「レジ袋有料化は義務ではなかった」記事は事実誤認か

SNSなどで「レジ袋有料化は義務ではなかった」とする記事が話題になっているようですが、結論からいえば、これは執筆者の方の事実誤認という可能性が濃厚です。執筆者の方が引用した国会答弁を読む限り、「レジ袋有料化は義務ではない」、「政府としてこれを見直す方針だ」と政府関係者が答弁したとは考えられないからです。ただし、レジ袋有料化自体に深刻な問題が含まれている点については間違いありません。

違法行政の象徴?「レジ袋有料化」

「国民の敵」環境省・検証されないレジ袋有料化の効果』を含め、以前からときどき取り上げているとおり、2020年7月に環境省が導入した「レジ袋有料化政策」に関しては、限りなく違法行為の疑いが濃厚である、というのが当ウェブサイトなりの解釈です。

そもそも論ですが、レジ袋有料化政策の主眼は、一定の条件を満たすレジ袋については無償配布を禁止したうえで有料で販売することを義務付ける点にあります。

ただ、本来であるならば、日本には営業自由の原則がありますので、ある商品を一定以上の価格で販売することを義務付けるのは、こうした営業自由の原則に抵触する可能性があります。

これに加えて今回のレジ袋有料化は、国民生活に与える影響が大変大きいにも関わらず、「法律」でも「政令」でもなく、「省令で」行われた、という点は見逃せないポイントでしょう。行政権を大きく逸脱し、国会の立法権を侵害している可能性もあるからです。

肝心な部分が「法律」ではなく「省令」で定められてしまっている!

これについて、『小売業者は罰金50万円払ってレジ袋を無料化しては?』で詳しく説明した内容を、もう一度ざっと振り返っておきましょう。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律』という法律の第7条の4第1項では、主務大臣(この場合は、環境相など)に対し、「指定容器包装利用事業者」が「容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するために取り組むべき措置」の「判断の基準」を定めることを求めています。

問題のレジ袋有料化に関する規定は、この法律の下部にある環境省令(正式には『小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令』という、非常に長ったらしい名前の省令)に定められています。

(※仕事ができない人たちに限って、やたらと長いタイトルの文書や法律を作るのは、世界共通のテンプレートのようなものでしょう。)

この環境省令の第2条第1項に、こんな趣旨の規定が設けられているのです。

事業者は商品の販売に際して消費者にプラスチック製の買い物袋を有償で提供することにより、消費者によるプラスチック製の買物袋の排出の抑制を相当程度促進するものとする」。

そのうえで、同条文には、レジ袋有償義務化の例外となる3つの例外の事例が定められていますが、これについての概要は次のとおりです(日本語として意味が通るように書き換えています)。

  • ①繰り返し使用が可能でフィルムの厚さが50マイクロメートル以上などの要件を満たすレジ袋
  • ②海洋微生物によって分解が促進されるものの割合が100%であるなどの要件を満たすレジ袋
  • ③一定のバイオマスの割合が25%以上であるなどの要件を満たすレジ袋

逆にいえば、これら①~③の要件を満たさないレジ袋については、「有料で販売しなければならない」と定められたのです。

つまり、本来であれば法律で決めなければならないほど影響が大きい政策を、驚いたことに、環境省は「環境省令」という、法律よりも政令よりもさらに下位にあるルールで決めてしまったのです。まさに、違法行政の典型例でしょう。

罰則は「罰金50万円」

もっとも、事業者がこの「違法行政」に従わなかった場合に、何か問題は生じるのかといえば、話は微妙です。

もしも事業者が環境省令を無視し、レジ袋を無償で配布していた場合には、同じ法律の第7条の7、第46条の2の規定に基づき、次の措置が講じられます。

  • ①主務大臣による勧告(第7条の7第1項)
  • ②①の勧告に従わなかった場合はその業者名を主務大臣が公表(第7条の7第2項)
  • ③②の措置後も勧告に従わなかった場合は主務大臣が審議会などの意見を聞き勧告に従うよう措置を命令(第7条の7第3項)
  • ④その命令に違反した場合は50万円以下の罰金(第46条の2)

…。

つまり、事業者がその気になれば、「環境省令など知ったこっちゃない」とばかりにレジ袋無償配布を強行してしまえば良い、という発想が成り立ちます。環境相からの勧告に従うような命令を無視しても、その都度、50万円の罰金という措置に従えば済む話だからです。

というよりも、個人的には大手企業のなかに、是非ともこの「50万円の罰金上等」で、環境省とケンカする事例が出てきてほしいと思っていますし、環境省令の違法性を巡って、是非とも裁判で争っていただきたいとすら思います。場合によっては、環境省そのものの存在意義を社会的に議論することだって必要でしょう。

