外貨準備の使用制限でロシアは通貨防衛ができなくなる
対露制裁のポイントは、SWIFTからの除外だけでなく、外貨準備の使用制限にあります。昨日の『欧米、共同声明で「ロシアのSWIFT排除」など発表』で「速報」的に触れた内容について、本稿ではもう少し掘り下げて考えておきたいと思います。短期的にはロシア経済に大きな打撃を与える一方、より長い目で見れば、中国のブロック経済圏形成という動きには注意が必要だからです。
日本を除くG7の対露制裁
昨日の『欧米、共同声明で「ロシアのSWIFT排除」など発表』で「速報」的に取り上げたとおり、欧米主要国は日本時間の27日早朝、ロシアに対する制裁として、次の5つの項目を列挙しました。
- ロシアの特定の銀行をSWIFTの送金システムから除外する
- ロシアの中央銀行に対し外貨準備の使用を制限する
- ロシアの富裕層に対する「ゴールデン・パスポート」の発行を停止する
- 制裁対象企業・個人を特定するための国際的なタスクフォースを立ち上げる
- 偽情報を含めたハイブリッド戦争に対する国際協力を強化する
また、この措置については、日本は同時には参加せず、その一部については半日遅れで日本も参加することを表明しています(『日本政府、対ロシア追加制裁への参加を半日遅れで表明』参照)。
金融制裁のうちのSWIFT除外
さて、この5項目のうち、金融制裁として直ちに効果をもたらすものは、1番目と2番目の措置でしょう。
このうちSWIFTについては、国際的な送金システムとしては圧倒的なシェアを誇っているシステムです。
SWIFTのウェブサイトによると、当初は1977年にテレックスなどを用いた国際送金を代替する目的で、送金メッセージの国際的な統一規格を定めたものとして、15ヵ国・239機関をメンバーとして発足したものだそうですが、発足初年度の1年間における送金メッセージ件数は1000万件でした。
ところが、現在では200ヵ国・地域の金融機関がこれに参加しており、送金メッセージ(FINメッセージ)の取扱件数は最も多いときで1日5000万件を超えています(具体的には2021年11月30日に50,278,122件だったそうです)。
ということは、SWIFTから排除された場合、その金融機関は欧米諸国だけでなく、それ以外の地域の金融機関とも、SWIFT決済システムFINを使ったメッセージの授受ができなくなる、ということを意味します。
事実上、ロシアを国際金融自体から締め出してしまう、という決定のようなものでしょう。
日本は金融の主要プレイヤー
ついでに少しだけ余談を申し上げるならば、国内にSWIFTの主要ユーザーでもあるG-SIBsが3行も存在している「金融大国」である日本が、この重要な協調制裁で名を連ねなかった事実は、岸田文雄政権、鈴木俊一財務相、林芳正外相らの実務能力に対し、極めて強い疑問を抱かせる事象でもありです。
協調制裁の動きは土曜日時点で、金融筋ではすでに報道ベースでも明らかになっていたわけですから、国際決済銀行(BIS)にも常駐しているであろう日本の金融庁担当官らに情報収集等の適切な指示を出していなかったという時点で、鈴木財相の「ポンコツぶり」は、とくに酷いと思わざるを得ません。
グローバル金融危機当時における主要国による緊急での為替スワップ・ファシリティ創設など、G7の協調行動などの事例は過去にいくつもあるのに、どうして今回だけは日本が除外されたのかは謎です。
これについてネット上では「時差があるから日本の参加が遅れたのは仕方がない」といった主張に加え、酷いものでは「日本はNATO加盟国ではないから協調できなくても仕方がない」などの主張もあるようですが、岸田政権を擁護するなら擁護するで、せめてもう少しマシな理屈を考えてほしいものです。
外貨準備の使用制限が意味するもの
ただし、岸田政権の話はまた別途議論するとして、議論を先に進めましょう。
このロシアの特定金融機関のSWIFTからの排除措置が重要であるという点もさることながら、さらにひとつ重要な措置が、外貨準備の使用制限措置です。
共同声明によれば、この措置は「ロシアの中央銀行に対し、我々の制裁措置の影響を緩和するための外貨準備の使用を制限する」、というもので、原文は次のとおりです。
“We commit to imposing restrictive measures that will prevent the Russian Central Bank from deploying its international reserves in ways that undermine the impact of our sanctions.”
