一帯一路の債務の罠にかかっているのは中国の側では?

中国が巨額のおカネを貸していると見られる国――トルコ、アルゼンチン、エジプト、ベネズエラなど――は、いずれも国際決済銀行(BIS)のデータで見て、それほど多額の債務に耐えられる国々ではありません。中華金融の「債務の罠」問題、罠にかかっているのは中国からおカネを借りた国であるだけでなく、じつは問題のある国々におカネを貸している中国自身でもある、ということではないでしょうか。それは中国の自業自得ですが…。

CBSで見た日本の融資先

先日の『日本は8年連続で「世界最大の債権国」=BISデータ』でも紹介したとおり、国際決済銀行(BIS)が作成・公表している『国際与信統計』(英語の “Consolicated Banking Statistics” を略して「CBS」ともいいます)は、なかなかに便利な統計です。

国同士のおカネの貸し借り関係の概要を知ることができるからです。

たとえば、先日も指摘したとおり、日本が外国に貸しているおカネの総額は2023年6月末時点で4兆6459億ドルですが、具体的に日本が課している相手国については、図表1のとおり、米国がトップで、これにオフショアセンターであるケイマン諸島、金融大国である英国などが続いていることがわかります。

図表1 日本の対外与信の状況(2023年6月末時点)
ランク(債務国側)金額構成割合
1位:米国2兆0753億ドル44.67%
2位:ケイマン諸島5914億ドル12.73%
3位:英国2210億ドル4.76%
4位:フランス1892億ドル4.07%
5位:豪州1422億ドル3.06%
6位:ドイツ1206億ドル2.60%
7位:ルクセンブルク1132億ドル2.44%
8位:タイ1026億ドル2.21%
9位:カナダ972億ドル2.09%
10位:中国796億ドル1.71%
その他9136億ドル19.67%
合計4兆6459億ドル100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに著者作成)

CBSから見た、債務国としての日本

図表1でもわかるとおり、日本の融資先は欧米・豪州などが多く、アジアといえばタイがトップで、意外なことに、中国よりもタイに対する与信の方が大きいことがわかります(邦銀のタイ向け与信が多い理由は三菱UFJFGがタイのアユタヤ銀行の株式を2013年に取得したためです)。

同様のランキングは日本以外のさまざまな国についても作成することができますが、ただ、CBSの使い勝手の良さは、それだけではありません。主要な債権国に加え、債務国のデータも掲載されているため、たとえば債務国としての日本の姿も描くことができるのです(図表2)。

図表2 日本の対外受信の状況(2023年6月末時点)
ランク(債権国側)金額構成割合
1位:米国4474億ドル37.40%
2位:フランス2635億ドル22.02%
3位:英国2249億ドル18.80%
4位:カナダ615億ドル5.14%
5位:豪州498億ドル4.17%
6位:台湾347億ドル2.90%
7位:ドイツ254億ドル2.12%
8位:韓国179億ドル1.50%
9位:オランダ177億ドル1.48%
10位:イタリア143億ドル1.20%
その他392億ドル3.28%
報告国合計1兆1963億ドル100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに著者作成)

こちらは「日本におカネを貸している国」の一覧ですが、トップは米国、2位がフランス、3位が英国で、この3ヵ国以外の日本に対する与信は1000億ドル未満であり、トータルでも約1.2兆ドルと、日本が外国に貸しているカネの額と比べて4分の1程度に過ぎないことがわかります。

いわば、日本国内にいかに資金需要がないか、という証拠でもあるのかもしれません。

ちょっとした余談ですが、JETROウェブサイト『直接投資統計』によると、日本の対外直接投資は2兆0792億ドルに達しているのに対し、対内直接投資が3494億ドルに過ぎません(数値はいずれも2022年12月末)。

すなわち、日本は外国に積極投資しているものの、外国は日本に対し、さほど投資していないという実態が、各種統計からは浮かび上がってくるのです。

債権国としての中国の地位はよくわからない

さて、以上で見たとおり、CBSは大変便利で、(使いやすいとは決して言い難いにせよ)はあるのですが、ここでひとつ欠点があるとしたら、債権国側のデータが限られていることでしょう。

とりわけ中国がBISにデータを提出していないため、最近話題の「一帯一路金融」の実態については、正直、BISのデータだけではよくわからないのです。

もちろん、CBS以外の統計でも、(断片的にではあるものの)「中華金融」の実態の一端に触れることはできます。その一例が、昨年の『意外と小さい「一帯一路」:中華金融の実情を考察する』でも紹介した、世界銀行の統計でしょう。

これによると、明らかに中国が単独の貸主となっている金額は、2021年12月末時点において1800億ドル程度と見積もられますが、さすがにこの金額では少なすぎる気がします。なぜなら、1800億ドルといえば、5兆ドル弱に達する日本の対外与信総額と比べて、わずか4%に過ぎないからです。

その一方で、中国は金融機関を経由しない与信(たとえばシルクロード基金など)の残高がそれなりにある、などの説もあり、一部の海外報道等によれば、「一帯一路金融」の与信残高は1兆ドルに達する、といった記載も出てきます。

