ロシア財相「外貨準備の半分凍結:利払はルーブルで」

ロシアのシルアノフ財相は同国の外貨準備6400億ドルのうち3000億ドルが凍結されたとしたうえで、水曜日に利払を迎えるドル建て国債を巡っては、あくまでもルーブルで支払うとの姿勢を示し、しかもそれが「外貨準備の凍結という非友好的行動に見合ったもの」と述べたそうです。その一方で、もうひとつ警戒すべき動きがあるとしたら、ロシア制裁をきっかけとした、人民元の「制裁逃れ通貨」としての役割の上昇でしょう。

ロシアの外貨準備

当ウェブサイトでは、ロシアの中央銀行が公表しているレポートや国際通貨基金(IMF)の統計データなどを使って、ロシアの外貨準備高の内訳について、いくつかの試算を示してきました。

ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも引用したとおり、ロシア中央銀行のレポート(※)によれば、2021年6月末時点において、ロシアの外貨準備の21.7%を金が、13.1%を人民元が占めている、と記載されています。

(※レポートの表題は “BANK OF RUSSIA FOREIGN EXCHANGE AND GOLD ASSET MANAGEMENT REPORT” で、表紙を含めて9ページからなるレポートですが、都合により、リンクを張ることについては控えておきます。)

IMFの統計上、ロシアの外貨準備は約6000億ドルですが、ここから特別引出権(SDR)やIMFリザーブポジションなどを除外し、金地金、現金預金、有価証券の3項目に限定したうえで、ロシア中銀とのレポートを組み合わせて2021年6月末時点のロシアの外貨準備を推計したものが、次の図表です。

図表 ロシアの外貨準備の通貨別構成と推定金額(2021年6月末時点、SDR/IMFRP除く)
種類割合推定金額
ユーロ32.30%1942億ドル
21.70%1304億ドル
米ドル16.40%986億ドル
人民元13.10%787億ドル
英ポンド6.50%391億ドル
日本円5.70%343億ドル
加ドル3.00%180億ドル
豪ドル1.00%60億ドル
その他0.30%18億ドル
合計100.00%6011億ドル

(【出所】ロシア中央銀行、国際通貨基金)

凍結されている金額は4000億ドル?それとも…

この推計自体、多少荒っぽい部分もあるのですが、IMFの統計と比べ、さほど大きなズレが生じているわけでもないため、ひとつの資料としては参考になるでしょう。

いずれにせよ、ロシアは西側諸国からの制裁で、6000億ドル前後の外貨準備のうち、その約3分の2に相当する4000億ドル前後を凍結されてしまった、と考えて良く、残り3分の1が金地金(約1300億ドル)、人民元(約800億ドル)、というわけです。

ただ、ロシアの当局者の発言によると、凍結されている金額は4000億ドルではなく3000億ドルだというのです。その証拠が、ロシアの『タス通信』(英語版)に3月13日付で掲載された、こんな記事です。

Half of Russia’s foreign exchange reserves frozen due to sanctions — Finance Minister

―――2022/03/13 21:09付 タス通信英語版より

アントン・シルアノフ財務相は13日、「ロシヤ1TV」のインタビューに応じ、「ロシア中央銀行が保有する金・外貨準備6400億ドルのうちの半額に相当する3000億ドルが、制裁の影響で凍結された」と述べたうえで、「非友好国」に対する債務の利払についてはロシアの通貨・ルーブルで行われると強調したそうです。

このシルアノフ財相の発言、上記の試算とはズレがありますが、その理由はおそらく、シルアノフ財相がSDRとIMFリザーブ・ポジションを合算したベースで述べているためでしょう。また、凍結された金額が上記試算値(4000億ドル)より少ない理由は、通貨別構成が昨年6月から、さらに変化しているためでしょうか?

また、タス通信によると、シルアノフ氏はロシアの外貨準備の一部が人民元建てであると述べたうえで、西側諸国が中国に対し、その使用を制限するように圧力をかけていると指摘。

「人民元で保有している外貨準備へのアクセスを制限する圧力があることはたしかだが、中国とのパートナーシップはこれまでの両国関係を維持するだけでなく、西側の市場が閉鎖的であるときには、両国の協力関係を増やすこともできる」、などと述べたのだそうです。

このあたり、ロシア当局の発表ですので、盲目的に信頼するのは少し慎重であるべきかもしれませんが、ただ、少なくとも外貨準備のうちの3000億ドルが凍結されていることは間違いないといえるでしょう。

「あくまでもルーブルで利息を支払う」

これに加えてシルアノフ財相は、「非友好国」に対し、債務の支払をルーブル建てとすることを巡っては、「外貨準備の使用制限」という「ロシア連邦に対して非友好的な行動」を取っていることと対等な措置である、などと述べたのだとか。

