岸田首相「サミット花道論」と「菅義偉政局」の可能性

「ある政権の功績は、その政権が日本にとってどれだけ素晴らしいことをしたかで総合的に判断しなければならない」。これが、著者自身の持論です。岸田文雄首相本人を眺めていると、どうにも危なっかしいところが多々あることは間違いないのですが、それでも菅義偉政権下でのFIT推進に対し、岸田政権が原発再稼働・新増設方針を打ち出すなど、「総合的に見れば」、いまのところは「日本にとって良いことをしている」と評価できるかもしれません。

政権は総合的に評価すべき

当ウェブサイトでは岸田文雄・現首相や「宏池会政権」に対し、何かと批判的だ、などと指摘されます。この点については著者自身も自覚しているところであり、とくに財務省や外務省などに過度に忖度(そんたく)している姿勢がないかどうかについては、非常に気になるところでもあります。

ただ、それと同時に、世の中には「百点満点」の政治家など存在しないというのもまた事実です。とくに、政治家であればさまざまなしがらみから無縁でいることはできませんし、それはおそらく岸田首相にとってもまったく同じことが言えます。

このため、著者自身、「ある政権を評価する基準」とは、「その政権が日本にとって総合的に良い仕事をしたかどうか」で評価すべきだと考えています。

たとえば、岸田政権の前任の菅義偉政権自体は残念ながらたった384日で終わってしまいましたが、それでもさまざまな仕事の「スピード感」は凄く、そのわずか384日で日本社会が大きく転換を遂げたことは間違いありません(『菅義偉総理大臣の事績集:「日本を変えた384日間」』等参照)。

なかでも『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』でも触れたとおり、菅政権時代に日本の外交は、伝統的な中露韓などの近隣国を重視するものではなく、日米同盟を基軸としつつ、基本的価値を共有する国々(とくに米豪、あるいは台湾など)との関係を大切にするものに舵を切ったのです。

その菅総理が日印協会の会長を務めているというのも、菅総理の功績に照らすならば、ある意味では当然といえるのではないでしょうか。

菅政権の失策はFIT制度の推進:これを軌道修正する岸田政権

もっとも、その菅政権の経済・産業政策、すべてを手放しに誉めることはできません。電気代がここまで急騰したのも、電力不足がここまで深刻化したのも、結局は太陽光発電を中心とする、再生可能エネルギーという「ベースロード電源」には到底なり得ない代物を、菅政権時代にも推進したからではないでしょうか。

もちろん、太陽光発電などを日本が推進するきっかけとなったFIT(固定価格買取制度)の法案が提出されたのは、同じ「菅」でも「菅(すが)総理」ではなく「菅(かん)直人元首相」の時代です(その意味で、FIT制度等は民主党政権の負の遺産でしょう)。

ただ、太陽光発電などの再生可能エネルギー発電が日本経済に対し、高額のFIT賦課金を強いておきながら、事実上、電力の安定供給にほぼ寄与していないことを思い出しておくと、これを改めなかったのは「菅(すが)義偉政権」の失策でしょう。

これに対し、『朗報:政府が既存原発などの「最大限の活用」方針示す』でも取り上げた、岸田文雄政権が打ち出している原発の再稼働・新増設などの方針については、(中途半端ながらも)それなりに高く評価できるものです。

唐突な「1兆円増税」構想にせよ、報じられている「韓国への譲歩・謝罪」構想にせよ、岸田文雄首相に対しては正直、保守層からあまり評判が良いとは言い難いところがあるのですが、それでももう少し見守る必要があるのではないでしょうか。

政低党高構造と菅総理の動向=泉宏氏の論考を手掛かりに

ただ、こうしたなかで、やはり岸田政権の運営のカギを握るのは、「政低党高」構造ではないでしょうか。

岸田首相の出身母体である宏池会(岸田派)は、いわゆる5大派閥(岸田派以外には安倍派、麻生派、茂木派、二階派)のなかで、二階派と並ぶ第4勢力に留まります。

その岸田首相を自民党側からガッチリ支えているのは麻生派と茂木派ですが、逆にいえば、岸田首相が両派との関係を損ねたら、政権自体が瓦解する可能性が出て来る、というわけです。したがって、岸田首相も自民党(とくに安倍派)の意向を無視することは難しいでしょう。

