米中対立で韓国の半導体産業にも「圧迫」が及び始めた

韓国の半導体とベネズエラの石油の共通点

日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏は、今から2年前、「韓国のベネズエラ化」をテーマにした論考を世に投げかけました。その「予言」が、今になって成就し始めているのでしょうか。米国が半導体産業で韓国に対する圧迫を強める展開が生じつつあるようなのです。

韓国のベネズエラ化

少し古い話題です。

今から約2年前、当ウェブサイトでは「韓国のベネズエラ化」という論点を紹介しました。

といっても、これは当ウェブサイトのオリジナルの議論ではありません。

日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が、韓国と南米の産油国・ベネズエラの同質性に着目して展開した議論を、そのまま紹介させていただいたものです(『鈴置氏「韓国のベネズエラ化」 ベネズエラと韓国の符合とは?』参照)。

鈴置氏「韓国のベネズエラ化」 ベネズエラと韓国の符合とは?

「え?あの韓国がベネズエラ化するの?」

当初、こんな反応が多かったと思います。

ただ、鈴置論考の怖いところは、一見すると「トンデモ説」に見えて、じつは豊富な証拠付きで議論を展開しているところもさることながら、着実にそれらの「予言」が成就している点にあります。

あらためて、ベネズエラと韓国の共通点をいくつか挙げておきましょう。

  • どちらも、米国の同盟国である(あるいは米国の同盟国「であった」)
  • どちらも、ある種の「モノカルチャー経済」である(ベネズエラは石油、韓国は半導体)
  • どちらも、産業は外国からの協力なしでは成り立たない
  • どちらも、左派政権が出現している

米国を敵に回したベネズエラ

この点、外務省ウェブサイトの『ベネズエラ・ボリバル共和国』というページなどを参考に、ベネズエラについて調べてみると、興味深いことがわかります。

ベネズエラはそれまでの親米政権にかわり、低所得者層などの支持を背景に、1999年にウゴ・チャベスが大統領に就任。「21世紀の社会主義」を標榜し、新憲法の制定・低所得層支援の推進・ベネズエラ石油公社(PDVSA)の掌握を通じた経済活動の国家管理等を推進しました。

チャベス自身は癌のため、2013年3月に死去していますが、後継者であるニコラス・マドゥーロ・モロス大統領はこのチャベス路線を継続しており、外交的には反米路線、経済的には社会主義路線を継続しています。

ただし、近年では石油価格の低下に加え、米国との関係悪化などに伴う国際的な孤立、さらには国内的にはグアイド国会議長が2019年1月に「暫定大統領」に選出され、マドゥーロ政権と対決するなどの混乱も続いています。

なにより、2014年以降、GDPはマイナス成長が続いており、高い失業率に加え、南米でも最悪のインフレ率を記録するなど、経済的にはかなりの苦境に陥っている国でもあります。

産油国であるはずのベネズエラが「経済的な苦境」というのも不思議ですが、これも考えてみれば当然の話です。

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のレポートなどによれば、ベネズエラに埋蔵されているのは「重質油」であり、「減圧蒸留や脱硫装置などの特別な追加設備」が必要ですが、こうした設備にはかなりのコストも必要です。

また、米国のPDVSAに対する制裁の影響もあり、こうした石油精製設備の更新作業が滞っているというのも実情であるようです。

JOGMECの昨年1月30日付の『2019年のベネズエラの原油生産、輸出、精製状況』というレポートによれば、ベネズエラ国内製油所の精製能力は合計で日量約130万バレルであるものの、稼働率は10~20%まで低減しているのだとか。

半導体産業の基幹デバイスは日米が握る

さて、韓国は半導体王国だとされますが、その半導体を作るための材料は、どこの国が提供しているのでしょうか。

これについてはすでに『貿易統計③日本の貿易上、台湾と韓国の地位は逆転へ?』などでも議論したとおり、基幹となる半導体生産装置、あるいはフッ化水素やフォトレジストといった中間素材は、日本などから供給されています。

米国の技術協力が滞ったことで、ベネズエラが石油の生産に支障を来していることを思い起こすならば、日米両国も韓国に対する半導体製造のための生産装置、部品などの供給を止めれば、同国の半導体産業に打撃を与えることは可能です。

