韓国外相が訪日成果を強調も「日韓温度差」は明らかに

朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官は、訪日の成果をしきりに強調しているようですが、実態はどうなのでしょうか。日本の外務省の対応には危なっかしい点もないではないものの、少なくとも韓国政府が望む「誠意ある対応」に、日本政府が応じる可能性は皆無であることが示されたことは間違いなく、その意味では、朴振氏の訪日はむしろ日韓諸懸案解決が遥かに遠いことを示した機会となったのではないでしょうか。

日本が100%正しいが譲歩してほしい

「日韓諸懸案をめぐっては、基本的には韓国の側にすべての原因がある」――。

これに関しては、当ウェブサイトではすでに何度となく議論してきた内容でもありますが、こうした主張が韓国の政治家、メディアなどから出てくることは滅多にありません。

ただ、こうした事情について、じつは韓国国内でも理解している人は理解しているようです。韓国政府元高官による「日本が100%正しい」が「現実問題として日本が何もしない形では韓国国民は受け入れがたい」とする発言など、その典型例でしょう(『韓国元高官「日本が100%正しいが譲歩してほしい」』参照)。

というよりも、韓国の政府、メディア関係者らは、自分たちの側に国際法では勝ち目がないことを本当は理解していて、だからこそ「日韓関係は特殊だ」、「日韓関係には国際法は適用されない」という屁理屈に持ち込もうとしているのではないでしょうか。

朴振氏は自身の訪日成果を自賛

こうしたなか、朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官(※外相に相当)は昨日までの3日間、日本を訪問し、林芳正外相との会談をこなしたほか、岸田文雄首相に表敬訪問しました。

これに関し、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)の記事が、少し興味深いです。

韓国外相「強制動員賠償、日本も韓国の努力に前向きに応じる用意あると感じた」

―――2022-07-21 06:54付 ハンギョレ新聞日本語版より

ハンギョレ新聞といえば「左派メディア」とされ、文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代には政権の公式見解に近い記事を掲載することも多かったのですが、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権時代に突入し、どうも政権に批判的な記事が増えているように思えます。

そして、このリンク先記事も、韓国メディアのなかでは今回の朴振氏の訪日についても、ある程度は客観的に執筆されている方ではないでしょうか。なぜなら、「朴振氏はこう述べた」が、「日本政府の反応とは温度差がある」と指摘しているからです。

ハンギョレ新聞は「韓日関係の最大争点である強制動員被害者賠償(※)に伴う『現金化』問題」(※自称元徴用工問題のこと)と関連し、朴振氏の次のような趣旨の発言を紹介します。

  • 日本政府も誠意を持って前向きに応じる用意があると感じた
  • 韓国で官民協議体を構成し、被害者と専門家の意見を集めていることを日本側に説明し、日本側はこのような韓国の努力を評価した
  • なにより4年7月ぶりに(日本で)韓日外相会談が実現したこと自体が、日本側の真摯な対応の一環だと考える

そのうえで朴振氏は、「これは韓日関係の変化の信号弾とみてもいい」、などと強調したのだそうですが、ここまでの説明がいずれも韓国側の一方的な主張しか述べていない、という点には注目しておいて良いでしょう。

「日本政府も誠意をもって前向きに応じる用意がある」というのは、あくまでも朴振氏が「一方的に感じた」だけの話であり、べつに岸田首相、林外相らがそう発言したという意味ではなく、ましてや日本政府側関係者から出てきた話ですらありません。

日本の冷ややかな反応を「温度差」と表現するハンギョレ新聞

ちなみにハンギョレ新聞によると、記者団からの「日本の誠意ある反応とは日本企業の謝罪のことか」とする趣旨の質問に対し、外交部高官は次のように答えたのだそうです。

国民からみて、日本側に誠意ある措置が必要であり、そのような措置がない限り、この(強制動員被害者)問題は円満な解決は難しい。このような話を(日本側に)した」。

何とも強烈な話です。

これまでのところ、少なくとも自称元徴用工問題をめぐって、韓国側からは「日本が韓国に譲歩すること」を前提とする解決策しか出てきていないという時点で、正直、日韓諸懸案の解決が遥かに遠いことを意味します。

ただ、ハンギョレ新聞の興味深いところは、記事の最終段落で、日本側の反応を次のように指摘していることです。

韓日外相会談後の日本政府の反応は、パク・チン長官の評価とは温度差があった

林外相は19日の記者会見で、強制動員被害者賠償問題と関連し、「パク長官との間で両国間の協議を加速化させることで一致した」と合意事項を強調しながらも、「尹政権の対応をよく見極めた上で、日韓関係を健全な形に戻すべく、韓国側と緊密に意思相通をしていきたい」という従来の立場を改めて示した

正直、林外相の発言、もたとえば自称元徴用工問題が韓国側の捏造であるという事実をちゃんと指摘していないなど、危なっかしい部分は多々あるのですが、それでも現在のところは日本政府が韓国の望む「誠意」を示すとは考え辛い点です。

いずれにせよ、今回の朴振氏の訪日自体、日韓諸懸案をめぐる日韓両国の「温度差」が示された機会となったことだけは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 日野阿礼 より:

    >>尹政権の対応をよく見極めた上で、日韓関係を健全な形に戻すべく・・・
    よく見極めると言いながら「早期解決を目指すことで一致」此の事案、そんな簡単に解決できると考えてるのかな日本は、逆に早く滅びろって背中押してるのかしら。
    会談、面会、相手の言い分を黙って聞いてさらに飯食わした結果
    >>日本政府も誠意を持って前向きに応じる用意があると感じた
    韓国人ならそお受け取っても可笑しく無いでしょっと、喜劇やってるんじゃ無いんだから真面目に仕事してほしいよね岸田さん。

