韓国紙「地雷だらけの世界経済」と指摘も処方箋はなし

先日までに当ウェブサイトでは、韓国の保守系メディアに順繰りに掲載された「韓国企業の資金不足」とする話題を取り上げたのですが、ついには「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)にも、韓国経済の危機的状況を取り上げた記事が掲載されいました。ただ、この記事も同様、韓国がとるべき進路は明確には示されていません。

金利市場も需給で決まる

昨日の『韓国経済を麻痺させる物価・金利・ドル「3高」の脅威』などでも報告してきたとおり、現在、私たちの隣国・韓国の金融市場の、とくに金利市場と通貨市場の動きがきな臭くなってきました。

「きな臭い」というのは、韓国国内で現在、資金供給が目詰まりを発生させている可能性がある、という意味です。韓国における基準金利、すなわちオーバーナイト(O/N)金利や韓国国債利回りが年初来、パラレルに2%ポイント前後上昇していることが、そのなによりの証拠です。

このあたり、「金利市場」などといわれると、「なんだか難しい」と思ってしまう人も多いのですが、基本的にはまったく難しい話ではありません。

経済学では「ものごとはすべて需給の関係で決まる」といわれます。需要が供給に対して多ければ値段が上がり、需要が供給に対して少なければ値段が下がる、という、古典的な経済学でも用いられる考え方が、それです(※「値段がすべて需給で決まる」という考え方には批判もありますが、その論点は本稿では割愛します)。

おカネ(資金)の市場も、これとまったく同じです。

おカネを「借りたい」と思う人が「貸したい」と思う人よりも少なければ、おカネを借りるための値段(=金利)は下がりますし、逆におカネを「借りたい」と思う人が「貸したい」と思う人よりも多くなれば、おカネを借りるための値段である金利は上昇します。

つまり、O/Nや債券利回りは資金市場における需給状況を示していると考えて良いでしょう(※フィクストインカムの世界からすれば、この説明は若干雑なのですが、とりあえず議論を先に進めましょう)。

保守系メディアが続々と懸念を表明

とくに中央銀行である韓国銀行が金利を引き上げたり、資金を市場から回収したりすれば、人々はおカネを借りるのが難しくなり、場合によってはおカネが借りられずに「黒字倒産」する、といった事例も出てきます。先日から当ウェブサイトにて取り上げている次のような事例も、それらの兆候なのかもしれません。

これらは韓国を代表する「保守系」とされるメディア『朝鮮日報』、『中央日報』、『東亜日報』が順繰りに韓国の資金市場の危機について触れたものです。

(※なお、『韓国債券市場で「利回り急騰」が意味する金融ショック』では、当ウェブサイトなりに分析した韓国の市場のイールドカーブなどについても解説していますので、これらと併せてご参照ください)。

それだけ韓国の資金市場は逼迫している、ということです。

通貨市場との関係は?

これに加え、現在の韓国の市場を複雑化させている事情がもうひとつあるとしたら、それは通貨市場にあります。

通常の先進国の場合だと、自国通貨の為替相場については、第一義的には政策目標から外されています。通貨の急落が報じられている日本や英国がその典型例です。

しかし、韓国の場合は「資本移動の自由」、「金融政策の独立」という2つの政策命題を追求したままで、もうひとつの政策命題である「為替相場の安定」をも追及しているフシがあります。これが韓国銀行による、いわゆる「スムージング・オペ」です。

韓国銀行はこのオペを通じ、おそらくこの1年以上は自国通貨高を抑制するためのオペ(自国通貨買い、外国通貨売り)を実行しているものと考えられ、実際、外貨準備高についても最近、急激に減りつつあります(韓国の外貨準備については、早ければ一両日中にも発表されることと思います)。

このため、通貨安を防ぐための為替介入を行えば、外貨準備と市場のウォン供給量が同時に減ってしまいます。なぜなら、為替介入は外貨を市場に放出し、マネーを中央銀行が買い入れてしまう、というオペレーションだからです。

また、外貨準備を為替介入で溶かし続けていると、やがていざというときのバックストップが失われ、本当に外貨流出が始まったときに、それを止めるすべがなくなってしまいます。こうした状況を放置すれば、通貨危機に発展するおそれもあります。

