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【読者投稿】流行状況の把握を歪める「多数の偽陽性」

大切なのは「国民情緒」ではなく「事実」です

当ウェブサイトでは読者投稿を歓迎しており、読者投稿要領等につきましては『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』にまとめているとおりです。さて、例の「武漢肺炎」を巡り、これまで合計12本の読者投稿を寄せてくださった「伊江太」様というハンドルネームの読者様から、約1ヵ月ぶりに「13報」をご投稿いただきました。

読者投稿につきまして

当ウェブサイトは「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に運営していますが、当ウェブサイトをお読みいただいた方々のなかで、「自分も文章を書いてみたい」という方からの読者投稿につきましては、常時受け付けています。

投稿要領等につきましては、『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』等をご参照ください。また、読者投稿は窓口( post@shinjukuacc.com )までお寄せ下さると幸いです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、本稿では、「伊江太」様というハンドルネームの読者様からの13本目の投稿を掲載したいと思います。ちなみに伊江太様からは、次のとおり、過去に12本の論考をご投稿いただいています。

伊江太様から:「データで読み解く武漢肺炎」シリーズ

第1稿によると、伊江太様は某国立大学医学部の微生物関係の研究室での勤務経験を通じ、実際にウイルスを扱っていたそうです。そして、これまでの投稿でもわかるとおり、どの論考も力作ぞろいで、とくにデータで解明するプロセスは、いつもながら圧巻です。

若干数式が出てくるため、見た目は難しいのですが、豊富でわかりやすい図表が理解を助けてくれるはずです。さっそく、読んでみましょう(なお、原文、タイトル、小見出し等につきましては、当ウェブサイト側にて修整している箇所もありますのでご了承ください)。

今の検査の判定結果など当てにならないことを、もういい加減に認めたら~数字で読み解く武漢肺炎(第13報)

「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」という言葉。

政治アナリストの伊藤惇夫氏の作だそうですが、もっともらしい言葉に聞こえます。

「数字で読み解く~」などというタイトルの文章を書いている身には耳の痛い言葉です。

純論理学的に言えば、この警句はもちろん真実ではありません。後半部分の対偶が「数字を使わなければ嘘つきではない」となることを考えれば、偽であることは明らかです。

前半の「数字は嘘をつかない」は、数字が捏造や改竄の類いでない限り、真の命題と言えそうに思えますが、もしそうなら、「嘘つきは数字を使えない」としなければおかしい。多少表現は煩わしいが、「嘘つきは数字に誤った意味を与える」とするなら、2つの部分は一応矛盾なく繋がりそうです。

このサイトのウォッチャー諸氏なら、国の歳入から歳出を引いた値がマイナスなら、それを「財政赤字」とよぶ限り間違いではないが、それを「国の負債」、「国民の借金」と言い換えると、意図的かどうかはともかくとして、一種の詐欺行為に当たるといった例がただちに頭に浮かぶでしょう。

読者投稿欄に掲載いただいている論考の当初から、わたしが問題にしているのは、この武漢肺炎という疾患が、なぜ日本では欧米のような勢いで拡がらないのかということでした。

そして、ときに海外の状況も参考にしながら、日々発表される国内の感染に係わる数値を追っているうちに、PCR、のちには抗原検査も加わった、武漢肺炎の検査で出てくる「陽性判定の数字」を、「感染者の検知」とイコールと捉えてしまうと、かなりのというか、ものすごい水増しを数えているのではないかという疑いをもつようになりました。

科学的、客観的手段を用いて公にされた数値、これに誤った意味を付与することで犯された、悪意なき「犯罪」。その指紋とでも言うべき具体的痕跡をデータの中に見つけたというのが、前稿『【読者投稿】データで読む武漢肺炎「第4波到来せず」』の骨子でした。

本稿で指摘したいのは、これが単に感染者数を膨らませて見せているだけでなく、流行状況の把握そのものを、著しく歪めてしまっているのではないかという点です。

まずはお詫びから

数字を使って嘘をつくということを言い始めれば、まずもってお詫びしなければいけないのはわたしです。うかつにも、前稿に「感染拡大第4波なんて来ちゃいない」などというタイトルを付けてしまったのですから。

大阪府を中心とする関西圏で今起きている感染急拡大は、重症、死亡を伴う、間違いない本物です。関西圏に他の地域と違った感染動向が現われていたことは、前稿を書いた時点で気付いていなければならなかったもので、これは明らかにわたしのミスと言わなければなりません。

