朝日新聞社が「社員」の自社紙購読を自腹化=東洋経済

「これではまるで自爆営業だ」

このところ、新聞業界の苦境が報じられる機会が増えてきた気がします。こうしたなか、東洋経済オンラインには先週金曜日、『朝日新聞が赤字で「社員の購読を自腹化」の衝撃』という記事が掲載されていました。

繰延税金資産取り崩し、1億円減資…迷走する新聞業界

最近、新聞業界の苦境を示す報道が目につきます。

ことに、最大手の一角を占めている朝日新聞社が「退職給付に係る負債」により発生した繰延税金資産などを取り崩したことの経営学的な意味については、先月の『退職給付会計と税効果会計、そして大手新聞社の経営難』でも説明したとおりです。

早い話が、税効果会計上のスケジューリングができなくなった、ということなのですが、新聞業界の苦境を示す話題は、これだけではありません。

毎日新聞「1億円への減資」と資本剰余金の「使い道」』では、毎日新聞社が1億円に減資したことに関連し、『文春オンライン』に「経営は火の車だが、毎日ジャーナリズムの火を絶やしてはならない」などとする、なにやらよくわからない主張が掲載されたという話題と取り上げました。

さらには、『新聞業界の足元で新聞販売店従業員は20年間で4割減』では、新聞販売店の従業員数、新聞用紙の新聞社向けの払出トン数などが、この20年間で、どちらもちょうど43.8%減少したなどとする話題を紹介しています。

ひと昔前は「若者向けの情報デバイス」だったはずのスマートフォンの世帯普及率が8割を超え、いまや多くの高齢者が自在にスマートフォンを使いこなす時代が到来したことで、新聞業界は先細り、というわけです。

朝日新聞が「社員の購読を自腹化」

こうしたなか、先週金曜日にはこんな話題も出てきました。

朝日新聞が赤字で「社員の購読を自腹化」の衝撃/部数減で苦肉の策、社員から不安や憤りの声も

―――2021/02/26 5:10付 東洋経済ONLINEより

これは、「社員ならばタダで読めていた『朝日新聞』が有料になる」、という記事です。

(※『上場会社の「社員」になる方法、こっそりと教えます!』でも述べたとおり、「社員」とは「出資者」を意味し、「会従業」などを「社員」と呼ぶのはれっきとした誤用です。しかし、本稿では敢えて元記事の誤用を訂正せず、「朝日新聞社の社員」を「朝日新聞社の使用人」という意味で使用します。)

「東洋経済の取材で明らかになった」ところによると、「社員」が朝日新聞を購読することで発生する料金を、福利厚生の一環として会社が負担するという制度を、2014年4月以降のどこかで廃止される見込みだ、としています。

なんだか、よくわからない記事ですね。

自分の会社の新聞をわざわざ購読し、その新聞代を立て替えて支払ったうえで、それを会社から補助してもらうというのも、取引としては非常に不自然です。うがった見方ですが、朝日新聞の実売部数をかさ上げする目的でもあるのではないかと思わず疑ってしまいます。

実際、東洋経済は購読料補助廃止の狙いについて、2020年12月15日の同社社内報の記載をもとに、次のように述べます。

制度廃止の理由は約2億円の支出削減に加え、社員が自社の商品を自ら購読することで朝日新聞の購読部数を支えるとともに、有料で購読している一般読者の視点に立って朝日新聞の価値を考えるきっかけとすること

私たち読者の立場で、東洋経済が報じた内容が事実かどうかについてはわかりませんが、もし本当に同社の社内報にこんなことが書かれているのだとしたら、これも凄い話です。

経営状況は「創業以来の深刻な状況」

ちなみに朝日新聞社の経営状態について、東洋経済はこんな情報も掲載しています。

  • 主力のメディア・コンテンツ事業では、ネットの普及などに伴い新聞の需要が減退し、部数の落ち込みはとどまることを知らない
  • 本業の赤字を補ってきた不動産事業も、ホテルで新型コロナ影響による急激な減収が発生し、セグメント利益も前年同期から半減した
  • 将来の利益計画の前提を、新型コロナ影響が2022年3月期も継続する仮定に見直した結果、繰延税金資産の取り崩しが約300億円発生した
  • 同社の社内報では経営状況について、「創業以来の深刻な状況」と書かれている

