自由で開かれたインド太平洋巡る米国版と日本版の違い
同じ「自由で開かれたインド太平洋」でも、日米で微妙な違いが出たようです。米国政府が先週公表した『インド太平洋戦略』と題する文書では、「米国が連携を深める5つの同盟国」として、日豪に加え、韓国、フィリピン、タイの3ヵ国を列挙。また、台湾を含めた地域各国との連携にも踏み込みました。これについて、どう考えるべきでしょうか。
日本が提唱したFOIP
当ウェブサイトでは以前から何度となく報告してきたとおり、「自由で開かれたインド太平洋」、あるいは “a free and open indo-pacific” を略した「FOIP」については、麻生太郎、安倍晋三、菅義偉の各総理らの「置き土産だ」、と考えています。
この「FOIP」、もともとは麻生総理が第一次安倍内閣で外相を務めていた2006年11月に提唱した「自由と繁栄の弧」を下敷きに、安倍総理が第二次内閣発足後に提唱した「セキュリティ・ダイヤモンド」構想をさらに発展させたものです。
そして、米国のドナルド・J・トランプ政権下で、「安倍-トランプ」蜜月時代に、FOIPの構想が日米で共有され、さらには安倍総理の後継者である菅総理が、このFOIPを日本の国家戦略に据えたのです(『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』等参照)。
このFOIPでは、「地理的な近さ」ではなく、「共通の価値」を持っているかどうか、という点が重視されます。
たとえば、日本から見て地理的に近い国としては、ロシア、韓国、北朝鮮、中国、台湾などがありますが、これらのなかで日本が現在、「基本的価値を共有しているパートナー」と規定しているのは台湾のみであることからもわかるとおり、「価値を共有している相手国」は、日本にとっては大変に貴重です。
ただし、日本政府が公表しているFOIPに関する概念図では、台湾を含めた近隣国が明確に排除されていますが(図表)、その理由はおそらく、日本政府が現在のところ、台湾を公式には「国」とは認めていないためでしょう。
図表 FOIP
(【出所】防衛白書)
正直、岸田文雄現首相自身がこのFOIPについて、どこまで理解しているのかはわかりませんが、それでも著者自身は、時期が来れば台湾もいずれは日本政府が提唱するFOIPに包含されるのではないかと睨んでいる次第です。
米国版FOIP、日本版との違い
こうしたなか、先週、米ホワイトハウスは「インド太平洋戦略」(Indo-Pacific Strategy)と題する文章を公表しました。
この「インド太平洋戦略」、冒頭に “a free and open indo-pacific” というキーワードが出て来るため、ベースとなるのは安倍総理のFOIPであることは明らかですが、ただ、日本が提唱するFOIPとの大きな違いは、そこに包含されている国です。
この点、「日本版」のFOIPとの違いは、インドに対する扱いがやや軽いこと、「日本版」では出て来なかった韓国、タイ、フィリピンなどの名前が出て来ることにあります。
すでに一部のメディアに報じられているとおり、米国がインド太平洋を「自国の繁栄のために重要な地域」と位置づけるもので、連携を深めるべき相手国として豪州、日本、韓国、フィリピン、タイの各国を列挙。
さらには、インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ベトナム、太平洋島嶼国についても連携相手としているほか、日米豪印の「クアッド」の仕組みについても、コロナ対策を含めさまざまな分野で連携を深める、などとしています。
いずれにせよ、米国が台湾を戦略のなかで明示したことを受けて、日本が将来的に台湾をFOIPの一員として扱うためのハードルは、また一段階下がった格好です。
日韓連携を強制する米国
もっとも、この文章を読んでいて、やはり気になるのは、9ページ目にある、こんな記述です。
“We will also encourage our allies and partners to strengthen their ties with one another, particularly Japan and the ROK”.
意訳すれば、「とくに日韓関係のように、我々の同盟国同士・パートナー同士の関係を強化することが必要だ」、といったところでしょうか。
このあたり、米国がFOIPを換骨奪胎し、必ずしも基本的価値を共有しているとは限らない国を、勝手にFOIPに含めようとしているのではないか、といった点は、非常に気になります。
そして、当たり前の話ですが、日本がどの国と連携するかについては、米国ともよく話し合う必要があることは間違いないにせよ、米国から直接指図される話ではありません。この9ページ目の記述は、米国として明らかに踏み込み過ぎでしょう。
もしも米国が本気で、「同盟国相互間の関係」を指図するつもりがあるならば、「約束を破る国」に対しては「約束を守らせる」べきでしょう。
とくに、2015年12月に日韓両国が取り交わした慰安婦合意については、日本側の責任者だった外相が現在の岸田首相であり、それを仲立した当時の副大統領が、ジョー・バイデン大統領その人でもあります。
少なくとも慰安婦合意が破棄されたことに関しては、日本の過失はゼロであり、もしも日韓関係を「修復する」必要があると米国が言い張るならば、その前提として韓国が慰安婦合意を履行することが必要であり、その連帯責任が、バイデン氏自身にもあることを忘れてはなりません。
岸田首相、林芳正外相が、このあたりの事情を踏まえ、きちんと米国に対し、主張すべきを主張することができているのかどうかについては、非常に心もとない限りではあります。
ただし、総合的に見れば、米国自身がFOIPの用語を使用したこと、クアッド重視の姿勢を打ち出したこと、日本を「同盟国」に位置付けたこと、台湾を連携相手に含めたことなどは、基本的に日本のFOIPをさらに強化するのに役立ちます。
なにより、中国の軍事的な野心という脅威は日増しに高まっており、日本としても、日米関係を基軸としつつ、豪州、インド、台湾を筆頭とする友好国との関係を強化することは避けられません。その意味では、日本もこのインド太平洋戦略をうまく生かしていくしたたかさが必要であることは間違いないでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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日本国内においての「朝鮮半島生命線論」がたどる今後の推移変遷なんぞよりも、
米国内での「大韓民国橋頭堡論」がどの程度モチコタエ(鈴置視点?)あるいは伸長展開(拡大マハン?)するのか??
