成立した米レンドリース法がウクライナ戦に及ぼす影響
米国のジョー・バイデン大統領は現地時間の9日、例の「レンドリース法案」に署名しました。ただでさえ、黒海艦隊が孤立し、旗艦「モスクワ」が撃沈(?)され、5月上旬の時点で地上戦闘力全体の15%程度が喪失したとの指摘もあるなかで、ロシアにとっては戦況はさらに厳しくなるかもしれません。もしもロシアが2014年に「獲得」したクリミア半島から押し出され、そのクリミア半島に米軍基地ができることにもなれば、最高の皮肉といえるかもしれません。
目次
ロシアは地上戦力の15%をすでに喪失か
以前の『ロシアのメディアで最近、頻繁に登場する国は「日本」』で、「とあるツイート」を取り上げました。
これは、英国防衛省が発している『インテリジェンス・アップデート』に基づくもので、ロシアが軍事侵攻開始時点で、ロシア軍は地上戦闘力全体の約65%に相当する120を超える大隊戦術群を動員したものの、これらの部隊のうちすでに4分の1以上が戦闘能力を喪失した可能性がある、と指摘するものです。
Latest Defence Intelligence update on the situation in Ukraine – 02 May 2022
Find out more about the UK government’s response: https://t.co/ZuMXTmNRyd
🇺🇦 #StandWithUkraine 🇺🇦 pic.twitter.com/S7E6h4WTgM
— Ministry of Defence 🇬🇧 (@DefenceHQ) May 2, 2022
「地上戦闘力全体の65%を投入し、その4分の1が戦闘能力を喪失した」。
単純計算で、ロシア軍の地上戦闘力全体は、ざっと15%が失われたという計算です。
日本のメディアを読むよりも情報が早くて正確
もちろん、情報を発しているのが英国防衛省であるという時点で、「ロシアに不利な情報ばかり選択してアップロードしている」、「これも英国のプロパガンダだ」、といった可能性には、注意は必要です。
ただ、時系列で振り返っていくと、この『インテリジェンス・アップデート』が発した情報は、結果的には非常に正確なものが多く、しかも非常に早いです。少なくとも日本のメディアの報道だけを眺めているのと比べて、平均して1~2週間ほど早く情報を得ることができます。
その意味では、「ロシア軍が5月2日時点において、ウクライナで大苦戦していて、すでに地上戦闘能力の15%を喪失していた」という英国防衛省の分析も、多少の誤差はあるとはいえ、個人的にはそれなりに信頼できる分析ではないかと考えています。
そして、ロシアに対して適用されている輸出規制のためでしょうか、喪失した戦力の補充も困難だと考えられます。このように考えていくと、このウクライナ戦争がロシアの「勝利」(?)に終わる可能性は、さほど高くないと考えて良いでしょう。
ロシアにはマイナスの戦果が続々発生中!
ただ、ロシア全体として見た損失は、それだけではありません。
『5月9日に向けてマイナスの戦果がロシアに続々発生中』あたりでも議論しましたが、ロシアには「マイナスの戦果」も続々と生じています。
たとえば、英国のリズ・トラス外相はウクライナ戦争の目的を「ロシアをウクライナから押し出すこと」に設定すべきだと述べましたし、さらに米独首脳はロシアに対し「領土の獲得を認めない」方針で一致しています。
さらには、ロシアが誇る「黒海艦隊」も、ダーダネルス・ボスポラス海峡が封鎖され、事実上の内海と化してしまった黒海に取り残されてしまい、『モントルー条約で孤立する黒海艦隊は「絶好の的」に?』でも議論したとおり、いまや黒海艦隊が「射的の的」になってしまっています。
【参考】「炎上しているモスクワ艦」とされる写真
(【出所】ウクライナ政府高官のSNS投稿写真。『ウクライナ高官「モスクワ沈没前」と称する写真を投稿』参照)
さらには、ロイターには今朝、こんな記事も出ていました。
Ukraine pushes back Russian troops in counter-offensive near Kharkiv
―――2022/05/11 7:35 GMT+9付 ロイターより
ウクライナ政府は火曜日、ハルキウ市の北部・北東部の村をロシア軍から奪還したと発表したそうです。ウクライナ政府によれば、これは「戦争の流れを変える可能性がある戦果」なのだそうです。
、戦争の勢いの変化を示し、ロシアの主要な前進を危うくする可能性のある反撃を迫ったと述べた。
バイデン大統領がレンドリース法に署名!