一方で、首都圏を含めその他の地域では、2月以来の感染減少傾向はそのまま続いているか、少なくとも急速な反転には向かっていないと見ます。

以下、徹底的に「数字」にこだわって、その根拠を論じていきますが、あらかじめお断りしておきたいのは、面倒な数式などは使っていないものの、感染指標となる数字同士の整合性がどうのこうのといった、結構ごちゃごちゃした議論を重ねています。

その行間に、わたしが望むような結論に誘導せんがために、数字の解釈に「嘘」を紛れ込ませていないか、そこのところはご自身での判断をお願いしておきます。

もうひとつ。この後でも書きますが、一般に公開されているデータの中で、わたしが実際の感染動向の指標としてもっとも有用と見なしているのは、死亡数の推移です。

これの難点は実際の感染が起きた時点から、その結果としての死亡が統計上の数値となって現われるまでには1ヵ月もの時間差があることです。死亡数を元に議論する限り、ひと月前はこうでしたというのがせいぜいのところだということは、ご了解ください、

感染指標として報告が最も早い検査陽性数にしたところで、実際は2週間くらいの遅れがあるので、五十歩百歩の違いではあるのですが、ともかく、今現在のこととなれば、神のみぞ知るところであることを、またもや早とちりの愚を犯すことになった際に備えて、予防線を張っておきます。

感染動向にかかわる3つの指標

「感染者数」、「重症者数」、「死亡数」の3つの指標を元に、日本の武漢肺炎の現状についてのわたしなりの見方を述べていきます。

いま国内にどれだけの数の「感染者」がいるかについては、当日までの検査で「陽性と判定された者」の総数から、前日までの「退院または療養を解除された者」の総数と「死亡数」の和を差し引いた数として求めるのが、約束事になっています。

もちろんこの中には、本人が感染に気付かず、また検査も受けていないために、見逃されているケースは含まれません。

逆に、検査で陽性とされたが実際には感染していない偽陽性例、これは入ってきます。感染動向を考える上で、前のケースは問題にするに当たらないということは、以前の論考に書いています。一方、感染者数に偽陽性の数が混入することは「非常に問題」とするのが、わたしの立脚点です。

図表1は、今年に入ってからの検査陽性判定者(つまり新たに感染者とされた者)と退院または療養解除された者の報告値の推移です。

図表1 「現在の感染者数」の意味

(【出所】厚生労働省『新型コロナウイルス感染症について』掲載のデータをもとに著者作成。感染者の集団には日々検査判定で陽性とされた新規の感染者が加わる一方、退院または宿泊、自宅療養の解除による減少が生じており、そのバランスによって人数が増減している。グラフは、ある日に加わった新規感染者に相当する数の退院・療養解除者が10日程度のちに発生していることを示しており、任意の時点の感染者数は直近10日間の新規感染者の数の和とおおよそ同じであることが分かる。)

2つの数値のグラフは大体10日の間隔をおいて同じ大きさの動きをしています。「感染者」という集団は、その間に中身がほぼすっかり入れ替わっているのです。

「重症者」は人工呼吸器の使用などICUへの収容が必要な重篤な患者という理解で良いと思うのですが、そのすべてが武漢肺炎の感染者として間違いないでしょう。

重症病床の空き具合など自治体ごとの事情でその数が多少変わることはあっても、医療機関からの報告に基づく数ですから、十分に信頼できる指標とこれまでは思っていました。しかし、これがどうも怪しいというのは後に書きます。

「死亡数」が武漢肺炎の感染者のものであるのも、疑う余地はないでしょう。余病をもつ人が多いことから、個々の事例では武漢肺炎を直接の死因として良いのか問題があるケースはあるかも知れませんが、データ全体に影響するほどのものではないと思います。

ただ、その報告値の出方については、検討の余地があります。「感染者数」、「重症者数」、「死亡数」、それぞれの、最近の動きをグラフ化したのが図表2です。

図表2 感染者数、重症者数、死亡数の関係

(【出所】厚生労働省『新型コロナウイルス感染症について』掲載のデータをもとに著者作成。今年1月以降の感染者数、重症者数、死亡数の推移を示している。グラフに表示した値はすべて7日間移動平均値。増減のパターンが分かるように、3つの指標のスケールはすべて変えてあり、感染者数は左軸の目盛り、重症者数と死亡数は右側2軸の目盛りに応じてグラフ上に配置されている。3指標に現われる増減の時間差を考慮して、重症者数については12日分、死亡数については18日分、左方に移動させている。このグラフでは横軸の日付にこの関係を表示しているが、以後の図表でも、明示していない場合も、指標間にはおなじ関係が踏襲されている。重症者数を表すオレンジ色の線のうち、太実線は実際の報告値、細実線と点線は死亡者数をそれぞれ10倍、17倍にした値で、重症者集団内の死亡頻度が時期により異なることを示す。)

