ウラン濃縮を再開も韓国ウォンを持てあますイラン

昨日の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』でも「速報」的に取り上げたのが、イラン革命防衛隊による韓国船舶の拿捕と韓国国内で凍結されている資産、そして「物々交換」などの関係です。現時点においては「韓国がイランに戦略物資を不正に流していた」という点に確たる証拠はなく、単なる仮説の域を出ませんが、それでも本稿では昨日の拿捕事件に関する続報をいくつか補足しておきたいと思います。

ウォン資金口座を巡るやりとり

昨日の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』では、イランの革命防衛隊が韓国の船舶を拿捕したらしい、とする話題を、これまでのイランと韓国の間の「浅からぬ因縁」とともに「速報」的に取り上げました。その「因縁」のひとつが、ウォン資金口座の凍結問題です。

これまでイランが韓国に輸出した石油などの代金については、米国からの経済制裁を回避する目的で、2010年以降は米ドルなどの外貨ではなく、韓国国内の2つの銀行に開設されたウォン資金口座を使って支払われていました。

しかし、米国のイラン制裁復活にともない、韓国当局は2019年9月にこの2つの銀行口座を凍結し、米ドル換算で約70億ドルの資金が宙に浮いた状態が続いています。今回のイランによる韓国船拿捕の背景には、この資金を巡る韓国政府の対応が無関係とは言えないでしょう。

こうした見方を裏付ける記事が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、相次いで掲載されています。

イラン政府「韓国政府が70億ドルを人質に取っている」

―――2021.01.06 07:13付 中央日報日本語版より

イラン「韓国船舶、海洋汚染賠償金を出せ」 船会社「汚染は全くない」

―――2021.01.06 07:44付 中央日報日本語版より

前者の記事ではイラン政府報道官が5日、オンライン記者会見で「韓国船舶拿捕は人質劇ではないか」との質問に対し、「韓国政府が70億ドルを人質に取っている」、「もし人質劇が存在するなら、それは我々の資金70億ドルを人質に取っている韓国政府だろう」と反論した、というものです。

また、後者の記事では、イラン海運協会長が現地時間5日、韓国船が拿捕された理由について「反復的な環境法違反容疑」だとしたうえで、「必ず環境汚染に対する賠償金を支払わなければならない」と述べた、としています。

イランは政府と革命防衛隊の動きが必ずしも有機的にリンクしているとは言い難いようですし、また、現時点で「イランの狙いはカネだ」と見るのは早計ですが、論点として注目に値することは間違いないでしょう。

韓国のフッ化水素横流し疑惑

一方、イランと韓国の不透明な関係といえば、もうひとつ、『イラン外務省が韓国に対して「約束を守れ」と要求』でも取り上げた「物々交換」があります。具体的には、イランと韓国は米国の制裁を逃れるために、ウォン建て取引に加え、物々交換でもイランとの貿易を行っていた、とするものです。

ことに、『イランがウラン20%精製を見送り、なぜ?』などでも触れたとおり、安倍晋三総理が2019年6月にイランを電撃訪問後、7月には日本政府が韓国に対する輸出管理の適正化措置を発表し、9月にイランがウラン20%濃縮を放棄したという流れも、なんだか非常に不自然です。

実際、『普通貿易統計』のHSコード『2811.11-000』(フッ化水素、フッ化水素酸)の過去の輸出高を確認してみると、たしかに2019年7月以前は、日本のフッ化水素の輸出高は数量、金額ともに9割を韓国向けが占めていました。

図表1が数量、図表2が金額で、それぞれ韓国に対する輸出(A)と全世界に対する輸出(B)を左軸に、AのBに対する比率を右軸に示しています。

図表1 HS2811.11-000の輸出(数量)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

図表2 HS2811.11-000の輸出(金額)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

(※ただし、日本のフッ化水素等の輸出は、この「HS2811.11-000」だけでなく、再輸出品「HS0000.00-190」にも含まれている可能性があるため、図表1、図表2が日本から外国に輸出されたフッ化水素等の全量ではないかもしれないという点にはご注意ください。)

万が一にも、日本産のフッ化水素(※必ずしも半導体用の高純度のものである必要はない)がイランに横流しされていて、それがイラン国内のウラン精製に流用されていた、ということがあったのだとすれば、これは大変な問題でしょう。

イランの「20%濃縮再開」との関連性は?