の方が怖心ニラヲチ対象になりそう???
仕方ないです。 日本は基本理念が一致した国とだけ相手をしたい。
米国は理念なんてクソクラエ!! 物量(数量)が多い事が正義だ!!
第二次大戦の日本の方針と米国の方針の違いみたいなものです。
当時アジアに独立国が「タイ」しかなく、巨額の費用と年月を費やしたにも関わらず
あの半島は全く使えない存在だし、台湾から義勇軍を入れ、ほぼ日本単独で戦争!!
米国は余裕満点で英国等欧州の国々や敵国ソ連とも組み、数は正義!!で
片手間に日本と戦争!
テスト勉強と同じで外交戦略も、傾向と対策が昔から変わらないモノである事。
面白い視点です。
本件のような、軍事安保にも関わることで、米国は、自身の軍事基地がある国を記載しない、というわけにはいかないと思います。
現時点で、少なくともアメリカの側から米韓同盟を破棄する予定はない以上の意味はないように思います。対中国ということでは軍事的重要性はそれほど大きくないにせよ、平澤・烏山両基地をわざわざ放棄することもないでしょうから。最低限に見積もっても、外交カードとしての使い道はありますしね。
また、FOIPにしても、価値観の共有ということに過度に囚われない方が良いと思います。「価値観の共有」が参加国にとって一定の大義名分を与えることは事実ですし、選別に当たっての口実としても使えるでしょう。だからそのような旗印を掲げることをあえて否定も反対もしませんが、ある種便宜的に、悪く言えばご都合主義的になり得ることを予め想定しておくべきだと思います。実際、アメリカは戦後だけでも非民主国家に対する支援を実施してきた実例が山ほどあります。都合の良い時だけ「美しい言葉」を振りかざすことを厭わない国です。日本としては、そういうもんだと思って臨むべきでしょう。むしろ、「価値観の共有」という観念に固執しすぎると、必要になるかもしれない外交的柔軟性を失いかねません。
たしかにそうですねー。
日本:味方は誰でもいいわけじゃない。選別するよ!
米国:極論すれば味方は誰でもいいさ。なってくれれば。
こういう感じでしょうか。
軍事力・経済力・その他などで現状を変更したがる勢力との対峙は、軍事も経済も米国主導ですので米国が許容する範囲内で日本の主張をしないといけませんね。
なので「日本は韓国・北朝鮮とは価値観を共有しません。絶対に!なにがあっても!」的な主張は、局面によっては米国から嫌がられることもあると言うことを心の片隅に置き、かつ状況によっては主張を引っ込めるというオプションを採用する準備をしておかないといけませんね。主役じゃないから仕方ない。。
日本から見れば、様々な意味で韓国とは価値観を共有していないということが明らかになりつつありますが、アメリカは投票箱さえあれば”民主主義”と認定しちゃう国です。なので、韓国を忌避しようとする場合に、「価値観の非共有」を訴えるのはあまり得策ではないかもしれません。それよりも、「だって韓国に情報を流したら、そのまま中国や北朝鮮に筒抜けになるじゃん」と言った方がアメリカに対しては説得力があると思います。その筒抜けっぷりはアメリカのほうがよく理解しているはずですから。
アメリカの「インド太平洋戦略」に韓国が含まれているのは、単に「枯れ木も山の賑わい」程度の意味しか無いと思います。そうです、韓国は既に「枯れ木」なのです。
“We will also encourage our allies and partners to strengthen their ties with one another, particularly Japan and the ROK”.
を誰に向けて言っているのか、ここがポイントですね。
日本人は真面目に自省しがちですが、外務省は正しく把握しているか?
”条約を守らない・合意を守らない・嘘つき国”だけ、に向かって言っている筈だが、仮に、もし、そうでなかったら、外務省は廃止して”防衛省・儀典局”で良いのでは。
常々外務省は防衛省の外局にと思っていましたが 儀典局は思いつきませんでした。なるほどです。ボルトンも「外国政府の視点を米国の視点より重視するという、国務省特有の一種の病である”依存相手国過信症”」と言っていて 民主国家共通の症例のようです。
日本にとってはFOIPは東南アジア(東・南シナ海)守護の枠組みなので、日米的価値観の共有はともかく対象が中国が安全に対する脅威であるという価値観を共有する東南アジアに広がっていくのは素直に歓迎したいところですね。韓国は特にそうだけど、中国に何をされるかわからないから顔色を伺っている国は多いですから、自由に物を言っても大丈夫だよという場作りは大切。米国がタイとフィリピンを挙げたってことはベトナムは日本担当になるのかな?
ベトナムはアメリカ的には核を持たない北朝鮮では?