国の借金論を論破する秀逸な記事と優れた読者コメント

「国の借金」論という、当ウェブサイトでは何度も触れてきたテーマを巡って、非常にわかりやすい記事が『Yahoo!ニュース』に転載されていました。記事タイトルは『「国民1人当たり1000万円の借金」は真っ赤な嘘。純負債比率はG7で低く、財政破綻の可能性はゼロ。国の成長や賃金上昇に向け、ケチケチせず借金せよ』、です。影響力のあるウェブサイトがこうした議論を掲載するというのも非常に好ましい話ですが、それだけでなく、読者コメントも大変に洗練されているのです。

国の借金論

先日の『また出た!「国の借金」論からチラ見え「Zの増税論」』でも触れたとおり、相変わらず「国の借金」というプロパガンダが続いています。

この「国の借金」という用語自体、財務省が公式の用語として使用しているものではありませんが、オールドメディア(新聞、テレビ、通信社等)が好んで使用するものでもあり、とくに「1人あたりで割って1000万円を超えた!」といった具合に、センセーショナルに報道されることも多いのです。

ただ、当ウェブサイトを2016年7月に開設して以来、しつこいほど繰り返してきたとおり、「国の借金」なる概念は、経済学的には存在しません。

国債・財投債・国庫短期証券・借入金といった政府の債務は、あくまでも「中央政府の債務」であって、「国民の債務」ではありませんので、それを国民1人あたりで割ったところで、まったく意味はあないのです。

「国の借金がたくさんある」論の間違い①バランスシート面

ただ、「国の借金がたくさんある!」と問題視する人たちは、あたかも「こんなに山ほどおカネを借りたら返せなくなる!」とでも主張したいのかもしれませんが、これも経済学的・会計学的に見て、かなり誤った議論であることは間違いありません。

そもそも政府債務はバランスシートの右側(負債サイド)にしか注目していない論点であり、政府が抱え込んでいる巨額の資産(外為特会で保有する1.3兆ドルもの外貨準備、政府などが設立している数多くの天下り法人、有効活用できていない資産など)を一切無視しています。

たとえば外為法などを改正し、政府が保有している外貨準備を日銀に市場外取引で時価で買い取らせ、その買取代金を日銀の政府預金口座に振り込ませるだけでも、国債の発行額を200兆円近く圧縮することができるはずです(ついでに政府には巨額の利益が転がり込みます)。

また、主要国で実施されているのと同様の電波オークションを実施するだけで、政府には歳入がもたらされるはずです(ついでに、現在のNHK・民放といった少数の放送局で硬直した放送業界に自由競争という新風をもたらすことができるかもしれません)。

さらには、過去の巨額の受信料収入でNHKが不当に蓄財した巨額の資産、たとえば都心部の一等地にある広大な土地・建物、あるいは年金資産を含め1兆円を超える金融資産などについても国庫返納させ、スクランブル放送化を義務付けたうえで民営化するだけでも、国家財政はかなり改善します。

つまり、「負債」(借金)の側だけに注目したところで、実際にはまったく意味がないのです。

「国の借金がたくさんある」論の間違い②マクロ経済論

話はそれだけではありません。

政府部門の借金については、「見た目」が大きくても、問題とならないケースもあります。

たとえば、金融商品の世界では「誰かにとっての金融資産はほかの誰かにとっての金融負債である」という法則が成り立ちますし、「閉鎖経済」の前提を置くと、政府、企業、家計といった経済主体の資産・負債の総額は必ず一致します。

とくに2022年3月末において、わが国においては家計の金融資産が2000兆円を超えていますが、その家計の金融負債は373兆円に過ぎず、1648兆円もの純資産を抱え込んでいます。この1648兆円という金額は、政府、企業が同額の純債務を抱えていなければ、結局は不均衡(デフレギャップ)を生み出します。

現実には、日本は「開放経済」の国であり、家計が保有していて政府、企業が使いきれなかった巨額の金融資産が、海外部門に流出しています。海外部門の純債務は412兆円ですが、すなわち計算上、日本全体として使いきれなかった金額が純額で412兆円分、海外に貸し付けられているのです。

したがって、マクロ経済的に見たら、現在の日本は増税で財政再建を図るべき局面ではありません。

正しく経済分析をすれば、日本全体として抱えている巨額のデフレギャップを解消するためには、むしろ政府が債務を拡大すべきなのです。増発した国債の使途は教育経費でも構いませんし、少子化対策でも構いません。あるいは、数年間、消費税、所得税、法人税の徴収を凍結する原資としても良いでしょう。