3者を同じスケールで表示すると、あとの2つが底を這うようなグラフになってしまうので、それぞれの大きさを示す目盛りを、左右3種類の軸に割り当ててあります。

感染者数の増減パターンが、12日の時間差を以て、ほぼそのまま重症者のそれに反映されることを、これまで何度か言及しています。死亡者の場合は、さらに6日の遅れとなるのですが、死亡者のデータについては若干の注釈が必要です。

東京、大阪のような感染者が多い自治体では、データの照合に手間取るのか、実際の死亡日が報告日より数日前というデータが相当数含まれます。とくに前後の日より飛び抜けて多くの数が報告されているときにはこの傾向が著しく、3ヵ月前に死亡したデータが混じっているのを見たことさえあります。

それでも、全国統計では、感染者数と死亡者数の間に生じる時間的ずれがいつも大体18日前後というのが面白いところです。

この時間的関係を考慮して、図表2では重症者数と死亡数のグラフを、それぞれ12日と、18日分左方、つまり以前の日付方向に移動して示してあります。これで3つの指標のピーク位置と底の位置が合致します。

こうやって並置してみると、感染者数と重症者数の比が、そのときどきで大きく変動するのが、一目で気付かれるでしょう。1月半ば頃は1:70くらいだったのが、3月末には1:30、そして今またその差は開きつつあります。

重症化の度合い、つまりウイルスの病原性が短期間にコロコロ変るわけはありませんから、重症化率の母数となる感染者数の方が相当にでたらめと見るのが至当でしょう。

わたしは、感染者数が大きく増加するとき、半分以上は偽陽性を見ているのだと考えています。

死亡数/重症者数比でも、図表2は興味ある事実を示しています。

3月半ば頃まで、その比は1:10。つまり、毎日重症者の10人に1人が亡くなっていたのが、その後は17人に1人の割合に変わっている。

今また少し戻りつつありますが、重症者あたりの死亡頻度が大幅に低下しているのです。

いわゆる「感染拡大」の首都圏と関西圏の違い

図表3は、「感染者数」、「重症者数」、「死亡数」の3指標について、地域別にその推移を見たものです。

図表3 地域別に見た感染者数、重症者数、死亡数の推移

(【出所】東洋経済ONLINE『新型コロナウイルス国内感染の状況』から取得したデータをもとに著者作成。注目した5地域で報告された感染者数、重症者数、死亡数=いずれも7日間移動平均値=を積み重ね面グラフの形式で示す。併せて表示している全国の値は折れ線グラフ。3指標の対応関係が分かるように、グラフ横軸の日付の起算日を、感染者数は2月1日、重症者数は2月13日、死者数は2月19日としている。)

表示しているのは、東京都とその隣接3県(神奈川、埼玉、千葉)、大阪府、兵庫県とその隣接3府県(京都、奈良、和歌山)です。これらの自治体だけで現在の感染の大半はカバーされます。

重症者数と死亡数のグラフの表示期間は、感染者数との対応をとる意味で、それぞれ12日、18日分短くしています。

3つのグラフとも今次の感染拡大の中心が大阪府とその周辺であることを示しています。ただ、その内容を比較してみると、関西圏の占める比重がそれぞれに異なっています。

「感染者数」でなら、規模では劣るものの、首都圏でも増加は顕著です。「重症者数」なら、首都圏では下げ止まり、ないしは微増といったところ。しかし、「死亡数」を取ってみると、首都圏では感染減少の低下は5月まで続いていたことになる。

図表3から、首都圏1都3県と関西圏2府3県では、その感染に互いに異なった性格があることが予想されるので、それぞれをひとまとめにした上で、さらに比較を進めます。

図表4では3指標の2つずつの関係を調べています。

図表4 指標間の相関性:首都圏と関西圏のデータに見られる際だった違い

(【出所】東洋経済ONLINE『新型コロナウイルス国内感染の状況』から取得したデータをもとに著者作成。対応する日付の「感染者数」と「重症者数」(左図)、「感染者数」と「死亡数」(中図)、「重症者数」と「死亡数」(右図)の関係を、2つの指標の値をそれぞれ縦軸、横軸の目盛りで示す大きさに合わせて、散布図形式のグラフとして示している。表示している数値はすべて7日間移動平均値。グラフ領域内を、各要素は時間経過とともに移動していくが、時系列を明らかにするために、それぞれの軌跡に旧い日付のものから新しい方向に向かう矢印を記入している。本文中に言及している首都圏の3月1日~4月10日0のデータの分布範囲は楕円形の色つき領域としてグラフ内に表示している。下段の枠内の図は、3種のグラフの領域内での要素の分布位置がもつ意味について、説明するために設けている。)

