貿易統計で見る、日本にとっての「台湾・韓国の逆転」

資源国との貿易赤字が露骨に拡大:急がれる原発再稼働

資源高・ドル高の影響もあってか、中国、豪州、サウジ、UAEなどとの間での貿易赤字が急拡大しています。財務省税関が昨日公表した2022年6月までの貿易統計を眺めていると、さまざまな示唆が得られることは間違いありません。とくに、基本的価値を共有する友人である台湾との貿易額が、韓国との貿易額と再び逆転したことは、非常に興味深い変化のひとつと言えるに違いないでしょう。

相手国別貿易額(2022年6月)

財務省税関は28日、2022年6月における貿易額を公表しています。

これによると、2022年6月の月間貿易額は18兆6278億円で、うち輸出が8兆6147億円、輸入が10兆0131億円であり、貿易収支は1兆3985億円の赤字でした。貿易額の相手国別の内訳で見ると、最大の貿易相手国は中国であり、続いて米国、豪州、台湾、韓国が続きます(図表1)。

図表1 貿易額の相手国別内訳(2022年6月)
相手国月間貿易額うち輸出額うち輸入額
1位:中国3兆8881億円1兆7052億円2兆1829億円
2位:米国2兆5196億円1兆5567億円9630億円
3位:豪州1兆1828億円2043億円9785億円
4位:台湾1兆0852億円6310億円4543億円
5位:韓国9522億円6077億円3446億円
6位:タイ6766億円3781億円2984億円
7位:UAE6086億円880億円5207億円
8位:サウジアラビア5769億円469億円5300億円
9位:ベトナム4994億円2098億円2896億円
10位:インドネシア4642億円1678億円2963億円
その他6兆1741億円3兆0192億円3兆1549億円
合計18兆6278億円8兆6147億円10兆0131億円

(【出所】財務省税関データより著者作成)

米中両国との貿易額は増えつつある

これらの諸国のうち、1位の中国と2位の米国については、ほぼ安定して日本のそれぞれ最大級の貿易相手国であり続けています。これをグラフで確認しておきましょう(図表2)。

図表2-1 対中貿易

図表2-2 対米貿易

(【出所】財務省税関データ、普通貿易統計より著者作成)

対中、対米ともに、コロナ禍の最中に貿易額が落ち込んだものの、その後はいずれも回復しており、とくに中国からの輸入額については、2022年6月には単月で2兆1829億円と過去最大級に達しています。

このあたり、まだ貿易統計の品目別詳細が公表されていないようですので、品目にブレイクダウンした分析は実施できないのですが、ただ、もともと中国からの輸入金額はPC、スマートフォン、衣類、雑貨の4分野において大変に多く、コロナ禍で沈んでいた需要が回復していることを示唆しているものでもあります。

悪い円安論はウソ:電力の安定供給こそが必要

なお、先日の『円安局面は元高局面:「中国の輸出競争力」はどうなる』でも指摘したとおり、昨今のドル高局面は、同時に「元高局面」でもあります。つまり、今回の輸入高の上昇も、中国の通貨・人民元の為替レートが日本円に対して切り上がっていることと関係している可能性はあるでしょう。

このあたり、一部のメディアが「悪い円安論」を一生懸命になって展開している理由は、円安だと都合が悪いと考える中国共産党あたりから工作資金でも入っているからではないか、などと考えてしまうのは、金融専門家としての悪い癖かもしれません。

いずれにせよ、中国からの輸入品物価が高止まりしていると、いずれ製造業の国内回帰が進み始めます。

日本の最大のボトルネックは電力供給が安定しないことですが、原発再稼働が進み、この問題がクリアされていけば、徐々に製造業が日本国内に戻り、対中貿易も縮小していくことが期待できると考えるのは、決して深読みのし過ぎではないのです。

資源国からの輸入が露骨に急増している

さて、こうしたなかで上位10ヵ国のうち、資源国・産油国である豪州、UAE、サウジアラビアの3ヵ国について、貿易総額と輸出入額を調べていくと、なかなか極端なグラフが描けるようです(図表3)。

図表3-1 対豪貿易

図表3-2 対サウジ貿易

図表3-3 対UAE貿易

(【出所】財務省税関データ、普通貿易統計より著者作成)

いかがでしょうか。

豪州、サウジ、UAEの3ヵ国との貿易額について眺めてみると、明らかに輸入額のみがここ数ヵ月で急膨張している様子がくっきりと確認できるでしょう。とくに豪州が3番目の貿易相手国に浮上した理由は、資源価格の高騰などに基づく豪州からの輸入額の急増にあると考えてよさそうです。

韓国の地位が徐々に後退:代わって台湾が急浮上

その一方で、伝統的に日本にとって3番目の貿易相手国といえば韓国でした。しかし、このランキングにも大きな変動が生じ始めているようです。豪州が日本にとっての3番目の貿易相手国に浮上したことに加え、台湾との貿易が急に伸び始めているからです。