つまり、「ベネズエラにとっての石油」と同様、「韓国にとっての半導体」もまた、米国に命綱を握られている、というわけです。

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が出ていました。

韓国最大の収益源「半導体」揺さぶるバイデン政権

―――2021.04.14 07:57付 中央日報日本語版より

これは、ジョー・バイデン米大統領が12日に「半導体およびサプライチェーン回復CEO会議」をホワイトハウスで開いた、とする話題で、中央日報は「米中対立が激化する渦中でバイデン大統領が中国の先端技術疾走を牽制するという意向を明確にした格好だ」と評しています。

要するに、米中対立が半導体産業にも及んできている、というわけです。とりわけ中央日報の記事には次のような記述もあります。

半導体生産に必要な核心知的財産権の大部分を米国が保有しており、世界の主要半導体企業は米国の意向に合わせるほかはない」。

「経済版クアッド」という勝手な造語に潜む危機感

こうした状況に危機感を抱いたのか、中央日報にはこんな社説も出ていました。

【社説】米中半導体対立激化、韓国政府は戦略あるのか

―――2021.04.14 11:04付 中央日報日本語版より

中央日報はこの社説で、バイデン政権の半導体会議に米国、韓国、台湾、オランダの4ヵ国から19社が招かれたことをもって、「経済版クアッド」という、なんだかよくわからない表現を持ち出して来ています。

よっぽど「クアッド」という単語に思い入れがあるのでしょうか。

ただ、米中対立が半導体分野・バッテリーなどの先端産業にも及んできたことを踏まえると、韓国が米国側につくのか、中国側につくのか、「経済・産業面」からも、その旗幟を鮮明にすることが求められていることは間違いありません。

ちなみに中央日報社説の末尾には、こうあります。

先端技術がそのまま軍事力をはじめとする安保と直結する時代になり米中対決は譲歩のないゼロサム争いにつながる可能性が大きい。残念なことにこの激変の渦中に韓国政府は何の話も対応もない。政府はこの状況を企業にだけ任せずに、外交力を総動員して生存戦略を用意しなければならない

中央日報としてどうしたいのかが何も示されていないあたり、ある意味では「さすが」だと思いますが(※皮肉です)、韓国がベネズエラ化の道を歩むのかどうかについては、もうすぐ明らかになるのかもしれませんね。

読者コメント一覧

  1. だんな より:

    中央日報の結論は間違いで、韓国政府が関わらない方が、良い結果となると思います。

  2. めがねのおやじ より:

    中央日報さん

    「世界の主要半導体企業は米国の意向に合わせるほかはない」。そこまで分かっているなら、何故米国側に付かないんだ?中国が怖い、、、(嘲笑)?

  3. 羊山羊 より:

    おじいちゃん開いた会議ではお金の使いみち始め何も決まってません。ただに茶番から何か結論ぽいもの導きだそうとする中央日報も無理矢理感があります。あの会議に参加したのは半導体ユーザーとメーカーですが、本気で何とかしたいなら呼ぶべきはユーザーではなくて半導体製造装置メーカーです。

    1. 匿名 より:

      オランダが入ってるからASMLも呼ばれてたのかと思ったんですが。

      1. 羊山羊 より:

        私も当初そう思ったんですが。寒波で被害にあったNXPだったですね。

  4. 頓珍韓 より:

    日本や同盟国に対して、ゼロサムゲームを仕掛けてばかりいるからだろう。
    あなたたちは望んでそうなっただから仕方が無いんだ、としか思いません。

    価値観の共有によるWINWINの協力関係を作らず、刹那的で打算的なコウモリ外交に終始するから米中の狭間でもがくことになるのです。
    自由民主主義の社会は大丈夫です。
    台湾が韓国がすべきであった役割を果たしはじめています。
    国際協調路線こそが独裁人権侵害勢力に対する一番の力。

    櫻井よし子さんが言う「あなたのおっしゃるアジアってどこの国のことかしら?」という言葉に集約される矮小化した世界観では、隘路から抜け出せないんだよ。
    さようなら。