ちなみに当ウェブサイトとしては、この「一帯一路」を含めた「中華金融」の正体については「リスク・リターンの測定を壮大に誤っているものである」、という仮説を提示してきました。

というのも、結局、(あくまでも報道ベースですが)中国が金を貸している相手国ないしプロジェクトは、いずれもまともな先進国からはおカネを貸してもらえないなどの理由で、中国にすがっているのではないか、といった疑念が払拭できないからです。

フォーブス「一帯一路、返済困難国への救済融資が激増」

こうしたなか、『フォーブス・ジャパン』というウェブサイトに1日、ちょっと気になる記事が出ていました。

中国の一帯一路、返済困難国への救済融資が激増

―――2023.11.01付 Forbes JAPANより

フォーブス・ジャパンは以前からしばしば中国の一帯一路金融に関する報道を積極的に行っているメディアのひとつです(先日の『岐路に立つ一帯一路:リスクの取り方を間違う中華金融』などでも取り上げた、「中国が世界最大の債権国である」などとする、やや事実誤認に満ちた記事もそのひとつでしょう)。

今回の記事では、独キール世界経済研究所の情報として、「一帯一路プロジェクトの一環として融資を受けたものの、返済困難に陥っている国々」として、具体的にいくつかの事例が挙げられています。

たとえば、中国は2015年から21年にかけて、モンゴル、エジプト、パキスタン、スリランカ、トルコなどに対し「多額に上る緊急の流動性スワップの期限を延長」。これらのいくつかに加え、さらにオマーン、アンゴラ、ベネズエラかは、それぞれ少なくとも10億ドル(約1500億円)の中期融資を受けた、などとしています。

具体的な名前が挙がった諸国のCBS上の債務額

私たち一般人の日常会話で「10億ドル(約1500億円)」と聞くと、なにやら途轍もない金額ですが、国際金融支援の世界で10億ドルは、正直、非常に少額です。

ただ、上記に名前が挙がった諸国について、CBSから判明する(中国以外の)国際社会からの借入額を列挙していくと、たしかに国として借り入れている額と比べて多額であることがわかります(図表3

図表3 フォーブスが報じた国々の対外債務(2023年6月末時点)
債務額最大の債権国
トルコ1298億ドルスペイン600億ドル
アルゼンチン407億ドルスペイン256億ドル
エジプト323億ドル英国80億ドル
オマーン137億ドル英国61億ドル
パキスタン46億ドル英国25億ドル
アンゴラ48億ドルポルトガル23億ドル
スリランカ35億ドル英国20億ドル
ベネズエラ31億ドルスペイン10億ドル
モンゴル14億ドルフランス4億ドル

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに著者作成)

トルコを除けば、(中国以外の)国際社会から借り入れている額は、1000億ドル未満であり、とりわけパキスタン以下の諸国は債務総額が100億ドル未満です。これらの国々にとって10億ドル以上という金額は、たしかに巨額であることは間違いありません。

債務の罠にかかっているのは、じつは中国の方?

ちなみにフォーブスによると、モンゴルの対中債務は2021年時点で国民総所得(GNI)の24%に相当し、世界で最も高い水準にあるほか、パキスタンとエジプトはいずれも多額の融資を受け、国内経済の低迷により中国が提案する救済融資を受け入れた、などとしています。

フォーブスは、こう述べます。

対中債務国に占める返済困難国の割合は近年激増しており、2022年には、中国の対外融資ポートフォリオのうち60%がこうした国々の支援にあてられた。2010年には、この割合はわずか5%だった」。

要するに、「中国が債務の罠で発展途上国をがんじがらめにし、影響力を行使している」、といった姿が見て取れるのですが、ただ、次の記述を読むと、少し評価が変わるかもしれません。

中国の救済融資額は、2014年には約110億ドルだったが、2015年には大きく跳ね上がり、約300億ドルに達した。経済危機に陥ったアルゼンチンへの救済融資を80億ドル以上も増額したためだ」。

アルゼンチンといえば外貨建ての対外債務のデフォルト常習国です。この20年あまりの間でも、アルゼンチン政府は米ドル、日本円などの外貨建ての対外債務の履行を拒絶しています。

相手はあのアルゼンチンのことですから、かつてアルゼンチンが米国、日本などの国際社会に対して行ったのと同じことを、中国に対しても行わないという保証は、どこにもありません。

なんのことはありません。

これらの諸国が「中国からの債務でがんじがらめになっている」のではなく、「中国がこれらの国々への債権でがんじがらめになっている」だけの話ではないでしょうか。

日本の金融機関の対外債権ポートフォリオは、はそれなりにきちんとした先進国向けが中心ですが、どうやら中国の対外債権ポートフォリオは、そもそも通常の債務弁済すら困難な国々が多く、これらの融資が焦げ付けば、最終的には中国経済を痛めつけることになります。

もちろん、中国がデット・エクイティ・スワップ(DES、債務の株式化)などの手法を用い、発展途上国に建設したインフラ施設を自分のものにしてしまうのではないか、といった疑念は尽きませんし、中国がそのようにして海外にさまざまなインフラ拠点を作り、支配していくことへの警戒は怠るべきではありません。

