数字で見る「クルド人問題」とビザ免除措置の現状整理
一部報道によると埼玉県川口市や蕨市で、クルド人(トルコ国籍保持者でしょうか)と地元住民の軋轢が問題視されているようです。現実問題として、トルコ国籍保持者の入国者は毎月2~3千人程度であり、日本に入国する外国人が毎月200万人前後であることを踏まえると、正直、トルコに対する短期ビザ免除措置を停止しても、日本の観光業にはさほど影響がなさそうに見受けられます。
目次
在日外国人総数とビザ免除措置の有無
連休中の『技能実習・特定技能…滞在資格の見直しの必要はないか』では、出入国在留管理庁が作成・公表している『在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表』などに基づき、日本に在留する外国人の一覧とその国が日本にとってのビザ免除国であるかどうかの対応表を作成しました(図表1)。
図表1 在日外国人の総数と主要な内訳(2022年12月時点)
国籍 | 在留者数 | 構成割合 | ビザ免除 |
総数 | 3,075,213 | 100.00% | |
1位:中国 | 761,563 | 24.76% | × |
2位:ベトナム | 489,312 | 15.91% | × |
3位:韓国 | 411,312 | 13.38% | ○ |
4位:フィリピン | 298,740 | 9.71% | × |
5位:ブラジル | 209,430 | 6.81% | × |
6位:ネパール | 139,393 | 4.53% | × |
7位:インドネシア | 98,865 | 3.21% | ○ |
8位:米国 | 60,804 | 1.98% | ○ |
9位:台湾 | 57,294 | 1.86% | ○ |
10位:タイ | 56,701 | 1.84% | ○ |
11位:ミャンマー | 56,239 | 1.83% | × |
12位:ペルー | 48,914 | 1.59% | × |
13位:インド | 43,886 | 1.43% | × |
14位:スリランカ | 37,251 | 1.21% | × |
15位:朝鮮 | 25,358 | 0.82% | × |
16位:バングラデシュ | 22,723 | 0.74% | × |
17位:パキスタン | 22,118 | 0.72% | × |
18位:カンボジア | 19,604 | 0.64% | × |
19位:英国 | 18,959 | 0.62% | ○ |
20位:モンゴル | 16,580 | 0.54% | × |
(【出所】出入国在留管理庁『在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表』及び外務省『ビザ免除国・地域(短期滞在)』をもとに著者作成)
ビザ免除措置の非対象国の滞在者が多い
これで見ると10万人以上日本に長期滞在している外国人の出身国は、中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ブラジル、ネパールと6ヵ国ありますが、3位の韓国を除けば、いずれもビザ免除の非対象国です。
外務省『ビザ免除国・地域(短期滞在)』によると、日本は2023年4月2日時点において、69ヵ国・地域出身者に対してビザ免除措置を適用していますが、なぜ相手国・地域に対してビザ免除措置を適用しているのか、その明確な基準は正直、よくわかりません。
ただ、一般論としていえば、ビザ免除措置を適用する場合、「その相手国民が自国に入国したとしても、不法就労などの犯罪・不法行為をする心配が低い」などの判断がなされているのに加え、「相手国も自国民にビザ免除措置を適用している(いわゆる相互主義)」などの事情があります。
そして、日本の場合も現実にビザ免除措置の対象国ではない国からの長期滞在者が多いわけですので、ビザ免除対象国をやみくもに増やすと、観光客だけでなく日本で就労しようとする者の入国も許してしまうという判断が、関係省庁の側でなされているのかもしれません。
クルド人問題で衆院外交委員長がトルコ大使に警告
こうしたなかで、産経ニュースに土曜日、こんな記事が出ていました。
埼玉・川口のクルド人問題、トルコ大使に衆院外務委員長が懸念伝達 ビザ見直しにも言及
―――2023/09/16 19:33付 産経ニュースより
産経によると、埼玉県川口市で一部のクルド人と住民のトラブルが相次いでいる問題を巡り、衆院外務委員会の黄川田仁志委員長(自民党)が14日、ギュンゲン駐日トルコ大使と面会し、「状況が深刻化すればトルコに対するビザ免除措置の見直しを求める国内世論が高まりかねない」とする懸念を伝えたそうです。
これは産経新聞の取材に対し、黄川田氏が16日に明らかにしたそうで、黄川田氏はギュンゲン大使に対し、「観光目的で入国した一部のクルド人が難民申請をして滞在し続ける事例が発生している」などと指摘。
そのうえで、イラン国籍の不法滞在者増加などを理由に、政府が1992年にイランへのビザ免除措置を停止した過去に触れ、不法滞在を斡旋するトルコ国内のブローカー取り締まりや、トルコ国籍の日本滞在者に対する法令順守の呼びかけなどを求めたのだそうです。
産経の記事でも指摘されている通り、「クルド人」とされる人の多くはトルコ国籍保持者だそうです。ここで、先ほどの図表1を作成する元データを確認してみると、長期滞在者のうちトルコ国籍保持者は2022年12月末時点で6,080人であり、これはランキングでは28位です。