2つの値は先述の時間差を考慮して扱い、例えば2月1日の感染者数については、2月13日の重症者数、2月19日の死亡数が対応するといった関係になっています。この散布図形式のグラフでは日付を表す軸が取れないため、日付の古い方から新しい方に向かって、矢印を書き込んであります。

感染の性格そのものの違いか、あるいは報告される数値の信頼性の問題なのか、「感染者数」と「重症者数」の関係を見た左の図では、首都圏と関西圏のデータの差は歴然としています。

グラフの原点を通る直線で両者を分けると、すべてが上側に位置する関西圏のデータは、①この地域での感染が首都圏より重症化率が高い、つまり流行しているウイルスの病原性がそれだけ強いのか、あるいは、②感染者とされる集団中に含まれる偽陽性症例の割合が低い、つまり検査の質が高いのか、そのいずれかであることになります。

「感染者数」と「死亡数」、「重症者数」と「死亡数」の関係を示す中図と右図のグラフを見れば、首都圏で流行しているウイルスが関西圏のものより病原性が低いという可能性は否定されるべきでしょう。とくに右図は、重症に陥った患者が死に至る頻度が関西圏では明らかに首都圏より低いことを示しています。

とするなら、左図との矛盾を解消するには、検査データから算出されている首都圏の感染者とされる人数が、実際の感染者数より数倍誇張されているとするしかないことになります。

3つのグラフとも関西圏のデータが描く軌跡は✓(チェック)字形になっています。屈曲点に当たる3月5日(実際に感染が起きたのはその2週間前頃)が、感染が収束から拡大に転じた日付と解されます。

細かいことを言えばいろいろあるのですが、関西圏の感染統計に現われる3指標の値は大体感染の規模に対応していると言っていいでしょう。

一方首都圏のデータは、偽陽性が多数含まれるはずだということ以外にも、ツッコミどころ満載です。

左図で、3月初頭から4月初旬にかけてのデータは、グラフ上のごく狭い領域に団子状に密集しています。それが中図になると、同じ期間のデータは縦一列の妙な並びを作ります。感染者数の値が8~)9千人の間で大きくは動かないのに対して、死亡数は7~22人と顕著に変動しています。

本当の感染者数はこの間結構動いているに違いありません。

図表5を見れば、その理由が分かると思います。

図表5 首都圏と関西圏でおこなわれたPCR検査数と感染者数の推移

(【出所】東洋経済ONLINE『新型コロナウイルス国内感染の状況』から取得したデータをもとに著者作成。首都圏1都3県と関西圏2府3県について、PCR検査数の報告値(細線)と感染者数(太線)の合計を折れ線グラフで示す。)

3~4月に報告された首都圏の感染者数は、この間におこなわれたPCR検査の数とほぼ平行しています。検査報告に含まれる偽陽性の割合が一定で、それが実際の感染者数を大きく上回っていれば、この感染者数-死亡数関係の不合理な軌跡を説明することができます。

この想定が正しいなら、今度は疑問となるのが重症者数のデータです。

問題の期間、その値は110~130の間でほとんど動いていません。右図の重症者数-死亡数のグラフを見ると、ここでもおかしなデータの軌跡が観察されます。

本来それは、感染が収束に向かえばグラフの原点に近づき、拡大時には原点から遠ざかるように動くはずです。実際関西圏のグラフはそうなっています。しかし首都圏のグラフでは、死亡数が小さい場合も対応する重症者数は110以下には下がらないのです。

なんだか首都圏では、重症病床のうち100床程度が、利用者があろうがなかろうが常時押さえられているレストランの予約席のようにも見え、人為的な匂いが強い分、偽陽性の問題よりもっと嫌な感じがします。

こうなっている理由を考えられないではありませんが、まあ証拠もないので、これ以上は論じるのは止めておきます。

図表4が示すところを総合的に見れば、首都圏各自治体を非常事態宣言、あるいは「まん防」対象地域として指定する根拠としている数字が、多数の偽陽性を含む水ぶくれ、重症者数の上げ底など、ひどく歪んだものと言わざるを得ない。わたしはそう考えます。

ウイルス変異株は本当に危険な存在なのか?

