むしろ紙幣流通量は増加していた
何事も、データに当たってみるものです。今年7月から発行される新紙幣を巡っては、さまざまな新技術が採用されるなど、「現物を見るのが楽しみだ」という人も多いかもしれません。ただ、その反面、最近のキャッシュレス化の流れを受け、「なぜこのタイミングで紙幣を発行する必要があるのか」、などと思う人もいるかもしれませんが、現実のデータを調べてみると、紙幣の流通量はむしろ増えていることがわかります。
新紙幣は7月3日から
通貨の偽造防止は近代国家ではいずれも重要な課題のひとつです。
こうしたなか、日本政府によると今年7月3日に、新しい紙幣が登場するそうです。
2024年7月3日 お札が変わります
―――新しい日本銀行券特設サイトより
新しい紙幣のデザインは、現行のものと比べ、見た目も技術もずいぶんと変化します。
図表1-1 壱万円紙幣見本
図表1-2 五千円紙幣見本
図表1-3 千円紙幣見本
(【出所】『新しい日本銀行券特設サイト』)
現行の紙幣の発行が始まったのが2004年11月1日のことですので、およそ20年ぶりの改刷です。
新技術の数々
政府特設サイトによると、今回の紙幣では、たとえば▼現在の透かし技術に加えて、透かしの肖像の周囲に緻密な画線で構成した連続模様を表示する「高精細すき入れ」、▼世界初となる「3Dホログラム」(図表2)――などの新技術が採用されます。
図表2 採用されるのが世界初の新技術である「3Dホログラム」
(【出所】『新しい日本銀行券特設サイト』)
これらに加えて、現行紙幣にも採用されている、「▼潜像模様、▼パールインキ、▼マイクロ文字、▼深凹版印刷、▼識別マーク、▼すき入れバーパターン、▼特殊発光インキ」――などの技術も、引き続き採用されるのだそうです。
新しい紙幣、見るのが楽しみだ、という人も多いであろうと思われる反面、「いきなり7月3日に新紙幣が手に入るものなのか」、などと訝(いぶか)しむ向きもなくはないでしょうが、これについてはさほど心配する必要はないかもしれません。
というのも、日銀のウェブサイトに昨年12月時点で公開された『新しい日本銀行券の発行について』と題するPDFファイルの3ページ目の説明によると、新紙幣の量産はすでに2022年に始まっていて、2023年度末時点で45.3億枚となる見込みが立っているからです。
ちなみに日銀統計によると、2024年3月時点における紙幣の流通量は、一万円札が112億5358万枚、五千円札が7億2670万枚、千円札が43億7840万枚で、この3種で合計約163.6億枚ですので、現時点で流通紙幣の4分の1は、直ちに新紙幣との入れ替えが可能、という計算です(図表3)。
図表3 2024年3月における備蓄量(見込み)と紙幣流通量(一万円、五千円、千円の3種)
券種 | 新紙幣備蓄量 | 紙幣流通量 |
一万円券 | 24.8億枚 | 112.5億枚 |
五千円券 | 2.6億枚 | 7.3億枚 |
千円券 | 17.9億枚 | 43.8億枚 |
合計 | 45.3億枚 | 163.6億枚 |
(【出所】日銀『新しい日本銀行券の発行について』P3および日銀統計『通貨流通高』データをもとに作成)
何とも楽しみなことではあります。
古い紙幣が使えなくなるわけではない!
ただ、この手の話題が出てくると、必ず出てくるのが「古い紙幣は使えなくなります」、といった詐欺でしょう。
これについては何度強調してもし過ぎではないのですが、べつに「7月3日以降、現在の紙幣が使えなくなる」、という事実はありませんのでご注意ください。
現時点の紙幣・貨幣の一覧については、日銀の『現在発行されている銀行券・貨幣』のページに詳しい説明がなされているのですが、過去に発行されていた紙幣・貨幣については、たとえば『その他有効な銀行券・貨幣』のページでも確認できるとおり、かなり古い紙幣・貨幣でも、現在使用することが可能です。
たとえば、福沢諭吉氏が描かれた一万円札に関しては、じつは2004年から流通開始となった現行紙幣以外にも、1984年から流通開始となったシリーズがありますし、そのさらに以前は、1958年から発行開始となった聖徳太子氏のシリーズがありますが、これらは現在でも有効な銀行券とされています。
また、意外な話ですが、「現在でも使用可能な紙幣」としては、1946年に発行が開始され、1958年に発行が停止された二宮尊徳氏の一円紙幣のように、かなり古い紙幣であっても現在も額面通りに使用できる紙幣はいくつかあります。
もし興味があれば、これについては日銀の『その他有効な銀行券・貨幣』のページで、直接確認してみてください。
流通量は減っていない!?
