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徴用工日韓協議が平行線でもまったく問題ない理由とは

昨日、日韓の外交当局者は自称元徴用工問題で「協議」を行ったのですが、これについてはまったくの平行線でした。ただ、これは悪い話では愛rません。日韓関係は表面上、「諸懸案の解決のためにお互いに意思疎通を重ねる」としつつも、実質面では徐々に日本が韓国から「足抜け」し、関係が薄まっていく方向にあるからです。このように考えると、諸懸案については無理に解決を図らず、大きな問題にならない程度に「放置する」というのが、実は最も合理的なシナリオでもあります。

日韓関係の見通し

「日韓友好は何が何でも大事!」というあなたに…

昨日は自称元徴用工問題を巡る日韓協議が行われました。

これについては日韓双方の外交当局がその概要を発表しています。

日韓局長協議の開催(結果)

―――2022/08/26付 外務省HPより

韓日局長協議(8.26)開催結果【※韓国語】

―――2022/08/26付 韓国政府外交部HPより

ただ、この内容については本稿の後半で確認するとして、とりあえず確認しておきたいのが、そもそも現在の日韓関係自体、国際社会の環境に照らし、「どういう状況になっているか」、という論点です。

とりわけ、当ウェブサイトでもこれまでさんざん取り上げてきた、日韓諸懸案のうちの「一丁目一番地」である自称元徴用工問題に人々の関心が高まっているのですが、これについて昨日の『そもそも日本にとって徴用工問題「解決」は必要なのか』では、少し踏み込んで、こんな趣旨のことを申し上げました。

極端な話、自称元徴用工問題は未解決のままで放置しておいて良いのではないか」。

本日東京で開かれる日韓の外務省局長級協議を前に、韓国メディアに自称元徴用工での「日本の誠意ある対応」を期待するかのような記事が掲載されていました。相変わらず意味がわかりません。日本としては極端な話、日韓関係の破綻はまったく恐れるに足りないからです。極端な話、自称元徴用工問題は未解決のままで放置しておいて良いのではないでしょうか。自称元徴用工問題の本質昭和30年代の在日朝鮮人のうち「徴用工は245人」当ウェブサイトではもう何十回、いや、何百回となく繰り返してきたとおり、自称元徴用工問題の本質について...
そもそも日本にとって徴用工問題「解決」は必要なのか - 新宿会計士の政治経済評論

こんなことを主張すると、「外交専門家」と名乗る人からは、「とんでもない!」「日韓関係の破綻など、絶対に避けなければならない」、などと強く批判されるかもしれません。

いわく、「韓国は地理的に日本に非常に近い。日本はいかなるコストを払っても、韓国を敵対国にしないように努力しなければならない」。

いわく、「韓国は軍事的に見て日本にとって重要だ。北朝鮮の核・ミサイル・日本人拉致事件などを解決するためにも、韓国の協力が必要だ」。

いわく、「韓国は日本にとって、貿易相手国としても重要だ。金融破綻を防ぐためには、日本は全力で支援しなければならない」。

酷いときには、「日韓は兄弟国だ」、「日本は韓国の兄貴分で、韓国ともしっかり連携し、見守り、指導するんだという大きな度量が必要だ」、などと言い出す人もいるほどです(『「日本は韓国の兄貴分」発言と過去の日韓関係の特殊性』等参照)。

自民党の衛藤征士郎・衆院議員が「日韓は兄弟国」、「日本は兄貴分だ」などと述べたとする話題が、波紋を広げているようです。日本社会では一般に「右派」と呼ばれる人たちからも、「左派」と呼ばれる人たちからも、一様に批判を浴びている一方で、韓国側からも批判が寄せられているようです。ただ、韓国側の批判の「ポイント」も、なんだか理解に苦しむものでもあります。衛藤元衆院副議長の「日本は韓国の兄貴分」発言日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が6月に上梓した『韓国民主政治の自壊』という書籍に、「韓国の...
「日本は韓国の兄貴分」発言と過去の日韓関係の特殊性 - 新宿会計士の政治経済評論

韓国は「あらゆるコストを払わねばならない相手国」なのか?

