台湾と韓国の「逆転」は1人あたりGDPにも及ぶのか
日本にとって、近年、経済的にも外交的にも、徐々に台湾と韓国の重要性が逆転し始めています。こうしたなか、台湾メディア『財訊』の記者がウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に寄稿した「1人あたりGDPで台湾と韓国が逆転する」とする記事が興味深いです。また、同記事の末尾は、私たち日本人にとっても大変参考になるものです。
台湾と韓国の逆転:基本的価値の共有
日本にとって、韓国と台湾の重要性の逆転が生じ始めている――。
こんな話は、以前から当ウェブサイトでしばしば言及してきているとおりです。
たとえば、昨年の『外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ』でも取り上げたとおり、日本の外務省は令和3年版の外交青書のなかで、台湾のことを「基本的価値を共有」、「重要なパートナー」、「大切な友人」などと位置付けています。
「台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(『令和3年版外交青書』P55)。
日本政府は中国への配慮のためか、公式には台湾のことを「国」、「国家」とは認めていませんが、この点を除けば、台湾は日本にとって、ほぼ最上級の扱いがなされている、というわけです。
これに対し、同じ外交青書では、韓国に関しては「重要な隣国」と称されてはいるものの、令和2年版と比べてさらに記載分量が減り、かつ、記載内容も自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題など、「日本にとって受け入れられない状況が続いている」ことが中心でした。
すなわち、外交上の扱いとしては、事実上、「台湾>韓国」という状況、というわけです。
貿易面でも「台湾>韓国」基調
これに加えて、経済的な面でも、徐々に「台湾>韓国」という逆転現象が観測されることが増えています。
近隣には、日本の外務省が正式に認めた「基本的価値を共有している相手国」が1ヵ国存在しています。
たとえば貿易関係でみると、2021年に関しては、『「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上』でも触れたとおり、日本の年間の貿易高で見て、台湾が3番手に浮上する一方、韓国は4番手に沈んでいます。
ただし、貿易関係について、台湾と韓国は「抜きつ、抜かれつ」を繰り返しており、2022年1月と2月に関しては、日本にとっての輸出高では台湾と韓国が再逆転していますが、輸入高に関しては「台湾>韓国」、という状況が継続しています。
しかし、現在の日本にとって、すくなくとも貿易相手国という意味では、「金額」だけで見るならば、台湾と韓国がほぼ等しいところにまで達した、というわけです。
ダイヤモンドオンラインの記事
こうしたなか、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に先週、興味深い記事が掲載されていました。
台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか
―――2022.3.24 4:50付 ダイヤモンドオンラインより
この記事は、『半導体・電池・EV 台湾が最強の理由』と題するシリーズ記事の4回目で、台湾『財訊』の孫蓉萍(そん・ようへい)氏が執筆し、ダイヤモンド副編集長の杉本りうこ氏が翻訳・再編集したものだそうです。
リード文では、台湾と韓国はともに、かつて「アジア四小龍」に数えられ、かつ、現在は電子産業を柱としているという点で「共通点が多」く、「似ているがゆえにお互いライバルと意識してきた」と指摘。「経済という点では長く韓国が優勢だったが、ここにきて台湾が逆転しそうだ」と述べます。
具体的には、台湾の1人あたりGDPは2003年に韓国に逆転されて以来、長らく追いつくことができない状況が続いて来たのですが、国際通貨基金(IMF)の推計によると、3年後の2025年には台湾4万2801ドルと、韓国4万2719ドルを小幅でうわまわるみとおしなのだそうです。
「このIMFの推計は非常に保守的な数値である。台湾の経済部(日本の経済産業省に相当)所管のシンクタンク、中華経済研究院は、台湾が21年にすでに僅差で韓国を上回っているという試算を出している」。
このあたり、台湾政府や台湾メディアの記事をそのまま鵜呑みにするのは若干慎重であるべきですが、日本の対台湾貿易が2021年を通じて対韓国貿易をほんの少し上回ったという統計的事実と照らしても、1人あたりGDPで台湾と韓国がほぼ等しいという点については、納得がいく仮説です。
それだけではありません。
ダイヤモンドによると、両国を代表する企業の時価総額(3月22日の終値ベース)に関しては、台湾を代表する半導体メーカーであるTSMC(台湾積体電路製造)が5305億ドルであるのに対し、韓国のサムスン電子は3879億ドルだった、というのです。
末尾の文章の説得力がすごい!
