豪政府「一帯一路」協定破棄を決定も、実害はほぼない
昨日、豪政府が同国の州政府レベルで締結した「一帯一路」関連協定を破棄する、という報道が流れていました。ただ、個人的な印象を申し上げるなら、一帯一路自体、そもそも最初から、具体的で実現可能な計画や構想がない代物に過ぎず、今回豪政府が破棄したとされる協定も、最初から実効性があったのかどうかについては疑問です。
豪連邦政府、ビクトリア州の協定破棄を決定
ここにきて、「一帯一路」が再び脚光を集め始めたようです。といっても、良い意味ではありません。
AFPは昨日、ビクトリア州政府が中国と締結していた一帯一路への参加協定を豪政府が破棄する方針だと伝えています。
豪、州政府の中国「一帯一路」参加協定を破棄
―――2021年4月22日 1:08付 AFPBBニュースより
AFPによると、この措置は豪州で昨年成立した、「州政府が外国と結んだ協定が国益に反する場合には政府の権限で破棄することができる」とする新法に基づくもので、「同法は中国を念頭に置いたものだと広く受け止められている」としています。
また、豪政府が破棄を決定したビクトリア州の協定は、ビクトリア州が2018年と19年に中国と締結した一帯一路関連協定2本に加え、ビクトリア州教育省が2004年にイランと交わした了解覚書、1999年にシリアと締結した科学協力協定の4本です。
マリス・ペイン外相はこれらについて「豪州の外交政策に矛盾する、あるいは豪州の外交関係の弊害となる」と述べたそうですが、ペイン外相自身は昨年10月、東京を訪れて日米豪印クアッド外相会談に参加している人物でもあります。
そもそも一帯一路って…!?
ただ、個人的な感想を申し上げるならば、そもそもビクトリア州が締結していた一帯一路関連協定に、どれだけの意義があったのかについては疑問です。というのも、一帯一路自体が、なんだか正体がよくわからない構想だからです。
以前の『行き詰まる一帯一路構想と中国に失望する中・東欧諸国』でも取り上げたとおり、一帯一路構想について中国政府が公表している資料を眺めても、なんだかとても抽象的です。
Full text: Action plan on the Belt and Road Initiative
―――2015/03/30 19:31付 中国国務院ウェブサイト英語版より
私たち日本人からすれば、漢字の字義に照らし、「中国が主導して海と陸に交通インフラを整える」という構想だと勘違いしてしまいますが、中国国務院のウェブサイトによれば、これは対象地域の経済共同体構想のようなものでもあります。
中国政府はこれについて、次のように意義を強調します。
「一帯一路の建設を加速することは、一帯一路に沿った国々の経済的繁栄と地域経済協力を促進し、異なる文明間の交流と相互学習を強化し、世界の平和と発展を促進するのに役立ちます。それは世界中の人々に利益をもたらす素晴らしい事業です」(※著者訳)。
なんだか、わかったような、わからないような構想ですね。
「具体的な運搬手段」に言及がない
ただ、中国は「新シルクロード」や「21世紀の海上シルクロード」のような構想を提示しているものの(図表1)、その具体的な範囲交通手段についてはほとんど触れられていません。
図表1 「新シルクロード」と「21世紀の海上シルクロード」
(【出所】中国国務院報道局英語版ウェブサイト “How the world will benefit from China’s Belt and Road?” )
いちおう、一帯一路の主眼は、欧州と中国を海、陸で結ぶという点に置かれているらしい、ということはわかるのですが、ここで重要な事実があるとすれば、「地球は丸い」、つまり、上記ルートのうち陸上交通については決して最短距離ではない、ということです(図表2)。
図表2 上海とロッテルダムの最短距離
(【出所】中国国務院報道局英語版ウェブサイト “How the world will benefit from China’s Belt and Road?” を著者加工)
この点、中国が意図している「新シルクロード」のルートは、アルマトイやテヘラン、イスタンブールなどを経由するため、どうしても「最短距離」には見えません。また、このルートの終着点がどうも東欧にあるというのも気になる点です。
東欧で一帯一路に対する強い不満
しかも、その「終着点」である東欧諸国からは、一帯一路協定が「ゾンビ化している」との不満が上がっている、という話題もあります。 “THE DIPLOMAT“ に2月10日付で掲載された記事のリンクを再掲しておきましょう。
How China’s 17+1 Became a Zombie Mechanism
―――2021/02/10付 THE DIPLOMATより
すなわち、「一帯一路」と華々しく唱えられているわりに、「どの地点とどの地点をいかなる手段で結ぶのか」、「その交通インフラはいつまでにどのような形で完成するのか」、といった具体的な中身が一切欠落しているのが、この一帯一路構想、というわけです。