ただ、結論的にいえば、これらの主張はいずれも適切ではありません。

まず、韓国が地理的に日本に非常に近いことは事実であり(たとえば対馬から釜山まで、直線距離では最短で50㎞ほどしか離れていません)、もし韓国が名実ともに日本の「敵対国」となってしまえば、日本も防衛配備を再構築しなければならなくなるなど、さまざまな影響が生じることは間違いありません。

しかし、だからといって「あらゆるコストをかけてでも韓国を味方にしなければならない」、という発想にはつながりません。韓国を「味方にする」ためのコスト(経済的コスト、軍事的コスト、法的コスト、政治的コスト)が恩恵を上回る場合は、別の方法を考えなければならないからです。

また、経済的に韓国が日本にとって重要な相手国であることは否定できませんが、近年、日韓貿易が日本の貿易全体に占める割合は徐々に低下する傾向にあり、それに代わって台湾などの「友人」が重要なパートナーに浮上しつつあります。

さらには、これまで北朝鮮の日本人拉致事件を巡って、韓国が日本のために国際社会に対して何らかの働きかけをしてくれたという事実はありませんし、それどころか韓国も拉致事件の被害国であるにも関わらず、自国民の拉致被害者問題については忘れ去られているフシすらあります。

正直、韓国を「あらゆるコストをかけて日本の味方にしておく」ことのメリットは、世間で思われているほどには大きくないのです。

FOIPは韓国の必要性を薄めた

それどころか、日本は故・安倍晋三総理の「置き土産」である「自由で開かれたインド太平洋」(a Free and Open Indo-Pacific, FOIP)を全世界に提唱する立場となりました。

FOIPは自由、民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値をインド太平洋地域に確立しようとする壮大な構想であり、中国が提唱する「一帯一路構想」に対する事実上の牽制ですが、このFOIPの理念に賛同する国は、年々増えています。

というよりも、米国自身がドナルド・J・トランプ前大統領の時代にこのFOIPの概念を取り入れ、トランプ氏とは2020年の大統領選で戦った立場にあったジョー・バイデン氏でさえ、2021年の大統領就任以降、このFOIPの考え方をそのまま引き継ぎました。

いまやFOIPは「西側諸国」にとっての共通語となりつつあり、日本は現在、国を挙げて、そのFOIPに賛同する国との連携を強める方向にあります。

FOIPにとくに強く賛同する国は米国、豪州、インドの3ヵ国であり、日本とともに「クアッド」を構成していますが、それだけではありません。

多少の温度差はあるとはいえ、カナダ、英国、フランスなどの自由主義諸国は次々とFOIPに賛同していますし、東南アジア諸国連合(ASEAN)が掲げる「AOIP」の理念も、FOIPとの連携を意識したものであるとされています。

すなわち、FOIPの概念の登場は、日本にとっての韓国の相対的な重要性を低下させ、韓国の価値を薄めたのです。

「台湾」というもうひとつの要因

日本にとって、韓国の重要性を薄めている要因は、それだけではありません。

近年、最も大きな要因のひとつが、「台湾」です。

台湾については、日本政府自身は公式には「国」とは認めていませんが、外交青書上は「基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けられています。

この「基本的価値を共有」のくだりは、外交青書上、韓国や中国に関する説明では出てきません。このことから、現在の日本は事実上、米豪印3国やカナダ、英国、フランスなどの自由主義国、さらには台湾やASEAN諸国を「外交上で最も重要な国」に位置付けていることは明白であり、韓国はその中に入っていません。

実際、最近は貿易相手国としての韓国の重要性は相対的に低下し、これに代わって台湾の重要性が徐々に高まっています。

たとえば、昨年、すなわち2021年を通じた貿易相手国としては、台湾が韓国を上回って「3番目に重要な国」に浮上しています(『「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上』参照)。

2021年の貿易統計で、輸出、輸入ともに台湾が韓国を上回った結果、台湾が日本にとっての3番目の貿易相手国に浮上しました。外務省は昨年の『外交青書』で、台湾を「基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けています。そんな大切な友人である台湾との関係が深まることは、日本にとっても重要な意味があります。貿易高で台湾が3番目に浮上ついに貿易高で台湾が「3番目の相手国」に浮上しました。財務省税関が先週金曜日に公表した『普通貿易統計』によれば、日本...
「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上 - 新宿会計士の政治経済評論

また、今年に入ってから台湾は韓国に日本の輸出相手国としての地位の再逆転を許しましたが、それでも僅差が続いており、月によっては再び台湾が韓国を抜くことも増えています(『貿易統計で見る、日本にとっての「台湾・韓国の逆転」』等参照)。

資源国との貿易赤字が露骨に拡大:急がれる原発再稼働資源高・ドル高の影響もあってか、中国、豪州、サウジ、UAEなどとの間での貿易赤字が急拡大しています。財務省税関が昨日公表した2022年6月までの貿易統計を眺めていると、さまざまな示唆が得られることは間違いありません。とくに、基本的価値を共有する友人である台湾との貿易額が、韓国との貿易額と再び逆転したことは、非常に興味深い変化のひとつと言えるに違いないでしょう。相手国別貿易額(2022年6月)財務省税関は28日、2022年6月における貿易額を公表しています。...
貿易統計で見る、日本にとっての「台湾・韓国の逆転」 - 新宿会計士の政治経済評論