4月以降の関西圏の感染拡大は、そのほとんどにN501Y変異株、いわゆる英国型ウイルスがかかわっていることが分かっています。

一方、図表5に現われている首都圏のデータのうち、重症、死亡をともなうものの大半は、2月まで継続していた従来型、およびE484K変異株の感染で起きています。

国立感染症研究所『新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2021年5月6日現在)

東京都健康安全研究センター『都内の変異株の発生状況

図表5の右図は、重症者のうち死亡に至る頻度が、従来型/E484K変異株に比べて、N501Y変異株は明らかに低いことを示しています。

感染者数-死亡数の関係を表した中図でも、偽陽性による水増しの影響を考慮に入れれば、感染者数あたりの死亡数はかつての首都圏の感染の方が高かったと言えそうです。そうすると、左図、感染者の重症化率だけは関西圏の方が高いという観察も、別の見方が可能かも知れません。

嫌な言い方になりますが、重症化してもなかなか死ななくなった、それが関西圏の感染の重症患者の滞留を招いている、そういう解釈です。

ということでわたしは、今喧伝されているN501Y変異株の危険性というのも、不正確な検査結果によってもたらされる誤謬のひとつではないかと考えます、

「良い」検査と「悪い」検査

PCR、あるいは抗原-抗体反応よる検出という科学的基盤に基づいて同じようにおこなわれているはずの結果が、首都圏と関圏の間にこれだけ大きな見かけの違いを生む。そんなことがあり得るのでしょうか?

図表6は、西欧6ヵ国の最近の感染動向を、検査陽性数と死亡数の2つの指標に表したものです。

図表6 西欧諸国の最近の武漢肺炎感染動向

(【出所】日本経済新聞社『新型コロナウイルス感染世界マップ』サイトのデータより著者作成。フランス、オランダ、スウェーデン、英国、イタリア、ポルトガルの6カ国から報告されている検査陽性数と死者数の推移を折れ線グラフで示す。値はすべて7日間移動平均値。なお、スウェーデンでは、毎週連続した3日間データの発表がないため、階段状ないし櫛の歯状のグラフになる。フランスでは、不定期にデータ発表がない日と、続いて2~3日分のデータがまとめて発表される日があるため、なめらかな曲線のグラフにならない。)

いずれの国についても、死亡数の推移による限り、流行は沈静化して来ていると見ていいでしょう。

しかし、検査陽性数の方は?

上段3ヵ月では、流行はむしろ拡大傾向にあるかの観を呈しています。他方、下段3ヵ国では検査陽性数と死亡数の動きは大体連動しています。

他国のことですからその背景までは分かりませんが、検査の質、どれくらいの割合で偽陽性を含むかによって、これほど極端な差が生じてしまうのは、実際あり得ることなのです。

日本の感染状況の本当の姿は?

図表7は、日本、英国、イスラエルの3国で今年1月以降に生じた武漢肺炎死者数の推移を見たものです。

図表7 日本の武漢肺炎死亡数の推移:ワクチン普及国との比較

(【出所】日本経済新聞社『新型コロナウイルス感染世界マップ』サイトのデータより著者作成。本年1~2月以降、急速な死亡数の減少が観察された日本、英国、イスラエルについて、その動向を対数表示の折れ線グラフで示す。横軸に表示の日数は明確な減少が始まった日から起算しており、ゼロ日に当たるのは、日本は2月6日、英国は1月27日、イスラエルは1月30日。値はすべて7日間移動平均値。)

死者数は人口10万人当たりの数に調整した上で、対数表示のグラフにしてあります。

日本では、ワクチン接種は医療関係者の一部を対象に始まったばかりの時期で、その影響はほとんど出ていないはずですが、2~4月に見られた死亡数の減少速度は、ワクチンの普及によって感染の収束に成功しつつあるイスラエルのそれと、ほとんど差がなかったことが分かります。

英国の減少のペースは群を抜いていますが、多分ワクチンの効果だけではないと思います。

1月に英国ジョンソン首相が、国民に強い口調で、一段と厳しい措置に耐えるよう呼びかける演説をおこない、それを受けのことでしょう、警察が夜間営業を続けるパブを急襲して店内の客を拘束する様子などが報道されていましたが、やはりそれくらいの強権発動をやらないと、自粛だけで感染者を減らすことはできないのでしょう。

残念ながら、日本では4月中旬以降、死亡数は反転増加に転じています。

その理由は関西圏の感染拡大にあり、そこでの死亡数の分だけで増加幅の大体の説明になります。

いま各地で報告されている「感染」拡大のうち、愛知県、福岡県の数値は重症者数の増加を伴っているのが気になるところですが、今後関西圏ほどの拡がりをもつことになるかということになると、ちょっと疑問です。