  2. オブ より:

    韓国は通貨スワップなど他の件でもそうですが、相手の立場や反応を見ようとせずに同じことを言い続け、自分の主張、要望を既成事実化しようとする習性があるので曖昧な態度というのはゴールポストをずらされやすいと思うのですが…
    岸田政権もこの時期に向こうが来ると言って簡単に会う必要があるのか。話し合いは実りが見込めた上でするものであって、従前どおりの違いを確認するだけでは時間の無駄だと思います。
    「李下に冠を正さず」ともいいます。この時期に簡単に会ってしまう政治センスというのはやはり良くないのだろうと思うので、やはり心配はあります。
    韓国政府が正常化のため司法判断を覆すのは当然のことで、それは取引の材料にならないことは会う前、話す前に釘を刺す必要があると思います。バーゲンセールなどふざけた発言はを許さず、韓国が撒いた一つずつの懸案を自分の責任を認めるかが正常化のための見極めのポイントですね。

    1. 通りすがりのゴクウ より:

      >相手の立場や反応を見ようとせず
      発想として相手の立場や反応があるとは思っていない。
      韓国側が思う事は日本は従わなければならない。
      何故なら戦犯国で、そもそも華夷秩序でも下だから。
      コミュニケーションが成立しないので、関わっちゃだめだと持っています。

  3. 豆鉄砲 より:

    安倍元総理が暗殺されたばかりだというのに、一国の首相が事前に内容も確認せずに格下の外相とホイホイ会うかな?なんて思いますね。

    1. 通りすがりのゴクウ より:

      首相が会ったのはあくまでも弔問と言ってきたからでしょう。
      あちら側は口実でしかなったけど、きっかけがあればどうにでもなると思った。
      しかし20分・・・・通訳入れると半分か3分の1になる。7分から最大で10分。
      何も話せない。挨拶と弔意だけでしょう。
      色々言ってきたか言おうとしたのだろうけど。20分で打ち切った。
      それでも会うのは隙があると思いますが、弔問を断るのは難しかったと思います。

  4. 伊江太 より:

    中露を外した形での自由主義諸国による世界秩序、経済体制の再構築は、今や避けがたい流れとなって来ているように思います。そうした流れに乗り損なってしまえば、あとは省かれていくのみ。そうした危機感は、アチラの政府当局者、マスコミ、各界識者の間では、どうやら希薄なようですね。

    イエレン米財務長官との会談では、来訪前あれほど大騒ぎして切望していたスワップのスの字も出なかった。それではさぞ失望売りが出るかと思っていたら、株式市場でも、外為市場でも、さすがに反転は無かったものの、大して値動きは見られない。会談内容の一言半句に、ほとんど無理筋とも思える希望的こじつけを施して、それに縋っているのでしょう。

    今度の朴外交部長官に対する日本側の姿勢にしても、弔問を理由に来られたからには、さすがに門前払いにもできない。必要最低眼の礼遇はおこなう。それ以上のものでないのは、明らかなのに、まあ早速これにも、あれこれ希望的こじつけに励んでいるようです。

    いまや日米とも、この国対するリスペクトの具合はこんなものという現実を認識するのは、いよいよ破滅の淵まで追い詰められたとき、ということなんでしょうね。

  5. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国:「日韓関係に国際法は関係ないと、日本の朝日新聞や社民党が言っている」
    韓国:「訪日した韓国の外相と同じ感じを、朝日新聞や共産党も感じた」
    この話は、2022年7月21日時点では笑い話である。

    1. 通りすがりのゴクウ より:

      平成までは笑い話ではなかったですね。

  6. 百十の王 より:

    新大統領になって5ヶ月経過。
    ムン能大統領からユン能大統領にスイッチ? いえいえ、◯能はそのまま引き継がれたようです。

    グランドバーゲン?
    自ら解決策を韓国内でまとめる努力もロクにしないままキシダを騙して日本に対する過去の不当行為を有耶無耶にしようと大甘な絵を描いていたのが今回の朴長官の来日でバレてしまった。私的には堂々の◯能認定差し上げたく。

  7. トシ より:

    韓国はむしろ左派ほど正確に日本を理解している。

    文「日本が右傾化したから日韓関係の改善ができなかった」
    李「日本は右傾化したからかつてのような交渉はできない」

    同根のハンギョレも同様の見方をしていると思われる。

    現政権は早くも危機的状況。
    党の代表の性接待疑惑に大統領知人の公私混同で大きな批判を浴びている。
    また現在の経済状況が早期に改善される見込みはない。

    現政権は早々にレームダックと化すとみていい。

    こうなるといつ反日に転向するかであり、日本としてもまともに相手にする必要はない。

  8. 普通の日本人 より:

    日本の様な小さな国が大国と比していくのは「法の遵守」しか無い。
    だらだらと日本人に甘え、たかることしかしない国へ「法を犯す」愚は厳禁だ。
    そろそろ韓国なしでも良い、との統一見解を出す時期に来ている。
    普通の付き合いにしましょう。
    甘えて育てた子供が大きくなったときの犯罪例はそこここにある。

  9. クロワッサン より:

    ヴェネツィア共和国のトルコ大使の言葉として、「大国は常に無法で横暴であり、理性や法理を用いるのは弱小国が行う事である」という主旨の格言があったと記憶してますが、韓国は弱小国であるにも関わらず無法国家として振る舞ってるのが特異ですね。

    まぁ、お人好しな日本が、売春婦と詐欺師とポン引きで構成される被害者コスプレ詐欺民族に施しをしたのがケチの付け始めでしたね。

    アレを上手い事操る中華人民共和国は、流石は永世宗主国だなぁと。

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