「韓国はインド太平洋の戦略的役割を拡大へ」=韓国紙
韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に今朝、「米中のはざまに置かれた韓国の進むべき道」と称し、「韓国はインド太平洋における戦略的役割を拡大するだろう」と主張する寄稿記事が掲載されていました。記事の前半部分に関しては、韓国が「自由でルールベースの国際社会」において存在感を示せないでいる現状を正確に示しているのですが、後半についてはおそろしいほど議論の飛躍が見られます。
目次
日韓諸懸案は解決する必要があるのか
先日の『韓国紙、輸出規制とノージャパンで日韓双方に反省要求』を含め、当ウェブサイトでしばしば取り上げるのが、「そもそも日韓諸懸案とは解決する必要があるのかどうか」、という論点です。
このあたり、原理原則だけで述べるのであれば、「日韓関係の破綻」は、可能な限り回避すべきです。日本の産業にとっては韓国との関係は重要ですし、また、外交・安全保障面においても、日韓・日米韓の協力は「とても大切」だからです(いちおう、「とても大切」と申し上げておきたいと思います)。
なにより、韓国は日本にとって非常に近い場所にある隣国であり、このような国が日本の敵対国になってしまうと日本の安全保障にも大きな影響が生じてきます。「日韓関係の破綻」が何を意味するかは定かではないにせよ、一般論として申し上げるなら、関係の破綻は避けられた方が良いはずでしょう。
ただ、それと同時に、著者自身がこれまで当ウェブサイトで申し上げてきたことは、自分のなかでは一貫しているつもりです。それは、「日韓関係の破綻を回避すること」自体が目的になってしまってはならない、という点です。
もちろん、日韓関係が「大切なのか、大切ではないのか」、などと問われれば、「大切」なのは当たり前の話です。
ただ、日韓関係以上に大切なのは、日本の国益です。日韓関係の破綻を回避することを優先するあまり、日本が国として絶対に譲ってはならない原理原則を韓国に対して譲歩するようなことがあってはなりません。
このあたりの議論をはき違えている論者が、日本には多すぎる気がします。
「日韓関係」と「国際法」なら重視すべきは「国際法」
たとえば、自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題、竹島領有権問題などの日韓諸懸案の多くは、そのほとんどが韓国によるウソ・捏造を伴った「法的根拠のない謝罪・賠償要求」で構成されています。
そして、一部のメディアは「日韓関係の破綻を回避するため」と称し、こうしたウソ・捏造に毅然と反論しないばかりか、法的根拠のない謝罪や賠償に応じろ、などと主張しているのです。本当に呆れて物も言えません。
当たり前の話ですが、外国からの法的根拠がない謝罪や賠償の要求に日本が応じてしまうと、日本自身が法的な権益を放棄してしまうことになる、という問題が発生するだけではありません。「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を推進するという日本政府自身の立場と矛盾してしまうのです。
いわば、「日韓関係の破綻の回避」と「国際法の原理原則の遵守」という2つの矛盾する命題に直面しているのが、現在の日本、というわけであり、この2つのどちらかを諦めなければならないのだとすれば、日本は間違いなく、「国際法」を優先すべきだ、というのが当ウェブサイトにおける一貫した主張です。
日本政府は着実にFOIPを推進しつつある
ただ、当ウェブサイトの読者の皆さまからは、ときどき、「日本政府は何をやっているのか」、「さっさと日韓断交を決めるべきだ」、などとする意見をいただくこともあるのですが、「気に入らないから日韓断交」、という短絡的な発想が許されるほど、国際社会は甘いものでもありません。
もちろん、著者自身も、日本政府や日本の国会議員にはできることがもっとあるのに、それらの努力を尽くしていないのではないか、といった不満があることは事実です。
しかし、日本政府が故・安倍晋三総理の置き土産でもある「FOIP」を推進し始めているという点については、非常に高く評価して良いでしょう。
このFOIPは、いわば麻生太郎総理の「自由と繁栄の弧」構想などを下敷きに安倍総理が提唱し、菅義偉総理が日本の外交に組み込んだものです(『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』等参照)ので、100%、安倍総理「だけ」の成果、というものではありません。
