またしても、「まとめサイト」がやらかしたようです。韓国・梨泰院（りたいいん）で発生した悲惨な大量圧死事故を巡り、複数の「まとめサイト」が、「韓国メディアが日本に責任転嫁している」などとする悪質なフェイクニューズをばらまいているのです。ふだんの韓国メディアの報道に対し、個人的に思うところがないわけではありませんが、さすがに今回の騒動は、フェイクニューズとしては悪質です。

浮上したトレンドは「日本のせい」

ツイッターというのはなにかと便利なツールで、今この瞬間、流行しているキーワードが表示される「トレンド」という機能があります。その「トレンド」に、昨日ごろから見かけるものが、「日本のせい」、です。

そして、その「日本のせい」を調べていくと、この記事にぶち当たりました。

【萬物相】よその文化を間違った形で受け入れた韓国のハロウィーン

―――2022/10/31 18:10付　朝鮮日報日本語版より

韓国メディア『朝鮮日報』（日本語版）に昨日掲載されたもので、肝心の「日本のせい」という表現は、どうやら次の記述と関連しているようです。

「梨泰院で多くの若者たちが無念なことに命を失った。安全対策上、惜しまれる点が一つや二つではないが、原点にも立ち返るべきだ。外来の文化をこのように受け入れたことは果たして正常なことだったのだろうか」（朝鮮日報）。

匿名掲示板のフェイクタイトルを少なくとも２つのサイトが転記

これらの記載が事実関係として正しいかどうかについては、とりあえず脇に置きましょう。

ここで重要な点は、これらの記事を、一部の「まとめサイト」と呼ばれるサイトが「韓国のメディアが『日本のせい』と言い出した」と称して転載しているようなのです。確認できただけで、『オレ的ゲーム速報』なるサイトと『ツイッ速』なるサイトにこの手のコンテンツが掲載されていますが、ほかにもまだあるかもしれません。

【悲報】韓国は日本から間違ったハロウィンの文化を取り入れてしまった

―――2022-10-31付　ツイッ速より

これらの出所は、いずれも匿名掲示板『５ちゃんねる』に建てられた『【悲報】韓国は日本から間違ったハロウィンの文化を取り入れてしまった [323057825]』などのスレッドであろうと考えられます。

内容をちゃんと読むと「明らかな虚偽」

もちろん、著者自身も普段の韓国メディアの報じ方にはいろいろと思うところもあるのですが、さすがにこの転載の仕方はいかがなものかと思います。朝鮮日報の元記事を読んでみても、「今回のソウル梨泰院（りたいいん）の事故は日本のせいだ」とは書かれていないからです。

ここで、「ソウル梨泰院の事故」とは、いうまでもなく、29日の夜、韓国の繁華街で若い人を中心に大勢の方が死傷したという悲惨な事故を指しています（『なぜ？韓国ソウル「梨泰院」で深夜に大量圧死事故発生』等参照）。

そして、『【悲報】韓国は日本から間違ったハロウィンの文化を取り入れてしまった』という記事を読むと、タイトルでもわかるとおり、まるで朝鮮日報が今回の事故を「日本のせい」と断罪しているかの印象を受けますが、これは悪質な印象操作です。

そもそも朝鮮日報は、ハロウィンの起源とそれが日韓両国に入ってきた経緯について説明し、「外国人が多く住む繁華街である梨泰院、外国人のクラブが多い渋谷」がハロウィンの聖地になった、などと指摘したうえで、日韓におけるハロウィンの危険性について、こう述べているのです。

「日本人は集会・応援・祭の時に比較的秩序を守る方だ。だが、ハロウィーンでは不祥事ばかりが無限に起こる。10月の最終週になると、日本の警察はテロ対策に準じる警備を渋谷で行う」。

「韓日のハロウィーンではアニメキャラクターに変身する『コスプレ』もある。英米圏のように最小限の宗教的敬虔さがあるはずもない。緊張感が緩むばかりだ。常に安全が崩壊する恐れがあり、危険が潜んでいる」。

こうした記述に違和感がまったくないわけではありませんが、総じてこれらの記述は、「ハロウィン本来の趣旨から逸脱したお祭り騒ぎのなかで安全対策がおざなりになっていた」、「大勢の若者が覆面し、路上飲酒を伴えば、群衆の危険度が高まる」、といった点を指摘しているに過ぎません。

それがどこをどう曲解すれば、「韓国メディアはまた日本のせいだと言い出した」、となるのでしょうか？どうしてこれが「今回の事故の原因は韓国が日本から間違ったハロウィンの文化を学んだ結果だ」、となるのでしょうか？