さらに首都圏に限って言えば、現状はロンドンやテルアビブに劣らない程度には安全な状況にあると、わたしは思っています。

そこで問題は、なぜ武漢肺炎の流行が一旦収束しながら、関西というより阪神地域と言った方がいいでしょう、その限られた地域で感染の再拡大がこの時期に起こったのか、一体どういう層に感染が拡がっているのかということです。

それについては、わたしなりの考えがあるので、掲載のお許しが得られれば別の稿でお示ししたいと思います。

「国民情緒」よりも「事実」が大事

そろそろ終わりにしようと思っているところに、興味をひかれる話題が登場しました。内閣参与の高橋洋一氏のツイッターを巡る騒動です。

高橋内閣官房参与、コロナ感染状況「さざ波」 ツイッターに批判

―――2021年05月10日17時47分付 時事通信より

ツイートの現物に付された図は、世界各国の武漢肺炎の規模を比較したもので、氏はこれを東京五輪中止論者への反論として提示しているのですが、もしわたしがこれを批判する立場ならば、「そんな国全体のはなしじゃなく、肝心の今現在の東京の状況をどう捉えているのですか」とでも問いただすところです。

まあそれに対する自身の認識たるや、これまでに書いてきたとおりなのですが。

「さざ波」だの、「笑笑」だのの言葉遣いは、ちょっと挑発的に過ぎるかも知れませんが、それに乗せられた野党やマスコミ、ツイ民など揃っての非難の大合唱は、氏が指摘した事実自体はどうでも良いらしく、お粗末としか言いようのないレベルに留まります。

「事実」より大事なのは「国民情緒」。そんなことがまかり通れば、どこかの国のことを嗤ったりすることは出来なくなります。

氏のような意見が、なぜもっと出て来こないのか、その方がむしろ不思議に思えます。武漢肺炎を巡る日本の状況は、疾患の流行そのものより、それによって陥っている視野狭窄と思考停止状態こそが、深刻な問題ではないかという気がするのです。<了>

読後感

前回に続き、大変に興味深い論考を賜りましたこと、伊江太様には心より感謝申し上げます。

ツイッターなどを眺めていると、相変わらず「PCR検査万能主義」などを垂れ流す人もいるようですし、その思想的基盤を調べていくと、たいていは日本共産党の支持者であったりするように見受けられるのは気のせいでしょうか。

ことに、コロナウィルス蔓延という、まさに医学の範疇に属する話題に関しては、科学的知見がなによりも大切です。政治プロパガンダ、あるいは不勉強なマスメディアの扇動的な報道が世の中の空気を支配するようなことがあってはなりません。

また、「なぜ武漢肺炎の流行が一旦収束しながら、関西・阪神地域という限られた地域で感染の再拡大がこの時期に起こったのか、一体どういう層に感染が拡がっているのか」に関しても、ぜひ、続報を教えていただきたく存じます。

いずれにせよ、伊江太様、今回もご投稿いただきましたこと、深く感謝申し上げる次第です。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 伊江太様

    大変興味深く読ませて頂きました。
    関西圏での増加の原因が早く読みたいです。

    話は変わりますが、最近読んだ新書でイベルメクチンのデータが捏造だというのがありました。
    根拠となった10万人分のデータが開示されないというのです。
    実際はどうかはわかりませんが、新聞では大発見は大きく報じ、それが捏造だった時は報じないのでは、嘘がまかりとおるのでは。