ただ、麻生、安倍、菅の3総理の「合作」でもあるためでしょうか、この流れは宏池会の岸田文雄・現首相や林芳正・現外相らの政治力だと、すでに覆すことはできません。自民党の多数からも、国際社会からも支持されている考え方だからです。
このあたり、FOIPの本質を一言で示すのは難しいのですが、その最大の目的のひとつが、中国が提唱する「一帯一路」構想への牽制にあることは間違いありません。「インド洋と太平洋という2つの大洋に跨る自由で開かれた空間を作る」というのは、まさに中国の一帯一路という覇権主義に対抗する構想でもあるからです。
ただ、著者自身はこれに加え、FOIPには結果的に「韓国外し」という効果があると考えています。
日本はこのFOIPに強くコミットしている諸国のなかで、とりわけインドと豪州を引き込み、「日米豪印クアッド」を構成しました。これは安倍総理の最大の功績のひとつでしょう。そして、「日米豪印クアッド」に韓国が入り込む余地はありません。
これに加え、安倍政権時代に発足したCPTPPでは、日本、豪州、シンガポール、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランドなどの合計11ヵ国が参加していますが(米国が抜けたほか、批准が完了していない国もあります)、この11ヵ国に韓国の名前はありません。
つまり、クアッド、CPTPPは、いずれも安倍政権以降の日本が米国との関係を主軸に置きつつも、「日米豪印」「日米英」「日米台」「日米豪」といった多国間の枠組み(※CPTPPは米国抜きですが…)を志向するものでもあるのです。
つまり、日本政府は形の上では「日韓・日米韓連携は大切だ」、などと言いながらも、現実には安倍政権以降の10年間、「韓国がなくても大丈夫な国造り」を着実に進めてきたのであり、その意味では、日本が米国の圧力に屈して2015年の慰安婦合意のようなものを結ばされる、というリスクは、急低下しているのでしょう。
朝鮮日報「米中のはざまに置かれた韓国が進むべき道」
このような日本の態度の変化が伺えるきっかけがあるとしたら、じつは日本のメディアの報道だけとは限りません。
韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていたのです。
【寄稿】米中のはざまに置かれた韓国が進むべき道
―――2022/09/12 06:01付 朝鮮日報日本語版より
(※朝鮮日報の場合、記事が公表されてから数日が経過すると読めなくなるようですので、もし実際に内容を確認するのであれば、お早めにお願いします。)
この記事、タイトルに「寄稿」とありますが、ブルッキングス研究所韓国フェローの方が執筆したものだそうです。
記事冒頭では、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の外交政策が「前政権と比べて本当に変わったか、疑念が浮上し始めている」との指摘がある、と記載されています。
というのも、これは8月初頭にナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を経て韓国に到着した際、「韓国政府関係者が誰も空港に出迎えに行かなかった」」ため、「『ペロシ議長に対する侮辱ではないか』との指摘が相次いだ」、というのです。
そのうえ、そのわずか数日後には朴振(ぼく・しん)外交部長官が中国で王毅(おう・き)外相と会談したのですが、著者の方は次のように述べます。
「これも『中国との対立を避けるため中国をなだめようとした』との見方が出ている」。
このあたり、『鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』でも触れたとおり、普段から韓国観察者の鈴置高史氏の論考を読んでいる立場からすれば、「何を今さら…」、という気がしないではありません。
ただ、米国在住の方からこのような論考が出てくること自体、鈴置氏の指摘がただしいという間接的な証拠でもあります。
そのうえで、朝鮮日報の寄稿記事では、著者の方は次のように指摘します。
「米国の同盟国の中で韓国は最近までインド・太平洋地域を巡る問題で比較的沈黙を守ってきた。尹錫悦政権は世界の主要国になる考えを繰り返し表明しているが、韓国の役割に対する疑問は今も残っている」。
これには、たとえば次のようなことが含まれます。
- 日本の外務省が外交青書で「インド・太平洋地域で協力する域外の国」に英独仏などを挙げたにもかかわらず、韓国の名前がなかったこと
- ASEAN研究センターが実施した調査で「強力かつ確実なリーダーシップを持ち、ルールに基づく秩序を維持している国はどこか」との質問項目で、韓国が10ヵ国中9位にとどまったこと