しかし、一説によるとその3分の1にあたる約2,000人が埼玉県の川口市や蕨市に集中しているとの指摘もあります(埼玉県議会・定例会の今年6月の一般質問における立憲民主党の白根大輔県議の質疑など)。
しかも、そのなかには「入管施設の収容を一時的に解かれた仮放免の者」や「難民認定をされず不法滞在状態の者」もいるようです。
ビザ免除対象国の選定に問題はないのか
先ほどの産経の記事によると、とくに川口市ではクルド人と地域住民の軋轢が表面化しており、今年6月には同市議会が国、県に対し、「一部外国人」の犯罪取り締まり強化を求める意見書を可決。7月初めにはクルド人グループ同士の争いで付近の市立病院の救急の受け入れがストップする事態なども生じているそうです。
これを受けて、改めて先ほどの図表1の元データをもとに、今度はビザ免除対象国のみについてリストアップしたものを作ってみました(図表2)。
図表2 2022年12月末時点・長期在留者のうちビザ免除対象国の出身者
国 | 人数 | 割合 |
総数 | 3,075,213 | 100.00% |
3位:韓国 | 411,312 | 13.38% |
7位:インドネシア | 98,865 | 3.21% |
8位:米国 | 60,804 | 1.98% |
9位:台湾 | 57,294 | 1.86% |
10位:タイ | 56,701 | 1.84% |
19位:英国 | 18,959 | 0.62% |
21位:フランス | 14,339 | 0.47% |
22位:マレーシア | 11,045 | 0.36% |
23位:カナダ | 10,926 | 0.36% |
24位:オーストラリア | 10,831 | 0.35% |
26位:ドイツ | 8,264 | 0.27% |
28位:トルコ | 6,080 | 0.20% |
(【出所】図表1と同じ)
これによるとトルコ国籍保持者は在日外国人全体で見ると決して多くありませんが、ただ、これはあくまでも公式の統計データであり、不法滞在状態となっている者は(おそらくは)含まれていません。
ただし、同じく出入国在留管理庁のデータによると、日本における不法滞在者に占めるトルコ国籍保持者の内訳はよくわかりません(図表3)。
図表3 不法滞在者(2023年1月1日時点)
国 | 人数 | 構成割合 | 前年比 |
ベトナム | 13,708 | 19.45% | +6,560 |
韓国 | 10,508 | 14.91% | ▲1,123 |
タイ | 9,549 | 13.55% | +1,766 |
中国 | 6,782 | 9.62% | ▲934 |
フィリピン | 4,662 | 6.61% | ▲486 |
インドネシア | 3,185 | 4.52% | ▲265 |
台湾 | 2,873 | 4.08% | ▲446 |
スリランカ | 1,595 | 2.26% | +279 |
マレーシア | 1,474 | 2.09% | ▲219 |
カンボジア | 1,185 | 1.68% | +694 |
その他 | 14,970 | 21.24% | +5,826 |
合計 | 70,491 | 100.00% | +3,732 |
(【出所】出入国在留管理庁『本邦における不法残留者数について(令和5年1月1日現在)』より著者作成)
おそらくクルド人は図表3でいう「その他」(14,970人)に含まれているのだと思われます。
この点、日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、トルコ国籍を持つ入国者は毎月2~3千人程度です。毎月の日本への入国外国人が200万人前後であることを踏まえると、その0.1~0.2%程度、ということでもあります。
したがって、トルコ国籍保持者に対するビザ免除制度を停止したとしても、日本の観光業に与える影響はさほど大きくないようにも見受けられるのですが、いかがでしょうか。
ただ、それと同時にこの「その他」について前年比で5,826人も増えているという事実にも驚きます。それだけ、不法滞在者の国籍が多様化している、ということでしょうか。
余談:ビザ免除措置の見直しも必要では?
ちなみに最後にちょっとだけ余談です。
図表3を眺めていて気づくのは、不法滞在状態となっている国籍者が最も多いのはベトナムですが、ビザ免除対象国のなかでも、韓国やタイ、インドネシア、台湾、あるいはマレーシアなどのように、不法滞在者のランキング上位国が存在します。
これらの国の場合、毎月多くの人が渡航してきているため、それだけ不法滞在化する可能性もある、ということでしょう。また、これらの国に対するビザ免除措置が適用され続けているのは、「ビザ免除措置を停止したら観光業への打撃が大きい」、といった判断でもあるのかもしれません。
ただ、ものごとはすべてバランスで判断しなければならず、ビザ免除措置もまったく同じことがいえます。観光業が日本経済全体に占める重要性次第でもありますが、そもそもある国に対するビザ免除措置が日本社会の不安定化をもたらすとしたら、それは本末転倒です。
いずれにせよ、ビザ免除措置の適用対象国は官僚機構が選んでいるようですが、これについては国民生活の安全とも直結する論点でもありますので、やはり国会議員の皆さんにはもう少し積極的に動いてほしいと思うのですが、いかがでしょうか。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
観光ビザで来て難民申請するのはずるいわ
“ワラビスタン”の件やら大分土葬どうする問題の件やら、異文化民コロニー化への対応に不慣れすぎる島国根性民…それでも官僚組織は本気で移民頼みするつもり??