そんな台湾と韓国は、日本から見て、貿易上の輸出品目が似通っており、いずれの国も半導体製造装置などの生産措置や、半導体等電子部品といった中間素材など、「モノを作るためのモノ」が日本からの輸出金額の大半を占めています。

このことから、「ニッポン株式会社」が、とくにこの1~2年で、モノづくりのパートナーを、韓国から台湾へと徐々にシフトし始めていることは明らかでしょう。実際、日本にとっても法や約束を守らない韓国よりも、約束を誠実に履行してくれるという期待が強い台湾の方が、産業のサプライチェーンでは依存しやすいのです。

(ついでにいえば、金融の世界でも日本企業の「脱香港」「シンガポール・シフト」の動きが続いているのと似ています。日本の金融機関にとって、中国化が進む香港よりも、中立性が強いシンガポールの方が、「金融ハブ」としては好まれているのでしょう。)

韓国自身が西側から離れてゆく

韓国自身の要因についても無視できない

すなわち、日本の側でFOIPシフト、台湾シフトの動きが進んでいること自体、日本にとって韓国との関係を深める必要性を薄れさせているのですが、話はそこに留まりません。

韓国自身が日本との関係のみならず、米国との関係、あるいはほかの西側諸国との関係を損ね始めていることも、要因としては無視できません。

たとえば韓国観察者である鈴置高史氏が指摘するとおり、今月、韓国はせっかく自国を訪問したナンシー・ペロシ米下院議長を徹底的に冷遇するなどし、米国の怒りを買った、という事件がありました(『鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』等参照)。

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪韓を巡り、鈴置高史氏の待望の論考が出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領はペロシ氏との面談を「謝絶」したのですが、これが米国側の怒りを買う一方、中国からは「よくやった」と褒めそやされているのです。こうした議論を読んで改めて思い出すのは、鈴置氏の6月の新刊著『韓国民主政治の自壊』でも見られた、「自由・民主主義の価値を韓国は日本と共有していない」とする指摘です。「中韓連帯意識」を理解できない日本韓国観察者の鈴置高史氏といえば、今年6月に『韓国民主政治の自壊』...
鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」 - 新宿会計士の政治経済評論

これなど、じつは氷山の一角に過ぎません。

旭日旗ヘイトをはじめとする日本との度重なる不毛なコンフリクトも、いまや欧州の政界、スポーツ界などではすっかり有名になっています(これにはサッカーやオリンピックの試合などにおける旭日旗ヘイトに加え、韓国が主催した2018年の国際観艦式での旭日旗騒動も一躍買っているようです)。

また、それに、ロシアによるウクライナ侵攻という衝撃的な事件が発生するなか、西側諸国は自由・民主主義・法の支配・人権といった価値観で結束を強めているなかにも関わらず、韓国がロシアに対し強いメッセージを出すのに乗り気でないことに対しては、「本当に自由民主主義国なのか」という疑念を生み出しています。

そういえば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の議会演説では、国会議員が軒並み出席し、超満員となった日本のケースと対照的に、韓国では約300人の国会議員のうち、参加したのはたった50~60人ほどだったという事件もありました(『ウクライナ大統領演説に出席した議員は50人=韓国紙』等参照)。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が11日、韓国国会(定数300議席)で演説したところ、参加した議員が50人ほどだったという話題が出て来ました。これに関して韓国人が先月日本の国会で行われた演説と比較する写真をツイッターに投稿し、「我々は日本がアジアにおける民主主義の擁護者であることに文句を言う筋合いはない」と述べたのだそうです。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が韓国国会(定数300議席)で演説したところ、参加した議員が50人ほどだったという話題があります。個人的に、この話題につ...
ウクライナ大統領演説に出席した議員は50人=韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

なにより、ロシア・中国を中心とする「全体主義国家」と米国・欧州・日本を中心とする「西側諸国」が対決姿勢を強めるなかで、米中等距離外交に興じる韓国の行動は、遠く離れた欧州を含め、西側諸国全体に対しても不信感を与える程度には十分なのです。