こうしたなか、『米下院「レンドリース法」を可決』でも取り上げた「レンドリース法」を巡っては、ついにジョー・バイデン米大統領が署名しました。
Remarks By President Biden at Signing of S. 3522, the “Ukraine Democracy Defense Lend-Lease Act Of 2022”
―――2022/05/09 15:08 EDT付 ホワイトハウスHPより
これにより、今後は米国からウクライナへの武器供与がより機動化することが予想されます。
具体的にどういう影響があるのかについては、米国防総省ウェブサイトに概要が紹介されています。
Biden Signs Lend-Lease Act to Supply More Security Assistance to Ukraine
―――2022/05/09付 米国防総省HPより
国防総省によると、この法律は2023会計年度までの間、軍用機器の貸与・リースを政権に許可するというもので、具体的には行政に対し、「外国への軍装備品の貸与・リースを管理する際の特定の法律の適用を免除する」、というものです。
これにより、「提供される期間の上限は5年とする」、「米国が負担する全ての費用を受領国が弁済する」、といった制限が適用されなくなるため、米国としてはより容易に外国に対し武器を提供することができるようになる、というわけです。
しかも、このレンドリース法により武器を提供することができる相手国はウクライナだけではありません。「ウクライナ及びその他の東欧諸国」、です。現に侵略を受けているウクライナだけでなく、潜在的に脅威を受けている諸国にも、米国製の武器が貸与されるかもしれません。
ロシア軍をクリミア半島から押し出して…
さて、こうしたなかで、やや議論が飛躍しているかもしれませんが、個人的に少し気になっている論点が、「クリミア半島に米軍基地ができるか」、というものです。
クリミア半島は2014年3月に、「住民投票」により「ロシアに編入」されたことになっていますが、トラス英外相のいう「ロシアを押し出す」対象の地域には、当然にクリミア半島も含まれていると考えるべきでしょう。
そして、レンドリース法に基づきウクライナに武器が供与され、戦争が終結したあかつきには、クリミア半島に米海軍の基地ができるともなれば、ロシアにとっては大変に大きな屈辱であることは間違いないでしょう。
もちろん、クリミア半島に米海軍基地ができるかどうかは、トルコ政府がモントルー条約に基づき、米軍艦に対し、ダーダネルス、ボスポラス海峡の通行を許可するかどうかにもかかっているのですが、ひとつの可能性として議論する分には興味深いと思う次第です。
そして、(おそらくは)「NATOの東進の阻止」、「ウクライナの中立化・非武装化」、そしてあわよくば「キエフ公国の復活」を目論んでいたウラジミル・プーチン大統領にとっては、この戦争によって逆にクリミア半島をロシアが永遠に喪失するどころか、そのクリミア半島に米軍基地ができるともなれば、大変に皮肉なことです。
あるいは、ロシアが「永遠に喪失」するのがクリミア半島だけなのか。
興味が尽きないところです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
真偽は確認できないのでURLは貼りませんが、
西側の榴弾砲M777(155mm規格)がウクライナで砲撃に使われ始めた、というニュースが流れ始めています。ドイツで24時間態勢でウクライナ兵を訓練しているというような情報もありました。
実際、どれくらいの効果を発揮するでしょうね。
それでも核兵器の使用を恐れる西側の援助が細く長いものになると思われるのが何とも・・・
ロシアは主権国家ですが、他の国家の主権を踏みにじった結果として、主権を制限されるペナルティを受ける結末を期待します。
中国に対する牽制にもなりますし、二枚舌の米英への重しにもなるでしょう。
何より今回の結果は、戦後の次の時代の規範になると思います。
国家解体が可能なら、前例としてはとてもいいですね。
可能かどうかは別ですが。
今朝みた記事ですが、
https://president.jp/articles/-/57351
これによると、ロシア男性の平均寿命は異様に短く、最新値でも67.3歳。1994年頃は57.6歳でしかありません。
このような国勢調査で得るような基本的数値ですら我々の常識が通用しない別世界の人々であると痛感しました。
ロシア社会に生まれ暮せば、命の位置づけが私達が感じる感覚と全然違う、ということなのだろうと思います。
みなさんに、お尋ねします。
もし、ウクライナ軍がクルミア半島に入ることになれば、(ロシアにとっては)ロシア領への攻撃なので、核兵器使用の口実になるのではないでしょうか。
蛇足ですが、アメリカとしては、ロシアがクルミア半島を失っても、核兵器を使わせないことが、今後の核使用のハードルをあげることになるのではないでしょうか。
この戦争の構図はロシアによるウクライナ侵略。
この戦争の本質は総力戦、殲滅戦、消耗戦。
ウクライナは西側諸国から最新鋭の兵器を支援される。
アウトレンジから侵略してくるロシア軍を攻撃、撃滅していけばよい。
とにかくロシア兵士、兵器をゴリゴリ削っていく。
同じようにアウトレンジからの攻撃で占領地域を奪還していけばよい。
