自称元徴用工の現状②その資産、換金できるのですか?

「そもそも自称元徴用工問題って、解決する必要はあるんでしたっけ?」――。韓国の自称元徴用工らが日本企業の資産を差し押さえている問題を巡っては、こんな疑問が頭をもたげてきます。なぜなら、彼らが差し押さえている「資産」とは、(上場株式ではなく)非上場の合弁会社株式であったり、(金銭債権や不動産ではなく)知的財産権であったり、と、非常に換金し辛いものばかりだからです。差し押さえるなら換金しやすいものにするのは裁判の鉄則だと思うのですが…。

ウソや捏造により法的根拠のないことを要求する韓国

本稿は『自称元徴用工の現状①日韓協議は「進展」しているのか』の「続編」です。自称元徴用工問題を巡って、韓国政府が(自称)被害者らへの損害賠償金を「財団方式」によって支払うことを検討している、といった報道が聞こえて来て久しいです。

この構想は、韓国政府が今年1月12日に開催した自称元徴用工問題を巡る「公開討論会」で示したものだそうであり、2018年の大法院判決で確定した賠償金については、まずは韓国の財団が「併存的債務引受」ないし「第三者弁済」方式によって弁済する、という案が柱となっています。

もちろん、こんな「解決」案、日本が呑むことはできませんし、呑んではなりません。もしこの「解決」案を呑んでしまえば、日本企業に一時期でも債務が存在したことを、日本側が間接的に認めてしまうことにつながりかねないからです。

日韓諸懸案の中核を占めているのは、基本的には2つの問題――「①韓国側がウソや事実歪曲によって問題自体を捏造したこと」、「②法的な権利がないにもかかわらず日本側に謝罪や賠償を強要していること」――にあります。

自称元徴用工問題についても同じで、2018年10月、11月の大法院判決自体が国際法に違反する違法なものです(※余談ですが、これは韓国自身にとっても「自ら法治国家であることを否認する」という効果をもたらしかねないものでもあります)。

したがって、この自称元徴用工問題を根本から解決しようと思うなら、まずは大法院判決自体を何らかの形で無効化すべきでしょう。そして、その作業自体、私たち日本人にできるものではありません。巡視に純粋に、韓国という国家の仕事だからです。

非上場の合弁会社株式の売却は極めて困難

もっとも、『「徴用工解決で安保協力が進む」という松川議員の詭弁』でも取り上げたとおり、「保守系の尹錫悦(イン・シーユエ)氏が韓国大統領であるうちに、これらの問題を解決しなければならない」、などと主張する者もいますが、これは本当でしょうか。

そもそも尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領自身が「保守系政治家」なのかどうかという疑問もありますが、それ以上に「急いで問題を解決せねばならない」とする主張自体、かなりおかしな発想でもあります。

ただ、くだんの議員の説明によれば、基金案は「日本企業に対する現金化自体が法的に阻止される」ため優れている、というのですが、この説明にもかなりのウソが混入しています。というのも、自称元徴用工側が日本企業の資産を差し押さえているのは、そもそも換金を目的としたものとは考えられないからです。

たとえば被害企業のひとつである新日鐵住金(現社名は「日本製鉄」)の場合、差し押さえられている資産は、韓国ポスコとの合弁会社でダストリサイクル事業を営むPNR社(出資割合はポスコ70%、日本製鉄30%)の株式です。

これについては今から約3年前の『非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい』ですでに議論したとおり、そもそも非上場株式の強制売却には時間もカネもかかりますので、(通常の法治国家ならば)大変に難しいものです。

取引所に上場されている株式だと誰でも自由に売買できますし(売買手数料も高くありません)、とくに「プライム市場」銘柄の場合はほぼ毎日時価が成立していますので、売却も簡単ならばその時価を計算するのも簡単です。

これに対し、上場されていない株式の場合、まずは株式を譲渡するための適正な価格を、わざわざ計算する必要があります。まずはバリュエーション(会社価値の評価)手続を実施する必要があり、そのためには最低でも数百万円のコストが必要となるケースも多いです。

譲渡制限条項

さらには、合弁会社の場合、問題はそれにとどまりません。多くの場合、「譲渡制限」が付されているのです。この「譲渡制限」とは、株主が会社の株式を譲渡する場合に、その譲渡先を誰にするかについて、取締役会の承認を必要とする規定を定款に定めても良い、とする会社法(旧商法)の規定のことです。