「韓国は西側諸国なのか」と疑問をぶつける欧州専門家「韓国は本当に自らを西側国と考えているのか」。「韓国の本当の考えは何か」。これは、朝鮮日報のパリ特派員の方が、現地で欧州の国際政治アナリストらから投げられた質問だそうです。遠く離れた欧州においてさえ、韓国の「米中等距離外交」が知れ渡っている、という事実に驚きます。韓国が自国に脅威をもたらさない日本を挑発し、自国に脅威をもたらす中国や北朝鮮に立ち向かおうとしないというエドワード・ルトワック氏の10年以上前の指摘が、いまや欧州でも認識として一般化し...
韓国「米中等距離外交」が遠く離れた欧州でも知れ渡る - 新宿会計士の政治経済評論

日米韓すら怪しくなってきた

この点、現在の日本にとっての韓国は、「北朝鮮問題などにおける日米韓3ヵ国連携」という枠組みにおいては、依然として「協力する相手国」と位置付けられています。しかし、こうした状況を踏まえるなら、しかも、それすらも怪しくなりつつあります。

たとえば『韓国メディア「観艦式参加を検討:世論次第で取消も」』などでも紹介したとおり、日本の防衛省・自衛隊では、2018年12月に韓国が起こした火器管制レーダー照射事件に対する根強い不信感が残っており、現場レベルでの日韓防衛協力も滞っています。

海上自衛隊が11月に実施する予定の国際観艦式を巡り、韓国メディアは「韓国政府がイージス艦を派遣することを検討している」としつつも、韓国政府関係者が「世論が悪化すればいつでも(参加を)取り消すことができる」などとも述べた、と報じました。まったく予想どおりの反応です。2018年の韓国自身の言動と整合性を重視するか、米韓同盟を重視するか。すべては旭日旗問題を巡る「自家中毒」を、韓国自身が克服できるかどうかにかかっています。幕僚長「観艦式には招待したが2国間協力はまだ先」海上自衛隊が11月に相模湾で実施する...
韓国メディア「観艦式参加を検討:世論次第で取消も」 - 新宿会計士の政治経済評論

しかし、そもそも「ペロシ騒動」の件でも明らかになったとおり、米韓間での信頼関係も揺らいでいる状況にあります(正確にいえば、米国が韓国に不信感を抱いている状況です)。

そして、ウクライナ戦争の勃発は、ごく近い将来における、何らかの形での国際秩序の再編が不可避になったことを示唆しています。多くの国が、中国・ロシアなどの専制国家の側につくのか、それとも日米欧を中心とする自由・民主主義国家の側につくのか、選択を迫られるでしょう。

インドは伝統的に中露と近い立場にいますが、FOIPを通じて一気に西側諸国に引き寄せられました。逆に、伝統的に西側諸国に近い立場にあった韓国が、FOIPという「踏み絵」を拒否することで、一気に専制国家側に引き寄せられる可能性は濃厚です。

このように考えていくならば、「あらゆるコストを払ってでも韓国を日本の味方につけておく」という発想自体が、この「価値外交」の時代にはそぐわなくなっていることは明白でしょう。

日韓関係の急激な破綻は望ましくないが…

もちろん、当ウェブサイトとしても、日韓関係については無秩序な破綻は避け、関係が決定的に悪化しないように「マネージする」ことは必要だとは考えているのですが、日韓関係を「健全な関係」に戻すために、日本が必要以上のコストを負担すべきでもありません。

この点、日韓諸懸案の数々(図表)についても、「日韓関係を健全な関係に戻す」ためにはひとつひとつ丁寧に解決していく必要がありますが、「日韓関係を健全な関係に戻す」必要がないのであれば、ものによっては解決にこだわる必要もないのです。

図表 韓国の対日不法行為の一覧表(※引用・転載自由)

(【出所】著者作成)

いずれにせよ、こうした思考に立つならば、自称元徴用工問題という「局地的な問題」を巡っても、結局のところは日韓関係(というよりも韓国という国自体)が将来、どういう方向を目指しているかという力関係とは無関係ではいられません。

「平行線」の意味

昨日の日韓協議に関する「一次ソース」

こうした状況を確認したうえで、改めて指摘しておきたいのが、日韓外交協議という話題です。

そもそも日本にとって徴用工問題「解決」は必要なのか』で論じたとおり、日韓間で自称元徴用工問題を含めた諸懸案を「協議する」という動きは継続するでしょうし、それ自体は通常の外交上のやり取りの一環と見るべきですが、それと同時に問題が「解決」に向けて動き出す、ということは考え辛いところです。

こうしたなか、日本の船越健裕・外務省アジア大洋州局長は26日、訪日中の李相烈(り・そうれつ)韓国外交部アジア太平洋局長と局長協議を実施。これに関する日韓両国の外交当局からの発表が出てきました。

当ウェブサイトの予想通り、両国の主張は完全「平行線」でした。ここではまず、最も確実な情報源のひとつである「一次ソース」として、冒頭にも示した「日韓双方の外交当局が発表した内容」を確認しておきましょう。

