台湾首相「台湾は独立国」=ロシア非友好国リスト受け

ロシアの非友好国リストに台湾が含まれていたことが、思わぬ効果をもたらしたようです。世界の目が集まっていると思われるこのタイミングで、台湾の蘇貞昌(そていしょう)行政院長は8日、記者団に対し「台湾は主権独立国家だ」、「世界中がそれを知っている」と主張。さらに台北駐日経済文化代表処の謝長廷(しゃちょうてい)代表に至っては、「世界が経済制裁をすれば中国は崩壊する」と発言したそうです。

ロシアの非友好国リストに台湾が含まれた!

ロシアが「非友好国」リストを発表した、とする話題については、昨日の『「借金踏み倒し宣言」?ロシアが非友好国リストを公表』でも「速報」的に取り上げ、また、今朝の『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』では、ロシアの措置の影響について、やや深く掘り下げてみました。

https://shinjukuacc.com/20220309-01/

その金融面からの影響、中国との関連での考察などについては、是非ともご一読くださると幸いです。

さて、本稿で改めて取り上げておきたいのは、タス通信に含まれた「非友好国リスト」の記載ぶりです。

Russian government approves list of unfriendly countries and territories

The countries and territories mentioned in the list imposed or joined the sanctions against Russia after the start of a special military operation of the Russian Armed Forces in Ukraine<<続きを読む>>
―――2022/03/07 20:08付 タス通信英語版より

「中国の一部だが別の政府」:何とも苦しい言い分

タス通信によると、「非友好国リスト」に米国、欧州連合(EU)、英国、日本などを列挙したほか、台湾についても次のように記述しています。

Taiwan (considered a territory of China, but ruled by its own administration since 1949)

いわば、「台湾は中国領であると考えられるものの、1949年以降は独自の政府により統治されている」、といった説明です。

中国はロシア制裁に加わっておらず、また、いざというときには外貨準備と中露通貨スワップをあわせ、最大で1000億ドル相当の外貨を供給してもらう必要があるためか、「台湾は中国の一部」と書かざるを得ない一方で、「非友好『国』リスト」に含めざるを得ないという点で、何とも苦しい立場にあるようです。

蘇貞昌氏「台湾が国家であることは世界中が知っている」

こうしたなか、台湾メディア『中央通訊』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

ロシア指定の「非友好国・地域」に台湾 蘇行政院長「台湾は国」

―――2022/03/08 14:12付 中央通訊日本語版より

中央通訊によると、台湾の首相に当たる蘇貞昌(そていしょう)行政院長は8日、立法院院会(国会本会議)前に報道陣の取材に応じ、ロシア・タス通信の報道で台湾がリストに含まれたことに関し、「台湾が国家であることは世界中が知っている」と指摘。あわせて「台湾は主権独立国家だ」と述べたのだとか。

「台湾は主権独立国家」。

大変に歯切れが良い発言です。

このあたり、台湾の与党・民主進歩党(民進党)に関しては、西日本新聞の2012年4月29日付の『ワードBOX』によれば、発足当初は「台湾共和国建設」を掲げていましたが、「現在は『台湾はすでに主権独立国家』との認識に立っている」、と記載されています。

蘇貞昌氏のいう「主権独立国家」の在り方が、「中華民国」を指すのか、それとも「台湾共和国」を指すのかについてはよくわかりませんが、文脈から判断して、あるいは民進党関係者の普段からの発言に照らして、「台湾は中国とは別の国だ」との認識を示したものと考えて良いでしょう。

駐日台湾大使は「世界の経済制裁で中国は崩壊」

その一方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、台湾にとっては他人事ではありません。

こうしたなか、台湾の駐日大使に相当する台北駐日経済文化代表処の謝長廷(しゃちょうてい)代表の発言も、興味深いです。

謝駐日代表「世界が経済制裁すれば中国は崩壊する」/台湾

―――2022/03/08 18:50付 中央通訊日本語版より

同じく中央通訊によると、謝長廷氏は7日、台湾メディアとの懇親会で、「中国がロシアのように世界から経済制裁を受けた場合、中国は崩壊する」との「一般的な見方」を示したのだそうです。

謝長廷氏はまず、「中国が台湾を攻撃する」という仮説について、「あらゆる角度から検証しなければならない」が「絶対に不可能だとは言えない」、「心の準備が必要だ」と指摘。

ただ、「きょうのウクライナはあしたの台湾」としつつも、中国が台湾への武力侵攻をたくらんだ場合でも、中国自身、「(米国などからの)経済制裁への備えと対策が必要」としつつ、それらは「短期間で達成できることではない」と述べたのだそうです。

考えてみれば、これもある意味では真実を突いた発言です。

謝長廷氏の述べるとおり、台湾はハイテク産業の集積地であり、また、中国自身が設定する「第1列島線」において大変重要な地政学的位置を占めています。米国にとっては台湾は中国から防衛すべき場所であることは間違いありません。

