自身の母校で財政危機訴える財務次官がネットで話題に

財務省の新川浩嗣事務次官が9月、自身の母校で財政危機を訴えたとする記事が、ネット上でちょっとした話題となっています。いわく、日本の債務残高はGDPの2倍超だ。いわく、社会保障費や国債費が膨らんでいる。いわく、財政悪化により将来世代の負担が増加する、国債や通貨への信認が失われるかもしれない―――。国民から選ばれたわけでもない者の分際で、何を勝手なことを述べているのでしょうか?

なぜか官僚を滅多に批判しないオールドメディア

「不思議なことに、新聞やテレビは、滅多なことでは官僚の批判をしない。それどころか官僚の言い分を垂れ流すことすらある」。

以前から当ウェブサイトにて報告して来たとおり、新聞、テレビを中心とするマスメディア(あるいはオールドメディア)は、自民党についてはやたらと舌鋒鋭く批判するわりに、官僚などについては滅多なことでは批判しないという特徴があるようです。

いわゆる「もりかけ問題」で、財務省における組織的な公文書改竄が明らかになった際も、当時のオールドメディアは安倍晋三総理大臣を筆頭に、自民党の攻撃ばかりしていましたが、なぜか公文書改竄を組織的に行った財務省については、オールドメディアはほとんど批判しなかったのです。

そういえば、財務省は2018年4月頃、当時の財務次官が女性記者らに対してセクハラ発言を行っていたとする疑惑が報じられた際も、オールドメディアはこの問題をほとんど取り上げずに逃げました。自社の女性記者が被害に遭っていた(かもしれない)というのに、これも不思議な話です。

財務次官の母校での講演を報じた記事が話題に

それどころか、新聞やテレビは、財務省の言い分についてはほとんど批判しないばかりか、むしろその拡散に加担しているフシもあります。それを象徴するのが、今年9月21日付で朝日新聞に掲載された、こんな記事かもしれません。

財務省の新川事務次官が母校の丸亀高で講演 財政リスクを解説

―――2024年9月21日 10時30分付 朝日新聞デジタル日本語版より

これは、ネットでちょっと話題となっているもので、7月に財務次官に就任した新川浩嗣氏が自身の母校を訪れ、「日本の財政とその課題」について講演した、という記事です。

記事によると新川氏は「日本の債務残高がGDPの2倍を超え、主要国の中で高水準である」こと、「人口構成の変化などで、社会保障費や国債費が膨らんでいる現状」などについて、グラフを用いて解説。

そのうえで「財政悪化により将来世代の負担が増加するリスク」、「国債や通貨への信認が失われる可能性」についても言及し、日本の財政について「我がごととして考えて欲しい」と訴えかけた、というのです。

財務次官といえば、私たち国民から選挙で選ばれたわけでもない者です。

そのような者が、何を偉そうに「日本の財政を我がこととして考えよ」、ですか。

いちおう真面目にツッコミを入れておくと、公的債務残高をGDPで割っても何も意味はありません。ユーロ圏の財政収斂基準で「公的債務残高GDP比率」は60%とされていますが、これはあくまでもユーロという統一通貨圏に入るための収斂基準であり、非ユーロ圏である日本には関係ありません。

というよりも、財政状態を検討するうえで、公的債務残高「だけ」を議論しても、まったく意味はありません。資金循環統計で見ても、国内で国債の引受余力はまったく問題ありませんし、むしろ対外純資産が500兆円を超えている状況で、日本が「財政危機」とは、片腹痛いところです。

腐敗トライアングルの本質

ただ、財務次官という立場にある人物が、このような与太話を平気で堂々と垂れ流しているという点、そして新聞やテレビがこれを批判しないという点については、日本の既得権益層の問題として考えておくべきでしょう。

以前の『【総論】腐敗トライアングル崩壊はメディアから始まる』は、新聞社、テレビ局などオールドメディア関係者が官僚機構、特定野党議員らと結託し、「選挙で信を得たわけでもない者たち」が、やたらと大きな権力ないし社会的影響力を握る構造を指摘しました。

これは、いわば著者自身のウェブ評論家としての「集大成」のようなもので、こんな具合です。

  • 官僚機構は政府提出法案の起草などで大きな権力を握っている
  • 官僚機構は記者クラブ制度を通じてメディアをコントロールしている
  • メディアは記者クラブ制度を通じて情報を独占している
  • 官僚機構にとって強すぎる与党は邪魔であり、与党の力を削ぎたい
  • メディアはなぜか昔から左派的人士が多く、保守派の与党の力を削ぎたい
  • 官僚とメディアの利害が一致し、報道の力で与党の足を引っ張る野党がほどほどに勝つ

…。

そのうえで、その野党議員が「ヒアリング大会」などと称して官僚に対してパワハラを働くというオチもつく、というわけです。なんだかよくわかりません。

終焉に向かう腐敗トライアングル

ただ、著者自身の予言だと、この「腐敗トライアングル」―――官僚、メディア、特定野党―――の構造が、真ん中にあるメディアの力が弱まることによって、自然と崩壊する、というものです。

官僚が記者クラブ制度を通じてメディアをコントロールしようとしても、そのメディアが世論をコントロールできなくなれば、官僚が都合の良い話をでっち上げ、メディアを通じて世論をコントロールする、という事ができなくなってくるからです。