こうした当ウェブサイトとしての記載、数年前に『数字で見る「強い」日本経済』というかたちで世に送り出したのですが、おかげさまでアマゾンの書評では本日時点で星4.6個分の高評価をいただいているようです。

『Yahoo!ニュース』のわかりやすい記事

ただ、当ウェブサイトの場合、やはり文体が堅すぎるのでしょうか、「わかり辛い」というお叱りをいただくことがよくあります。

この点については、反省点です。

もっとわかりやすく主張できないものかと思っていたところ、『Yahoo!ニュース』にこんな記事を発見しました。

「国民1人当たり1000万円の借金」は真っ赤な嘘。純負債比率はG7で低く、財政破綻の可能性はゼロ。国の成長や賃金上昇に向け、ケチケチせず借金せよ

―――2022/08/17 21:01付 Yahoo!ニュースより【※ZaiONLINE配信】

そもそもこの記事タイトル自体が大変にわかりやすいです。

執筆したのはDFR投資助言者の太田忠氏ですが、当ウェブサイトで指摘してきた「バランスシートの議論」、「政府債務の特殊性」、「自国通貨建ての国債がデフォルトすることはあり得ない」などの命題が、一般の読者にも大変わかりやすいことばで説明されているのです。

その意味で、この手の「財務省のウソ」を暴くような論考を、影響力が大きいZaiなどの大手ウェブ評論サイトが積極的に掲載するようになったというのは、本当に良い時代になったものだと思います。

読者コメントも秀逸:受験秀才が論破される時代に!

ただ、それ以上にこのYahoo!ニュースの読者コメント欄を眺めていて気づくのは、この手の「国の借金」論のウソを見抜いていると思しきコメントが、多数、寄せられているという事実です。

このあたり、朝日新聞社出身の烏賀陽弘道氏が、高学歴の受験秀才を批判した一連のツイートを発した(『高学歴エリートにも当てはまる烏賀陽氏の朝日新聞批判』参照)という話題にもあったとおり、社会のインターネット化は、高学歴エリート(受験秀才)にとっては非常に都合が悪いものになっているのかもしれません。

ひと昔前であれば、大蔵省や財務省は「子飼い」のオールドメディアに「国の借金論」という自分たちにとって都合がよいプロパガンダを書かせていれば良かったのですが、いまやそのオールドメディアたちが情報発信を独占するということができなくなってしまいました。

下手な記事を配信すると、インターネット・サイトで一般人からボコボコに論破されてしまうのです。だからこそ、もしかするとオールドメディアや官僚機構(とくに「ウソツキ財務省」や「ウソツキ外務省」など)は、ネットを敵視しているのかもしれませんね。

(※ちなみに当ウェブサイトにも最近、ごく少数ではありますが、霞ケ関関係者と思しき者からの書き込みがありますが、これについては機会があれば詳しく紹介したいと思います)。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. 同業者 より:

    戦中は帝国陸海軍、占領下ではGHQ、今は財務省の宣撫班のオールドメディア(NHKも含む)。
    未だに自身を最高権力者とでも思っているのでしょう。
    もはや害悪でしかないので、独立回復後にすべて解体してしまえばよかったんですけどね。

  2. 通りすがり より:

    どんな記事にも現れて、すっとこなコメしか付けられない法政大学の白鳥浩が見当違いのコメを付けてたら笑ってやろうと思ったら、居なかったw

  3. 犬HK より:

    国の借金論のウソについては、高橋洋一氏など多くの方がわかりやすく解説し続けていますが、この方の説明もわかりやすいですね(終盤の文面はアレですが)。

    しかし、腐りきったメディアはともかく、政府自体がきちんと説明(釈明)してきていないことも大罪でしょう。
    まだ財務省に騙されている?やはりそこまでアホってこと?

  4. 元ジェネラリスト より:

    >機会があれば詳しく紹介したい

    楽しみにしてます。wktkです。

    関係ないですけど、コメント数が1個減った気がしたけど気のせいかな?