ここでいう “restrictive measures” が具体的に何を指すかについては、現時点ではよくわかりません。
ただ、もしもこれが「ロシア中銀が保有する外貨準備の凍結」という意味であるならば、米FRBなどが保護預かりにしている米国債を含めたロシア中銀の資産がすべて動かせなくなる、ということであり、たとえばロシアの通貨・ルーブルが暴落した際に、それをロシア中銀が為替介入で買い支える、ということができなくなります。
もちろん、この制裁措置に参加していない国(たとえば中国)に対して預けている外貨準備については、製薬なく使用できるとは思いますが、現実にルーブル安の際に、「人民元を売ってルーブルを買い支える」というオペレーションができるとも限りません。香港などのオフショア人民元市場はマーケット規模が非常に小さいからです。
つまり、今回の一連の措置は、ロシアの金融システムそのものを揺るがせるだけでなく、ロシアから自国の通貨を防衛する能力を事実上剥奪することで、輸入品物価の上昇などを通じてロシア経済自体に大きな打撃を与えかねないものでもある、というわけです。
いずれにせよ、短期的には、非常に大きな効果を発揮することは間違いありません。
やはり中露の結びつきには要警戒?
ただ、それと同時に、「中露接近」は非常に気になる動きでもあります。
ことに、『月刊Hanada2022年3月号』の『デジタル人民元脅威論者たちの罠』でも述べたとおり、中国の通貨・人民元自体が米ドルに代替する国際的な基軸通貨となる、という可能性は非常に低いものの、中国はこれとは別に、人民元ブロック経済圏の創設を目論んでいるフシもあるからです。
そして、ロシアの国際的な金融システムからの排除が長期化すれば、人民元経済圏を拡大したい中国と、国際的な制裁に苦慮しているロシアの利害が一致し、かつての旧共産圏のような、「中国・ロシアの大人民元経済圏」が発足する可能性も否定できないでしょう。
これに、中国の友好国(パキスタン、北朝鮮、ミャンマー、韓国など)が加われば、それなりの規模のブロック経済圏を形成するかもしれません。
このように考えていくならば、今回の一連の流れは、単純な金融制裁というだけの話ではなく、世界史におけるもう少し大きな流れととらえるべきではないでしょうか。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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>鈴木財相の「ポンコツぶり」は、とくに酷いと思わざるを得ません
麻生太郎前財務相ならこう言う場で寧ろグイグイ議論を引っ張るんだがなぁ。リーマンの時みたいにね。
>時差で
凄い屁理屈だなwww
セカンドCOCOMの結成ですね。
南国も露への制裁措置に加担しないという事から、セカンドCOCOMに
加わりたいのかも知れません。 加入する前に、米国に半導体工場を
作ってね。
ところで、過去から食料等資源不足(感)から人口増加の抑制手段として、
戦争がありましたが(又はあったフシがある)今回もそこまで拡大するのでしょうか?
記事本題の部分ではありませんが、25日あたりだとSWIFT排除に独伊が反対していたところ、26日に一挙に覆って英仏独伊加米の共同声明の発出となったようです。
総理大臣会見では共同声明は米と欧州で調整して発出し、日本はこれに追随したとのことですが、以下Bloomberg記事の末尾一文、英首相がG7緊急会議でSWIFT遮断を求めたとの記載と対立しているように思えます。
会見を信じるならウクライナ問題で欧米からプレイヤーと見做されていないだけ、記事に重きを置けば英首相の求めに逡巡している間に日本は置いていかれただけ、となる訳でどちらが真相なのか興味深いところです。
bloomberg:米欧の対ロ制裁、SWIFT遮断には至らず
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-25/R7U0ZCT1UM0W01
首相官邸:ウクライナ情勢に関する我が国の対応についての会見
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0227kaiken.html
どうせやるならいち早くやらないと日本が消極的な印象を与えるだけなので、半日遅れは岸田政権の失策だったと思います。
話はそれますが、この件で北方領土交渉に触れるマスコミもありますが、そもそもロシアは日本に帰す国益がなければ返しません。中露の国境画定、特にダマンスキー島ではではロシアは実効支配していた土地の概ね半分を中国に引き渡しましたが、中国人が極東地域へ押し寄せて中国人に侵食されつつあったこと、元々中国から奪った土地でありいずれ軍事力では中国に勝てなくなるので早めに決着をつけた方が良いという判断が背景にありました。この機にロシアに徹底的に制裁して、日本の協力が必要と思わせない限り領土を返す必要性をロシアは感じないでしょう。