内容をちゃんと読めば、これらの「まとめサイト」の情報は、明らかな虚偽です。原文もろくに読まず、「どうせ韓国だからメチャクチャなことを言っているに違いない」などと反応するのは、非常に恥ずべき話でしょう。

ハンギョレ新聞も「日本のせい」とは言っていない

ちなみにハロウィンと日本の関連について論じている記事は、ほかにもありました。同じく韓国メディア『ハンギョレ新聞』（日本語版）に今朝掲載された次の記事が、それです。

ハロウィーンはいかにして韓国の祭りになったのか

―――2022-11-01 07:45付　ハンギョレ新聞日本語版より

ハンギョレ新聞によれば、ハロウィンが韓国に流入し、定着したきっかけは、やはり米国から日本を経て「コスプレ」と結合した、という仮説が取り上げられています。

「ハロウィーンがいつ、どのようなきっかけで韓国に流入したのかははっきりしない。ただ、一部の文化研究者を中心として、米国のハロウィーンが日本を経てコスチュームプレイ、すなわち『コスプレ』と結合し、その後、改めて韓国のソウル梨泰院（イテウォン）や弘大（ホンデ）などに伝わったという分析がなされている。時期的には2000年代半ば以降、梨泰院が急激に商業化される時期と一致する」

すなわち韓国のハロウィン文化が日本を経由している可能性について言及しているわけですが、これに加え、大学教授によるこんな趣旨のコメントも掲載されています。

「米国の代表的な祭りといえるハロウィーンが日本でコスプレと結びついて本格的に商業化の様相を呈し、韓国にはそのようなルートを通じて商業化したハロウィーンが上陸した。その後、若い世代の文化として固定化した」。

たしかにこちらの記事だと、「ハロウィン文化は日本経由で韓国に入ってきた」という主張だと読むこともできます。先ほどの朝鮮日報の記事と比べれば、より「日本経由」が強調されていることは間違いありません。

ただ、それでもハンギョレ新聞の記事のどこをどう読んでも、「今回の事故は日本のせいだ」と主張するくだりは確認できません。

「旭日旗自粛するわけねーだろバーカ」というウソ記事

もちろん、普段の韓国メディアの日本に対する報道が少しひどすぎるという点については看過できるものではありません。しかし、さすがに一部の「まとめサイト」の記事は、悪質なフェイクニューズと言わざるを得ませんが、こうしたなかで思い出すのは、この手の「まとめサイト」のフェイクが今に始まった問題ではない、という事実です。

たとえば2018年10月には、韓国が主催する国際観艦式を巡って、当時の小野寺五典防衛大臣が「旭日旗？自粛するわけねーだろバーカ」と発言した、などとする悪質なフェイクニューズを取り上げました（『まとめサイト捏造記事「旭日旗自粛するわけねーだろバーカ」』参照）。

このサイト、ほかにも悪質な捏造を働いており、たとえば「河野太郎外相（当時）が日韓断交を決断した」、「（韓国企業がかかわった）2018年７月のラオスのダム決壊事故で、韓国メディアが鹿島建設に責任転嫁した」、といった、ありもしない話を次々と記事にしているのです。

日本は言論の自由が貫徹された国でもあるため、残念ながらこの手の悪質なサイトを取り締まることはできません。結局のところ、私たち一般人が賢くなり、インチキサイトをインチキサイトと見抜いたうえで、そうしたサイトを訪れないようにすることでしか対策を講じることはできないのです。

この点、著者自身は「まとめサイト」を全否定するつもりはありません。「まとめサイト」界にも「老舗」のようなサイトがいくつかあるのですが、それらのなかにはサイト管理人自身が適切に情報を取捨選択しているケースもあるからです。

それに、大手新聞社、テレビ局であってもウソ、捏造を垂れ流すことはありますし、ファクトチェックが不十分なままで情報を世に送り出すことなど枚挙に暇がありません。例の「玉川事件」や「毎日新聞記事取消」などは、その典型例でしょう（『ウェブ評論の時代に考える「毎日新聞の記事削除」事件』等参照）。

いずれにせよ、私たち国民に必要なのは「情報を正しく読み解く力」であり、この手の悪質な「まとめサイト」に騙されない賢さです。そして、インターネットに習熟する人が増えれば増えるほどに、こうした悪質な「まとめサイト」は自然淘汰されると信じたいと思う次第です。