AIIBの融資実績額が「コロナ特需」で急増するも…

当ウェブサイトで「定点観測的」に報告している論点のひとつが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の動向です。AIIBが公表した2020年9月期の財務諸表(※未監査ベース)によると、融資実績額が3ヵ月で倍近くに増えていることがわかります。ただし、内容を詳細に検討すると、AIIBの融資額が急増した要因は、コロナ関連でだいたい説明がつきます。

AIIB、融資額がいきなり倍増!

中国が主導して設立された国際開発銀行である「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の動向については、当ウェブサイトでは「定点観測」的に注目している論点のひとつであり、直近では昨年11月の『AIIBの現状:「債務の罠」に使用されているのか?』で取り上げました。

AIIBの現状:「債務の罠」に使用されているのか?

こうしたなか、現在、AIIBには財務諸表は2020年9月までの財務諸表(単体、非監査ベース)が公表されています。これをベースに、本稿でもAIIBの最新状況について、主要論点を簡単に確認しておきましょう。

まずは、AIIBの融資実績です。

本稿ではAIIBの財務諸表に記載されている「時価評価されていない金銭債権・債券」(それぞれ原文では “Loan investments, at amortized cost” と “Bond investments, at amortized cost” と表記されています)の金額を「融資実行額」と仮置きしてみます。

すると、2020年9月期の融資実行額は74.6億ドル(うち債権が69.8億ドル、債券が4.8億ドル)で、2020年6月期の39.4億ドル(うち債権が34.7億ドル、債券が4.7億ドル)と比べ、融資額が倍近くに膨らんでいることがわかります(図表1)。

図表1 AIIBの「融資実行額」

(【出所】AIIB財務諸表り “Loan investments, at amortized cost” と “Bond investments, at amortized cost” の合計額より著者作成)

これについてAIIBは、「ポストCOVID-19時代に向けて、環境保全や社会インフラ、再利用、IT」といった分野での資金需要が伸びている、などと説明しています。

また、融資実行額ではなくプロジェクト承認件数ベースで見ても、AIIBが2020年を通じて承認したプロジェクトの件数は45件で、2019年の28件と比べて大きく増えています。

すでに85ヵ国が参加

ただし、ここで注意しなければならないのは、全体との比較でしょう。

じつは、AIIBに参加する国の数は少しずつ増え続けており、昨年11月2日にブラジル、今年1月4日にリベリア、1月5日にトンガがそれぞれ参加したことで、参加国数は85ヵ国、出資額(※出資履行額ではなく出資約束額)は967.6億ドルにまで増えています。

これについて図示したものが次の図表2、出資額上位10ヵ国をリストアップしたものが図表3です。

図表2 AIIBの出資国、出資約束額

(【出所】AIIBウェブサイト “Members and Prospective Members of the Bank” より著者作成)

図表3 AIIBの出資国(上位10ヵ国)
金額出資割合
1位:中国297.80億ドル30.78%
2位:インド83.67億ドル8.65%
3位:ロシア65.36億ドル6.76%
4位:ドイツ44.84億ドル4.63%
5位:韓国37.39億ドル3.86%
6位:豪州36.91億ドル3.81%
7位:フランス33.76億ドル3.49%
8位:インドネシア33.61億ドル3.47%
9位:英国30.55億ドル3.16%
10位:トルコ26.10億ドル2.70%
その他277.56億ドル28.69%
合計967.55億ドル100.00%

(【出所】AIIBウェブサイト “Members and Prospective Members of the Bank” より著者作成)

図表3でもわかるとおり、出資割合のトップは中国ですが、これにインド、ロシアが続き、さらに域外(ノンリージョナル)国である欧州のドイツが4位に入っています。隣国・韓国は5位です。

出資額と融資実行額には大きな開きがある!

ただし、図表2、図表3を眺めていて気付くのは、出資約束額の合計は確かに967.6億ドルと巨額ですが、先ほどの図表1で確認した「実際に融資が実行されている額」とは随分と大きな開きがある、という点です。

そこで、図表1を出資額と比較して書きなおしてみたものが、図表4です。

図表4 AIIBの出資約束額と融資実行額

(【出所】AIIB財務諸表等を参考に著者作成)

たしかに、2020年9月における融資実行額が「ジャンプ」していることはわかりますが、それでも融資実行額はまだ100億ドルに満たず、融資実行額(グラフ中の「A」)の出資約束額(グラフ中の「B」)に対する割合は8%弱、という状況です。