2月2日ロシア経済制裁の当サイト記事に犬HK氏がロシア大使の発言を推察したコメント「日本など常に警告(恫喝)しておくにこしたことはない」との関連を振り返ると興味深いところです。
同じく犬HK氏の「余計なことをしたら、日露平和条約の交渉の場は完全になくなるぞ」との見解と併せ先の6か国共同声明への日本のスタンスが答え合わせとすれば、氏の先読みのセンスには脱帽です。
ロシア大使「制裁は前向きな日露関係醸成に資さない」:犬HK氏のコメント
https://shinjukuacc.com/20220202-05/#comment-212972
半日遅れは岸田の大チョンボ
これは政権担当能力に疑問がある
>たとえばロシアの通貨・ルーブルが暴落した際に、それをロシア中銀が為替介入で買い支える、ということができなくなります。
なるほど、でした。
具体的にどうなるかがあまりピンときていませんでした。
もう一つ。SWIFT排除が自分の身の回りで起こることを想像すると例えば・・・
ロシア在住の知人に金を送りたい
→MUFGの窓口に行って海外送金の伝票を書いて現金とともに提出
→窓口「このSWIFTコードは現在使われておりません」
ということが起こるのかなと思います。
海外送金の伝票を書くときに、宛先口座としてSWIFTで定められた銀行番号・支店番号・口座番号を書きますよね。
ついでにいうと、SWIFTコードを使える使えないはSWIFTが決めることで、日本政府の意思や法令に関係ないということだと思います。
違ってたらご指摘を。
日本銀行HPにG-SIBの一覧が載ってますね。
↓ ↓ ↓
金融安定理事会による「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)の2021年リスト」の公表について
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel211124d.htm/
そのリスト
↓ ↓ ↓
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P231121.pdf
日本の金融機関はこの中のレベル2に三菱UFJFG、レベル1にみずほFGと住友三井FGが入ってますね。
(重要な銀行にみずほ?と思っちゃったのはヒミツ)
ロシアは最大手のスベルバンク(ロシア貯蓄銀行)さえ入ってません。
ところで、レベル2に中国建設銀行、中国銀行(岡山県の地方銀行とは無関係)、中国工商銀行、レベル1に中国農業銀行が入ってます。もし中共が台湾を侵略したらこの四大銀行も排除が検討されそうです。しかし中国四大銀行を排除したら影響がすごそうです。
果たして排除できるのか?
ロシア通貨が3割安 最安値の1ドル=110ルーブル台
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB273NU0X20C22A2000000/
>「各行は決済ルートの見直しに追われており、不要不急の取引は発生していない」
円が115円/ドルですので、大差無くなってきました。欧米の初期の目標は達成出来たのではと思います。
>「時差があるから日本の参加が遅れたのは仕方がない」といった主張に加え、酷いものでは「日本はNATO加盟国ではないから協調できなくても仕方がない」などの主張もあるようですが、岸田政権を擁護するなら擁護するで、せめてもう少しマシな理屈を考えてほしいものです。
えっと、協調しましたよね。
何が不満なのですか?首相がすべで独裁で決めるのが理想でしょうか?
時差など何の言い訳にもならない
欧米では重要なことは首脳が全て即決で決める
半日の時差は「日本は制裁に後ろ向き」というメッセージだと欧米は捉える
あまり後ろ向きだと、欧米から日本への経済制裁の可能性も充分に出てくる
日本が持っているアメリカ債の没収、日本企業の海外資産の没収もありえるのを肝に命じるべき
G7wo日本の声明に名を連ねなかったことは違和感は無いですが、この機にそれを求める動きがあってもよかったと思います。
日本が力による現状変更に対して強い意志を表す国になれることを目指しているなら、そういうチャンスの場面でもあると思います。
でもそのためには、日本がどうあるべきか、今後どういう国になるべきかが頭に描いて準備をして、そこへ歩を進めるチャンスを常日頃から虎視眈々と狙っていなければ難しいと思います。
そういう準備はしてこなかったということでしょう。
岸田氏の国家観は相変わらず見えてきません。
岸田氏が(というか取り巻きが)常日頃から頭に描いて虎視眈々と狙っているのは、財務省利権の拡大のチャンスじゃないでしょうかね。憶測ですが。
そういうときは動きが早いと思います。
このコメントは1つ前の記事にすべきでしたね。
岸田は総理大臣の器ではないのだよね
安倍首相や高市さんなら、上手くやっていたはずなのに
日本は制裁が反日遅れ。何が「時差」だ。キッシーがトロいからだろ。だからキッシーが半日遅れで欧米制裁の真似したらサキが「よくやった」と誉めてくれたのもバイデンがキッシーがトロいことをイラついている証拠だろうに。