こうしたなかで、『菅総理の派閥批判自体が「宏池会政権」に対する牽制に』あたりでも取り上げたとおり、菅総理自身は無派閥ではありますが、二階派の長で「盟友」とされる二階俊博氏にも近く、また、菅総理自身が安倍派と近づけば、「再登板」という可能性がまったくのゼロというわけではありません。

これについてどう考えるべきか――。

ちょうど良い材料となるのでしょうか。政治ジャーナリストの泉宏氏が30日、時事通信にこんな記事を寄稿していました。

波紋広げる菅氏の“岸田批判”【点描・永田町】

―――2023年01月30日付 時事通信より

正直なことをいえば、このリンク先記事自体、なにか「新しいこと」を指摘したというものではありません。

最近の菅総理の「岸田批判」を巡って、「岸田政権の危機は深刻で早期退陣もあり得ると判断して(菅総理が)動き出した)」ものとみられている、というのが泉氏の指摘です。

ただ、個人的に興味深いのは、泉氏自身、こうした菅総理の岸田首相批判を巡って、次のように述べているくだりです。

『ポスト岸田』の有力候補たちの品定めをした週刊誌などの新年企画では、いずれも菅氏が上位にランクインし、永田町では『岸田首相が早期退陣に追い込まれれば、残る総裁任期をこなせるのは麻生太郎副総裁か菅氏』(自民長老)との声も上がる。ただ、菅氏周辺は『自らの再登板は全く考えていない』と否定し、『ポスト岸田政局を仕切ることでのキングメーカー狙いが本音』(同)と解説する」。

「キングメーカー」というのも、なんだかよくわかりません。

ただ、漏れ伝わる報道等を見る限りにおいては、どうも菅総理自身には再登板の意向はなさそうです。

菅総理は「最適タイミング」を測っている?

ここから先は著者自身の単なる想像ですが、菅総理のことですから、自身が再登板するにせよ、「誰か」を後継者に擁立するにせよ、このまま岸田内閣を継続させるにせよ、おそらくは「最適なタイミング」を推し量っているのではないでしょうか。

これに関連し、泉氏は、こう述べます。

通常国会での厳しい与野党論戦や、自民苦戦が予想される4月の統一地方選など、首相を待ち受ける『政治的関門』は多い」。

そのうえで泉氏は、「内閣支持率の低迷が続けば政権危機は一段と深刻化しかねない」としたうえで、次のように指摘するのです。

その間の菅氏の動きが今年の政局展開を左右するポイントとなるのは間違いなさそうだ」。

これについては、おそらくはそのとおりなのでしょう。

岸田首相を巡っては「サミット花道論」も取りざたされているなかで、茂木敏充・自民党幹事長あたりが岸田首相の後継者を狙うのか、それとも菅総理が動くのか――。

案外、今年は「菅政局」もあり得るのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 理系初老 より:

    息子を秘書官にし、国際会議の場で所属派閥を誇る現首相、環境エネルギー失策の菅さん、日本人にいつまでも苦汁を飲ませ続ける談話発表者のご子息。そんな人たちでもあちら系野党よりはマシという悲しい状況ですが、逆に妄想してみました。
    林と鈴木と息子を更迭する岸田さん。学術会議とFIT賦課金を止める菅さん。河野談話を破棄して中国製太陽電池ではなく日本独自の太陽電池に補助金を出す河野さん。そのような人たちなら、誰が首相になってもありがたい。

  2. 引きこもり中年 より:

    素朴な感想ですけど、「岸田総理のサミット花道論」という流れが出来てしまえば、本人の意思がどうあれ、サミットで辞任せざるを得なくなり、逆に言うと、(よっぽど、変なことをしなければ)サミットまで首相を続けられるということでしょうか。(もちろん、統一地方選で自民党が大敗して、サミット前に辞任せざるを得なくなることもあります)

  3. めがねのおやじ より:

    こんな「昼行燈」の首相の元でも(過去にはもっと悲惨な御仁が居ましたし)、なんとかやって行ける日本という国は大したもんだと、妙に感心してしまいます。菅義偉首相は、『自らの再登板は全く考えていない』と否定しているそうで、あの1年間余りで、すべて出し尽くしたと思っており、安易な再登板は無いと思います。