さて、なぜ政府がこのタイミングで新紙幣の発行をするのか、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
なにせよ、世の中では「キャッシュレス決済」が普及し、私たち一般人のレベルでも、ちょっと新しい物好きという人であれば、その気になればサイフを持たなくても生活ができるようになり始めているからです。東京などの大都会だと、とりわけその傾向が顕著です。
たとえば、大手スーパーマーケットやコンビニエンスストア、鉄道・バス路線、タクシーなどの場合だと、交通系ICカード(SUICAなど)が1枚あれば、たいていの用事を済ませることができてしまいますし、モバイル化し、クレジットカードと紐づけていれば、それこそ現金を1円も下ろすことなく生活ができてしまいます。
著者自身のケースでも、鉄道・バス・スーパー・コンビニなどはモバイルSUICA、飲み会や病院などはクレジットカード、各種料金の支払いなどはスマホの銀行アプリ――、といった具合に、日常的に現金を下ろす機会がほとんどありません。
このように考えていくと、紙幣の流通量は今後、減っていく一方であるに違いない――。
そんな仮説が成り立ちます。
では、実際のところはどうなのでしょうか。
これについては意外なことに、じつは、紙幣流通枚数自体は傾向として増えていることがわかります(図表4)。
図表4 紙幣流通枚数の推移
(【出所】日銀統計『通貨流通高』データをもとに作成)
一万円紙幣については最近、やや流通量が頭打ちにも見えますが、それでも主要な3紙幣(一万円、五千円、千円)に限定していえば、曲折はあれ、一貫して増え続けていることが確認できます。
この点、貨幣(つまりコイン)の流通枚数については微減傾向が続いており、とくに1円玉や10円玉などの小額のものが減り続けていることがわかりますが、合計枚数が「激減」している、とまでは言い難いのが実情でしょう(図表5)。
図表5 貨幣流通枚数
(【出所】日銀統計『通貨流通高』データをもとに作成)
つまり、意外なことですが、キャッシュレス化が進んでいる、などといわれているわりに、世の中の「物理的なマネー」の総量はさほど変わっておらず、いや、紙のおカネに関してはむしろ増えている、というのが実情のようです。
このあたりはやはり、現実のデータに当たることの重要性を再認識する契機となる話題なのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
新紙幣のデザインについて個人的な感想なのですが、数字のフォントがのっぺりしていてダサいと思う。ここだけが!ここだけが気にいらない!
>つまり、意外なことですが、キャッシュレス化が進んでいる、などといわれているわりに、世の中の「物理的なマネー」の総量はさほど変わっておらず、いや、【紙のおカネに関してはむしろ増えている】、というのが実情のようです。
*タンス預金の増額と相関したものではないのでしょうか?
金利が付かないなら銀行預金に意味はない。そのような正常な社会判断が実践されているからなのでしょうか。
日本の通貨偽造防止技術は 世界一と思っています。
こういう技術がありながら マイナンバーカード、在留資格カードは 偽造品が横行している。
日本の通貨を守り続けている伝統ある印刷局の能力と、ICカードという新技術の未熟さの差なのでしょう。(といっても IC情報まで偽造入力されているとはおもえませんが)。
適用範囲が拡大中のマイナンバーカードや在留カードの偽造防止にさらに力を入れてもらいたいです。
「俺の名は内田洋 … 男はそう言って灰になった」
紙の保険証は不正し放題だそうです。
経済学で「貨幣の流通速度」という考え方があるけど。
貨幣の発行量が増えてるという事は速度一定とすると経済規模が大きくなっているという事かな?
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/貨幣の流通速度
貨幣の流通速度は、経済規模とはあまり関係ないようです。
実際、2000年以降、GDPがほぼ横這いなのに、通貨発行量は増えています。インフレになれば、発行量は増えますが、この間は、インフレでもない。
個人間のような小規模取引きが増えれば、通貨発行量は増える傾向があるようです。
経済規模が拡大せず、安売りや薄利多売のような商売形態が増えたのか?
小規模取引きでは、紙幣貨幣が使われる傾向があるようです。
また、タンス預金も増えたのか?
・[両親が2000万円をタンス預金】これって得?損? 2024年の新札発行でどうなる? プロが解説
https://mi-mollet.com/articles/-/43731?layout=b#:~:text=日本国民のタンス預金は1人当たり86.6万円,-日本人は&text=日本銀行が発表した,円にものぼります%E3%80%82
日本銀行が発表した資金循環統計によると、2023年3月末時点でのタンス預金、つまり自宅などに保管されている現金は、106兆8530億円にものぼります。
高齢者を中心にタンス貯金は増え続けています。
1万円札で、100億枚なら、100兆円になります。
通貨流通量と、通貨発行量、或いは、発行残量、は同じことなのでしょうか?
>何故キャッシュレスの時代に現金の流通がへらないのか。
理由1
それは、お金は単なる数字ではないからです。
幾ら銀行口座他に数字が積み上がっていたとしても実感がわきません(カミさんに管理されているせいばかりではありません) 現ナマを沢山持つと気持ちが良くなりまっせ。
理由2
日本人が日本銀行券に絶大な信頼を置いている証拠です。因みにジンバブエは4月から金本位制である法定通貨ジンバブエゴールド(ZiG)を発行したとか。通貨発行に見合うだけのゴールドを持ってるんでしょうか。関係ないけど
ここ1年は、1万円札を見ていない。数カ月に一度、歯医者に行く時に千円札を準備する位。硬貨もその時釣り銭を貰う時に目にする程度。
電子マネーとクレカで普段の生活は廻る。タンス預金が必要になることはない。
実際の数値を紐解いていただくと
たしかに意外な結果と驚きます。
朝のコンビニの会計では圧倒的に
スマホ決済が早くて便利で
現金払いの私は後ろに並んでいる人に
迷惑かけてないか気にしています。
以前は某ペイペイ使ってましたが
個人的に孫正義が信頼できない気がして
現金払いに戻りました。
ひょっとして、他の皆さんは
平時の利便性ではキャッシュレスしても
自然災害である日突然使えなかったり
セキュリティの観点で残高亡くならないか心配して
あまり貯めないで 昔から他国と違って
信頼が高い通貨の紙幣現物を保有してるのではないか?
とも思います。