中央日報「米、WTOでの紛争解決を支持」記事の真相
数日前、韓国メディア『中央日報』(日本語版)で、デビッド・スティルウェル米国務次官補が「WTOを通じた韓日輸出紛争解決を支持する」と発言した、と報じられました。このスティルウェル次官補は、昨年、日韓関係悪化を巡り「日韓双方が努力すべきだ」と言い放った人間でもあるため、何やら嫌な予感はします。ただ、冷静に米国務省のウェブサイトで原文を確認してみると、何のことはない、米国がいつも述べている「日韓双方が対話を続けるべき」という文脈の発言だったようです。
中央日報「米国務次官補がWTOでの紛争解決を支持」
数日前、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。
米国務次官補「WTOでの韓日輸出紛争解決を支持」
韓国政府が日本が昨年合意した輸出規制の再検討措置が取られなかったことを受け世界貿易機関(WTO)提訴手続きを再開したことに関連し、米国が「WTO手続きを活用した紛争解決を支持する」と明らかにした。<<…続きを読む>>
―――2020.06.26 11:11付 中央日報日本語版より
書き出しからして間違いだらけです。そもそも日本が韓国に対して昨年、「輸出『規制』」措置を講じた事実はありませんし、また、日本政府が韓国に対し、その「輸出『規制』」とやらの「再検討措置」を講じると合意した事実もないからです。
ただ、その点はさておき、中央日報はスティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が現地時間25日の記者会見で、「韓国が日本との輸出規制問題を解決するためにWTO提訴手続を活用したことを支持する」と述べた、と報じています。
そのうえで中央日報はこのスティルウェル氏の発言について、「韓日関係の改善を要求したものと解される」、などと結論付けているようです。
このスティルウェル国務次官補については、昨年の『米国が「韓国に対して」GSOMIA破棄の再考を促す』でも報告したとおり、日韓関係の悪化については「日韓双方が努力すべきだ」などと述べていた人物でもあり、なにやら嫌な予感がします。
(※余談ですが、昨年10月の時点で当ウェブサイトとしては、「韓国が日韓GSOMIA破棄を巡って収拾がつかなくなっており、これを破棄せざるを得ない」と考えていたのですが、これについては韓国の瀬戸際外交の腰抜けぶりを過小評価した見方だったと反省しています。)
また、米国務省の関係者といえば、当ウェブサイトでは昨年の『日本政府はナッパー国務副次官補の更迭を要求すべき』などでも報告したとおり、マーク・ナッパー国務副次官補が日韓関係の悪化について「双方に責任がある」と言い放つなど、何やらおかしな発言をする者が複数存在しています。
したがって、中央日報の報道が事実ならば、あたかも「『日韓関係悪化の原因が日韓双方にある』と米国が認めた」かのように見えるこの記事は、非常に気になるところでもあります。
ファクトチェックをしてみた
ただ、この記事を読んだ時点では、「モヤモヤ」が払拭できなかったのですが、その後、米国務省ウェブサイトでスティルウェル氏の発言を探してみたところ、次の記事を発見しました。
70th Anniversary of the End of the Korean War and Our Northeast Asian Alliances
The 70th anniversary of the Korean War was celebrated this week. The war began on June 25, 1950, when 75,000 North Korean troops marched across the 38th parallel into South Korea. The briefing reflected on the strong partnership between the United States and our Northeast Asian allies.<<…続きを読む>>
―――2020/06/25付 米国務省HPより
おそらく、中央日報が紹介した会見とは、このことでしょう。
参考 デビッド・R・スティルウェル米国務次官補
(【出所】米国務省)
リンク先記事から、これに相当すると思しき記載を引っ張っておき、これに著者の文責で部分的に参考の意訳を付しておきます(※ただし、 “South Korea” については「韓国」と訳しております)。