これ以上の詳しい内容については直接、リンク先記事を読んでいただくとして、本稿であと2つ取り上げておきたい文章があります。ひとつは、こんな記述です。
「長期にわたり台韓間には、国際政治における恩讐があったと同時に、産業競争においても度々角突き合わせてきた経緯があった」。
「国際政治における恩讐」、という表現自体、大変に気になります。記事には具体的な内容が何も書かれていないのですが、もしかすると1992年の中韓国交正常化当時の「いざこざ」などを指しているのかもしれません。
もうひとつは、これです。
「台湾と韓国の競争はこれからもまだ続く。これまでの歴史を振り返り、世界経済の変化を理解することで、台湾経済の進むべき道はおのずと見えてくる」。
台湾のメディアからこのような文章が出て来ると、本当に説得力を感じます。
「これまでの歴史を振り返ること」、「世界経済の潮流の変化を理解すること」は、台湾のみならず、日本にとっても大切な話だからです。
もちろん、ここでいう「歴史を振り返ること」というのは、どこかの国が押し付けて来る「正しい歴史認識」のことではありません。客観的で公正な視点から歴史的事実を丹念に追いかけ、歴史に対して評価を下し、さらには現在の国際情勢をにらみながら今後の動向を予測し、私たちの進路を決めていく、という意味でしょう。
その意味では、ウェブ評論上も、台湾メディアの主張には、もっと目を通しておく価値があるとも感じる次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
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韓国の統計はアテになりませんから、一人あたりGDPはもう台湾が越えてるかも知れませんね。
7,8年前に、台湾生まれの李久惟氏の書かれた「台湾人から見た日本と韓国、病んでいるのはどっち?」という本を読んだことがあります。
それによると、台湾と韓国は基本的に疎遠だけども、時事問題の記憶から、台湾人は韓国という国が嫌いな人が多いそうです。その一つに台湾との断交のことを上げていました。
台湾は国交断絶を回避するための韓国との交渉で、韓国の輸出品(自動車等)を購入するなど様々な条件を付けられ、実際に呑んで履行したそうですが、結局断交されたそうです。
その時の韓国メディアが、「台湾に条件を呑ませて如何にうまく騙して断交してやったか」を褒めそやす記事で溢れていたそうで、その経緯で韓国を忌み嫌う人は増えたとありました。
読んだ当時、無垢だった私はその韓国メディアのメンタルに驚いたものですが、今となっては「そうだったんだろうな」と思います。
心が曇ったのだと思います。
このサイトを訪問される皆さんは既に御存じだと思いますが、韓国では2014年にGDP算定方式について、国内企業と海外子会社間の取引を統計から除外し、海外子会社の輸出入を組み入れる方式に変更しています。これに伴い、サムスン電子ベトナム工場で生産されて他国に輸出された携帯電話が、ベトナムではなく韓国の経常収支とされ、加工貿易も韓国の輸出実績になります。
GDPの計算方法は全世界同じではなく各国バラバラで、例えば、日本の自動車メーカーのアメリカ工場では、配当や知的所有権など日本本社が受け取る金額だけをGDPに加算しており、しかも現地生産では日本に送金されずその国で再投資されるので、いくら海外生産が増えても、思ったほど日本のGDPは増えません。
斯うした点を考慮すれば、台湾のGDPは、既に韓国を超えているのではないでしょうか。
非常に興味深く読ませていただきました。そうすると韓国の一人当たりGDPが日本を超えたという話も比較の方法が同じ出ないので、真相はよくわからないわけですね。韓国は若年失業率も高く、貧困老人も多く、中小企業の賃金は低くてとても日本より生活水準が高いようには見えないのですが、でも一人当たりGDPは日本を超えたという点について不思議に感じてました。もやもやがはれた気がします。
韓国のほうがGDPが仮に遥かに高いとしても、台湾とどっちに行ってみたいか、移住しなければならないとしたらどちらを選ぶか、と訊かれたら……ねぇ?
日本からこの二”国”を比較する時は、必ず本田宗一郎のエピソードが頭に浮かびます。
そもそもおんぶにだっこで急成長した韓国と
国として認められず、中国の圧迫を常に受けながらも地道に成長した台湾とでは
長期的な視点で戦争などのリスクがない限りは台湾の方が経済の土台が強いのよ。
一人あたりGDPの明確な逆転は、人口減少(減るコリア)の状況次第でもう少し先送りとなるのかもですね。
台灣と韓国と、日本が推す方が上になるのは、「だから何」と言われれば別に何も無いんだけど、何となく痛快ですよね。
またそろそろ台湾はパイナップルの季節。