そういえば、『AIIBの融資実績額が「コロナ特需」で急増するも…』では、中国が主導した国際開発銀行「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)がコロナ特需で融資額を急増させているものの、「一帯一路」構想に従った戦略的な投資を実行している形跡は見られない、と報告しました。
一帯一路自体が習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の肝いり政策であることは間違いないにせよ、どうもこの構想、最初から具体性を欠いていて、単なる理念同盟のような形となっていたようです。
この点、「理念」同士の戦いとなれば、安倍晋三総理大臣が提唱し、ドナルド・J・トランプ前米大統領が賛同し、菅義偉総理、ジョー・バイデン米大統領に引き継がれた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の方が、はるかに強いのです。
一帯一路は胴元が胴元だけに、構想自体が信頼性に乏しい一方で、FOIPは日米が提唱しているものではありますが、無限の拡張性を備えている構想でもあるからです(『世界に広まるFOIP:EUがインド太平洋戦略策定へ』等参照)。
いずれにせよ、AIIB、一帯一路と少しずつメッキが剥がれてきた中国・習近平政権にとっては、求心力を維持するために、今以上の無理をするのではないか、といった点には十分な注意が必要だと思いますし、とくに台湾海峡危機を防ぐための努力と議論を展開しなければならないと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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更新ありがとうございます。
そもそも一帯一路って何…!?東欧が終着点って誰が(習近平だろうが)決めて、何の意味があるの?豪州は、ビクトリア州政府が一帯一路への参加協定を豪政府が破棄する方針。
良い動きです。州政府だろうが脱退するのはダメージ与えた。おバカな国だけで、シナに奉仕して下さい。
少々極端な見立てをしてみましょうか。
中華帝国の視点に立てば、一帯一路参加国というのは、すなわち朝貢(予定)国なのであり、物流インフラやルートなどは朝貢国側が考えれば良いことである。つべこべ言わず朝貢品を献上しに来い。その暁にはちょっとした財物を下賜してやる。これでWin-Winの関係になるだろ。文句あるか? ということなのだとすれば、中国側の資料に具体的な話など記載されるはずがありません。そんな些末の話は、朝貢国側が汗を流せばそれで済むことだからです。
……案外、本気でこのように考えていたりして。
最近連載している「海帝」というマンガがありますが、当時の文明レベルでは考えられないような空前絶後の規模の船団を組んでいたようですね。
(まあ話の筋はかなりの創作ですが)
世界を股に朝貢制度を再現しようと言うには今の中国帝國はケチすぎる。
いつもお世話になっております。
龍様 スルドイご指摘でございます。
私は、一路一帯政策は中共への属国化と思っておりましたが、
まずその前に朝貢国化させるのですね。
という事は、はるか昔シルクロードではラクダが運搬手段となっていたという
あの姿を見られるのですね。 楽しみだな~。
一帯一路を掲げたAIIBの実態は、設立参加国の議決権特典(割増)と事業のおこぼれをエサにした誘蛾灯のようなものなのかと・・。
飛び込んでも単独拒否権が発動され身を焦がすだけ。胴元の意に反する事業は採用されないのだから、出資金が額面通り拠出されないんですよね。きっと。
急増したAIIBのコロナ対策支援も、単独ではなくADBとの協調融資に限っての提供です。
諸国は、「ADBの関与しない融資を受けなかった」んですよね。
当然なのです。AIIBの名前だけでは、怖くて利用できないのです。
一帯一路の下絵は、陸のシルクロード≒モンゴル帝国の大征服、海のシルクロード≒鄭和の大航海、というような感じだったと想像します。名前は「ロード」ですが、交通や運搬手段の話ではなく、中国の覇権を欧亜大陸全体に拡張する構想です。かつてのモンゴル・鄭和の事業は、ともに西ヨーロッパ(新大陸が発見されるまでの西の果て)には到達できませんでした。ですから、或いは今度こそ、という気持ちもあるかも知れません。それを西ヨーロッパ諸国もようやく察し、中国牽制に本気になりつつある、というのが最近の情勢ではないでしょうか?そしてそれが、英・仏・独までもが、一件無関係そうに見える、遠い太平洋にまで軍艦を送る気になった動機ではないかと思っています。
抜ける相手に「(前略)最終的にはオーストラリアにとって有害となる」などと言う時点で、この協定の本質が分かろうというものです。