結果はウクライナの勝利とロシアの弱体化、無力化となろう。
この戦争は長篠合戦を彷彿とさせる。
武田の精鋭が長篠城を囲むも城は頑強に抵抗。
織田、徳川は設楽原に野戦築城による馬防柵を構築。
迫りくる武田騎馬隊を鉄砲でさんざんに打ち破った。
ロシア精鋭がマリウポリを囲むも頑強に抵抗。
ウクライナは東部~南部に広大な防御陣地を構築。
迫りくるロシア軍をアウトレンジで撃滅。
織田徳川と武田は両軍とも大きな死傷者を出したが武田は指揮官を多く失った。
ウクライナとロシアは両軍大きな死傷者をだしているがロシアは将校を多く失った。
新しい兵器(鉄砲、ドローン)が戦場の主役となった。
このようにしてみると「戦」の本質というのは過去も現在も変わらないのだろう。
そして同じく「人間」の本質というのも過去、現在、未来と変わらないのだろう。
メディアでの解説もすでにあり、ご存じの方も多いかと思いますが。
>ウクライナ政府は火曜日、ハルキウ市の北部・北東部の村をロシア軍から奪還したと発表したそうです。ウクライナ政府によれば、これは「戦争の流れを変える可能性がある戦果」なのだそうです。
ハリコフ近辺、ロシア支配下の”Vovchansk”という国境の町まで、ウクライナ軍が18kmの地点まで迫っているそうです。
ロシア軍への主要な補給路の要衝だそうですが、すでに遠隔射撃が可能な範囲となっているそうです。
北東部からの補給が絶たれると、東部ドンバス近辺の突出しているロシア軍がかなり苦しくなるそうです。
一時撤退となるとロシア軍の被害が増えるかも知れません。
ロシアの侵略以前から作成されていたウクライナ・レンドリース法はプロパガンダ的な意味は大きいですが、武器援助に関して言えば中立法に阻まれていた出来なかった武器援助を可能にするために作られた旧レンドリース法ほどの意味は有りませんよ。
ウクライナ・レンドリース法が無くても、米国の安全保障にとって緊急事態が存在すると大統領が判断すれば議会の承認手続きなし援助できる状態でした
>個人的に少し気になっている論点が、「クリミア半島に米軍基地ができるか」、というものです。
クリミア半島に限らず,会計士様は以前からレンド・リース法の「復活」と関連付けて,兵器貸与の代償としてウクライナの領土に米軍基地が設置されるのではないか?と予測しておられます.
ですが,私の予測は少し違います.
アメリカがウクライナに米軍基地を置くとしても,その米軍基地は,一般人の多くが「軍事基地」という言葉で想像するタイプの基地,つまり
1.戦車や砲兵や歩兵などを大量に配備した陸軍基地とか,
2.戦闘機や爆撃機を配備した空軍基地,あるいは
3.戦闘艦(巡洋艦や駆逐艦)を配備した海軍基地
では無い,つまり実際に火力を発揮して戦う正面戦力を配備する為の基地ではないというのが私の予測です.
米軍がウクライナに設置したいと考えているであろうと私が推測しているのは,
1.通信傍受を目的とした基地や(エシュロン等ですね),
2.ロシア領内での航空機の運用状況やミサイル実験等を把握するための極めて強力なレーダーを配備する基地,
つまり,対ロインテリジェンス戦のための軍事基地か,若しくは
3.ロシア領内から発射される長短さまざまな弾道ミサイルに対する迎撃ミサイル基地
です.
私がそのように予測する理由は,
A.正面戦力を配備する基地はロシアを刺激し過ぎること,
B.そのような基地は真っ先に攻撃の対象となること,
C.正面戦力を配備する基地をウクライナに設置すると,ウクライナに「米軍が守ってくれるんだ」という依存心を生じ今のような自主国防の意識が低下する危険性があること
です.
実際,Aに関してはプーチンらが北方領土の日本への返還をしぶるのに「日本に返還した場合,それらの島々に米軍基地を設置しないという保証がない」という言い訳を使い「日本が日米安保条約を止めれば返還を考えないでもない」と北方領土返還を日本の国防の根幹を解体する(将来の北海道侵攻の地ならしとする)のに逆用しようとしている事実やNATOの東方拡大やウクライナのNATO加盟の可能性を今回の侵攻の原因だと声高にプーチン大統領が主張していることから理解できます.
上のパラグラフには「では在韓米軍はどうなるのだ?米軍が対立の最前線に配備されているじゃないか」という反論があるとかも知れませんが,韓国は文字通り米軍兵の血によって守られた国なので,その時の因縁を引き摺って(つまり朝鮮戦争で韓国防衛のために失われた米軍将兵の命を歴代の米国大統領がサンク・コストと冷徹に考えず韓国に執着し続けて)現在に至るまで自由民主主義vs専制的共産主義の対立の最前線エリアの韓国に米軍が配備された状況のままになっていると理解すれば良いでしょう.
Bに関して言えば,日本の米軍基地の配置の主なものは基本的に冷戦時代つまり対ソ連の観点で決まったまま(多少の移動はあっても)現在に至っている訳ですが,ソ連から最も侵略を受ける危険性が高かった北海道には正面戦力を配備した基地どころかインテリジェンス用の基地ですら(自衛隊基地に間借りした一時的な戦力や装備の配備はいざ知らず「〇〇米軍基地」と呼ばれるような恒久的な形では)現在も過去も全く設置していません.
Cに関してはつい最近(つまり世論調査で憲法9条改正が5割を超えた時期)までの日本国民の国防意識の実情を省察すれば明らかでしょう.