日韓局長協議の開催(結果)

8月26日、船越健裕外務省アジア大洋州局長は、訪日中の李相烈(イ・サンヨル)韓国外交部アジア太平洋局長との間で、日韓局長協議を実施しました。

両局長は、旧朝鮮半島出身労働者問題を含む両国間の懸案や課題について議論を行いました。先方より、旧朝鮮半島出身労働者問題に関する韓国側の考え方について説明があり、これに対し、当方より、日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本側の一貫した立場に基づき韓国側に責任を持って対応するよう求めました。その上で、外交当局間の意思疎通を継続していくことで一致しました。

―――2022/08/26付 外務省HPより

韓日局長協議(8.26)開催結果【※韓国語】

イ・サンリョル外交部アジア太平洋長は8.26(金)午前、外務省で船越健裕アジア大洋主局長と韓日局長協議を行った。

今回の局長協議は、両国外交当局が懸案の合理的解決法模索のために持続してきたコミュニケーションの一環で、両局長は懸案及び相互関心事案について意見を交換した。

韓日関係の改善及び強制徴用問題に関する韓国側の努力を説明しながら、同問題解決のために日本側が誠意ある呼応を示す必要があることを改めて強調した。

これに船越局長は日本政府の立場を説明した。

両局長は、韓日関係の復元・改善のために外交当局間のコミュニケーションを持続することが重要であることに意見が一致し、今後も各レベルで緊密に疎通していくことにした。

―――2022/08/26付 韓国政府外交部HPより

日韓協議はまったく予想通りの「平行線」

…。

いかがでしょうか。

文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代の韓国政府の発表内容は、相手国(たとえば日本)の政府の発表内容と頻繁に齟齬を来していたのですが、今回の局長会合に関していえば、双方の発表内容にこれといった齟齬は生じていません。おそらく、今回に関しては、両国政府の発表内容をそのまま信じてよさそうです。

双方の発表内容でもわかるとおり、まず、韓国側は、「韓日関係の改善」や「強制徴用問題解決」に向けて「韓国側が努力していること」を説明したうえで、「問題を解決するためには日本が誠意ある対応を示す必要がある」と主張しています。

しかし、これに対し日本側は、「旧朝鮮半島出身労働者問題」の解決などを含め、「日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本側の一貫した立場に基づき韓国側に責任を持って対応すること」を要求した、というものです。

ことに、この「日韓関係を健全な関係に」という発言は、まさに故・安倍晋三総理の下で官房長官を務め、岸田文雄・現首相の前任者でもある菅義偉総理が一貫して述べていた考え方と、まったく同じものです。

また、両国の発表文の末尾にある「意思疎通を継続していく」などとするくだりについては、文在寅政権時代から存在したものであり、何ら新しいものではありません。外交においては、どれほど対立していたとしても、「意思疎通の努力」を続けること自体は大切です。このこと自体、何も不自然な表現ではありません。

永遠に実を結ばない努力

もっとも、その努力が実を結んでいるかどうかは、まったく別問題でしょう。

少なくとも現在の日本政府にとって、韓国に対して国際法の原理原則を捻じ曲げてでも譲歩するだけの必要性は薄れています。

もちろん、外務省内の「コリア・スクール」や国会の日韓議連関係者のように、「何としてでも韓国に譲歩すべし」と考えている者たちが存在することは間違いないのですが、どうやら船越局長自身は北米畑が長いようであり、「コリア・スクール」出身ではないようです。

このあたり、外務省が佐渡金山の世界遺産登録を巡って岸田首相にウソを吹き込んでいたというのは、コリア・ウォッチャー界隈では有名な話ですが(『ウソつき外務省:「佐渡金山登録で米韓との関係悪化」』等参照)、外務省も一枚岩ではないのでしょう。

「佐渡金山の世界遺産登録に動けば韓国や米国との関係が悪化する」。こういうウソを岸田首相に吹き込んでいたのは、やっぱり外務省だったようです。これは韓国観察者の鈴置高史氏が以前から指摘してきた問題点ですが、時事通信に今朝掲載された記事にも同じ趣旨の記載が含まれているのです。2022/07/29 17:46追記記事ジャンルが誤っていましたので修正しています。ウソつき外務省日本政府が佐渡金山の2023年におけるユネスコ世界文化遺産登録を断念したとする話題については、『佐渡金山世界遺産登録断念に「落胆」すべきでない理由』...
ウソつき外務省:「佐渡金山登録で米韓との関係悪化」 - 新宿会計士の政治経済評論