「強い推奨」…と解釈するにはやや無理がある

こうしたなか、ウェブ評論サイト『日刊SPA!』に本日、こんな記事が出ていました。

レジ袋有料化は義務ではない。単なる「強い推奨」にすぎなかった、政府が答弁

―――2022/04/20付 日刊SPA!より

レジ袋有料化については「義務」ではなく、単なる「強い推奨」に過ぎなかった、というのです。そのロジックは、次のとおりだそうです。

すべてのレジ袋の有料化を義務化しているのではなく、例外規定があることだ。環境に悪くないレジ袋は、無料で配布していい。なんのことはない。レジ袋有料化は義務でも何でもない。単なる『強い推奨』にすぎなかったのだ。それを『環境問題を解決したい』との宗教的信念にも似た人たちの思いが暴走し、『義務化』と言い切り、暴走したのだ」。

2022年4月8日衆議院経済産業委員会では以下のようなやりとりがあった。日本維新の会漆間譲司代議士の質疑に対し、経済産業省局長の答弁は以下。『単純に言えば実質的には義務化ということでございますけれども、法令上はですね、命令に従うことが義務だというようなことでございます』

『実質義務化』との表現には驚いたが、法律上は義務ではないのだ」。

…。

記事タイトルを読むと、「レジ袋有料化はじつは義務ではなかった」とあります。しかし、この答弁のやり取りを見ている限りは、省令第2条第1項第1号から第3号の説明をしているだけにしか見えませんし、この答弁をもって「レジ袋有料化が義務ではなかった」と読むには少し無理があります。

そもそも省令第2条第1項各号に当てはまるレジ袋については有料化の対象外であるというのは、最初からわかっていた話でもあります。

したがって、記事の末尾のこんな記述についても、おそらくは事実誤認でしょう。

『レジ袋』は国民の評判があまりに悪いので、政府内部でも考え直す動きが出た。しかし、他の問題はどうだろうか」。

この方が引用した国会答弁を見る限りでは、べつに「レジ袋有料化自体」を「見直す」、という動きではないからです。

それよりも、やはりレジ袋有料化という、国民生活や事業に大変大きな影響を与えかねない(しかも科学的根拠も薄弱な)政策を、法律ではなく政令でやってしまったという点こそ、行政上の問題点ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. カズ より:

    条件次第で分解に時間がかかる生分解性プラスチック等が、環境にやさしいだなんて思えません。
    最終分解に至る過程では、環境汚染物質(マイクロプラスチック?)でしかないような気がします。

    1. 匿名 より:

      生分解性プラスチックの代表格ポリ乳酸(PLA)の短期間分解条件って、湿度80%、温度60℃らしいね。まあそれくらいの耐久性じゃないと素材として使いにくいらしいけど。水中じゃあ温度条件がなかなか満たされないから結局マイクロプラスチックだよね。

  2. 七味 より:

    >『単純に言えば実質的には義務化ということでございますけれども、法令上はですね、命令に従うことが義務だというようなことでございます』

    なんか不思議な答弁だと感じたのです♪

    法第4条で努力義務とはいえ明確に義務を課しているように思うのです♪
    >(事業者及び消費者の責務)
    >第四条 事業者及び消費者は、(省略)容器包装廃棄物の排出を抑制するよ>う努めるとともに、(省略)容器包装廃棄物の分別収集、分別基準適合物の>再商品化等を促進するよう努めなければならない。

    答弁は、法第46条の2で、第7条の7の命令に違反した場合には刑罰が科せられるってことから「命令に従うことが義務だ」って説明していると思うんだけど、刑罰を定めるってのは義務を履行させるための方策のひとつでしかなくて、中には義務を課すけど違反に対する罰則がないなんてのもあると思うのです♪

    なんとなく、ここんとこを読んでて、「小売業者にはレジ袋を有料で提供する義務があるのか?」って質問に対して、ウソではないけど、論点をずらして誤魔化した答弁のように感じたのです♪

  3. 世相マンボウ 。 より:

    私は、レジ袋有料化の決定については
    まともな多数派国民良識層をベースとした
    再検証が必要だと感じています。

    もちろん環境問題は
    人類の課題としての重要課題であるのですが、
    レジ袋有料化の決定過程において
    主導的な役割を果たした日本学術会議については
    前の総理が任命しなかったからいいようなものの
    潜り込みそこねた6人の顔ぶれと松宮氏の暴れようで、
    その赤黒い汚染が問題と糾弾されているものです。

    政府機関学術会議にこれまで
    潜り込んでいたその手の人たちと
    その一味の人達は往生際悪い主張で時間を稼いで
    あとは世論が忘れてくれることを
    姑息に期待してるようですが
    アカデミズム とは本当の学問のことであり
    赤で水ムシ のようなものでは当たり前にない
    のですから、これは厳しい追求と是正が
    求められる問題です。

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