり個人の輸出用しようとするものの全てが違法の疑いで強制臨検の対象になるのではないでしょうか?
都度、違法に知財や商標を使った部品や商品が含まれないか確認する必要が生じるので。
全然割には合わないのでは?
コスト無尽蔵に上がりますよね?
韓国国内の半数くらいから拍手喝采浴びるだけでメリット無し。
韓国国内法で認められようが、国外に一歩出たら国内法なんか他国には屁みたいなもんなのでは?
差押えの商標と特許を買いとったとしても、経済的な意味はないもしれませんが、
しかし、共産国家の北や中国にとっては、充分、意味のあることだと思いますし、
裏からカネを出す可能性は高いと思います。
韓国側が売却命令を出し、日本と韓国が国交断絶状態となり、それが、日米韓の
軍事協力関係を破壊すれば、北や中国にとっては、大喜びをすることでしょう。
そもそも、原告団を支援する組織や弁護団は、北のスパイと噂をされており。
経済的な利益や常識により行動をする相手とは思えません。