  5. はぐれ鳥 より:

    一般論として、半導体工場(前工程)の立地として有利なのは下注記の条件のような処だと思います(他にも有るでしょうが)。

    これを見て気付くのは、半導体製造(モノづくり)は、エネルギや水資源などを多用し、有害物質を排出する可能性のある、危険で汚い産業なことです。これはどちらかと言えば、中進国(産業未発達だが社会はある程度安定)型産業です。これが、半導体工場が日米欧から去り、台湾・韓国そして中国に集中するようになった本質的要因だと思います。

    ただここに来て、半導体の集積度が上り、その為の設備投資に莫大な金額が必要となってきたため、この大きな投資費用が新規参入障壁となって、特に先端半導体ではTSMC(システム半導体)や三星電子(メモリ)など、資本力のある台湾・韓国メーカに集中する構造となっています。で、半導体産業が中進国型産業とはいえ、台・韓に集中するようになったのには、両国が旧日本の被支配地であったことは偶然ではないと思います。つまり、これら両国は日本から技術移転を受け易い条件を備えていたということです。ですから、現在の世界レベルの半導体産業の地勢には日本も責任があるのです。無論、台・韓企業経営者の優れた判断、政府レベルでの後押しがあったのは確かですが。

    ですから、この半導体産業の地勢見直しには日本も積極的に関与すべきです。この件は、日本の安保、産業競争力にとっても最重要だからです。さらにはこれを契機に、日本にも半導体産業の再興をも考えるべきでしょう。ただ、これまでの日本半導体・液晶産業再編の惨状をみれば、無能な経産省の介入はできるだけ避けたい処です。かといって、気概・度胸・透徹した新ビジョンをもった経営者がいるかといえばそれも心もとなく、なんとも歯がゆいですね。

    注記)半導体工場(前工程)の立地に有利と思われる条件
    ① 電力料が低廉なこと;クリーンルーム維持に多大の電力を要する(日本ではこの悩みが大きいらしい)
    ② 工業用水が豊富なこと;プロセス中でウェハ洗浄を繰り返すため大量の洗浄水を要する(今、台湾で困っている)
    ③ 工学知識を有する人材が確保できること;ウェハ処理プロセスは殆ど全自動ですが、プロセス改良、歩留まり向上、設備メンテなどに、ある程度の工学知識を有する気の利いた人材が必要
    ④ 環境規制が厳格でないこと;ウェハ処理のために様々な特殊物質(得てして有害・有毒・発火爆発性、フッ化水素もその一つ)を使用するので、環境規制が厳しいとその排出処理コストがかさむ
    ⑤ 産業安全規制が厳格でないこと;作業員は、上記特殊物質(≒危険物質)を取り扱うので、安全規制が厳しいとその対策コストがかさむ
    ⑥ 近隣に既存の半導体工場があること;製造ライン立上げや歩留まり向上には人のカン・経験頼りの面もあるので、技術ノウハウの移転が受けやすい場所が有利
    ⑦ 近隣に製造装置メーカサービス拠点、材料メーカの拠点があること;これは、ある程度以上の規模の工場であれば事後でも誘致可能
    ⑧ 人為災害(戦争・社会争乱)、天然災害が少ないこと;停電や用水供給の停止、火災・地震、要員の従業制限などでラインを停止すると莫大な損失を被るばかりか、生産再開に長期間を要する(ルネサス那珂の事例参照)

    1. ラスタ より:

       私が子供のころ。
       半導体つったらTIの74シリーズで、もれなくMade in Malaysiaだったと記憶してます。
       子供ながらに「マレーシアってスゲー」と思ったものでした。

       製造地はコスト安く済むならどこでもいいんですよね。
       半導体メーカーにとって、どの国の半導体製造シェアが大きいかは、あまり本質的な話ではない。
       そこを勘違いして半導体先進国な自画像は、危険というか、かなりの度合いで真逆の方向を向いているのかもしれない。
       世界最大シェアだつっても、工場。
       自力で設計開発技術を蓄えるチャンスに恵まれていたはずなのですが。目先のカネ稼ぐばかりで自らに投資する発想はなかったのでしょう。