    やはり広島サミットが一つのポイントと言えます。長男のご乱行、また出るかも。財務省や外務省に岸田総理自身、何を吹き込まれるか分からない。自民党の派閥はいちおう安定しているので、大概の方に代わっても日本の進路を変えようと愚策を弄する人は出て来れないと思います。

    1. 引きこもり中年 より:

      めがねのおやじ様
      >過去にはもっと悲惨な御仁が居ましたし
       それは鳩山由紀夫(元)総理のことですか。(もっとも、早めに退陣しただけで、自民党政権にもいましたが)

  4. 匿名 より:

    何でも抑止力て必要だな、と最近のニュース見てて思います。
    ただ、この抑止力が賄賂や恐喝などで効果が発揮できない事態は避けるべき。
    逆に抑止力が暴走してもいけない。
    当たり前のことですが、常に意識しておかないと。

  5. ねこ大好き より:

    岸田政権の評価は難しい。この頃盛んに流れてくる子息を巡る醜聞も、もしかしたらオールドメディアの自民潰しかもしれない。菅前首相の末期もメディアの扱いは酷かった。コロナとオリンピックで相当叩いていた。今になって良い首相だったなどと言っても、まさに覆水盆に返らず。
    新宿会計士さんがおっしゃるよう、個人を巡る評価では無く、日本の為に何をしているかを見て判断しないといけないですね。とは言うものの、韓国を巡る発言や増税に対する発言は本当に嫌です。

    1. 風吹 舞 より:

      私もネガティブキャンペーンかなと思います。
      過去の「アベマサハルを許さない!」キャンペーンに比べたら、借り物の猫もびっくりなおとなしさですが(笑)
      岸田総理って口は軽いし、脇は甘いし、頼りないのですか、意外とやってはマズイことはやってないと思っています。
      失礼しました。

  6. んん より:

    安倍おろしに関しては
    官僚、マスコミ、野党の三者連合でしたが
    岸田については
    マスコミは割れるでしょう
    犬HKは盛んに賃金アップなどエールを送っています
    しかし賃金上げられる企業は限られてますし
    物価上昇、増税で上がっても実質マイナスです
    犬HK、公務員は大幅ベースアップで率先垂範ですかねw

  7. カズ より:

    >どうも菅総理自身には再登板の意向はなさそうです。

    政局の羅針盤(安倍総理)を失ったいま、動かない座標が不可欠なのかもですね。
    航海士の気まぐれで、瀬戸際によせられて座礁してしまわないためにもですね。

  8. 元ジェネラリスト より:

    ガースー氏には、最近の韓国への譲歩報道について正論コメントを発してくれないかなと思うこともあります。政権へのいい牽制になるのにと。
    が、そんなコメントしたとしても、オールドメディアが報じるわけもないですかね。

  9. DEEP BLUE より:

    「新宿会計士さんは岸田政権に対して厳し過ぎる」なんて意見が来てるなんて信じられませんね・・・。
    韓国への一方的譲歩や財務省の嘘つき増税ロジカルへの指摘が「厳し過ぎる」なんて、どちらかの関係者の人ではないでしょうか?
    多数の日本国民は韓国への根拠無き譲歩も無理やりでっち上げ増税にも反対なのですから、嫌というならこのサイトを見るのを止めてオールドメディアを見ていればいいのです(笑)

  10. 匿名 より:

    「ある政権の功績は、その政権が日本にとってどれだけ素晴らしいことをしたかで総合的に判断しなければならない」というのはそのとおりだと思いますし、自分も、岸田政権の防衛増税や自称元徴用工問題への対処方には非常に不満を持っているものの、これだけで岸田政権をダメ扱いするのは適切ではないと考えております。

    しかしながら、岸田総理には、日本や日本国民のためではなく、総理としての自分自身の評価を高めるために仕事をしているのではないかと邪推したくなるような発言や素振りも垣間見られます。もし岸田総理が、日本や日本国民のためではなく、例えば自分の評価を高めたいなどなど、自分の個人的な信念や欲求を満たすために仕事をするのであれば、日本の国益を損ねることはあっても、良い結果は生まないと思っております。

    自分は、岸田総理にそのような状況に陥っていただきたくありませんし、そうならないためにも、自分の個人的な希望としては、菅前総理に、岸田総理のお目付け役となっていただき、岸田総理をしっかりと牽制していただきたいなぁと思っております。

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