ここまでの指摘は、まったくその通りでしょう。
途中からおかしくなる議論
ただ、リンク先の記事の議論は、途中からおかしくなります。「韓国はインド・太平洋地域で戦略的役割を拡大する」、などといきなり主張し始めるからです。
「しかし韓国国内での障害や中国の圧力があったとしても、韓国はやはりインド・太平洋地域で戦略的役割を拡大するとみられる」。
ではなぜ、韓国のインド太平洋地域における戦略的役割が拡大するといえるのでしょうか。
著者の方によると、これには4つの理由があるのだそうです。
- ①韓国は独自のインド・太平洋戦略を持っており、年末にはこれを発表する予定だから
- ②韓国と日本が関係改善と韓米日3ヵ国協力強化に向け少しずつ前進しているから
- ③韓国は米国主導のIPEFへの加入をすでに決めており、CHIP4にも加わりそうだから
- ④「THAAD配備制限で合意した」とする中国の主張に韓国が即座に鋭く反論したから
…。
いったいぜんたい、どうしてそういう議論になってしまうのでしょうか?
議論の前半までが、情勢を比較的正確に把握していると思われただけに、後半のこの4点は、議論の飛躍も良いところです。
そもそも「韓国が独自のインド太平洋戦略を持っている」からといって、それが我々西側諸国の目指すものと合致しているという保証はありませんし、韓国自身がFOIPやCHIP4に参加してきた結果、それらの目指すところが骨抜きにされてしまうのであれば、そもそも韓国の参加を認めるべきではないかもしれません。
また、この著者の方が述べる「日韓関係改善」に具体的なものがまったくありませんが、韓国は自称元徴用工問題ひとつ満足な解決策を示せずにいますし、「THAAD配備合意への中国への反論」も、「言っただけ」では意味がありません。
というよりも、朝鮮日報のこの記事を読むと、韓国がますます自由・民主主義社会から離れようとしているという様子が却って浮き彫りになってしまいます。
いずれにせよ、私たち日本人としては、いい加減、「隣国が日本と同じ価値を共有してくれている」という幻想からは脱却すべきでしょうし、もう少しリアルな国際社会の現実を見るべきなのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
もうり地域は民主主義国家陣営の括りからパージするべき時に来ていますね。
中露や北の言いなりでアカ化まっしぐらですし。
色々な国際的な枠組みに参加させろとしゃしゃり出てくる癖に、ルールは一切遵守しようとしないのだからそんな寄生虫にも劣る連中など必要ありません。
安倍さんは谷内さんという優れた外交ブレーンを選んだということではないか。
鳩山由紀夫の外交ブレーンは寺島実郎だったらしい。就任早々「東アジア共同体」構想で失笑を買い「最低でも県外」で退陣。
ブレーンって重要だね。
岸田さんの「新しい資本主義」はだれの入れ知恵だ?
正しくは、
「韓国はインド・太平洋地域で〔対中宥和のための〕戦略的役割を拡大する」
・・ですよね。
韓国が現政権でどの様に主張し約束ようが、次期政権で転換する可能性があります。
まともに相手をするだけ無駄なので、適当に付き合うのが宜しいかと。
ようやく米国も気がつき始めたのか分かりませんが、韓国の主張には耳を傾けるだけで、後は適当に放置が正解なようです。
催促打診されても「検討している」と返答し放置です。
韓国の経済構造上、日米中から離れられないので、対中戦略の取り組みにコミットできず、逆に抜け穴として中国に利用されるだけです。
経済安保で何もできない韓国は FOIP でも何もできないでしょうね。
また、門前払いで終わりそうな気がします。
>そもそも「韓国が独自のインド太平洋戦略を持っている」からといって、それが我々西側諸国の目指すものと合致しているという保証はありませんし
新宿会計士様のこの指摘で終わってるような気がするのです♪
ちなみに、あたしは、韓国の戦略って「米中どっちにもうまいこと取り入って、その場限りの利益を追求する」以上のことは、ないと思うのです♪
ホンネのとこでは、「地域の望ましいあり方は、各国が地域の大国である中国に従って、中国が権威を持って統制するような状態になること」「法に基づく支配なんて、欧米の自分勝手がまかりとおるだけで、真っ平ゴメン」とでも思ってるかもだけど、流石にそこまでははっちゃけないと思うのです♪
南国のインド太平洋の戦略的拡大とは
宗主国中共様のお手伝いをするという意味ですね。
それ以外で、南国が関れる事はありません。
chip4?