  • 伊江太様、

    感染者、重症者、死亡者のデータ推移の解析、興味深く拝見しました。確かに、PCRは、シグナルを出したいのか、出したくないのか、核酸増幅時の温度設定で如何様にもできますので、偽陰性よりも偽陽性容認の反応条件の検査結果ということも考えられるのかも知れません。
     私は、SARSのポリプロテインからウイルスのゲノムRNAを複製するために必要な諸酵素を切り出す、プロテアーゼに興味を持って10年近く基礎研究をしております。メディアを始め当初より世間は『未知のウイルスが〜』と騒いでおりましたが、最初から2003年のSARSウイルスと95%同一のウイルスで、『未知の』という表現が当時の世界を大きくミスリードしたのだと考えています。単に騒いでいた方々が『無知』であっただけのことですのに。
    SARSウイルスの感染機構を理解した者が、昨年の2月時点での武漢ウイルスのゲノム配列(主に興味カ所を重点的に)を見れば、変異の異様に重層的な蓄積に気付いたハズです。自然発生説など全く信じられないくらいの、特定のバイアスが掛かった重層的な変異蓄積です。
     プロテアーゼの切断箇所に、プロテアーゼ自身を切り出しやすくなるアミノ酸置換変異とRNAポリメラーゼを切り出しやすくするアミノ酸変異が認められたので、感染細胞内でのゲノムRNAの合成速度が過去のものよりもはるかに速く、感染細胞内でのウイルス粒子の再生産速度が大いに上昇することは容易に予測されました。
     このような、私からすればごく当たり前の推測を他所で見聞きしたことは殆どありませんので、この一年ほど、現実感に乏しく、ぼんやりと世間を眺めでおりました。
     私個人としては、感染拡大の経緯がどうであれ、武漢から漏れ出た初期のウイルスは人為的な操作の結果として生じたウイルスと確信しています。元が人為的に開発されたウイルスであるならば、それ相応の対処をすべきだったのだろう、ということです。一言で言えば『ドミナントネガティブ』の発想ですが、技術的にもなかなかハードルは高ですし、少々乱暴な手法でもありますので、世間のコンセンサスが得られるかは甚だ懐疑的ですけど。ただ、今のようなワクチン接種で早期に感染が収まれば良いのですが、このままの対処法では状況が落ち着くまでには、5〜10年くらい掛かるのだろうと感じております。
     推測に推測を重ねれば、『陰謀論』は幾らでも考えられそうですが、意識、無意識に関わらず、ウイルス感染がここまで拡大したのは、明らかに幾重にも重なった『人災』の要素が大きいのだと考えております。

    • >武漢から漏れ出た初期のウイルスは人為的な操作の結果として生じたウイルスと確信しています。

      アメリカやEUの研究者たちはどう考えているのでしょうか?やはり同じことを考えているのでしょうか?この分野を極めたものなら、到達する可能性のある推論なのでしょうか?

      • 現在の“中国外し”進行度と直近の中国ロケットゴミ再突入への批難度を併せ観て、興味深い疑問点です。

        敢えて出回らない様にしているのか?

    • 通りすがりの研究者さま

      >SARSウイルスと95%同一のウイルス
      そんなに相同性高かったでしたっけ

      >プロテアーゼ自身を切り出しやすくなるアミノ酸置換変異とRNAポリメラーゼを切り出しやすくするアミノ酸変異が認められた

      この辺興味ありますね。
      SARS1とプロテアーゼの認識配列は同じなのでしょうか。

      よければ、うちのブログでも遊んでいってください。
      https://reisei2.blogspot.com/

  • いつもありがとうございます。
    夜再読しますが、京阪神感染拡大の理由ですか?
    兵庫県は前回知事選で勝谷誠彦を落選させたから。
    医療系に縁のある基地外に任せておけば良かったのに。
    彼ならもう少し頑張れたと思います。
    また大阪府は阪神タイガースが強いから。
    阪神勝利の度に、甲子園球場で「六甲おろし」
    梅田に向かう電車の中で「六甲おろし」
    ウメチカで自宅へ向かう終電まで「六甲おろし」
    酒飲みながら古関裕而の曲を大合唱しては
    空気感染も飛沫感染もありませんよ。
    福岡、広島、仙台、札幌、名古屋と拡大傾向にあるのは
    野球の有観客開催が原因では?

    • N501Yでしたっけ?
      年末に外信記者が入国後待機もせずバラマイテ本人も発症してたみたいな~デスカラ
      水際対策が弛めだったンでショーネ??

    • ポプラン様

      >福岡、広島、仙台、札幌、名古屋と拡大傾向にあるのは野球の有観客開催が原因では?

      おそらく名古屋のみ別の理由がありそうです。

      <数字で見る 2021年 中日Dragonsの成績表>

        総得点 111点 (セ・リーグ 最下位)
      チーム打率  .229 (セ・リーグ 最下位)
      本塁打数 17本 (セ・リーグ 最下位)
        安打数 305本 (セ・リーグ 最下位)
        出塁率  .285 (セ・リーグ 最下位)
        長打率  .317 (セ・リーグ 最下位)
         OPS  .602 (セ・リーグ 最下位)
      得点圏打率  .194 (セ・リーグ 最下位)
      四球 99個 (セ・リーグ 最下位)
        防御率  .292 (セ・リーグ 1位)
      5/17時点の順位   (セ・リーグ 5位)

      バンテンリンドームでの勝敗数  8勝11敗3分け
      先制された試合で逆転勝ち    3勝14敗3分け(ホーム・ビジター問わず)

      ちなみに、ここ3試合のホームゲームでの総得点は、ささやかな3点のみ。

      5/14 D-Ys ●1-4
      5/15 D-Ys ●0-5
      5/16 D-Ys △2-2 

      チームを挙げた「応援自粛効果」が功を奏し、ファンが球場でDragonsの得点に歓喜できる回数は非常に限られており、ヒーローインタビューは対戦相手の選手ばかりです。