また、かつて日本は韓国を「防共の砦」として重要視しており、韓国社会にも日本統治時代を知る有力政治家らが多数存在していましたが、現在の韓国は「親日派排除」などの動きもあってか、日韓間の人的なパイプは細っています。

有力な「親韓派議員」だった河村建夫・前日韓議連幹事長が昨年の衆院選で事実上の引退に追い込まれたことも、こうした状況を象徴しています(もっとも、河村氏の後釜に座ったのが親中派の林芳正・現外相であるというのは、皮肉と言えば皮肉ですが…)。

いずれにせよ、韓国政府がいくら「自分たちも努力しているから、日本も誠意ある態度を取れ」と要求したとしても、今の日本にとり、それは「永遠に実を結ばない努力」です。

このまま放置?それとも…

では、自称元徴用工問題、最終的にはどうなってしまうのでしょうか。

普段から当ウェブサイトで申し上げてきたとおり、日韓諸懸案を巡る落としどころとして、考えられる選択肢は、次の3つです。

日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」
  • ①韓国が国際法や国際約束を誠実かつ完全に履行することで、日韓関係の破綻を回避する
  • ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することによって、日韓関係の破綻を回避する
  • ③韓国が国際法や国際約束を守らかったことの結果として、日韓関係が破綻する

(【出所】著者作成)

1番目は、韓国が国際法や国際約束を誠実かつ完全に履行するというものであり、日本にとっても韓国にとっても、これが最も良い選択肢であることは間違いありません。

実際、韓国がこの選択肢を取ることができるならば、日本に対してのみならず、日本以外の国に対しても信頼を取り戻すことができるでしょうし、韓国人のパリ特派員が欧州の専門家から「韓国は西側諸国なのか」と尋ねられ、肩身の狭い思いをする、ということもなくなるはずです。

ただ、これまでの韓国の振る舞い――日本に対する振る舞いのみならず、日本以外の各国、とくに東南アジア・南アジア諸国に対する振る舞い――を見ている限り、韓国が1番目の選択肢を取る可能性は、いまこの文章を読んでいるあなたの頭上に隕石が降ってくる可能性よりも低いでしょう。

では2番目の、「日本が国際法の原理原則にこだわるのをやめて韓国に譲歩する」、という可能性はどうでしょうか?

河村建夫氏が日本の首相を務めるなどの事態でも生じていれば、この選択肢の可能性は、それなりにあったでしょう。しかし、先ほどから申し上げているとおり、現在の日本はFOIPを提唱し、国際法を重んじる国であるとみずから宣言しています。

正直、日本が2番目の選択肢を取る可能性は極めて低いですし、そのようなことは、あってはなりません。さらには、弱小派閥「宏池会」出身の岸田首相、林外相のコンビに、国際法の原理・原則から逸脱するような選択肢を立案し、自民党を押し通すだけの政治力はありません。

よって、あり得る選択肢は3番目、「韓国が国際法や国際約束を守らかったことの結果として、日韓関係が破綻する」、しかないのです。

フェードアウトシナリオ

こうした考察を行えば、自称元徴用工問題についても、「国際法上妥当な形で解決が図られる」、という可能性が極めて低いことは明らかでしょう。すなわち、自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案が積み重なり、日韓関係は破綻に至る、という可能性が、現時点では最も高いのです。

ただし、「破綻に至る」のが不可避であるならば、その「破綻に至る道筋」については、可能な限りうまくコントロールしてやる必要があります。

ことに、自称元徴用工問題で日本企業の資産現金化に向けた動きが進んでいることは事実ですが、資産現金化が確定したあかつきには、日本政府も韓国に対する何らかの対抗措置を講じる方針を明言しており、そうなれば、日韓が報復の応酬を繰り広げ、泥仕合のようになってしまうリスクもあります。

現時点において、日韓間の人的・物的・金融的なつながりは薄まりつつあり、関係破綻の際のインパクトも、かつてと比べれば「意外と小さい」(『数字で見る「意外に小さい」日韓関係破綻のインパクト』等参照)とはいえ、決して「無視できる水準」ではありません

「日韓関係が破綻したら日本経済にも深刻な打撃がある」――。こんな言説がこれから増えてくる可能性があると思うのですが、あらかじめ申し上げておくなら、日韓関係破綻、あるいは日韓断交、日本企業の資産没収といった極端なケースが生じたとしても、それは日本経済にとっては十分にコントロール可能です。なぜなら、日韓貿易を除くと、「ヒト・モノ・カネ」などの面から見た日韓間の経済的関係は、隣国同士という関係性を踏まえると、驚くほど希薄だからです。2022/08/16 08:45追記本文中に誤植がありました。図表1を修正しています...
数字で見る「意外に小さい」日韓関係破綻のインパクト - 新宿会計士の政治経済評論