一般に合弁会社株式の場合、出資している会社とは無関係な者が株主として会社に関わってくることを防ぐ必要があるため、譲渡制限条項が設けられることが一般的です。譲渡制限条項が付された会社の株式を売買するためには、いちいち取締役会にお伺いを立てなければならないのです。

また、こうした譲渡制限条項を無視して株式を無理やり売買することも可能ですが(※当事者間であれば株式の売買自体は成立します)、その場合も株式を購入した者は会社に対し、「自分を株主として扱え」と要求すること(たとえば株主名簿の書換要求)ができません。

株式購入者は会社に対し、「自分を株主として扱うか、それを認めないならば、自分が購入した株式を買い取ってくれる人を指名してほしい」と要求することはできるのですが、もしもその「株式の売却」を選んだ場合は、そこからさらにバリュエーション手続が必要となることが一般的です。

つまり、経済合理性の観点だけで見るならば、非上場かつ譲渡制限条項が付されている合弁会社の株式を買い取る者がいるとは考え辛いのです。

知的財産権も売却は非常に難しい

同じことは、知的財産権についてもいえます。

三菱重工業の場合、自称元徴用工らは同社の韓国国内における商標権や特許権を差し押さえているのですが、昨年8月の『民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」』でも詳しく議論したとおり、知的財産権を差し押さえたところで、裁判で売却することは非常に困難です。

民事執行法の規定上、特許権や商標権、意匠権や著作権などについては、いちおう譲渡することが可能ですので、理屈の上では差押、強制執行などの手続をとることができるはずです。

ただ、その場合も裁判所が「鑑定人」を選任してその財産権の価格を決定する必要があるのですが、これがなかなかに困難です。

特許権の場合はまだ特許使用料というかたちでキャッシュ・フローが生じているケースがありますので、そのキャッシュ・フローを現在価値に割引き、そこからさらに不確実性などを考慮して掛目を乗じる、といった手法は、理屈の上では考えられなくはありません。

しかし、商標権の場合は「その商標権がキャッシュ・フローを生み出すのにどれだけ貢献しているのか」を測定すること自体が難しいため、これについては正直、具体的にどうやるのかの実例を示してほしいという気がするほどです(会計士的な立場から、純粋に知りたいと思います)。

なにより、非上場株式も知的財産権も、差し押さえられているだけの状態であれば、日本企業に実害は生じません。株主としての権利行使は問題なくできますし、知的財産権の使用も可能です。差し押さえはあくまでも「その処分ができない状況」になるだけだからです。

このことから、自称元徴用工らには、おそらく裁判を通じて資産を強制売却するという意思はありません。

おそらく彼らの最大の目的は、何とかして日本企業の譲歩を引き出し、新たな謝罪利権を確立することにあるのであって、日本企業の資産売却そのものには興味はないのです。

なぜ金銭債権を差し押さえないのか

何より、もしも裁判を通じて強制換金しようと思うのであれば、差し押さえるべき資産は非上場株式や知的財産権ではなく、上場株式や不動産、金銭債権などにするのが鉄則です。

ただ、自称元徴用工らは不思議なことに、三菱重工に関し、いったんは金銭債権を差し押さえたものの、その差押えを途中で慌てて解除してしまいました(『【速報】自称元徴用工側が金銭債権差押を「取り下げ」』等参照)。

表向きの理由は「差し押さえた資産が三菱重工の子会社の金銭債権だったから」というものですが、これは理由になっていません。ムチャクチャな判決を下しうる韓国の裁判所のことですので、法人格否認の法理でもなんでも使い、親子会社を一体とみなして資産換金を実現すれば良かったはずだからです。

というよりも、金銭債権の場合、差し押さえて弁済期が到来してしまうと、差し押さえられた企業にはその時点で実害が生じます。したがって、それは日本政府の言う「日本企業に不当な損害が生じること」に該当してしまうのです。