ここで、日本の近隣諸国のうち、韓国、台湾、タイの3ヵ国との貿易額について眺めておきましょう(図表4)。

図表4-1 対韓貿易

図表4-2 対台貿易

図表4-3 対泰貿易

(【出所】財務省税関データ、普通貿易統計より著者作成)

いかがでしょうか。

対韓貿易については増加傾向にあることは間違いないのですが、どこかそれでも足踏みしている傾向が見て取れます。しかし、対台貿易については全体的に力強く伸びており、タイとの貿易についても同様に上昇傾向にあることが確認できます。

とくに韓国と台湾の「逆転」については、昨年もしばしば観察される現象でしたが(『「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上』等参照)、それだけ日本が台湾とサプライチェーンなどの関係を深めているという証拠でしょう。

貿易統計から浮かぶ日本経済の課題

いずれにせよ、貿易統計を定期的に確認することで、日本にとってどの国が重要なのか、あるいは資源高が日本経済にどのような影響を与えているかについて把握することができます。

とりあえず中国、豪州、サウジ、UAEの4ヵ国との貿易赤字を削減するためには、原発再稼働を含めた抜本的な電力政策が必要であること、日本と基本的価値を共有する友人である台湾との貿易関係が急速に深まっていることについては、貿易統計からも浮かび上がってくることは間違いなさそうです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 元日本共産党員名無し より:

    相変わらず対中貿易が不動の一位で増加傾向という恐ろしい爆弾を抱えた日本経済ですね。一方で3位に躍り出た豪州は日本製品の購入がまるで中東産油国のように少ない。日豪友好は日本側の一方的な片思いなのかな? 韓国に関しては日韓間ではこの間の傾向どおり輸出も輸入も増加はしているがシェアを減らしている。デカップリングとしては良い事ですが、韓国自体の貿易で言うと昨今のウクライナ戦争に於いて、ポーランドが韓国製武器を爆買いしているとのこと。これはアメリカの仲介や許可と、もしかしたらローン肩代わり?かそれとも一括買い上げ自体はアメリカがしてポーランドに旧武器をウクライナにポーランドが供与する見返りにトコロテン式に供与した事なのかも知れません。結果が現れるのはもっと先かも知れませんが、武器輸出の激増は貿易収支の上でどうなっているのでしょう。韓国のウクライナ戦争に於いての武器無償供与は何もなく、日本の真似してか武器以外を多少送ったに留まっているというのに武器商人としては抜け目なく多額の商談が成立しています。

    1. こんとん より:

      >豪州は日本製品の購入がまるで中東産油国のように少ない。日豪友好は日本側の一方的な片思いなのかな?

      オーストラリアは英連邦ではありますが、広大な国土と膨大な原材料算出の割に人口が少ない(2500万程度)と、日本との貿易相手国としてみれば欧米先進国と言うよりは中東産油国に近い輸出入バランスになるのは仕方ないかと思います。
      国土から算出される膨大な原材料を日本(消費する人口が多い)が輸入する一方で、日本から輸出される財・サービスを消費する人口がオーストラリアに充分にないのが、収支アンバランスの主原因かと思われます。
      ※まぁ過去の白豪主義の教育はなかなか抜けきれていないからこそのクジラ・イルカ系の日本バッシングは残ってそうですが・・そのへんは主観的意見なので割愛w

  2. sqsq より:

    福島第一原発事故の時のあの重苦しい雰囲気を忘れない。
    海外からの好奇の目、半分は「ざまあみろ」と思っていたはず。
    当時勤務していた会社の外人上司は家族を九州に逃がした。本人も逃げたくてしょうがない。ジムでよく目にした外人会員が消えた。当時フラダンスを習っていた妻のフラの先生はハワイに帰国。

    原発が立地している自治体は過疎地の町とか村だ。
    福島第一 大熊町
    柏崎 刈羽村
    東海 東海村
    女川 女川町
    要するに過疎地ということ。

    原発事故が起きるずーと前から立地住民による原発の建設に反対する運動はあった。
    「安全というけど、なぜこんな辺鄙なところに作るんだろう」という素朴な疑問。
    100%安全なら電力消費地の近くにつくるはずだろうー>たぶん言ってるほど安全ではないんだろう。―>そういうものはいらない。
    これを補助金等を出すことで解決してきた。

    福島第一の現場の人たちは頑張ってなんとかあの程度で食い止めてくれた。あるいは日本はラッキーだったのかもしれない。
    私は日本の電力事情や資源輸入に提言を示せるような知見はないが原発に頼らない解決策を求めている。

  3. トシ より:

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00005_Z20C22A7000000/

    逆神のお告げが来た。

    どうやらそろそろ円高への転換となりそうだ。

    それにしても親韓記事と言い日経は大丈夫か?

    1. タナカ珈琲。 より:

      トシ様。

      今日はドル安ですね。132円の後半です。

      ワタシが一番の関心事、3,67バーツでした。あと20%ほどバーツ安を期待します。

    2. 元ジェネラリスト より:

      >どうやらそろそろ円高への転換となりそうだ。

      ジムロジャーズなら説得力あります。(笑)

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告