よって、表面上は日韓関係をうまくコントロールしつつ、日本企業や日本人が韓国から「足抜け」するだけの時間を稼ぐというのは、現実的には良いシナリオといえるかもしれません。

いずれにせよ、日韓諸懸案についても解決せず、このまま放置されるというシナリオが、やはり最も実現可能性が高いものですが、それだけではありません。

一部のオールドメディアが「韓流」を煽っているのは気になるにせよ、これから5年、10年というタイムスパンで見ていけば、日韓の経済、金融、産業、外交、安全保障などの分野における関係は、徐々に薄まっていくのではないかと考える次第です。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • 慰安婦騙り問題等、北韓の離反工作に踊らされて
    踊りがやめられなくなってしまった感のある南鮮
    見捨てられるのも仕方ないかと

  • >いずれにせよ、韓国政府がいくら「自分たちも努力しているから、日本も誠意ある態度を取れ」と要求したとしても、今の日本にとり、それは「永遠に実を結ばない努力」です

    今は河野談話が出される前の経緯をなぞってるところですね。

    日本の左派がいわゆる日本軍慰安婦問題を捏造し、

    韓国国内で其れが事実として広まり、

    韓国民の対日感情の悪化が起き、

    首相の訪韓前に其れを宥めて訪韓環境を整える為には「日本政府がいわゆる日本軍慰安婦問題を認めて謝罪をする事が必要だ」とし、

    首相の訪韓を無事実現したい日本政府側は河野談話を出すべきか検討している、

    という辺り。

    過去の日本政府は河野談話を出すと判断をし、出した結果、韓国政府は結局韓国民を宥める事に失敗し、日本政府に謝罪と賠償のおかわりを繰り返し求めているのが今の韓国政府。

    「歴史は繰り返す」とは言いますが、過去の教訓に学び、日韓関係がどうなろうとも日本政府には韓国政府のイチャモンをはねつけて貰いたいものですね。

    • そう言えば、米国のインフレ抑止法では韓国車が対象外である事が韓国で話題となってますが、アレも米国が韓国を自陣営の引き止め続けたいと考えていれば含めた案件なのですかね?

      それとも、それとは関係なく下された判断なのか。

      • クロワッサン様

        「レッドチーム側に色目なんか使ってると、こうなるのよ」の警告レベルのはなしなら、まだいいんでしょうが、もうこれが、米国の既定路線になってるんだったりして(笑)。

        それにしても、ワンパターンの分かりやすい国ですね。

        まずは相手の非を鳴らして、「WTOに提訴ニダ!」と逆ギレ。

        適いそうにないとなったら、各種外交団を派遣して、泣き落とし。

        でもダメだったとしたら、多分

        「こんな重大案件、見逃して他のはオマエだ、いやソッチのせいニダ」の
        外交部と経済担当部署の責任のなすり合い。

        で、結果は
        見とうない、見とうないで、そのまま放置、
        なんかのドタバタと一緒やん。

      • > それとは関係なく下された判断なのか。

        そうです、全く関係ありません。そもそも、米国内生産の韓国車は排除してません。韓国が米国内で生産しないだけ。
        韓国が、いつもの調子で派手な対米投資を発表したのですが、更にいつもの調子で、言うのだけ電光石火、実行は超牛歩をやっていた訳です。(時が経てば、アメさんが忘れるカモ知れない、を期待していたのカモ知れませんが。)

        牛歩をやっている所があるので、アメさんが期限を切った次第。

        韓国以外の対米投資を約束した国は米国内生産を始めるので、何ら問題無し。

        言った事をアメさんが忘れてくれないので、仕方ない一丁ヤルしかないか、という話が韓国内で出始めているらしい。今から着手したのでは間に合わないので、泣き落としで適用時期を遅らせて貰おうといった、自分勝手な事も考えている模様。

        日本では、在日すら・駐日韓国大使館領事館職員すら・日本国内にある韓国企業幹部すら・日韓議員連盟の議員やその関係者すら、韓国車を買わない様ですが、米国でも程度の差はあれ似たようなもの。ただ米国内は多様なので、間違って買ってしまう人がそれなりに居る事は居る様だ。

