最新版・わかりやすい日本の資金量
私は「本業」で、金融規制や金融市場分析などを行っております。本日は、その「本業」で行っている業務の一部を開示する形で、日本銀行が公表する「資金循環統計」と、日本の銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・農業協同組合などの「預金量一覧」をデータにして、「資金量から見た日本の最新の姿」を明らかにしたいと思います。
目次
最新の資金循環統計
日本銀行は四半期に一度、「資金循環統計」と呼ばれるデータを公表しています。これは、日本全体の資金の流れを数値により示したもので、特に「経済主体のバランスシート」の形で把握できるため、極めて有用性が高い資料です。
これをみていつも感じるのは、「日本は世界最大の金持ち国家だ」ということです。ただ、これは別に「褒め言葉」ではありません。言い換えれば、巨額の資金が使われないまま、投資先を求めて海外に流出している、という意味でもあるからです。
家計が保有する金融資産は1752兆円!
早速ですが、今回の資金循環統計で判明することが、一つあります。それは、家計が保有している金融資産の金額は、実に1752兆円に達する、ということです。
図表1 日本の家計全体のバランスシート(2016年9月末時点)
区分 | 項目 | 金額 |
---|---|---|
金融資産 | 現金・預金 | 916兆0,079億円 |
保険・年金 | 521兆4,026億円 | |
株式・投信 | 237兆7,210億円 | |
その他の資産 | 76兆6,461億円 | |
金融資産合計(①) | 1,751兆7,776億円 | |
金融負債 | 住宅ローン | 202兆1,405億円 |
企業間信用等 | 51兆6,315億円 | |
その他の負債 | 130兆9,356億円 | |
金融負債合計(②) | 384兆7,076億円 | |
家計純資産(①-②) | 1,367兆0,700億円 |
家計債務のうち、「企業間信用等」とは、おそらくクレジットカード等の信販債務でしょう。また、「その他の負債」の中には個人事業者に対する事業ローンなどが約71兆円含まれていますが、トータルとして見ると日本の家計の債務は385兆円に過ぎず、残額の1367兆円が「純資産」です。
しかも、この「純資産」の中には、家計が保有している土地・住宅・農地などの有形固定資産は含まれていません。これらをカウントすれば、家計の純資産額はさらに膨らみます。
日本の家計の特徴
よく某隣国で家計債務が家計資産の50%を超えているという話を聞きますが、日本の場合、むしろ家計が銀行などからお金を借りず、せっせとお金を貯め込んでいるのが大きな特徴です。
そして、資産の内訳をもう一度見てみましょう。
図表2 預金と保険・年金に偏重する家計金融資産
項目 | 金額 | 構成比率 |
---|---|---|
現金・預金 | 916兆0,079億円 | 52.3% |
保険・年金 | 521兆4,026億円 | 29.8% |
株式・投信 | 237兆7,210億円 | 13.6% |
その他の資産 | 76兆6,461億円 | 4.4% |
金融資産合計 | 1,751兆7,776億円 | 100% |
※四捨五入の関係上、構成比率については足しても100%になりません。
いかがでしょうか?
家計資産は1752兆円という巨額に達しますが、その半額以上、すなわち916兆円が「現金・預金」(うち日銀券などが78兆円、銀行等への預金が838兆円)です。また、「保険・年金基金」への拠出金が521兆円にも達しており、現金、預金、保険、年金の4項目だけで、家計総金融資産残高の、実に82%を占めています。
言い換えれば、これらの巨額の資金が、預金取扱金融機関や保険会社、年金基金などに流れ込んでいるのです。
家計のカネ余りが金融機関に波及!
一方、銀行等の金融機関や保険・年金基金などから見ると、家計から流入する巨額の資金を「運用」しなければなりません。また、銀行等の金融機関には、家計だけではなく企業や地方公共団体などからも資金が流れ込んできます(図表3、図表4)。
図表3 預金取扱機関の預金量と保険・年金契約の金額
項目 | 2016年9月末残高 |
---|---|
預金等 | 1,389兆9,050億円 |
保険・年金・定型保証 | 525兆0,580億円 |
合計 | 1,914兆4,630億円 |
図表4 預金・保険・年金契約の推移
そして、教科書的には、民間の銀行や保険会社などは、企業や個人に対してお金を貸すことで「利ザヤ」を得なければならないのですが、肝心の「貸出金」が全く伸びない、というのが現在の日本の問題点です。
個人や企業、政府などが銀行等の金融機関から借りているお金(貸出金)の金額は、図表5の通り、国内で1393兆円に過ぎません(海外に貸し付けている130兆円を除きます)。
図表5 貸出金の残高(除く海外)
債務者 | 2016年9月末残高 |
---|---|
預金取扱機関 | 228兆6,909億円 |
その他金融仲介機関 | 220兆1,489億円 |
非金融法人企業 | 428兆6,697億円 |
一般政府 | 157兆4,761億円 |
家計 | 319兆3,274億円 |
その他 | 38兆7,578億円 |
国内合計 | 1,393兆0,708億円 |
海外 | 130兆2,453億円 |
つまり、貸し出さなければならない金額1914兆円のうち、実際に貸出ができている金額は1393兆円と、単純計算でも73%に過ぎません。しかも、貸出金には預金取扱機関自身が借りている229兆円が含まれてしまっており、それを除外した実質的な貸出金は1164兆円に過ぎないのです。
本来なら貸出金で運用しなければならない金額が1914兆円であるのに対し、実際に国・企業・家計に貸している金額は1164兆円。この差額は、実に750兆円(!)にも達します。
日本国債は絶対にデフォルトできない!