こうした事態が発生した場合、韓国が通貨危機を防ぐためには金利をうんと引き上げる、といった措置が必要になりますが(ちょうど今年3月にロシア中央銀行が金利を9.5%から20%に引き上げたようなものでしょう)、それをやると、資金市場の目詰まりが一気に表面化し、企業がバタバタと倒産してしまいかねません。

だからこそ、韓国が現在、「金利を引き上げずに通貨防衛をする手段」として、日本を含めた諸外国に秋波を送っているのが通貨スワップなのでしょう(※もっとも、少なくとも今後1000年以内に日本が韓国と通貨スワップを締結する可能性は非常に低いとは考えられますが…)。

ハンギョレ新聞「世界経済至るところ地雷だらけ」

こうしたなか、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)には今朝、こんな記事も掲載されていました。

世界経済のいたるところに地雷だらけ…韓国の景気回復、「L字型」になるか

―――2022-10-04 07:29付 ハンギョレ新聞日本語版より

内容としては、「米国がインフレとの闘いに本腰を入れるなか、金融引締めは長期化する」、「依存度が高い中国経済の低迷は韓国にとっての『二重苦』をもたらす」、「欧州における『ガス争奪戦』の火の粉が降りかかる」という状況のなか、「当局は通貨・金融の最適政策を展開すべき」、とするものです。

ハンギョレ新聞に限らないのですが、この手の「現状が非常に厳しい」という認識を示しつつも、「当局は最適の政策を」と要求する記事を読んでいて抱く違和感は、なんといってもその具体的な提案が欠落しているという点にあります。

ハンギョレ新聞はこう述べます。

米国の攻撃的な金融引き締め、中国の急激な景気減速、欧州のエネルギー危機という3方向から立ち込めてきた暗雲に、韓国経済の先行きは一層見通しの立たない困難な状況に陥っている」。

経済アナリストの間で『来年国内外の景気低迷への進入』は避けられない条件として受け止められている中で、韓国政府と当局が急激な景気萎縮を防ぐために最適の通貨・金融政策の組合せを展開できるかがカギになるとみられる」。

この点、正直、韓国経済が直面しているリスクは、「景気減速」どころの騒ぎではありません。

先ほども振り返ったとおり、資金市場の目詰まりで優良企業ですら資金繰り難に直面する可能性がある、というものです(しかも、韓国の企業は外貨への依存度が高いため、ウォン資金だけでなく外貨(ドル資金)が取れなくなれば、ますます資金繰り破綻のリスクが高まります)。

ただ、ハンギョレ新聞の「現状認識」自体は、さほど現実から外れているわけでもありません。とりわけ外貨資金繰りに関するこんな記述がそうでしょう。

米国の金融引き締めが長引くほど、韓国はさまざまな危険に同時に直面しなければならない。<中略>『強いドル』のため、短期外債の支払い負担が増える状況も無視できない危険要因だ」。

外国為替当局は金融機関などがドルの調達に深刻な困難を経験する『ドル流動性の梗塞』の発生兆候を深刻に懸念し、備えているものとみられる」。

この認識自体は、適切なものでしょう。

だが処方箋はない

これに加えてハンギョレ新聞は、秋慶鎬(しゅう・けいこう)副首相兼企画財政部長官は先日、韓国が第二の通貨危機に見舞われる可能性は「極めて低い」と述べたこと(『韓国経済を麻痺させる物価・金利・ドル「3高」の脅威』)に関し、こう指摘します。

いつになく多様な問題が敏感に相互作用しているため、韓国経済が一時的な景気低迷を越えて危機に陥るのではないかという懸念が高まっているのも事実だ」。

…。

なかなかに進行な状況ですね。

ではいったいどうすれば良いのでしょうか。

残念ながら、その「どうすれば良い」については、このハンギョレ新聞の記事にも答えは見当たりません。

マクロ経済学的には、「ゾンビ企業を整理して民需バブルを調整する」のが正解だと思われますが、これを「ソフトランディング」で実行するためには、日本などに日韓通貨スワップなどを結んでもらい、通貨危機を防ぎながら利上げを抑制し、その間に迅速に、政策主導で債務整理を進める必要があります。

ただし、これには高いハードルが2つあります。そもそも日本や米国が通貨スワップや為替スワップを含めた金融協力に応じる可能性が極めて低いことと、現在の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権にそのリーダーシップをとることができるかどうかが疑問であることです。