今日のこの記事は、素晴らしいです。
今までの論稿の総まとめで、文章もシャープで、文意がスイスイ頭の中に入って来ます。
今後の日本の防衛外交政策も固まったようで安心しました。
安倍元首相の功績は大きい。この功績に於いて国葬は正しいです。
こういう流れや歴史的地政的に日本の置かれた位置を、全く理解と言うか、そういう事に関心のかけらも無い人達がいて、さも自分達が正しいと騒ぐ事が、日本の最大のリスクです。
>いったいぜんたい、どうしてそういう議論になってしまうのでしょうか?
FOIPやChip4を骨抜きにするのが韓国の国益の最大化になるからでは?
米中等距離外交を続ける為には、それらはとても邪魔でしょうから。
> FOIPやChip4を骨抜きにするのが韓国の国益の最大化になる
米国債を売りたいと口走った橋本龍太郎とか、ロックフェラーセンターを買収して有頂天になっていた三菱地所の社長の様に、自分の拠って立つ足元の構造がどのようになっているか考えたことも無い”条約・合意を守らない、嘘つき、コソ泥推奨”国はそう考えるのでしょうね。
サハリン1,2を見るにつけ、日本が世界一の債権国と言っても、それを踏み倒されたら、今の日本だけの力では紙くずであると判っている人はどれだけいるか心配になることがあります。軍事力も不足しているが、その前の法律戦にもう少し力を入れるべきと思う。
米中に挟まれた狭間の世界の国の社説は現実(現状の認識)と夢(願望)が入り乱れて支離滅裂な内容になってます。
我々からは見えないがデスタムーア(中国)とダークドレアム(アメリカ)から受ける圧力はそれほど半端ないのかもしれない。
2人の間を行き来する哀れなジャミラス(韓国)と言ったところでしょう。欲望の町ならぬ欲望の国の絶望と希望の社説です。最近の朝鮮日報には軽く悲壮感が漂ってます。
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。
①韓国は独自のインド・太平洋戦略を持っており、年末にはこれを発表する予定だから
素晴らしい!!
でこの素晴らしい「国家戦略」政策は政権が代わっても継続する保証が左右含めてコンセンサスとして南朝鮮全員で共有しているのでしょうか(笑)。
絶対に保持できません。
廃棄期限最大4年ちょいしかない「外交政策」での取り決めを相手が「永遠に」約束を果たす義務付けられるのは
ちゃんちゃらおかしいですね(笑)。
日本に村山富市と言う名ばかり総理がいました。
日本社会党とその後継を消滅させた原因ですが、党の基本政策と反する日本の状況を「国家統治の継続性を優先」して党の基本政策を徹底的に軽視した政治家です。
これは党の指導者としては「ゼロどころかもの凄いマイナス」ですが、日本の指導者としては「赤点取らないギリギリのライン」なのです。
もちろん日本社会党の支持者はそれを理解できませんでした(笑)
なお、日本で災害等による非常時に官邸が柔軟に対応出来るのは彼が阪神淡路大震災時の対応体制不足を整備したからですけどね。
自分の支持者と国際社会の韓国を天秤にかけて「迷い無く自国の政策継続性を採る」普通の事が出来る「政治家を国民が出せない」ならばシステム的に「その住人は主権国家を運営する資格が無い」と思うのです。
資格不足の人間の群れが主権国家の名で周りを振り回す。
国際社会はこの根本原因に目を向けて適切な解決策を検討する必要があるのではないかと思います。
以上です。駄文失礼しました。