…。

「そうですか」、としか言い様がありませんが、本当に大変そうですね。

ちなみに、同社は中村史郎副社長が2021年4月に社長に就任する予定だそうですが、東洋経済によると、中村新体制における基本方針(2020年11月30日付)としては、「緊急収支改善対策の推進」や「不採算事業の撤退・縮小」などをうたっているそうです。

この点、今後は新聞購読料を「社員」の給与から天引きする方向で労組側と調整中だそうですが、「自腹での購読継続に強制性はない」としつつも、「朝日新聞社員」からは「これでは(自社製品を買い取らせる)自爆営業と同じではないか」などの声も上がっているのだそうです。

こうしたなか、中村体制下では、「非新聞事業の拡大」に向けて大規模な配置転換も予定されているとのことですが、朝日新聞社が収益の3本柱と位置付けているのが「デジタル」、「イベント」、「不動産」だそうです。

現実に同社の有報でセグメント情報をチェックしてみても、少なくとも2020年3月時点においては、「デジタル」、「イベント」などのセグメントは出てきません。おそらくは「これからそれらを3本柱にする」という意味だと思うのですが、このあたりもなんだかよくわかりません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ちなみに東洋経済の記事によれば、「中村新体制の基本方針」には冒頭に次のような記載があるのだそうです。

未曾有の赤字を乗り越え、事業構造を一気に転換し、成長するメディア企業として生き残り、ジャーナリズムを守る」。

「ジャーナリズムを守る」の部分は、もしかすると本気でそう思っているのでしょうか。

疑問は尽きないところです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. haduki より:

    「ジャーナリズムの火を絶やしてはならない」にしても「ジャーナリズムを守る」にしても、自分たちが消費者=国民から必要とされなくなってきたという現実を受け止められない+何故必要とされなくなってきたか省みることができないのが深刻ですね。他人事ですが

    1. JJ朝日 より:

      朝日新聞は、新体制でも、その「捏造と反日ジャーナリズムを守る」という宣言を改めてする、というのもなんなのかなぁ~と感じますな。

    2. りょうちん より:

      「ジャーナリズムの火を絶やしてはならない」とはつまりこういうことですね。

      https://i.imgur.com/Wk8apMA.png

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    次いでに自爆営業もさせてはどうですか。売れない歌手や芸能人、小劇場の役者が知人にチケットを買って貰うように(笑)。

    額面5,000円のところ、3,000円にして更に粗品付けるとか。差額は自腹ですヨ!それで10部でも獲得出来たら、大したもの(まあ、無理やな 笑)。記者が近づくだけで、知り合いは逃げて行きます(爆笑)。

    だいたい今まで無料だったのが間違いです。ウチが働いてたところは、タダなんて一切ナシ。もし、一日でも家に持って帰れば懲戒免職になります。ちょっと借りるも駄目。

    国鉄の顔パスと同じですネ。結局、ツケは購読者(客)に行く。馬鹿げた話だ。

  3. 農民 より:

     「未曾有の大戦を乗り越え、劣勢を一気に転換し、成長する帝国として生き残り、国体を守る」
     どこかで聞いたような精神論がガッツリはまりますね。壮大なお題目の達成に必要なのは「一気に転換」する具体的方法のはずですが、その内容が従業員に自己犠牲を強いて数字を稼ぐとか、戦前(中)回帰の特攻肯定かな?朝日だし。
     大昔にはあったとされる「新聞によって暴かれた不正」とか最近聞かないですし。新聞社による不正はいくらでも疑われているし、不正ではないのに不正に見せかけるモリカケとかばっかり。こうなると前者も、悪人を仕立てようとしてた新聞社が、たまたま本当の悪人を挙げてしまっていただけなんじゃないかとか疑いたくなります。
     ジャーナリズムはとっくに瀕死なので、アサヒイズムとかでも名乗ってれば良いと思います。ジャーナリズムに迷惑だし、こちらも誤認しなくて済むし。