では、民間の銀行や保険・年金基金などが、「貸し出しきれていない750兆円」という巨額の資金を、どうやって運用すれば良いのでしょうか?
ぱっと考え付くのは国債です。しかし、国債の発行残高は国債・財融債にTDBを含めても1091兆円しか発行残高がありません。ましてや、株式や公社債なども発行残高が限られています(図表6)。
図表6 日本国内の主な運用商品の発行残高
項目 | 2016年9月末残高 |
---|---|
日本国債 | 1,090兆9,823億円 |
(うち財融債) | 103兆6,996億円 |
(うちTDB) | 119兆8,918億円 |
(うち国債) | 867兆3,909億円 |
地方債 | 76兆4,887億円 |
社債等 | 242兆8,476億円 |
債券合計(①) | 1,410兆3,186億円 |
株式・投信等(②) | 751兆9,178億円 |
①+②合計 | 2,162兆2,364億円 |
ということで、株式と投信と債券を合わせると、日本国内に2162兆円の残高があります。しかし、実際には金融機関や保険会社だけでなく、日本銀行や家計、政府、さらには非金融法人企業が、これらの金融資産を保有しています(図表7)。
図表7 金融機関以外の経済主体の保有残高
債券 | 株式等 | 合計 | |
---|---|---|---|
一般政府 | 81兆6,512億円 | 112兆8,884億円 | 194兆5,396億円 |
非金融法人企業 | 27兆6,530億円 | 310兆5,557億円 | 338兆2,087億円 |
家計 | 26兆3,262億円 | 237兆7,210億円 | 264兆0,472億円 |
中央銀行 | 418兆7,045億円 | 13兆4,979億円 | 432兆2,024億円 |
国内合計(①) | 554兆3,349億円 | 674兆6,630億円 | 1,228兆9,979億円 |
海外(②) | 138兆6,253億円 | 175兆6,434億円 | 314兆2,687億円 |
合計(①+②) | 692兆9,602億円 | 850兆3,064億円 | 1,543兆2,666億円 |
つまり、銀行や保険・年金基金が投資できる金融資産の残高が日本国内に2162兆円ありますが、そのうち70%以上に相当する1543兆円は、既に他の投資家によって取得されているのです。ということは、銀行や保険会社などが購入できる有価証券は、残り619兆円しかありません。
ということで、銀行や保険会社などが、「貸し切れていない750兆円」を債券や株式に振り向けたくても、債券や株式の残高は619兆円しかありません。どんぶりで数えても、131兆円余ってしまうのです。
したがって、これだけのお金が余っている状態で、どうやっても日本国債が「デフォルト」することなど、考えられないのです。
ちなみに、銀行等の金融機関が米ドル建ての債券などを旺盛に買い入れているためでしょうか、日本の「外貨準備」の金額は127兆円、「対外純債権」の金額は、実に323兆円(!)にも達しています。さらに、トランプ政権成立によってこれからドル高が進むとみられる中で、円換算した外貨準備も増大することが予想されます。
【保存版】2016年3月末預金量一覧
ついでに、かなりマニアックな「資料編」についても収録しておきます。
銀行等の金融機関に預け入れられている預金の額は、2016年3月末時点で1388兆円ですが、この「内訳」について、著者が経営する会社では「集計表」を作っています(図表8)。
図表8 日本全体の預金量
業態 | 預金総額 | |
---|---|---|
国内銀行 | 739兆1,171億円 | ① |
在日外銀 | 9兆6700億円 | ② |
農林水産金融機関 | 218兆4,087億円 | ③ |
中小企業金融機関 | 395兆3,586億円 | ④ |
①~④の合計 | 1,362兆5,544億円 | ⑤ |
※ただし、ここでいう「預金」には、譲渡性預金(NCD)を含めています。
ただ、資金循環統計では、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合などの「金融機関の業態ごと」に、どれだけの資金量があるのかを知ることはできません。
そこで、当社では各社の決算書などを集計し、業態ごとの国内勘定の預金量を調べてみました。
図表9 銀行業態(国内勘定のみ)
業態 | 預金量 | |
---|---|---|
都市銀行 | 339兆7,942億円 | A |
地方銀行 | 257兆6,122億円 | B |
第二地銀 | 66兆1,192億円 | C |
上記以外の銀行 | 76兆9,774億円 | D |
A~Dの合計 | 740兆5,030億円 | ⑥ |
①と⑥の不突合 | 1兆3859億円 |
図表10 中小企業金融機関等(国内勘定のみ)
業態 | 預金量 | |
---|---|---|
信用金庫 | 134兆8,267億円 | E |
信用組合 | 19兆5,841億円 | F |
労働金庫 | 18兆7,912億円 | G |
系統上部団体 | 44兆5,410億円 | H |
ゆうちょ銀行 | 177兆8,720億円 | I |
E~I合計 | 395兆6,151億円 | ⑦ |
④と⑦の不突合 | 2,565億円 |
図表11 農林水産金融機関(国内勘定のみ)
業態 | 預金量 | |
---|---|---|
農林中央金庫 | 58兆円5,055億円 | J |
信農連 | 60兆9,562億円 | K |
JAバンク | 96兆4,074億円 | L |
信漁連 | 2兆3,446億円 | M |
JFバンク | 7,853億円 | N |
J~N合計 | 218兆9,990億円 | ⑧ |
③と⑧の不突合 | 5,903億円 |
以上、たぶん世の中に存在しない、「業態別の預金量一覧」でした。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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いつもコメントをいただきありがとうございます。
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