QUESTION: Thank you, Assistant Secretary Stilwell. Thanks for speaking to us. Nice to see you again. I have two real quick questions. The first is: In your opening remarks you mentioned Japan and South Korea resolving their past history for the sake of security in the Indo-Pacific. Can I just get your reaction to South Korea filing a complaint in the WHO protesting export restrictions by the Japanese Government earlier this month? And then real quickly, my second question is: The Japanese Government has scrapped plans to install the Aegis Ashore. What alternatives are there for Japan in defending against North Korean missiles, if not Aegis Ashore? (スティルウェル次官補、ありがとう。説明をありがとうまた会えてうれしい。2つの簡単な質問がある。1つ目、あなたは冒頭発言で日本と韓国が過去の歴史問題を解決することがインド太平洋の安全保障のためになると述べた。韓国が今月初め、日本の韓国に対する輸出規制を巡って日本政府を世界保健機関(WHO)に提訴したことについて、これをどう思うか?(後略)
またお前か、NHK!!!(笑)
この「ベン・マークス」とかいう人間、WTO提訴に関する質問において、2つの間違いを犯しています。
1つ目は、韓国が日本を「WHOに提訴した」と述べている点ですが、この点については単なる言い間違いだと思います(当ウェブサイトも過去に「WHO」と「WTO」を盛大に間違えたことが何度もあるのであまり他人のことはいえません)。
しかし、2つ目は日本が韓国に対し「輸出『規制』」(export restrictions)を適用した、と述べている点であり、これについては看過できません。日本のメディア(しかも「公共放送」を騙るNHK)に所属する記者が間違った用語を堂々と使ったこと自体、NHKが日本の国益を損ねている証拠でしょう。
なお、この人間のイージスアショアに関する質問については、スティルウェル氏は「国防総省に聞け」と述べて回答を避けています。当たり前です。
スティルウェル氏「対話の継続が大事」
では、このNHKの人間が放った最初の質問に対するスティルウェル氏の回答を読んでおきましょう。
As far as the – WTO, I think you meant, not WHO – look, these systems are out there for all of us to use and to have a discussion on resolving trade issues or other things. So these processes are there for a reason and allow two sides to have a discussion on that, and again, I can’t – I mean, we support the use of these mechanisms to have the – to have – to resolve these differences. Again, I encourage both sides to maintain the dialogue as we have all along, and we look forward to getting these contentious issues, if not fully solved, at least having a conversation.
大変読み辛い文章ですが、これについても意訳を付しておくと、次のような内容でしょう。
「『WHO』ではなく『WTO』に提訴したことについては、そのシステムは我々のすべてが利用できるもので、防疫をはじめとする問題を解決するためのディスカッションをする場でもある。そのプロセスは双方が問題について協議する機会を与えているものであり、我々としてはそのメカニズムが双方の差異を埋めるためのものだとの考え方を支持する。いずれにせよ双方は対話を維持すべきだし、こうした彼らの立場の違いについては、完全にではなくても良いから対話によって解決されることを支持したい。」
スティルウェル氏、前回の「日韓双方に問題」発言を受けて、ポンペオ国務長官からかなり叱られたんですかね?(笑)
少なくとも、この文章を読む限り、スティルウェル氏がこのNHK記者の言い放った「輸出『規制』問題での『WHO』提訴」を支持した、とは読めません。あくまでも「日韓は対話を通じて諸問題を解決すべきであり、WTOはその場のひとつだ」と述べたに過ぎないからです。
米韓関係破綻までお預け
この点、日本が韓国の国際法違反問題で韓国と「対話」しようとしても、肝心の韓国の側が対話に応じてくれないという問題については、どうしてもモヤモヤが残ります。
というよりも、米国が韓国問題を日本に「丸投げ」するからこそ、日本がこんなに苦労しているのですが、米国政府(とくに米国務省)には、「自分自身が日韓問題の当事者である」という意識が完全に欠落していて、正直、スティルウェル氏の無責任で能天気な発言を読んでいるとイライラします。