      こんな時はTwitterの「中日勝利でドアラにご飯bot」を見て、ドアラと共に試合を振り返るのが私の日課です。

      出所:データで楽しむプロ野球 https://baseballdata.jp/c/
         nf3-Baseball Data House http://nf3.sakura.ne.jp/Stats/Standing.htm
         中日勝利でドアラにご飯bot https://twitter.com/doalagohanbot

  • 伊江太様

    興味深い論考ありがとうございます♪

    ところで、最後にちょっと触れていた高橋洋一内閣官房参与のツィートについてなのです♪

    伊江太様の仰るとおり、データを元にちきんと現状認識を示した上での議論は歓迎すべきことだと思うのです♪

    ただ、高橋参与のツィートは、挑発的な表現とともに、緊急事態宣言などで国民に困難を強いている中で、五輪のみは特別だとでも言ってるように感じられたのが残念だと思うのです♪

    全く同じグラフを使って「緊急事態宣言笑笑」ということもできると愚考するところ、政府高官の発言としては不適切なんだと思うのです♪

    あたしが知らないだけで、他で高橋参与が同様の発言をしているのであれば、自身の不明を恥じて、謝罪するのですm(_ _)m

  • “視野狭窄と思考停止状態”
    マスゴミの皆サンが彼らの経験則通りの“煽り”を行っても、彼らの経験則通りの“民意”が醸成デキナイでいるコトを“焦り”、
    次々と燃料投下しようと“視野狭窄状態”でネタあさりし“思考停止状態”で採り挙げて大騒ぎし、
    結果的に冷静に考えだす国民を増やしている…様にも見えなくもナイ?…か?

  • 伊江太 様
    関西圏の要因の話、お待ちしています。

    全くの別件ですが、将来的な話として、超過死亡が減った分蓄積された、
    肺疾患などで死亡に至り易い層が再びインフルエンザの流行にさらされたとき、
    何が起こるのか、ちょっと心配ではあります。

    • この間に高齢社会の進行にブーストがかかっているのが気掛かりデスら

      武漢コロナ禍前の社会生活への回帰は絶望的か…

  • 伊江太様,
    新宿会計士様

    面白く読ませて頂きました。これは永久保存版だと思います。

  • コロナについては色々疑問があります。
    関西で感染が増えていてもヨーロッパなどに比べれば少ないのに、ベッド数が多いといわれる日本で医療が逼迫するのは、コロナ対応を強制できないからでしょうか。
    そもそもコロナのレベルをエボラ等と同等にしているのは正しいのでしょうか。
    そもそもインフルエンザでも死ぬ人はいますが、インフルエンザの場合エクモ等使ってまで救命いていたのでしょうか?
    何故コロナばかりそんなに対応しないといけないのか疑問です。
    もちろん、今、インフルエンザと同様な扱いにするのは政治家にとって政治的なリスクがあるのは分かります。

    • まず、2月に法改正されて、分類が変更になっています。
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/79921

      新設することによって少し前にあった、2類5類論争の意味はなくなったのではないかと個人的に妄想しています。

      仮に村唯一の診療所で、エボラさんを診るようになったら、その村の通常医療は崩壊するかもしれません。
      だから治療できる町の大きな病院に入院するという流れは、変わらないと思います。(妄想です)すいません。

      • ありがとうございます。
        エボラなどより厳しく(一番厳しく)なってますね。
        収まったら他の感染症との整合性を取るのでしょうかね。

  • 伊江太様

    私みたいな老人のど素人が言うと失礼ですが、素晴らしい論考です。しかし「日本の武漢肺炎の現状」と、敢えてcovid-19とせずに武漢を入れるところ、心意気が伝わって来ます。

    日本では4月中旬以降、死亡数が増加してます。県別の感染者数ばかりデカデカと毎日報道するので、後回しになりがちですが、死亡者は大阪府や人口比では兵庫県など、異常事態です。

    今は東京都、大阪府などの3万人以上の感染者を出した都府県は新規感染が低減気味ですが、北海道、愛知県、岡山県、福岡県などはちょうど第4波でしょうか。

    このまま終息しないとは思いますが、日本って、世界から見れば全然たいした域には入って無いのですね。最後に高橋洋一氏の発言、何が問題なのかサッパリ分かりません。「さざ波」にカチンと来るとは、相当了見の狭い方々ですネ。

  • 名古屋の住人 様

    昨年、一昨年、さらにその前年のバファローズと比べたら大したことがないと。まだまだ修行が足りないような。
    失礼いたしました。

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