自分が生きている間だけ逃げ切れればオケ的な刹那主義が爆増しそうな生涯未婚率と合わせ、如何に如何に…
古来より平和が長く続けば、権力者は楽をするために官僚に権限を与え続け、そして官僚が腐敗すれば国民を苦しめる害悪となり、内憂か外患によって滅びる。
洋の東西を問わず、歴史を学べばそうなるのは当然のことです。
定期的に文系廃止論がどっかから出てくるのってもしかして…というのは流石に陰謀論ですが、目先だけ見ていればその先で詰みになるのはゲームでも現実でも変わりません。
まだセーフなのか、もうアウトなのかわかりませんが、こういった情報の共有は大事だと思います。
先ずは、とっつきやすいところから”毅然とした対処”を積み重ねるよりほかないと思います。
「なし崩し的な状況」を前例としてはいけないですね。事勿れで済ませてはいかないですね。
国土が無い民族だけに多少の同情はあったが「郷にしたがう」ことができない民族は日本にはいらない
とっととトルコ(自治区)にかえってもらいたい
この辺を「被害者だぁーっ!」て利用する勢力がいるのですよ。 トルコ・クルド間で何か問題があった際の日本トルコ大使館前のデモはカオスでしたよ。 お互いマッチョ係ですからね。 情勢は国力通り沈静化しましたが、そこに集まるトルコ系住民の方は組織だっていて大きな暴力沙汰に繋げません。 多少あったのでしょうが・・・(大国だな)。
国として外交でクルドに味方して得るものは0では? 対トルコ、対イラク、少しだけシリアで交渉材料の極小一部でしかありません。
パレスチナ問題とかロマ問題とか・・・。 日本は島国だったから過去は助かったのですが、戦後「差別だぁー!!」勢力に散々やられました。 ウソを真顔で泣いたり わめいたりして訴えてた、かつて最貧国だった国も少しだけまともになりつつありますが、一度甘い汁を吸った上層部の駆除は数世代かかるでしょうね。 このビジネスを真似したい「北」の国もありますから・・・。
知識・技能を持って渡来し日本の国造りに参加した人は昔からいました。
奈良時代の唐招提寺の鑑真和上、古墳時代からの稲荷神社の秦氏一族
(当時の先端科学の仏教、蚕や絹などによる織物、土木技術、砂鉄の採鉱)
ケネディ大統領が
「アメリカの国が諸君に何をしてくれるかを問うな。諸君が国に対して何をできるかを問え」
現代の渡来人は
「経済難民が日本に何をしてくれるかを問うな。日本が経済難民に対して何をできるかを問え」
ではないことを
見事なほどの役人のサボタージュである。国内に定住者を許し、人権を盾に学校にまで行かせるのだから。零細企業の人手不足は深刻で不法滞在者を足元を見て労働力を搾取する。そうした連中が本国から旅行とは名ばかりで呼び寄せ定住するのだ。役人や警察のなかには小遣い稼ぎに手入れを漏洩する奴もいる。大分の土葬問題も有無を言わさない強い対応をすべきなのだ。だけど市民団体だの人権団体だの、日本人が口をだすから可笑しくなる。役人の緩い対応がいけないのだ。日本は法治国家なのだ。ビザをきちんとだす。就労、留学、家族各々のビザにはルールがあり、期限があるのだ。厳しく摘発。邪魔するのなら逮捕。これでいい、
>市民団体だの人権団体
統一教会の信者と同じで 「自分達の正義」という信仰で無茶苦茶やりますからなぁ
NHK・マスコミ・左翼系議員・人権ゴロ弁護士を使いこなすところも統一教会と まんま同じ
それこそ移民に総理が暗殺されるまで残るんじゃないかな~
オウム真理教も地下鉄サリン事件で大勢人が死ぬまで 放置されてたしな
本題とは違う話なんですが、インドネシアってビザ免除対象国だったんですね。
今たまたまインドネシアに旅行に来てまして、日本人はビザ免除されてないので、日本もインドネシア人には免除してないのかと思い込んでました。
政府が相互主義を主張してくれれば免除してくれそうな気がするんですけどね。
クルド人の中で「お行儀の悪さ」が基本的に無いという人間なレベルはどれ位居るんだろう?という疑問がわく訳ですが。
難民かどうか以前に、犯罪者かどうかですよめ。
難民だからとか難民申請してるからってな理由で犯罪許されるような事決してあってはならない訳で。
脱法とか法の抜け道を探して暮らそうとするのであれば、日本国民じゃないんだから日本社会から追い出すのはOKとすべきだと考えますけどね。
強制送還されて殺される事になろうと、強制送還されるような事を仕出かしている以上は自業自得では?
>不法滞在を斡旋するトルコ国内のブローカー取り締まりや、トルコ国籍の日本滞在者に対する法令順守の呼びかけなどを求めたのだそうです。
全然報道されないけど、やっぱりブローカーが絡んでいたのか。留学生や技能実習生は、現地のブローカーに多額の仲介料を払っていて、借金を背負って日本に来ている場合が多いけど、自称難民もか。