だからこそ、自称元徴用工らは差し押さえを慌てて解除したのでしょう。

しかもその後、三菱重工にせよ、日本製鉄にせよ、自称元徴用工側が金銭債権を差し押さえたという事例は見当たりません。本当に不思議ですね。

いずれにせよ、自称元徴用工判決問題を巡っては、どうせ自称元徴用工側に資産を強制売却する意思も能力もありませんので、資産売却「スルスル詐欺」は、基本的に放っておいて良いのではないのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 北麓のメガじい より:

    私はとても腹を立てている。 韓国側に対してはもちろんのこと
    日本側の弱腰な対応もだ。

    日韓請求権協定ですでに解決済み、日本は何もやることがない。
    もし請求権協定を破ることがあれば日韓基本条約の破棄・断交にもなりえる
    約束を違えるな なぜそんな基本的なことが言えないのか。

  2. 匿名 より:

    朝鮮人は意味のあることをいわない(いえない)ので無視するに限る

  3. カズ より:

    >自称元徴用工側が金銭債権差押を「取り下げ」

    彼らは「自身の生殺与奪につながるスイッチ」を押したりはしないのです。先日の「味の素訴訟での和解」もこれに同じなのかと。

    日本政府が関与するまでもなく、民間企業の自己判断によるは供給止めは輸出規制に非ずなんですものね。

  4. 雪だんご より:

    あえて無理やり「解決しなくてはならない」理由を探すとしたら、

    ①現金化=>日韓の報復合戦が開始し、当然”体力”で劣る韓国が敗北する
    ②グダグダ継続=>韓国の大統領が今まで以上に頻繁に失脚・交換させられる

    どちらでも「韓国が国家として機能しなくなる」と言う行きつく先は同じ。
    そしてそうなると、「今まで以上に韓国人が不法入国を試みてくる」と言う実害が
    あるから、「解決しなくてはならない」と言えるかも……?

    うーん、我ながらやっぱり無理やりな理由付けかも。

  5. 匿名 より:

    コオロギ太郎があんだけ激高した案が進んで(ように見える)るのに何も言わないのは、「管轄外」だから

    1. オタク歴40年の会社員です、よろしくお願いいたします より:

      あれって実はコオロギじゃなくて、
      中国で養殖されたゴキ◯リって本当ですかね?。

  6. 名無しの権兵衛 より:

    「なぜ金銭債権を差し押さえないのか?」という疑問については、全くそのとおりだと思います。
     例えば、下記資料によれば、日本製鉄は、2019年度に韓国向けに562万トンの鉄鋼製品を輸出しており、海外最大の輸出先になっています。
     この輸出に関する取引相手先については、通常なら、日本製鉄に対する代金支払債務(日本製鉄から見れば売掛債権)が存在するはずですから、その売掛債権を差し押さえれば済む筈です。
     そして通常なら、この取引相手先は韓国国内に事業所がある企業ですから、差押は可能な筈です。
     ただし、日本製鉄が差押対策として特別な取引を実施しているとすれば、話は別ですが。

    (資料)日本製鉄ファクトブック-2020-Nippon Steel 93頁「全国仕向先別鉄鋼輸出船積実績」
        https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/guide2020_all.pdf

  7. G より:

    お金をもらえればそれでいいのが、被害者(自称、以下略)本人。ただ、周りの支援団体は解決してしまったら活動のネタがなくなる。

    その構造に薄々気付きつつも、分断を図って解決に持ち込むということが出来ない韓国の行政。

    あくまで完全に国内の悪弊なんですけどね。今までそれを政治的に利用していたから、なかなか踏み込めない。
    ユン大統領も、ばっさりやったらろうそく革命されるのではないかと踏み込めない。

    日本としては、下手な呼応は逆に韓国のためにならないって論法で話をしていくべきでしょう。(しているものと期待)

  8. 簿記3級 より:

    (徴用工)10ウォン(関連会社株式)10ウォン
    仕分がよく分かりません。

    たくさんある資産から投資その他資産を持って行ったのは不思議ですね。泥棒っぽく備品とか持っていけば良いのに。

  9. あるある より:

    知的財産の値付けは、オークションにかければ値付けはできます。
    実際に知的財産のオークション市場はあります。
    特に商標権は、もし第三者が買ったのなら、日本製鉄は買い戻さざるを得ないでしょうから、かなりの値が付くはずですね。
    しかし、韓国がそれをやらないのは、やる気がないからでしょうね。

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