「日本はNATO加盟国ではないから制裁に乗らなかった」
これ本気で言ってるのかな?pgr
時差が言い訳にならないのは欧米では常識だからね
アメリカ側もかなりイラついているのが明らかだったね
BBCから
ロシア通貨ルーブルが過去最安値 欧米の対ロシア制裁で
https://news.yahoo.co.jp/articles/2eb937348044733bff0767b8490acb5d528092d6
>「ロシア中央銀行と、すでにコルレスバンク(外貨送金の中継地点となる金融機関)から切り離されているロシアの大手銀行が国際金融システムに届く代替手段を見つけない限り、ロシアはイランや北朝鮮のように世界経済から孤立することになる」と指摘した。
「もう直ぐ基軸通貨になる、ウォン建の取引を持ち掛けるニダ」。
くどいけど、やらねぇかな。
封じられた半導体取引での、セカンダリーサンクションと一緒に期待するニダ。
取りあえず、対露の経済制裁について、半日遅れの追随になった理由とその影響がどんなものか分かんないんだから、まだ岸田政権の評価をどうこう言う段階の話じゃないように思える。
あと個人的な感想ですが。半日遅れでも表明を欧米に歓迎されているんだから、欧米諸国に対する心理的影響もそんなに悪いものでも無いような気がします。
散々せっつかれて、何日も経ってから表明したとかいう訳でもないですし。
というか、欧米諸国が日本をせっつく名分ってあったんだろうか? 日露もバチバチ火花散らして緊迫した情勢だったならともかく。ウクライナからも遠いのに。
欧米の反応を見るに、強く日本に頼む理由も思い浮かばないから欧米でまず宣言して、そうしたら日本の方から追随してくれたもんで、ひゃっほぅしているいう印象受けてる。
本当に歓迎されているの?
ただのリップサービスだと思うけど
韓国が入ってるのを見るたびに笑うw
私は対ロシア追加制裁に関して我が国の参加声明が遅れたのは、G7諸国もしくは米国と示し合わせたものと邪推しています。理由は韓国対策です。韓国は国連の北朝鮮制裁決議を破り瀬取り等の非合法手段まで使って北朝鮮に協力していました。現在は国際的な監視も厳しくなってやりにくくなっているようですが。けれどもこれを理由に米国が韓国を制裁しようとしても、中国、ロシアが拒否権を行使すればできません。 また我が国から韓国に輸出されたフッ化水素等の横流しについても、これは形式上我が国と韓国の問題であり米国が制裁することはできません。もちろん証拠を掴んでいれば我が国は制裁するこができますが。しかしその時点では我が国も米国も日米韓協力の枠組みを解消する体制ができてなかったので、とりあえず輸出管理を厳格化して横流しを防ぐと共に、こちらがその気になれば韓国の経済の息の根をいつでも止められるのだぞと凶器を突き付けたのです。ここで韓国が反省して謝罪し態度を改めればまだ日韓関係も米韓関係も修復される可能性があったと思います。しかし韓国はあろうことかGSOMIA破棄まで突っ走ってしまいました。これは明確に日米韓の協力関係を破壊する行為です。結局は米国からの強く叱られて撤回しましたが。これで韓国は決定的に見限られたと思います。そこでサプライチェーンの再構築や日米韓の枠組みに変わるFOIPの立ち上げなどがスピードアップして進められたと思います。
さて今回の対ロシア追加制裁では、もし我が国がG7諸国と足並みを揃えて発表していたら、韓国はこれ幸いと日韓関係を修復しようとしない日本と共同歩調は取れないと制裁に加わらない口実にしたことでしょう。(これは、過去にも韓国が米国の要求を断るときにしばしば使ってきた口実です。)だから米国はまず日本を外して発表し、韓国にも制裁に加われと圧力を掛けたと思います。ここで韓国は建前上は対ロシア制裁に同調するけれども具体的な独自制裁はやらないと言ってしまったのです。そして我が国がすかさず参加表明、米国がわざわざ我が国の参加を歓迎するというメッセージを出しました。これで韓国が自己の目先の利益を優先し、西側の一員としての責任を果たそうとしないことが国際社会に明らかに示されたのです。そして米国は対ロシアに対する輸出規制を発表しました。その中では自主的に対ロシア制裁を実施したり制裁の意思を明確にしている国についてはその主権を尊重してそれぞれの国の管理に任せるというわけですが、韓国はそれらの国には含まれませんでした。つまり輸出規制について米国が直接管理、監視するというわけです。このような状況で韓国が米国の目を盗んで規制を破れば即米国から制裁されます。しかも中国やロシアの要求を叶えられなければ韓国は制裁に加担したとして両国からぶん殴られる羽目に陥ります。しかもスマホや自動車、家電などは中国市場でのシェアが殆どなくなり、今度は対ロシア制裁でロシア市場でも売ることができなくなりそうです。はてさて今までより遥かに難しい状況に追い詰められてこれからどうするのでしょうか?お手並み拝見です。