    1. 犬HK より:

      たしか昨日のコメントも消えてましたね。

      今日のはともかく、昨日のは消されるようなコメではなかったような…
      逆鱗に触れましたかね。

      1. 元ジェネラリスト より:

        まあ、しつこいと思いますけどね。
        一般的な行動規範じゃなく、個人的な価値観の押しつけですし。

  5. 名前 より:

    オールドメディアは世論を操れなくなって焦っているんだろうな。

  6. 古いほうの愛読者 より:

    国の借金が家計や企業の資産になるのは確かですが,コロナの2年弱のお金を流れを見ると,年収1千万円以上で投資をしているプチ富裕層以上の資産が増加していることが統計資料から分かります。他方,年収600~700万円層の金融資産が減少しています。年収300万円以下の層の金融資産が微増しているのは,ちょっと原因分析が必用です。
    ただ,富裕層も大変で,相続税が強化されているので,財務省から見えるところにお金を置いておくと,そのうち没収されます。これから団塊の世代の方々がだんだん亡くなっていく時代に入りますが,その課程での金融資産の動きを把握することが大切だと思います。
    国の借金(国債)の半分以上を日銀が引き受けた欠点として,最近の国債金利は,日銀のコントロールを離れて,巨大海外ファンドのマネーゲームに翻弄されていて,日銀もその中の1プレーヤーという位置づけになった気がします。それに,為替もひきづられてしまう。風→桶屋,ではないですが,国債によって,庶民には困ったことも,いろいろ起きます。

  7. 匿名 より:

    >霞ケ関関係者と思しき者からの書き込みがありますが

    あれ、ひょっとして…と思っていたのですが、やはりそうなのですかね?

  8. とくめい係 より:

    『大変だぁ!日本国の資産を売らないと!財務省の天下り先機関からな。(棒)』
    という意見になっても、「国民の借金が~」と言い続ける根性があったら
    認めてあげようと思う。

  9. サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方には返信しません) より:

     申し訳ないですが、「Yahoo」もすでにオールドメディア化していると感じます。Yahoo!ニュースの読者コメント欄には素晴らしいコメントがある一方、ロボットプログラムを走らせて自動で巡回していると思われますが、内容を問わず削除されます。

     私も実験的に、100件くらいのコメントを書いてみました。気を使ってなるべく中庸な内容のコメントばかり投稿したにもかかわらず、コメントが自動的にどんどん削除され、今ではとうとう0件。

     Yahoo!ニュースの読者コメント欄の荒れ具合を指摘する人は多いですが、このように削除されてしまうことに言及している人は少ないです。

     実際、自分で試してみるとよく分かると思います。内容に関わらず、コメントはどんどん削除されます。何の問題行動を起こしていなくても、コメントが投稿されないようにブロックされることもあります。これも自身で体験してみて下さい。

    1. KN より:

      ヤフコメは、いつからか、内容(しょうもないもの多数)に関わらず長文コメントが「おすすめ順」の上位になるようにアルゴリズムが変更されたようで、非常に読みにくくなり、素晴らしいコメントに遭遇することはまれになりましたね。
      NGワードとか、逆に上位にきやすいワードが存在しているんでしょうか?
      私はたまに短い返信コメントしかしませんが、返信コメントが削除されたことはありませんよ。もとのコメントが削除されても、自分の返信コメントの履歴は残っています。

    2. なんちゃってギター弾き より:

      おはようございます。

      >「Yahoo」もすでにオールドメディア化
      最近、特に感じますね。
      コメント欄もですが、元々報道各社からのニュースを流しているのでそういう要素はあったのでしょうけど、内容がテレビ、新聞の代替手段になっていると思っていました。

  10. 群馬 より:

    国の借金については今後も取り上げてほしいですが、それと同じぐらい内部留保についての記事も出してほしいですね。このサイトではあまり触れてないですけど国の借金以上に誤解されているように思います。

  11. 団塊の世代の現役親父 より:

    昔、石原慎太郎が、官公庁会計は複式簿記で記帳すべきだ、と言ったことがありました。
    まだ、実現していないのですね。

  12. ふんだん より:

    太田忠氏の記事を読みました。

    私が国の借金論を怪しいと感じ始めたのは、黒田日銀総裁が量的緩和を始めたころでした。
    当時は「国の機関である日銀が国債を買っているのに、借金が増えてるって変じゃない?」という素朴な疑問でしたが、新宿会計士様のサイトで論理的な整理ができました。
    本当にありがとうございます。

    太田氏や高橋洋一氏のような方々、そしてなにより新宿会計士様のお蔭で、国の借金論の間違いを理解する人が増えてきているように思います。

    政策の間違いを正すには、選挙でより良い候補を選ぶ必要があります。
    それには正しい知識が不可欠です。
    新宿会計士様の活動に心から感謝いたします。

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