ただ、そもそも先進国がなぜ、これらのインフラに融資を付けないのかと考えていくと、やはりそもそもの採算性が疑わしいからでしょう。

ということは、そこに待つ未来は不良債権化・不良資産化ではないか、といった疑念が尽きないのです。

AIIBも怪しくなってきた

そういえば、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)といえば、2020年のコロナ禍で融資が急激に伸びたことが当ウェブサイトの調査で判明しています(これについては『コロナ特需も落ち着く=AIIB』などもご参照ください)。

言い換えれば、コロナ禍で、本来ならばアジア開発銀行(ADB)などからは相手にされないような案件に対する緊急融資が増えた可能性がある、ということであり、やはり「融資焦げ付き」のリスクは相応に高まっていると警戒せざるを得ません。

つまり、中華金融の問題は、「中国が途上国への債権を通じて途上国を支配してしまう」というものだけでなく、「中国が採算性を無視して強引な貸し込みを行い、その結果、中国自身が将来、莫大な不良債権問題に苦しむ(かもしれない)」、という問題でもあるのかもしれない、ということです。

正直、バブル期における日本の金融機関の融資焦げ付きを知っている身からすれば、中華金融は中国自身にとって莫大な不良債権問題として跳ね返っていきそうに見えてならないのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. たろうちゃん より:

    素朴な疑問。韓国に進出している企業や日本人を守る為の投資なのはわかるんだが借金の返済を求めることもせず制裁各種解除やスワップ(いまだ詳細はわからず、一説によれば韓国の勇み足発表に日本側が激怒説あり)はあったりでなんで韓国にカネを投資するのかねぇ。わからん。理解できない。それで主権侵害されているのだ。韓国に対する不信感は10指では足りない。足の指をいれなくてはならぬ。次回選挙では岸田は現職総理としての落選を期待する。

  2. サムライアベンジャー より:

    ツッコミですが、韓国が日本にお金を貸してるですね。どういうお金なんでしょうか。

  3. クロワッサン より:

    ポンペイウスに多額の借金をして、自分が破産するとポンペイウスも破産する状況に持ち込み、ポンペイウスを最大の協力者としたカエサル。

    みずほ銀行に多額の借金をし、自社が破綻するとみずほ銀行も傾く状況に持ち込み?、みずほ銀行を引くに引けなくしたソフトバンク?

    中国は、ポンペイウスやみずほ銀行の立場になっちゃっうかもって事ですね。

  4. 都市和尚 より:

    いつも楽しみに拝読しております。

    国内で例えると、都銀、地銀、ノンバンクにも相手にされない企業が、
    怪しい貸し手から調達しているような状況に思えます。
    あの中国が相手ですから、まともに契約の通りの対応をするとは思えませんので、
    担保実行でインフラを取られるくらいで済めば御の字で、
    国が丸ごと乗っ取られるようなこともあるかもしれませんね。
    何だか少々楽しみなような気がしております。

  5. いねむり猫 より:

    一帯一路の債務国はアフリカ諸国が多いのですが、いっそ何処かの国みたいに「前の政権が締結した契約は無効だ」なんて言ったらどうなるのかなぁ。
    仮に習近平政権が頓挫した場合に、アフリカの債務国にまで影響するだろうか。債務はあっても、世界でそれが習近平の是非を問われれば中国で回収できないかもしれない。

  6. さより より:

    フォーブスの記事は、追い貸しをして、追い貸しした金で、自分への返済をしろ、ということと解釈できるのだが。
    それで、その追い貸しの金利が、又、高い!これじゃ、益々、債務額が増えていくだけのように見える。
    この国は、高利貸屋の発想から脱却できないのですかね?
    いや、本当は金を返して欲しく無くて、借金のカタの方が欲しいのかも、と思える。
    これが、世界帝国を造る方法だと思っているのか?しかし、こんな帝国、Sさんなき後、誰が統治したいと思うのだろう?
    国の統治って、結構面倒臭いもんだと思うが。

  7. すみません、匿名です より:

    カネ出して無理心中の仲間を探したげど
    相手はカネを返さないどころか
    開き直って、無理心中から逃げちゃった
    ではないよね。。。
    入金されて初めて売上を誇る
    回収されて初めて融資を誇る
    全額、貸し倒れはないよね・・

  8. 世相マンボウ_ より:

    でも日本も危なかったですねえ(^^);
    「バスに乗り遅れるな!」と
    田原の爺さんやどぶサヨ方面からの大合唱に
    乗せられてAIIB参加していたら、
    今頃中国の焦げ付き債権の飛ばしで
    引き受けるAIIBさんは、
    日本はもろに被ってしまい、
    その分中国さんは担保外れて
    さらなるベニスの商人させちゃうところでした(笑)

    日本にカモネギ参加させる計画に
    理事という餌まで与えたのに
    失敗したエージェント鳩ポッポさんは
    給料泥棒の汚名返上に
    最近もAIIBに参加するべき(笑)
    との発言しておして
    ホッカムリをしているのには
    その支持者の日頃の生きザマ含め
    軽蔑に値すると感じます。

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