「北京証券取引所」構想と久しぶりに目にした一帯一路

人民元市場の対外開放の方が先では?(それができるかどうかは別として)

中国の習近平(しゅう・きんぺい)政権が推し進めている「世界戦略」のなかに含まれる構成要素のうち、代表的なものを2つ挙げれば、一帯一路とAIIBではないかと思います。このうち、一帯一路については久しぶりに報道がありました。習近平氏が昨日の演説で、一帯一路やデジタル人民元構想の推進と並んで、「北京証券取引所」を設立する構想などを述べたのだそうです。正直、それより先にやることがあると思うのですが…。

一帯一路とAIIB、いったいどうなった!?

中国の習近平(しゅう・きんぺい)政権が推し進めている「世界戦略」にはいくつかの種類があるのですが、そのなかでも最も「華々しく」登場したものを2つ挙げるとしたら、「一帯一路」と「AIIB」でしょう。

このうち「一帯一路」、英語では “Belt and Road Initiative” と呼ぶらしく、、英米圏では「BRI」などと略されているようですが、これについては以前の『行き詰まる一帯一路構想と中国に失望する中・東欧諸国』などでも取り上げたとおり、どうもその定義自体が曖昧模糊としていて、経済構想としてはうまく行っていません。

また、「AIIB」は、中国が主導して設立した国際開発銀行「アジアインフラ投資銀行」(Asian Infrastructure Investment Bank)の略称ですが、『一帯一路との連携もないAIIB、「コロナ特需」一巡』でも指摘したとおり、融資の伸びは順調とはいえません。

だいいち、中国は2015年ごろ、人民元の国際化を熱心に進めていたはずなのに、現時点におけるAIIBの融資の圧倒的多数は米ドル建てであり、少なくとも今年3月時点で人民元建ての融資はただの1本もありません。

もちろん、相手が相手だけに、「現時点でうまく行っていない」という理由で、未来永劫、それらがうまく行かないと決めつけるべきものではありません。

ただ、安倍晋三政権やその事実上の後継政権である菅義偉政権が、AIIBや一帯一路などの構想から一貫して距離を置いてきたことは、あながち間違いとは言えなかったのかもしれません。

一帯一路の「実現性」

さて、以前の繰り返しですが、このうちの一帯一路については、調べても抽象的過ぎ、今ひとつ、中国が何を目指しているのかがよく見えて来ません。

たとえば、中国国務院ウェブサイトの次のページには、一帯一路の「フルテキスト」が掲載されています。

Full text: Action plan on the Belt and Road Initiative

―――2015/03/30 19:31付 中国国務院ウェブサイト英語版より

ダラダラとした長文ですが、一帯一路について定義あるいは理念を謳っているのは、おそらくは次の文章でしょうか。

The Belt and Road Initiative aims to promote the connectivity of Asian, European and African continents and their adjacent seas, establish and strengthen partnerships among the countries along the Belt and Road, set up all-dimensional, multitiered and composite connectivity networks, and realize diversified, independent, balanced and sustainable development in these countries.

意訳すれば、次のとおりでしょう。

一帯一路はアジア、欧州、アフリカ大陸とその隣接海域の接続を促進し、一帯一路に沿った地域間のパートナーシップを確立・強化し、あらゆる次元における多層的・複合的な接続ネットワークを確立・構成し、これら諸国に多様で独立で均衡が取れ持続可能な発展をもたらすことを目的としている」。

なんだか、抽象的過ぎてよくわかりません。

これについてもう少し調べていくと、中国国務院報道局の英語版ウェブサイトに設けられた “How the world will benefit from China’s Belt and Road?” というページに、こんな地図が掲載されているのを発見しました。

図表 「新シルクロードと21世紀の海上シルクロード」

(【出所】中国国務院報道局英語版ウェブサイト “How the world will benefit from China’s Belt and Road?” )

さりげなく、日本が完全に無視されているというのも大変興味深い点ですが、それだけではありません。

ツッコミどころとしては、ほかにもいくつもあります。たとえば海路については、スエズ運河やマラッカ海峡などは、中国とは無関係にすでに通路として確立していますし、南シナ海に関しては、むしろ中国が違法な海洋進出を通じて航行の自由を妨げている側でしょう。

また、陸路に関しては、明らかにそこは欧州とアジアを結ぶ「最短ルート」ではありませんし、シベリア鉄道に関しても完全にその存在を無視されています。現在話題のイランやアフガニスタン周辺などを含め、わざわざ地政学的に不安定な箇所を結ぶというのも、なかなか面白いセンスです(※皮肉です)。

また、せっかくご自慢のAIIBなる組織があるのですから、たとえばAIIBがこのユーラシア大陸南部を結節するインフラなどに金融を付ければ良いのに、という気がします(※もっとも、現実にAIIBがこれらの地域を有機的に結節するためのインフラ金融戦略を取っている形跡はありませんが…)。

中国版NASDAQ?習近平氏の野心的な構想

さて、なぜ唐突にこの「一帯一路」を思い出したのかといえば、こんな報道を発見したからです。

「北京証券取引所」の設立表明 中国主席

―――2021年09月02日22時32分付 時事通信より

中国の習主席、北京証券取引所の設立表明 中小企業向け

―――2021年9月3日9:03付 ロイターより

これらの記事によると、習近平氏は2日、北京のイベントでビデオを通じて演説し、首都・北京に証券取引所を開設する考えを明らかにしたのだとか(中国版NASDAQでしょうか?)。

このうちロイターの記事によれば、北京にすでに存在している中小企業向けの株式店頭取引市場「新三板」を拡張することなどが選択肢の1つとして検討されていると「関係筋」が述べたのだそうです。

また、ロイターによると、習近平氏の演説では、次のような項目にも触れられたのだとか。

  • 高い基準を持つ国際自由貿易協定と国内のルールを整合させる
  • デジタル貿易の実証地域を構築する
  • 一帯一路参加国のサービス部門の成長に向けた支援を拡大する

抽象的過ぎて今ひとつ理解が追い付かない部分もありますが、おそらく野心的(?)なプランなのでしょう。

金融覇権握るなら避けて通れない「人民元の国際化」

さて、じつは、中国は中央銀行電子通貨(CBDC)の取り組みで世界をリードしている国ではあります。おそらく、「デジタル貿易の実証地域の構築」とは、中央銀行電子通貨を使って国際的な商取引に私用するという実証実験も含まれているのでしょう。

ただ、先日の『「デジタル人民元」は国際犯罪の温床となるのが関の山』でも報告したとおり、中国の通貨・人民元は、2015年ごろから「国際化」の動きがストップしており、資本市場では国際的な通貨とはとうてい言えない状況が続いています。

というよりも、もしも中国が本気で金融面におけるドル依存を脱却しようと思うなら、CBDC構想や一帯一路、デジタル貿易やAIIBなどの「浮ついた話」よりも先に、「人民元建て債券市場」の国外市場参加者への開放を進めなければなりません(それができるかどうかは別の話ですが)。

いずれにせよ、この「本当の課題」を先送りにしたままで、中国が金融面で覇権を握ることは困難でしょう。

いずれにせよ、一帯一路やAIIBについては、現状、日本としてはとりあえず静観していても、実害はないと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. とある福岡市民 より:

    一帯一路とAIIBの共通点
    目的…覇権主義、世界支配
    結果…竜頭蛇尾、羊頭狗肉、画餅

    1. りょうちん より:

      上海協力機構というのもお忘れ無くw

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