そして、その崩壊するタイミングがいつになるかという問題に関しては、「崩壊はすでに始まっている」、と見るのが正解ではないでしょうか。

たとえば、先日の兵庫県知事選では、新聞やテレビが決して報じない内容がSNSで流れ、それが斎藤元彦氏の知事再選につながったことは間違いありませんし、その前の衆院選では「手取りを増やす」を掲げた国民民主党が議席を4倍に増やしたことも思い出しておく必要があります。

もちろん、SNSなどネット空間で常に正しい情報が流れてくるわけではありませんが(誤りもたくさんあります)、ただ、「常に正しい情報が流れてくるわけではない」という意味では、オールドメディアも全く同じでしょう。

その意味では、国民から選挙で選ばれたわけでもなく、また、専門知識があるわけでもない者たちが権力を持つという構図については早急に改めなければなりませんし、社会のネット化によりそれが急速に実現しようとしている可能性については留意しておく価値があるでしょう。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名198x より:

    国の官僚がこんなでは、地方公務員のやる気はあがらない。
    口を開けば財政赤字がー。
    やはり、義務教育で会計学を履修科目にして、地道にするしかないのではないかと思う今日この頃です。
    1番いらないのは、総合学習。

  2. ミナミ より:

    >新川浩嗣 2024年7月から財務事務次官
    >1987年4月:大蔵省入省
    >1989年6月:米国イエール大学留学

    Zの人達のこの狂った使命感って一体何なんでしょうね? 正にザイム真理教
    この人達、若手財務官僚として、米英の名門大学に留学したりして、
    世界一流水準のメインストリームの経済学を学んで来る訳ですよ
    当然、それに沿った答弁なりをして、学位とか貰って来る訳です
    ザイム真理教の教義通りの事を言ってたら、向こうで学位なんか貰える訳無いです

    で、成田に戻って来た瞬間に、学んで来た事と真逆の事を生涯言い続ける訳です
    この集団をカルト集団と呼ばずして、一体何と呼べばいいのだろう?

  3. CRUSH より:

    今朝からヘッドラインニュースでは、
    「豪州が16才未満のSNSを規制!」
    てのが、怒涛の勢いで流れてきてます。

    そうか、そんなにSNS嫌いなんだぁ。

    表現の自由!とか日頃に勇ましく叫んでる人たちの働きぶりに注目してみたいと思います。

    その昔に非実在青少年というキーワードで東京都がサブカルチャー分野の出版物を規制しようとして失敗しておりましたが、あの時は表現の自由の戦士たちはどこかに雲隠れして、出てこなかったですよね。

    都合の良い「自由」があったものです。
    (使えない奴らですわ)

  4. 徐々の微妙な放言 より:

    自国の国益や国民の利益より、省益と無謬性に拘泥する霞ヶ関
    自らの報道の公平性や正確性より、SNSを叩くことに注力するマスメディア
    自らの政策立案能力や政権運営能力を高めるより、与党の粗探しに邁進する野党
    自らの国民に「客観的な歴史的事実」を教えるより、日本を貶めることに没頭する某国

  5. 農民 より:

     若い世代の懐柔にかかったか厄介だな、と思ったものの。
     次代を担う子供たちが、”日本の財政を我がこととして考えて”しまったら、いよいよ財務省への批判が止まらなくなると思うのですが。これで味方が増えるとでも思ったんですかね、優秀でエリートで天まで登り詰めた次官サマともあろう方が。
     まぁお仲間だか手下だかに報じさせるためにやってるだけでしょーけど。現にこんな1校への講演を”このタイミングで””大々的に”報じてるのですから。もちょっと隠せよ。

     デジタルネイティブな生徒達はもしこの講演で一旦騙されても、どうせ大人になるにつれてこのウソに気づくほどに、アンチ財務省へと成長してくれるでしょう。反感の種蒔きご苦労さまとしか。結実が楽しみですね。
     それよりも、この次官サマが数日前に総理官邸を訪れて”首相と膝をつき合わせて減税問題を協議”をしたとか。なんやねん”減税問題”て。頼もしい子供たちよりも、総理の方がよほど心配です。

  6. 匿名 より:

    >なぜか官僚を滅多に批判しないオールドメディア

    「民主党政権前」 と 「民主党政権後」 で大きく変わったと認識しています。「民主党政権前」 は、マスコミは結構、官僚叩きを執拗にやっていました。官僚側も 「ノー〇ンしゃぶしゃぶ」 だの 「消えた年金」 で、燃料を投下してくれていたし。
    電車の中で週刊誌の中吊り広告を見ると、オヤジ系週刊誌などは、政治家のスキャンダルと同じくらい、官僚のスキャンダルも取り上げていたのを覚えています。

    それが 「民主党政権後」 になると、「アベガー!、自民ガー!!」 であれば、前川〇平のような典型的な腐敗官僚でも、マスコミは持ち上げるようになりました。
    フツーに考えて、民主党政権の3年3か月の間に、マスコミが絶対に官僚に逆らえなくなるような、何かが起こったんじゃないかと思います。それが何かは判らないけど・・・。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告