  • 韓国は事あるごとに外交の場で日本に対し誠意を示すよう求めている。この場合の誠意とは日本側の譲歩である。法よりも身勝手な正義を優先し、ありもしない歴史問題を持ち出すことで事態の収拾どころか更なる悪化を招いてきた。約束を守らないばかりでなく、一方的に破っておいて話し合いに持ち込もうとする。韓国の問題解決とは国内ではなく、日本から引き出そうとすることでしかない。完全に理解不能である。結局、韓国という国は問題を通じて日本から何らかの見返りを求める国なのである。問題の解決を放置し、新たに作り出すことが自国の利益につながると考えているのかもしれない。この期に及んで見せかけだけの努力は何の役にも立たない。これでは日本との間で永遠に信頼関係など築けるはずがないのだ。

  • 自分の国の司法の最高部門が決定したことですからその国の中では粛々と従うしかないのではないでかね。
    日本は金が惜しいから決定に不服を申してるわけではないので、判決を無効にするならともかく現金化を凍結するから日本も譲歩せよとはちゃんちゃらおかしいです。
    日本の中でもそのような基本原則を忘れどっちもどっち論の空気を吸い込んで譲歩しないようにしてください。
    で、韓国って政府が司法に介入できるのですか?

  • 日本叩きの麻薬が全身に回って、国全体が自己中毒状態。もう後戻りできなくなってしまいましたね。国民の情緒をどんどん煽った結果、ついには「現金化」の詰め腹を切らされる寸前まで追い詰められてしまったのは自業自得といったところで。
    もともと自分たちで解決するつもりはなく、無理難題をいっても、これまでのように日本が勝手に自分たちに都合のいい答えを出してくれるハズ。ところが、今回はあれれ、少し事情が違うような…。「おうおう、誠意を見せんかい!」「誠意って、具体的にどういうことですか?」といったやり取りがあったとか、なかったとか(笑)。
    前政権とは違って、現政府内には「さすがにこれはヤバいかも」と考える人もいて、今更ながら「関係改善」やら「共同宣言」やらを繰り出して、日本側を懐柔したり譲歩を引き出そうとしますが、もう通用しないみたいで…。グランドバーゲン(苦笑)どころではない状況に。
    とはいえ、国民の方は相変わらず「どうせ報復なんてできないでしょ」「現金化したら日本製品の不買運動してやれ」「しばらく日本旅行ができなくなったら嫌だなあ」程度の軽い認識。韓国政府は現金化を回避して「平行線」を保てるのかどうか。ワクワクが止まりません。

  • 今更、韓国と仮に断交したところで、困るところなんかあるのかね。表向きには、日本も韓国も台湾とは国交は樹立してはいないし、国家承認はしていないが、貿易は盛んだし、相互往来も、コロナ前ならば栄えていた。オレに決定権があれば、相互往来もストップして、在日韓国人や朝鮮人の処遇にも切り込むけどな。日本政府も韓国には目には目を!歯には歯を!の精神で厳しくすればいいのだ!あぁ、、ストレスだな!

    • 断交で特別永住許可が取り消しとかなりませんかね。
      多分おそらくきっと、国内犯罪率が低下して治安が良くなりますよね。
      これはWinーWinでは…。
      結論 断交でよろしいかと。

      • 最近、気のせいか、公共の場から韓国のハングルが削除されている気がするんだけどな。日本語、中国語、台湾表記はあるんだけど、あの気持ち悪いハングルが無いんだよ。気のせいか空気が綺麗な、、、

    • KN さん

      「彼は努力している」とは結果を出せていない人に使う言葉ですし、

      「私は努力している」とは結果を出せない事への言い訳ですし、

      正しい使い方だとは思います。

  • ずっと平行線なのは、彼らのやらかしのリセットボタンが日本側にあるからなんですよね。

    >このまま放置?それとも…

    いずれは水に流すことになるんでしょうね。
    但し使い終わった後のトイレのように・・。

    (ぽちっとな)

  • >「外交専門家」と名乗る人からは、「とんでもない!」「日韓関係の破綻など、絶対に避けなければならない」、などと強く批判されるかもしれません。

    いわく、「韓国は地理的に日本に非常に近い。日本はいかなるコストを払っても、韓国を敵対国にしないように努力しなければならない」。

    そういう方には
    「先ずは統一教会に貴殿が支払義務を持つ白紙小切手通帳を渡してからモノを言って下さい(笑)」

    といえば良いのです。
    統一教会はVANKより歴史が長い韓国の国益の代理人です。
    あらゆる犠牲を覚悟しているならば上記の事を行って自分が韓国に対して「自業自得で破滅する(笑)リスク」を背負ってから他の日本人に自分の批判意見を伝えれば良いと思うのですよ(笑)。

    以上です。駄文失礼しました。

  • あちらさんと断交になったら困るのは、弁当屋ですかね?あちらさんのヒジキが入手できなくなりますので?w

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