国民民主党が減税法案提出…なぜか減税に乗らない他党

国民民主党は28日、基礎控除を48万円から128万円に拡充することで、いわゆる「年収103万円の壁」を引き上げる法案を提出したそうです。法案の原文を読んでいないなかで、疑問点ないしツッコミどころも多々ありますが、それ以上に、「年収の壁」問題は、べつに国民民主党の専売特許ではない、という点についても理解する必要があります。要するに、同党は「パンドラの箱」を開いただけの立場だ、という言い方ができるのです。

国民民主党、年収の壁引上げ法案提出

国民民主党が「年収の壁」を引き上げる法案を提出したそうです。

これについて同党のウェブサイトや衆議院のウェブサイト等を探してみたものの、現時点で法案の原文が、まだ見当たりません。ただ、玉木雄一郎代表は法案の概要について、28日、自身のXにポストしています。

こうした法案を提出した趣旨などについては、玉木氏のポストを直接お読みいただきたいと思います。

ここでは、法案の要点部分を抽出しておきましょう。

  • 現在は48万円とされる基礎控除を123万円に引き上げる
  • これにより所得税額控除55万円と合わせて、非課税で働ける年収が最大178万円にまで伸びる
  • 年少扶養控除(※民主党政権時代に廃止された16歳未満の扶養親族に関する控除規定)を復活する
  • 特定扶養親族(19歳以上23歳未満の扶養親族)に対する63万円の控除額の適用要件を緩和する
  • この法律施行後に、政府は速やかに、所得税の税率構造における各税率区分の幅を定める金額の引き上げ等について検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講じること
  • ただし、当該措置を講じることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことがないようにする

…等々。

細かい疑問点やツッコミどころもあるが…

これについては、やはり法律案の原文を読んでいないため、なかなかコメントが難しいところもありますし、また、細かい疑問点がいくつかあります。

たとえば、玉木氏の一連のポストを見ても、地方税法についての言及がなく、したがって住民税の基礎控除についても(48万円ではなく)43万円から(123万円ではなく)118万円に拡大するのかどうかについては、よくわかりません(文脈から考えて、当然拡大するのだとは思いますが…)。

また、現在の基礎控除は、所得が2500万円を超えるとゼロになってしまうという仕組みですが、この措置についても廃止してすべての所得階層に基礎控除を適用するのか、それとも「2500万円の壁」を維持するつもりなのかよくわかりません。

さらには、年少扶養控除については国民民主党の前身政党である民主党政権時代に廃止されたものであり、それを復活させる提案を、あたかも自分たちの功績であるかのごとく喧伝することに対しては、ネットでは一部に反発も見られるようです(要は「マッチポンプ」という批判ですね)。

ただ、具体的な金額や措置に関する疑問点ないしツッコミどころもある一方で、やはり、国民の多くが待ち望んでいるであろう「手取りを増やす」を実現させるべく、まずは最初の段階である「議員立法」に踏み切ったことについては、素直に時代の変化と言わざるを得ません。

想像するに、どうせ反対多数で否決されるのがオチだとは思いますが、それでも同党の勢力はすでに20議席を超えているため、「予算措置を伴わない法案」であれば議員立法で提出することができるようになりましたし、また、これに反対する政党を「炙り出す」(?)ことができるからです。

ちょっとやり方は雑だが、議員立法という意義はある

これについては誤解を招かないように補足しておくと、著者自身は国民民主党の動きを手放しで絶賛するわけではありません。政策立案プロセスという観点からは、やり方がなんとも雑であり、言い換えれば、もう少し丁寧に多数派を形成することができたのではないか、という気がするからです。

たとえば自民、立民に続く第3勢力である日本維新の会については、12月1日に選出される新代表下の体制次第であるにせよ、国民民主党は是々非々で協力できる可能性がある相手であることは間違いありません(※著者自身は維新を手放しで絶賛するつもりはありませんが…)。

また、国民民主党は今月、自公両党との間で「年収の壁」引き上げの方針で合意しているため(『減税に関する3党合意を「マスコミ抜きで」読める時代』等参照)、なにもこのタイミングで法案を出さなくても良かったのではないか、といった批判も生じ得るところです(とくに自公両党の政調会長が気分を害するかもしれません)。

ただ、それと同時に、この「年収の壁」問題が、いまや国民民主党の手を離れつつあることについても気を付けるべきです。

先日の『国民民主が開いたパンドラの箱…国民対財務省の戦い?』でも指摘したとおり、「年収の壁引上げ」を言い始めたのは国民民主党ではありますが、それと同時にこの問題自体、いまや同党の枠を超越して、まさに「国民的な関心事」に高まっているフシがあるのです。

国民民主党の専売特許ではないはずなのだが…

もう少し踏み込んで言います。

正直、私たち国民の側からすれば、「年収の壁」問題を解決してくれる政党であれば、国民民主党でなくても、立憲民主党であろうが、日本共産党であろうが、日本保守党であろうが、れいわ新選組であろうが、参政党であろうが、どこでも構わないのではないでしょうか?

もちろん、これらに政党にその意思や能力があるという話とは限りません。

というよりも、少なくとも一部の政党は国民民主党が唱える減税案に対しては非常に冷たい態度を取っていますし(どこの政党とは申しません)、この期に及んで「紙の保険証を守る」だ、「夫婦別姓を推進する」だ、「政治とカネ」だとズレたことをおっしゃっているようなのです。

先日の『立憲民主党と国民民主党の明暗分ける「年収の壁」対策』などでも述べたとおり、最大野党である立憲民主党が提案している「年収130万円の壁対策」は、年金・健保加入に伴い生じる負担増を給付する、という、何とも中途半端でややこしい制度です(図表)。

図表 立憲民主党の給付案(イメージ)

(【出所】立憲民主党ウェブサイト『「130万円の壁」等を給付で埋める「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を再提出』を参考に作成)

ただ、立憲民主党の凄いところは、これだけではありません。

同党のX公式アカウントが27日、石破茂政権が打ち出してきた13.9兆円の経済規模を「大きすぎる」と断じているようです。

せっかくのチャンスなのになぜ立民は減税に後ろ向きなのか

他人事ながら、やはり心配になる人もいるかもしれません。

野党でありながら、そして支持率を大きく伸ばすチャンスでありながら、減税にここまでネガティブであるというのも興味深いところだといえるでしょう。

いずれにせよ、繰り返しになりますが、年収の壁問題はべつに国民民主党の専売特許ではありません。

その気になれば、どんな政党であってもこの「ビッグウェーブ」に乗れるわけですし(極端な話、そこに乗っかるのが自民党や公明党であっても構わないはずです)、それをやることによって(財務省を敵に回すかもしれませんが)国民を味方につけることができるはずなのです。

国政政党の皆さんがそれに乗っかるかどうか、乗っからないのだとしたらその理由は何なのか、などについては、関心を払って眺める価値があるテーマのひとつであることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    立憲民主党は「国民民主党が我々に話を通さないで、減税法案を提出した」ことに腹をたてているのではないでしょうか。

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