ただ、少なくとも米国は一貫して、「日韓両国の問題は日韓両国が対話で解決せよ」という方針を取っており、韓国の対日WTO提訴についても、正直、あまり真面目にコメントしているふうではありません。NHKの記者に聞かれて仕方なく一般論を述べた、というだけにしか見えないのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、当ウェブサイトではかなり以前から、日本政府はどうも日韓関係の「自然消滅」を図っているように見える、と申し上げて来ました(たとえば『日韓関係を「自然消滅」させるというアイデア』等参照)。
というのも、現在の日韓の対立局面は、究極的には「日本が原理原則を踏み外して韓国に譲歩する」か、「日本が原理原則をしっかり守り通した結果、日韓関係が破綻するか」という瀬戸際にあると思われるからです。
実際、私たち一般国民が外から観察する限り、安倍政権が採用している対韓政策の基本は、「積極的放置」です。
たとえば、自称元徴用工問題を巡っては、昨年7月19日に韓国政府が日本政府による日韓請求権協定に従った解決手続の呼びかけを無視するという事件が発生しましたが、その後、日本政府は韓国に対し、何らかのリアクションを取ったという事実はありません。
日本政府がやっていることといえば、「韓国自身が作り出した国際法違反の状態を韓国の責任で解決せよ」と呼びかけているだけです。
また、輸出管理適正化措置を巡っては、韓国側が日韓GSOMIAの破棄を持ち出して来たときも、対日WTO提訴を持ち出して来たときも、口先だけで「残念だ」、「韓国は賢明に行動してほしい」などと述べるだけで、何か具体的な対策を講じたという事実は見られません。
このことは、日本政府が日韓関係の改善を諦め、事態が悪化しないように管理しつつも、「何らかの機会」に向けてこの状態を温存しているように見えてしまうのです。
その「何らかの機会」が何なのかは、よくわかりません。
ただ、「金正恩が閻魔大王様の裁きを受けるために地獄に向けて旅立ったのではないか」と見られるなど、日韓関係とはまったく別次元で、現在、朝鮮半島情勢が再び動き出し始めていることもまた事実でしょう。米韓同盟の行方もわかりません。
この点、日韓関係は米韓関係の従属変数のようなものです。もしも米韓同盟が消滅するタイミングが訪れるならば、日韓関係もそのときに何らかの形で清算を余儀なくされるのかもしれませんね。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
日本以外のメディアも、言うに及ばず酷いが、NHKも、いい加減にせんかい!ですね。
韓国、中国出身の記者が入り込んだメディアは、ろくな事が無いですね。
マスゴミ・政治家、ウソをついても約束破っても罰せられない、そういう人種の天国が下半分の朝鮮半島にありました。
>何のことはない、米国がいつも述べている「日韓双方が対話を続けるべき」という文脈の発言だったようです。
つまり、「日韓のことは、日韓のことだろう。アメリカを巻き込むな。迷惑だ。」ということです。
日本はもとより、アメリカを巻き込むつもりはなく、むしろ、手を出して欲しくない。であれば、韓国ですかしら、韓国議員団はいまだに、訪米して日韓問題をアメリカに陳情している(笑)?アメリカは、コロナ入国制限をしてないんですの?収束しませんわよ(笑)。
>この点、日韓関係は米韓関係の従属変数のようなものです。もしも米韓同盟が消滅するタイミングが訪れるならば、日韓関係もそのときに何らかの形で清算を余儀なくされるのかもしれませんね。
じれったいですわね。もう一回言いますね。文在寅さん、日韓GSOMIA破棄まだですの?差し押さえた日本企業資産の売却はまだですの?北の将軍様は日韓関係ではなく米韓関係を破棄せよと仰せです。アメリカに日韓関係改善の陳情してどうするんです?愚図愚図していると、青瓦台にミサイル打ち込まれますよ。在韓米軍は内戦には関与しないと思います。
半島で休戦状態が破られるのは世界の一大事、だから南朝鮮の言動には全世界が注目しているはず、だから南朝鮮は一等国、と思っているのでは?残念、欧州の人は日中韓の区別もあやふやだし、日本は中国と陸続きだと思っている人さえ(結構)います。南朝鮮を地図上で正確に示せる人がどのくらいいるか…。所詮その程度です。
話が逸れて申し訳ないですが、「韓国産業通商資源省の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長は24日、世界貿易機関(WTO)の事務局長選に立候補すると表明した。」との事。
どういう御方が存知ませんが、素人考えでは、「瀬取りはドンドンやりましょう」・「戦略物資は、横流し・迂回貿易しましょう」って御方がWTOの事務局長になるんですかね?
米、日本支持を鮮明に 日韓紛争「WTOにそぐわず」
↑ https://news.yahoo.co.jp/articles/186824df5ef2c1ef1ef1d5a7a188e738b6fcf1ab
米国は29日のWTO会合で日本への支持を鮮明にしたようです。
・日本の措置が安全保障を考慮している限り、この問題のWTOによる裁定は不適切だ。
・米国はWTOとは別の場で問題を解決するよう日韓両国に要請。
・それが不可能な場合は、WTO事務局長か第三国による調停を模索すべきだ
で、パネル設置には反対だと。
門外漢さま
それで、梶山大臣が、交渉の場に戻れと言ったんですね。