スワップに苦しむ韓国のメディア報道
少し異例ですが、本日は3本目の記事を配信します。『毎日経済新聞』日本語版に、非常に興味深い報道があったからです。
目次
事実誤認だらけの韓国メディア
毎日経済新聞「日米中とのスワップ不発」
韓国のメディア『毎日経済新聞』は、非常に気になるニュースを掲載しています。
米・中・日との通貨スワップ、延長は五里霧中(2017-03-07 16:01:40付 毎日経済新聞日本語版より)
『毎日経済新聞』の報道を要約すると、次の通りです(ただし、原意を損なわない範囲で、一部の日本語表現を修正しています)。
- (韓国が)米国・中国・日本などの主要基軸通貨国と結んだ通貨スワップの契約延長が不透明になっている
- 現在、韓国が世界の国々と締結している通貨スワップの契約金額は1222億ドル(約141兆4700億ウォン)だ
- 韓国銀行の外貨準備高3739億ドルとあわせて通貨危機に備えた「安全弁」の役割を果たす
- (しかし)韓国と中国が結んだ560億ドル(約64兆ウォン)規模の通貨スワップの延長は不透明だ
- 韓国政府は今月22日、ドイツで開催される主要20カ国(G20)財務相会議で、10月に満期を迎える韓中通貨スワップの延長を議論する計画だが、中国が高高度ミサイル防衛システム(サード)報復を露骨にするうちは交渉に進展があるとの見方は少ない
- 既に日本が今年1月に100億ドル規模の韓日通貨スワップの再開交渉を中断すると通知したなかで、米国との交渉も進展せず、外国為替当局の内外では懸念する声が高い
ただ、ここに転記した内容には、いくつかの事実誤認があります。
「1222億ドル」の謎
まず、最初の点は、「韓国が現在締結中の通貨スワップ契約金額は1222億ドル(約141兆4700億ウォン)である」とする部分です。あくまでも私の試算ですが、韓国が現在、外国と締結しているスワップ協定は、米ドルに換算して700億ドル少々に過ぎません(図表1)。
図表1 韓国が外国と締結しているスワップ協定
相手国 | 締結日 | 失効日 | 韓国ウォン | 相手国通貨 | 米ドル換算 |
---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 2014/2/8 | 2020/2/22 | 9兆ウォン | 100億豪ドル | 約76億ドル |
マレーシア | 2017/1/25 | 2020/1/24 | 5兆ウォン | 150億リンギット | 約34億ドル |
インドネシア | 2017/3/6 | 2020/3/5 | 10.7兆ウォン | 115兆ルピア | 約86億ドル |
中国 | 2011/10/10 | 2017/10/10 | 64兆ウォン | 3600億元 | 約524億ドル |
(合計) | 88.7兆ウォン | ― | 約721億ドル |
果たして、残り500億ドルは、いったいどこに行ったのでしょうか?
おそらく、この記事では、「チェンマイ・イニシアティブ・多国化協定」(CMIM)と、既に失効しているはずのアラブ首長国連邦(UAE)とのスワップをカウントしているのではないでしょうか?実際、CMIMの韓国が引き出し可能な金額は384億ドル、UAEとのスワップの金額は米ドル換算で約54億円(正確には5.8兆韓国ウォンと200億ディルハムの交換)、これらをあわせれば、米ドル換算で約1160億ドル(約139兆ウォン)と、かろうじて記事の主張する1222億ドルに近付きます。
ただし、CMIMは「二カ国間通貨スワップ(BSA)」ではありません。あくまでも「多国間のスワップの枠組み」です。このため、仮にCMIMからドルを引き出そうとすれば、東南アジア諸国などに迷惑を掛けることになりますし、引出額によっては国際通貨基金(IMF)が介入して来ます。
このため、「韓国が外国と保有するスワップの額」にCMIMを含めるのは妥当ではありません。
中国は基軸通貨国じゃないよ
それから、毎日経済新聞の記事の冒頭では、
「米国・中国・日本などの主要基軸通貨国」
という表現が出てきます。しかし、中国の通貨・人民元は、とうてい、世界中で自由に利用可能な通貨とはいえません(この点に関する詳細については『AIIBと人民元―失敗しつつある中国の金融戦略』、あるいは『人民元』カテゴリのページなどもご参照ください)。
ちなみに、日本と米国を含めた主要6中銀は、相互に「為替スワップ」契約を締結しています(詳しくは『日本の通貨ポジションは世界最強』などをご参照ください)。これは、次の6つの中央銀行が、期間と金額は無制限で、相互に締結しているスワップ契約です。
- 米ドル(米連邦準備制度理事会=FRB)
- カナダ・ドル(カナダ銀行=BOC)
- 英ポンド(イングランド銀行=BOE)
- 日本円(日本銀行=BOJ)
- ユーロ(欧州中央銀行=ECB)
- スイス・フラン(スイス国立銀行=SNB)
この6つの通貨に、オーストラリアの通貨(豪ドル)を加えた7つの通貨が、事実上、世界で通用する「ハード・カレンシー」です。決して中国の通貨・人民元は国際的に通用する通貨ではありません。
怪しい韓国の外貨準備高
もう一つ、重要な点があります。それは、韓国の外貨準備高の大部分が、水増しされている可能性がある、という点です(図表2)。
図表2 韓国の外貨準備高のウソ?(2016年9月末時点)
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
①外貨準備高 | 3,729億ドル | 出所:国際通貨基金(IMF) |
②韓国政府が保有する米国債の最大値 | 726億ドル | 出所:米財務省統計(TIC) |
③外貨準備高のうち、内訳不明部分 | 3,003億ドル | ①-② |
韓国が「保有する」とされる外貨準備高は、2016年9月末時点で3729億ドルだそうですが、その割に韓国政府が保有する米国債は、最大でも726億ドルに過ぎません。もちろん、外貨準備は米ドルだけでなくさまざまな通貨から構成されるのが普通ですが、それにしても同国が保有する米国債の金額は少なすぎます(このあたりの詳しい議論は、『韓国は為替操作国だ―外貨不足の末に…』や、『通貨スワップ』カテゴリのページなどもご参照ください)。
日本をここまで激怒させてどうするのか?
この韓国メディアが述べるとおり、日本が韓国との通貨スワップ協定を再開させるかどうかの交渉を中断していることは間違いありません。
もちろん、韓国は日本にとって、「戦略的利益を共有するかけがえのない隣国」だそうですから、諸々の混乱を考えるならば、本来ならば韓国が経済破綻しそうになった時に、日本が助けてあげるのが望ましいはずです。ただ、インターネット空間では、
「散々日本を侮辱しておいて、救済を求めてくるなんて図々しすぎる」
といった議論が聞こえてくるのも事実でしょう。実際、
「あれだけ日本を侮辱した国が経済破綻するのも自業自得だ」
といった議論や、酷い場合には
「いっそのこと韓国なんて経済破綻してしまえば良いのに!」
などの極論を主張する人もいます。
さすがに、ありもしない慰安婦問題でウソをついてまで日本を貶めるような国を助けるためのスワップを提供するとなれば、日本の有権者の理解など得られないでしょう。実際、私にも「慰安婦問題であれだけ日本を侮辱した韓国が経済破綻したら清々しい」と思う気持ちがないといえば嘘になります。
ただ、私はあくまでも、一人の「金融規制の専門家」として、この問題をできるだけ客観的に追いかけていきたいと考えています。引き続き、当ウェブサイトをご愛読下さると幸いです。
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