日台関係の重要性を改めて認識すべき

そして、日本にとっても同様に、台湾は大変に重要な場所です。

このあたり、昨年4月に訪米した菅義偉総理がジョー・バイデン米大統領との間で台湾海峡の重要性にコミットしましたが(『台湾防衛にコミットした日本:日米同盟は経済同盟に!』等参照)、まさにウクライナ戦争は、日本にとってはこうしたコミットに対する覚悟を試される事態でもあります。

だいいち、台湾は日本にとって、地政学的にはシーレーンの要衝でもありますし、中国、韓国、ロシア、北朝鮮といった「無法国家」に直面しなければならない日本にとって、台湾は数少ない、基本的価値を共有する重要な隣国です。

実際、日本政府は昨年、『令和3年版外交青書』のなかで、台湾を「基本的価値を共有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けました。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(『令和3年版外交青書』P55)。

そして、台湾は日本と基本的価値を共有するだけではありません。

東日本大震災での台湾から日本への支援、コロナ禍でのワクチンの日本から台湾への提供といった「善意の連鎖」に加え、昨年を通じ、日本にとっては3番目に重要な貿易相手国に浮上する(『「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上』参照)など、相互に重要な国となりつつあるからです。

そして、ロシアが台湾を「非友好国」リストに含めてしまったことで、台湾を事実上の「国」と認めただけでなく、「ロシアが敵視する自由・民主主義国家群」における台湾の存在感が、さらに高まった格好です。

このように考えるならば、日本は台湾との関係の重要さを、改めて認識する好機と言えるかもしれません(※菅総理の後継者である岸田文雄・現首相に、その自覚がどこまであるのかについては、よくわかりませんが…)。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 犬HK より:

    都合のよい時だけ国扱いしたってことでしょ

  2. 通りすがり より:

    あえて機微に触れる書き方をしたのではないでしょうか。またロシアにも落としどころがあることを感じさせます。

  3. より:

    おそらく中国政府は事態の推移を相当困惑した目で見ていることだろうと思います。なにしろ、中国はエネルギーや食糧の大輸入国であり、それらに依存しきっています。従って、現在ロシアが食らっているようなレベルの制裁を受けたら、たちまち国が立ち行かなくなります。内陸部の貧しい農村はいざ知らず、それなりに豊かな生活を送っている沿海部の住人に、文革以前の生活に戻れと言っても、およそ受け入れてもらえないでしょう。
    中国政府は以前から、いざとなったら台湾還収に武力行使も辞さずと高言してきましたが、台湾への武力侵攻開始と同時に非常に厳しい経済制裁を受けかねないという実例が眼前に展開されているわけです。おそらく、戦略の根本的再検討を余儀なくされているだろうと思います。
    なので、現在までのところ、中国政府がロシアに同情的ではあるものの明確にロシア支持を打ち出していないのは、明言しないのではなく、明言できないのだろうと思います。現時点で明確にロシア支持を打ち出せば、これ幸いとばかりに二次制裁を食らうことが確実であり、そのような制裁に対応する準備が全くできていないのでしょう。

    昨年秋以降、中露間の貿易量が急増しているという情報があります。ある意味、間接的なロシア支援と言えなくもありませんが、ロシアの窮状を完全に救うには程遠いでしょう。そして、おそらくはその逆もまた真です。つまり、現時点でほぼ確実と思われるのは、中国は国際的経済制裁に対して、ロシアほどの耐性を持ってはいないだろうということです。
    この点が誰の目にも明らかになったというのは、東アジアの戦略環境に微妙な影響を及ぼすかもしれません。

    1. はにわファクトリー より:

      龍 さま

      >これ幸いとばかりに二次制裁を食らう

      「幸い」とそう判断するのは日本国政府ですよね、そう言ってますよね。

    2. 誤星紅旗 より:

      つい先日のBSフジプライムニュースにて、神田外語大の興梠教授の見たては、香港での民主化運動鎮圧の過程で中共は西側諸国による中国への経済制裁はない(できない)と自信をつけている。ウチに篭り西側への依存度を下げたてきたロシアと対照的に、中国は西側経済との一体化を促進して、チャイナへの経済制裁をした際に制裁した側が耐え難き痛みを感じるレベルにまで西側と経済の財布を一体化させる狙いがあるようなコメントをされていました。
      防大の村井教授は現状はそうかもしれないが台湾に侵攻した場合の世界の動きは必ずしも制裁をしないとは言い切れず、いまのロシアに対する世界中からの経済制裁の状況を注視しているであろう。との見立てでしたね。

      1. Sky より:

        今回は濃い内容でした。改めて昼休みにwebのダイジェスト版を視ようと思います。

      2. より:

        単にモノの出入りを止めるというだけであれば、中国としては「どうせできっこないし、されたとしても持ちこたえられる」と思っていたかもしれません。でも、金融面での制裁の威力に、中国は愕然としたのではないかと思います。中国からエネルギー資源を買っているのは北朝鮮くらいだと思いますので、対ロシア制裁のように、決済ネットワークに大穴を空けておくなんてことは期待できません。しかも、中国が保有する大量のアメリカ国債は、いざとなれば、アメリカは大統領令一発でチャラにできてしまいます。と言って、CIPSはSWIFTを代替できるようなシステムにはまだなっていません。ドル決済ユーロ決済のネットワークから排除されたら、中国としては代替手段がないのです。
        まあ、いくつかの国は人民元での決済に応じてくれるかもしれませんが(某半島の国とか)、決済不能のためにエネルギー資源輸入ができないとなると、備蓄分を食いつぶすだけとなり、おそらく数か月しか持ちません。
        もちろん、制裁を科した側の経済も混乱するでしょう。細かな品目ごとの影響はわかりませんが、中国産の安物が入ってこなくなれば、全般的に物価が高騰することはまず間違いないでしょう。でも、経済的に枯死しかねない中国よりはマシとなりそうです。

        もっとも、そこまで中国を追い詰めると、破れかぶれで何やらかすかわからないという別のリスクも生じるでしょうが。

        1. 誤星紅旗 より:

          1980年代以前の(改革解放前の)幼少期の記憶が蘇りました。存在しなくても支障がない共産中国と『安かろう悪かろう』の made in 香港製品。
          豊かさに慣れた今の中国は人民公社の時代に戻れるでしょうか。仮に日中経済圏の断絶(デカップリング)を迎えたとしても日本の物価は多少上がるかもしれませんが生存を脅かされるものではないと感じています。日本はチャイナなしでもやってこれたのですから。子孫の末永い安全安心と引き換えに日本を侵略する野心を持つ国の経済発展に尽くす必要はないのです。

      3. 元ジェネラリスト より:

        興梠氏は中国が考える解は「西側との経済の一体化」と言っていたんだと思います。
        今回も結局、SWIFT排除を抜け道のある象徴的なものにしてしまったのは、エネルギーでした。
        中国は、今回もそれをよく見ていると思います。

        ロシアの場合は経済的に食い込んでいたのはエネルギーくらいでしたが中国は民生品のサプライチェーンにガッチリ食い込んでいます。

        中国もそれで大丈夫とは思っていないでしょうが。

  4. 引きこもり中年 より:

    素朴な疑問ですが、中国は「ロシアが、中国(の一部)を、非友好国、または潜在的敵国と認定した」と非難しないのでしょうか。

  5. ひろた より:

    先日マイクポンペオ元国務長官=次期大統領選に意欲的が台湾を訪問していました。現在はマイクペンス元副大統領がイスラエル訪問中。
    現在、アメリカの情報部トップ=国家情報部長官、CIA長官が議会で中国の台湾侵攻について発言しました。
    https://www.washingtonexaminer.com/policy/defense-national-security/ukraine-invasion-may-give-china-pause-over-taiwan-spy-chiefs-suggest

    実際には議会で質問が出るくらいに深刻に考えられているのだと思います。

  6. 誤星紅旗 より:

    頭の体操、戯言つぶやきです。
    『台湾は中国の不可分の一部(併合)』というファンタジーと『台湾の独立(現状維持)』の二者択一の対立であれば中共の経済力が強大である限り併合に振れてきそうですが、ここにもう一つ『日本への復帰』という中共が絶対に飲めない選択肢を追加してみたらどうでしょう。もちろん日本側として諸手をあげて賛成できる内容ではありませんしかなり法的にも現実離れした無理筋であることは承知しています。(ポーランドのごとく最前線で好んでロシアの逆鱗に触れる必要がないのと同様に。また日台統一は2000万住民のうち中共になびく反日層を国内に取り込んで良いのかというトロイの木馬問題もでてきましょう)
    この3つの選択肢で、併合(中台統一)が容易でなければ、日本ごときに台湾を獲られるくらいであればまだ統一の芽が残る現状維持(という事実上の独立)を中国本土の意志として一定の支持が得られるような働きかけをしてみるのも頭の体操として面白いのではないか、と考えてみました。

  7. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    国又は地域。と発表すれば良かったのでは?
    オリンピックやワールドカップで地域での参加が普通にあるじゃん
    香港とかスコットランドとか

  8. gommer より:

    『きょうのウクライナはあしたの台湾』
    とも言えるし
    『きょうのウクライナはあしたの中国』とも言えます。その場合に台湾はドネツク、ルガンスクとの対比になる訳ですが。

    「お前らロシアを支持するんだから俺達の独立にも文句無いよな?」

    中国がロシアを積極的に支援する場合、台湾が上手いこと立ち回れば独立の方向で国際的な地位を向上出来るかもしれません。

    余談ですが、戦後秩序に則れば、軍事力で他国に侵攻した国には他の国連加盟国が連合してボコらなきゃいけません。北方領土の解決ってその辺りにしか道がないだろうと思ってます。

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