ちなみに、ロイターの報道によると、ロシアは水曜日、2本のユーロ債に関し、1.17億ドル相当の利払を控えているそうです。

Russia says it may have to service FX debt in roubles due to sanctions

―――2022/03/14 21:59 GMT+9付 ロイターより

現実問題として、当初ドル建てで発行された国債を、一方的な措置により、勝手にルーブル建てに切り替えることなどできません。特約でもない限り、あくまでもドル債はドルで元利金を支払わなければならないはずです。

よって、もしもロシアがルーブル建ての利払を強行すれば、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の定義上も、ロシア国債の「デフォルト」ないし「リストラクチャリング」などの「クレジット・イベント」が成立する可能性が濃厚と考えて良いでしょう。

もっとも、たとえばCDSの場合、実務上は「デターミネーション・コミッティ」(DC)、つまり「ロシアでクレジット・イベントが発生したかどうか」を検討する委員会の開催を待つ必要があるため、16日に直ちにロシアの債務不履行が確定するというものではありません。

しかし、これも時間の問題に過ぎず、個人的にはロシアのデフォルトはほぼ確定したようなものではないかと考えています。

ウルトラCは人民元の使用

もっとも、ここで「ウルトラC」があるとすれば、人民元の使用でしょう。

先ほどのロイターの記事には、シルアノフ財相が対外債務の支払をするために、人民元を使用する可能性があると述べた、とする記述があります。具体的には、ロシア中銀が人民元を中国人民銀行から引き出し、それを何らかの方法で米ドルに両替して利払をする、という流れです。

「人民元をどうやって米ドルに両替するのか」という問題点に加え、うまく人民元を入手したとしても、ロシアの主要銀行がSWIFTNetから排除されているなかで、どうやって利金を支払うのかという技術的な問題はあるにせよ、理屈のうえでは考えられなくはありません。

また、「人民元の国際化」を推進する中国にとっても、「渡りに船」(?)でしょうし、今回の措置でロシアに「恩を売る」ことができれば、もしかするとロシア政府が今後、人民元建て国債などを香港や上海あたりで発行することも期待できるかもしれません。

あるいは、ロシア以外の「無法国家」も、外貨準備の凍結を避けるために、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランといった国際通貨ではなく、金や人民元での外貨準備の保有を増やすという動きが生じるかもしれません。

平たく言えば、人民元が「制裁逃れ通貨」としての地位を高める、という可能性がある、ということでもあります。

その意味では、IMFもそろそろ、2016年に人民元をSDRに組み込んだことの失敗を認めた方が良いのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    インド、ロシア産原油の輸入検討 割引価格で
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB14BPW0U2A310C2000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1647299551

    中国がロシアに協力するなら制裁対象にすると米国がほのめかし始めています。でも今のアメリカでは、実際どこまでやれるかはよくわかりません。

    これに加えて、FOIPの一員であるはずのインドも、実は自由人です。
    FOIPは試練のときかもと思いました。

    1. 引っ掛かったオタク@ほーかーしどれーなっと! より:

      インドとしては別に自由人云々ではなくパキスタンにロシア製兵器を大量流入されにくくすべく安全保障の一環として(併せると使いづらいのを許容して)ロシア含む各方面から兵器購入してきただけで、それもまた生存戦略かと

  2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    契約書と違う通貨での支払いは払ったことにはならない

  3. 匿名ですみません より:

    ロシアを助けちゃったら何かしらの制裁もありそうな気もしますが・・・。

  4. ぶるーずおやぢ より:

    ロシアが戦ってる相手は、ウクライナを利用してるグローバルエリート連中なんだから、当然と言えば当然の振る舞い。グローバルエリートが、世界の善良で無能な庶民に何をしてきたかを見れば、いわゆる西側のお偉いさん達が言ってるきれい事なんかちゃんちゃらおかしい。無法者とされている国家の指導層がグローバルエリートよりましかどうかは別途かつ個別に検討する必要はもちろんあるが、無法者とされてきたリビアやキューバが自国の庶民にどんだけ優しかったかということは、知っておいたほうがいい。

    1. ぶるーずおやぢ本人 より:

      ちゃんちゃらおかしいと分かった上で、日本の庶民のために少しでもましな支配層の支配に服する。そういう意味で、安倍首相の方針を支持する。

    2. 世相マンボウ。 より:

      ほほう?
      今の世界の人々の平和への合言葉が
      「くたばれプーチン!」の中で、
      無法者国家とは友愛結ぶ
      鳩ポッポさんのような
      なんともちゃんちゃらおかしい
      ズロースおやぢさんの
      ご意見ですなあ(笑)

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