    1. 農民 より:

       あった、静岡県上野村村八分事件(1952)か、これとかですね。
       wikipediaの項目などを見ても、事件の主眼は昔の選挙の杜撰さ、村八分文化、人権侵害、といったあたりなのですが。
       村八分のキッカケは事件の告発にしても、エスカレートした理由や、事件後半に参戦する「勢力」や、被害者が後に本名を用いず所属する団体は何やら……もにょる内容です。

  4. G より:

    そもそも従業員に無料で自社製品、それも主力製品を提供ってのが他業界との比較でいうと今どき異常ですよね。それをやめた位で自爆営業とか笑っちゃいますね。

    自腹で10部購読とか、他の業界じゃ(悪弊ですけど)当たり前なので是非そういう世界を体感して欲しいですね。
    多分そう言うの自分で経験したら記事に書いて世の中の悪弊告発したくなりますよ。まあ、上層部は記事止めるでしょうけど。

  5. カズ より:

    >未曾有の赤字を乗り越え、事業構造を一気に転換し、成長するメディア企業として生き残り、ジャーナリズムを守る

    言いっ放し、やりっ放し、散らかしっ放しで、後片付けの責任も果たさずに、そそくさと現場を離れる(無かったことにする)。

    *そんな『じゃあな!リズム』なんて要らない!!

    1. 匿名 より:

      誰が上手いこと言えと(笑)

  6. 引きこもり中年 より:

     独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、朝日新聞と同じく、自分は間違えない存在と自惚れそうなので)
     素朴な疑問ですが、自腹で朝日新聞を購入する朝日新聞社社員は、どれだけいるのでしょうか。(朝日新聞本社も、自腹化した途端に、発行部数が落ちることを恐れて、これまで出来なかったかもしれません)
     駄文にて失礼しました。

    1. 匿名 より:

      記事には給料から天引きを検討中とあるし、
      そうならなくとも出世とかの条件になる事は間違いないでしょう。
      そういう意味では事実上強制です。

      正社員に関しては何の同情もありませんが、末端の配達員とかが苦しくなりそうな予感

      1. 引きこもり中年 より:

         匿名様へ
        >そういう意味では事実上強制です。
         もし社員に自社製品を買うことを強制した企業があった場合、朝日新聞は、どう報道するのでしょうか。(その買わせる商品候補が複数ある場合と、一つしかない場合でも、違ってくると思いますが)
         駄文にて失礼しました。
         

      2. 裏縦貫線 より:

        購読料の流れが気になります。通常の購読者ならばまず販売店に入り、販売店の取り分を引いた額が新聞社本体に渡るのでしょうが、先に新聞社本体が給与天引きする場合、一旦は販売店に全額渡すのか、それとも本体取り分は差し引く?
        販売店に「現物支給」はさすがに有り得ないか…

  7. より:

    先日、菅総理へのぶら下がり取材の模様が(なぜか)中継されていました。各紙記者からの質問があまりにも低能な質問ばかりで、腹立ちを通り越し、もはや憐みしか覚えませんでした。
    総理官邸担当となれば、各紙ともそれなりの人材を充てているはずだと思われますが、それであの程度だとすると、新聞が国民からの信頼を失い、部数を減らすのも当然の帰結と言わざるを得ないですね。

  8. 匿名 より:

    >社員が自社の商品を自ら購読することで朝日新聞の購読部数を支えるとともに

    社内報にこの目的を堂々と書くところが、朝日社内の世間ズレを感じます。
    福利厚生の削減のみに、シンプルにとどめておけばよいのに。

    同業他社の転職先なんてないでしょうから、一蓮托生って感じでしょうか。
    「強要か?」と問えば「任意です」と、不毛なやり取りが散発的には起こったんでしょうかね。
    気の毒なもんです。

    1. 匿名 より:

      あらら、キー操作ミスで書き込んでしまいました。
      しょうもないコメントですみません。

  9. はるちゃん より:

    これ、「優越的地位の濫用」に該当します。
    違法行為です。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

りょうちん へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告