もしも通貨危機を防ぐための高金利政策を韓国銀行が採用すれば、ゾンビ企業だけでなく優良企業まで淘汰されるという「ハードランディング」は避けられませんし、ハンドリングを間違えれば金融危機一直線です。

その一方で、思い切って低金利政策で金融危機回避とソフトランディングを目指すのならば、その場合、通貨危機が手ぐすね引いて待っている、というわけです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. G より:

    今までアジア通貨危機もリーマンショックもなぜ耐えることが出来たか。韓国がまだ途上国扱いだったため助けてくれるところがあったから。お小言たくさん貰ってキレてたけど、指導してもらえただけありがたい話だったんですよね。

    今の韓国を助けるところはない、IMFとかの中立的なところも含めてね。もう一人前の韓国をおせっかいするわけにもイカンし、そもそも大き過ぎて助けきれない。日本にしてみればライバルを助けるほどの余裕はないし、彼らに頼る部分も幸いにほとんどない。

    あ〜IMFウザいなあとか韓国思ってるだろうけど韓国にとって最悪な方向で予想が外れそう。

    まあ、弱るだけ弱ったところで中国に掻っ攫われるんだとおもう。

  2. より:

    韓国通貨当局は、今年の4-6月に154億ドルを売り越したそうです。

    https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/10/03/2022100381157.html

    日本円に換算すると約3兆円なので、先の日銀による市場介入規模と同程度の規模とも言えますし、3か月にわたってダラダラと介入し続けたんかいという見方もできるでしょう。とは言え、この数字はあくまでも4-6月のものであり、ウォン安がさらに加速した7-9月はもっと介入規模が大きくなったであろうと推定されます。
    介入資金がすべて外貨準備からとは限らないかもしれませんが、この調子で市場介入を続けていると、来春過ぎくらいには外貨準備の”真水”が枯渇してしまうかもしれません。はたして尹錫悦政権はそれまでに有効な対策を打てるでしょうか。

    大幅な利上げという国民にかなりの痛みを伴う政策を断行すればロウソク祭り一直線ですし、恥も外聞もなく日米などに土下座して支援を乞うなどという真似をすれば……あれ、これまたロウソク祭り一直線ですわな。現在の世界情勢に大きな変化がなければという前提付きですが、もしかすると来年の夏前には大きなお祭りが隣国で開催されるかもしれませんね。

    なお、岸田総理&林外相が勝手に腰砕けになり、頼まれもしない支援を隣国に送るに違いないという見方は採りません。そのように主張される方は、そう考えるに足ると思われる根拠をどうぞお示しください。私も今のところ絶対にないと断言するだけの根拠は特に持ってませんので、ぜひ参考にさせていただければと思います。

    1. 匿名 より:

      最も理性的なコメントの一つ

    2. 匿名 より:

      最後のところ、同意する。
      腰砕けなのは事実であるが、それゆえにそっち方面の決断を取ることも無理でしょう
      岸田も尹も本当に見届けるだけしかできない程度の器です

    3. BOOK より:

      >そう考えるに足ると思われる根拠

      伊政権がロウソク倒れし再び左派政権になる意味は、南朝が再び実質的に北朝・支那翼下に入ることでしょう。この場合、

      支那の台湾侵略タイミングに併せ、南北朝が日本をミサイル攻撃する「2面作戦」を取られれば日米は非常に苦しい。

      せめて日本の「敵基地攻撃能力」の整備が成るまで、タテマエの上でも隣国は親米状態を維持してもらう時間が必要。

      隣国支援でなく、隣国保守政権支援なら理由はありえると考えます。

      1. BOOK より:

        補足ですが、

         新宿会計士さんの日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」以外に韓国は非常識な4つ目の選択肢「力による解決」を狙っているフシがあります。 そもそも韓国の軍事費は北朝鮮のGDPをも上回っており、対北と言うには過剰軍備も良いところで、仮想敵国は日本であることは明白と個人的には考えます。

      2. より:

        現状で日本が韓国を支援する可能性があるとすれば、アメリカが「強い要請」をしてきた場合にほぼ限定されるのではないかと考えます。その場合、日本としては完全に拒絶するわけにもいかず、不承不承ながらある程度の支援を実施せざるを得ないでしょう。
        尹錫悦政権については、日本から見れば「前政権ほど非常識ではないが、それ以上の期待はできない」くらいでしょうが、アメリカから見ると、「左派政権よりはマシである。でも、対中国ということでアテになるようになったかというと、さぁて、どうだろうねえ」くらいであるように見えます。現在のアメリカ外交にとって、朝鮮半島問題の優先順位はそれほど高くないように見えますので、日本に対してあえて「強い要請」をしてくるかどうかはちょっと疑問です。

        また、仰るように、韓国軍が日本を仮想敵国に設定していることは明白です。北朝鮮相手ならば、F15どころかF16でも十分なのに、わざわざF35Aを導入してみたり、強襲揚陸艦はまだしもですが、空母を作りたがってみたりなど、どう考えても北朝鮮に向けたものではありません。
        なにしろ、不思議なことに、多くの韓国人は、いつか必ず日本が攻めてくると固く信じています。日本から見れば、朝鮮半島の土地などには一文の価値もありませんが、そのような指摘をしても、「いや、日本人には”侵略”の遺伝子が受け継がれている」とまで言い出します(苦笑)。「”大陸への渇仰”から、隙あらば必ず朝鮮半島侵略を目論むに違いない」というわけです。なので、韓国軍の対日戦を見据えた増強は、いつか必ず侵略してくるに違いない日本を迎え撃つためというのが、韓国軍当局による国民への説明になっています。
        以上から考えて、韓国が「力による解決」をどこまで視野に入れているかはちょっと疑問です。ただし、韓国の一部には「日本と戦争して勝つ」ことを夢見、悲願としている勢力は間違いなく存在しますし、これまた少なからぬ韓国人が悲願としている核兵器保有が実現したら、高い確率で「力による恫喝」をしてくるだろうと思われます。「どうだ、日本よ、核が怖いか?ならば頭を下げろ」というわけです。

        いずれにしても、ご指摘の通り、敵基地攻撃能力の整備は急務であると思います。それ以外でも、弾薬備蓄の増強や掩体壕建設など、するべきことはたくさんあります。予算を1兆円増やした位ではどうにもなりません。5年などと言わず、なるべく早期に対GDP比2%の実現が望まれます。

  3. カズ より:

    通貨危機と金融危機の回避

    政策金利を高く、市中金利を据え置いて乗り切ろう!
    既存の企業・家計借入金を立法措置にて変動金利から固定金利へと強制転換すればいい。
    痛トラックの歪みは、政府が甘んじて負うべきです。
    権力の大きさは”責任の大きさ”に比例するものです。

    外貨を売ってウォンを買い→自国債・株式・不動産を買い支えウォンを市場へ。
    茨の道に立向かえ!! 最後のロウソクの灯(外貨)が燃え尽きるその日まで・・。

  4. 匿名大学生 より:

    中央日報やハンギョレなどは専門用語で書いているのですが、個人的には韓国銀行や韓国経済、韓国政策当局のcredibility(信認、信頼性)が低いということによる結果に見えます。根本的には「いかに信認、信頼性を回復/少なくとも維持していくのか」を議論したほうが良いのではないかと思います。

    特に今までの政策的対応や規制対応が他国から見て変だと思われることが多かったうえに、今は米国にとって北朝鮮に対する政策的重要性が減退し、中国経済の従属変数となったことで、助言を得られないほどに見捨てられている可能性が高いと思っています。

    関係者ではないので内部事情は分からないですが…

  5. コジna より:

    ダメージコントロールとしては国内の土地不動産バブル・個人負債バブルを維持し、
    信用収縮を防止するために激しい通貨安を容認にする他ないと思います。
    しかしそれも資本逃避や輸入インフレにつながり最終的に国家的危機の状況を迎えるだけです。
    僅かなタイムラグに世界経済が好転すると言うシナリオに賭けるだけでしょう、厳しいですね。

    昨日3日付けでFRBの緊急非公開会合が実施されたようです。
    株式は大きく反発しました、市場はロシアとの核戦争を視野に入れてFRBの金融引き締めが
    先送り・緩和されると予想したのでしょうか、まだ正確なことは分かりません。
    FRBの最も重要な任務は失業率とCPIを抑えることですから、
    個人的には方針転換については慎重な見方をしていますが・・・。

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