       使われてるだけなのに、話をすり替えて支配しているかのごとき勘違いを布教すると。
       労働者こそ王者であるみたいな。まぁ、なんつうかアレな感じで。
       なんで特A国が未だに共産主義なのか。ウッスラと理解に近づけそうな感じでもあり。

  6. 門外漢 より:

    >日米両国も韓国に対する半導体製造のための生産装置、部品などの供給を止めれば、

    フッ化水素だけなら誤射かもしれない。

    1. 匿名 より:

      フッ化ポリイミドとレジストも入れたのは脅しの意味もあったんでしょうね。フッ化水素での悪さをやめないとレジストも止めるぞ、と。

  7. 名無しの権兵衛 より:

     「先端技術がそのまま軍事力をはじめとする安保と直結する時代になり米中対決は譲歩のないゼロサム争いにつながる可能性が大きい。残念なことにこの激変の渦中に韓国政府は何の話も対応もない。政府はこの状況を企業にだけ任せずに、外交力を総動員して生存戦略を用意しなければならない」
    ⇒中央日報さん、そんなことはありませんよ。最新の鈴置論考によれば、4月3日の中韓外相会談後、中国政府・外交部が発表した会談結果には、中韓両国が「5G、ビッグデータ、グリーン・エコノミー、AI、半導体、新エネルギー、医療分野」などでの高度な協力体制構築で一致したと記載されていますよ。
     韓国政府は、既に外交力を総動員して生存戦略を用意し、実行に移しているのですよ。もっと、自分達の政府を信頼されてはいかがでしょうか。

  8. より:

    現代において、半導体の安定的供給は製造業のみならず安全保障面でも死活的重要性を持っているという命題は、否定しようにも否定できない真命題であると思います。また、現時点において、特にメモリ半導体について、韓国勢が大きなシェアを握っているというのも間違いありません。
    しかし、韓国はここでも大きな錯覚に陥りました。その錯覚とは「韓国製半導体の供給が滞れば、憎っくき日本はもちろん、アメリカだって困るのだから、韓国が少しばかり我儘を言っても、受け入れざるを得ないはずだ。いや、受け入れるに違いない」というものです。この錯覚は、「韓国の地政学的位置は、アメリカにとって致命的なまでに重要なので、多少何かしようが、アメリカが韓国を見捨てることは絶対にあり得ない」という錯覚と構造的によく似ています。言い換えれば、「我々は他に替えが効かないほど重要なので、多少の『甘え』は許されるのが当然だ」という発想でもあります。

    半導体製造工場の立地が韓国でなければならない必然性はありません。さらに、半導体製造装置も製造に必要な主要部材の多くも輸入に依存しています。韓国半導体産業興隆の要因の一つは、日本のサラリーマン経営者にはできなかった、財閥による適切なタイミングでの果敢な投資の実行がありますが、どれほど投資資金を用意していても、製造装置や部材が入ってこなければ、何もできません。知財の問題以前に、製造自体が不可能になります(余談ですが、中国半導体産業が頓挫しかけているのも、同じ理由です)。

    アメリカが韓国を半導体供給基地として不適と判断し、他に振り向ける決断を下したのかどうか、まだ断定できる段階ではないと思いますが、二股外交という韓国の姿勢が変わらない限り、その方向に動く可能性は高いでしょう。戦略的に重要な物資を、向背定まらぬ国に依存するというのは、それだけで安全保障戦略上非常に不都合だからです。

    韓国の「錯覚」はいずれも底が割れ始めました。韓国が「錯覚」を自覚して改心するなんてことがありうるのか、それとも「錯覚」に固執して奈落の底に転げ落ちるのか、さて、韓国はどちらを選ぶのでしょうね。

    1. 匿名 より:

       メモリはコスパです。同じスペックなら安いほうがいいので、安く作れるとこで製造する。
       日本企業が作ればスペックは圧倒できるはずです。ただしかなり高額。そこまで要らんと。
       メモリ産業で韓国が日本に勝利したのは、技術開発力でも製造技術でもなく、ただ単に「日本より貧乏だったから」と思います。

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