「競合」するADBとの比較

これとあわせて、プロジェクト承認件数について、おなじアジアの国際開発銀行である「アジア開発銀行」(ADB)と比較しておきましょう(図表5)。

図表5 ADBとAIIBの比較
ADBAIIB
2010年4240
2011年3790
2012年3780
2013年4240
2014年3770
2015年3130
2016年4248
2017年31415
2018年36812
2019年35728
2020年40345

(【出所】ADBについてはプロジェクト検索ページ、AIIBについてはプロジェクト一覧のページなどを参考に著者作成)

ADBについてはこの10年間、毎年300~400件程度で推移していますが、AIIBについては昨年、やっと45件に達したものの、ADBと比べればやはり件数としては見劣りがするのも確かでしょう。

日本のAIIBに対するスタンスは?

さて、先ほどの図表2を見ていただいてもわかりますが、AIIBに対しては日本と米国が参加していません。

G7諸国では日米を除く5ヵ国(ドイツ、フランス、イタリア、英国、カナダ)、G20では日本、米国、メキシコ、欧州連合(EU)を除くすべての国が、それぞれ参加を表明しています(※ただし、アルゼンチンと南アフリカについては加入手続は完了していません)。

当初、これで「日本はバスに乗り遅れる」、「AIIBに参加しなければ日本はアジアにおけるインフラ金融プロジェクトから爪はじきにされる」などといわれていたものですが(『「時流を読み誤りAIIBに乗り遅れた日本」の末路』等参照)、今のところは「爪はじき」にされている様子はありません。

それどころか、AIIBは現在でも、むしろADBに「依存」しているフシがあります。

ADBの浅川雅嗣総裁は今年1月、日本経済新聞社とのオンライン会見で、ADBがコロナ対策を支援するために設けた200億ドルの緊急支援枠のなかで、2020年12月上旬までにAIIBと合計11件の協調融資を実行したと明らかにしています。

アジア開銀とAIIB、コロナ支援で協調融資

―――2021年1月4日 15:30付 日本経済新聞電子版より

これについて浅川総裁は「ADB単独ではコロナ対策に必要な資金を供給し切れない」として、AIIBや世銀との協力を「積極的に進める」と述べたそうですが、それと同時に日経新聞は「AIIBのコロナ対策支援は単独ではなく協調融資に限って提供している」と述べています。

ちなみにこの11件の融資については、ADBが80億ドル超、AIIBは約45億ドルだったそうですが、おそらく、AIIBの融資額が膨らんだ理由のひとつは、このADBの緊急融資における協調融資を含めたコロナ対策関連の需要が多かったためではないでしょうか。

実際、AIIBのプロジェクトのページから2020年に承認されたプロジェクト45件の詳細を調べてみると、プロジェクト名に “COVID-19” が入っているものが21件あり、それらの総額は62.1億ドルで、コロナ以外のプロジェクトの総額(37.7億ドル)を大きく上回っています。

先ほどの日経の記事と照らし合わせるならば、AIIBが承認した62.1億ドルのうち、ADBとの協調融資がその4分の3に近い約45億ドルだった、というわけです。

このように考えると、AIIBの融資実績は「コロナ特需」で1年以内にも100億ドルの大台に乗る可能性は高いと思いますが、本来の「社会インフラに対する融資」という点では、やはり心もとないというのが実情に近いのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    AIIBの融資実績は「コロナ特需」(失笑)ですか。中国はコロナ菌をばら撒いといて、金欠国に「金を貸しますよー元で良ければ〜」。日本はAIIB行きのバスに乗らなくて良かったァ!

    ADBの世話にならないと仕事が回って来ないというのは、シナ国は信用もプライドも無いんだネ⁉︎

  2. マスオ より:

    AIIBの仕組みはよく知らないけれども、中国、ロシアが主導しているなら融資しようにも、蓋を開けてみたら金庫がカラ、ってオチないかなw
    日本は参加しなくてよかったよ思うよ。。。

  3. カズ より:

    >「AIIBのコロナ対策支援は単独ではなく協調融資に限って提供している」

    諸国は、「ADBの関与しない融資を受けなかった」んですよね。
    当然なのです。AIIBの名前だけでは、怖くて利用できないのです。

  4. ラジオはMMT より:

    新聞を読んだ時点では、AIIBけっこう頑張ってるな、だったんですが、こちらに来たら、またもとのだめだめちゃんの印象に戻ってしまいました。(笑)

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