こうしたなか、イランによる韓国船拿捕が発生した同じ日に、イランは20%ウラン濃縮を再開すると発表しています。

イラン、20%ウラン濃縮に着手/国営メディア報道 イラン核合意修復に打撃

―――2021年1月5日 7:29付 日本経済新聞電子版より

日経電子版は「イランのメヘル通信によると政府報道官はフォルドゥの地下にある遠心分離機に濃縮度引き上げのためのガスを注入したと明らかにした」と伝えていますが、この「濃縮度引き上げのためのガス」は、おそらく、ウランをフッ化させるためのフッ化水素でしょう。

これもあまり考えたくはないのですが、「ウラン濃縮に必要なフッ化水素の入手の目処が立ったから、イラン革命防衛隊が韓国に対する実力行使に出たのではないか」という仮説についても、完全に否定することはできません。

もちろん、現時点ではいずれも憶測の域を出ませんが…。

ダヤニ一族への賠償金も払っていませんね?

そういえば、昨日も紹介したとおり、ちょうど1年前に「イーシャ」様という読者の方からいただいた読者投稿では、ダヤニ一族への賠償問題が取り上げられており、また、当ウェブサイトでも昨年9月にその続報を紹介しています。

大雑把にいえば、大宇エレクトロニクスの買収を進めていたイランの投資家・ダヤニ家が2010年、米国のイラン制裁などの影響で買収額を引き下げようとしたところ、韓国の債権団は契約を破棄し、契約金(578億ウォン)を返還しなかったとされる問題です。

これを受けてダヤニ家は韓国政府を相手にISDS(国家・投資家訴訟)を起こし、2018年6月には国連国際商取引法委員会が「売却過程で韓国債権団の誤りがあった」と判断し、ダヤニ家に契約金と遅延利息をあわせてざっと730億ウォンを支払うように命じた、というのが事件のあらましです。

(※その後の記事では730億ウォンではなく750億ウォンとなっていますが、これは遅延利息がかさんでいるためなのか、それとも中央日報が当初「730億ウォン」と報じた金額自体が「750億ウォン」の誤りなのかについては、さだかではありません。)

ところが、韓国政府は米国の制裁を回避するうえで「賠償金を支払う方法がない」などとして、「海外送金の代わりに賠償金を(韓国)国内への投資に回してはどうか」、などと提案した、という情報すらあるようです。

ダヤニ家としては、まことに「ふざけた提案」と受け止めていることでしょう。結局、ダヤニ家は韓国石油公社の英国子会社である「ダナ・ペトロリアム」の全株式を差押えた、という報道もありました(※ただし、これについては続報はありません)。

使い様がない韓国ウォンをもらっても…

つまり、イランと韓国の紛争は、イラン自身が核開発で米国などから経済制裁を喰らっているという点ではイランの自業自得的な側面もあるのですが、ここまでこじれてしまったのは、韓国の不誠実過ぎる対応にも原因があると考えられます。

正直、韓国ウォンは国際的に通用する通貨ではありません。

韓国国内のウォン資金口座も、韓国国内でしか使えないため、「(旧)ホワイト国」としての特権的地位を使って日本産のフッ化水素などを無制限に輸入できていた2019年7月以前ならともかく、現在の韓国国内で手に入る物資に、イランにとって魅力的なものがあるのかどうかは微妙でしょう。

こうしたなか、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)は昨日夜、こんな記事を配信しています。

イラン 韓国内の凍結資産でコロナワクチン購入要請=米国も承認

―――2021.01.05 18:09付 聯合ニュース日本語版より

これは、韓国政府外交部の当局者が5日、「韓国内の銀行にある凍結資産を新型コロナウィルスのワクチン購入のために使う案を韓国政府と協議している」と述べた、とする話題です。

具体的には、「韓国政府内では医薬品など人道物資を取引する場合は制裁の例外となるため、このような資金活用について米国政府の承認を受けた」ということですが、聯合ニュースによると、イランはこれに対し「まだ結論を出せずにいる」としています。

ただ、自然に湧き上がってくる疑問は、果たしてワクチン購入で70億ドルという資金を使い切ることはできるのかどうか、という点にあります。

だいいち、ワクチンを巡っては、韓国は自国民に接種する量を確保したとの話を聞きませんし、ましてやそんな国が外国に提供できる量のワクチンを確保しているとも思えません。

このように考えていくと、韓国政府の「提案」は、なんだかいつもの実現性のない絵空事、という気がしてならないのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. より:

    そもそも論ではありますけど、何故イランは韓国ウォンなどという「弱い」通貨での取引に応じたんでしょうね。それこそ、人民元建てにでもしておけば、これほど話がこじれることはなかったでしょうに。まあ、中国にごっそり中間マージンを取られそうではありますが。

    1. だんな より:

      龍さま
      イランが西側に制裁されて、ドル取引が出来なくなって、それでも韓国が、取引してくれるから、仕方無しにやってたんだと思います。
      また、その時期イランと韓国は、関係が良かったんだと思います。
      結果的にイランは、騙されたニダ。

    2. Yaab より:

      ひょっとすると、イランは韓国ウォンの為替相場を睨んで、韓国の通貨の為替相場が有利なうちに預金を韓国からの撤退を目論んでいるのでは?

      韓国ウォン(や韓国株価)のバブルがはじける前に。

  2. 雪国の会計士 より:

    ワクチンを材料にするのは、石油代金の延納理由かな?

    まぁ、自国民向けのワクチン調達ですら不調なのはバレちゃってるので理由になってないし。

    大統領府はワクチン調達が順調だとの見解をかえられないので、結果として、嘘から出た誠、ではなく、撤回できない嘘から出た誠の妄想ですね。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      イランは西側製薬各社から個別にワクチン調達、支払いは韓国(内の凍結口座)にツケ廻し…だと面白いカモ!?

  3. イーシャ より:

    厚生労働省の資料 COVAX ファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)への参加について (pdf ファイルです) によると、
    「 (i)高・中所得国が自ら資金を拠出し、自国用にワクチンを購入する枠組みと、(ii)ドナー(国や団体等)からの拠出金により途上国へのワクチン供給を行う枠組み(Gavi COVAX AMC)を組み合わせている。」
    とあります。
    イランは (i) を利用して、資金を拠出することにより、
    ・南朝鮮を介して怪しげなワクチンをつかまされる恐れがなくなる
    ・途上国への貢献という大義名分を得られる
    の一挙両得を狙うのではないでしょうか ?

    今から列の最後尾に並んでも先進国製のワクチン入手はかなり先になるでしょうし、
    中国製や南朝鮮製のものを購入するよりは安全でしょう。

    それだけで 70 億ドルを使いきることはできず、
    朝鮮人は少額でもドルでの資金流出を嫌がるでしょうけど。

  4. パーヨクのエ作員 より:

    いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    管理人様>これもあまり考えたくはないのですが、「ウラン濃縮に必要なフッ化水素の入手の目処が立ったから、イラン革命防衛隊が韓国に対する実力行使に出たのではないか」という仮説についても、完全に否定することはできません。

    本当に証拠はないゲスの勘ぐりですが、逆にタンカーにあらかじめフッ化水素が積まれていて拿捕、積み荷没収の形で韓国→イランへフッ化水素が渡ったという事はないですよね。

    直送を避けて韓国経由で極低温保存必須のワクチンをイランが人道名目で受けとり、極低温を維持して末端へ供給することよりはまともなモノを受け取れる可能性大と思います。

    韓国が駆逐艦を派遣ならば日米は積み荷を追いかける偵察衛星を派遣するべきではないかと思います(笑)。

    妄想は以上です。駄文失礼しました。

    1. カズ より:

      拿捕名目での接舷による重要物質の瀬取りではないのだろうか?
      と、私も思っています。

      1. マスオ より:

        可能性はありますね。
        そして船籍内を調べさせないために韓国海軍を派遣した。

        ・イランが韓国船拿捕 韓国政府「早期解放」要請=海軍部隊を緊急派遣
        https://news.yahoo.co.jp/articles/c6d071891b728bd4d720ea132775e0696642b706
        軍当局は海軍「清海部隊」をホルムズ海峡に緊急出動させた。

  5. カズ より:

    イランは中国からワクチンほか諸々(含むフッ酸)の物資を購入し、代金決済として中国側に”対韓国の債権”を差し出せばいいと思うのです。

    そしたら、
    イラン:物資調達と代金回収ができる。
    中 国:中東での親中国が確保できる。
    韓 国:宗主様に頭を叩いてもらえる。
    と、三者三様のHAPPYなのです。たぶん。

  6. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    「イランはウラン濃縮に必要なフッ化水素の入手の目処が立ったから、韓国船拿捕に出たのではないか」ーーー当たっていると思います。人質ですネ。

    イランにすれば、これまでの韓国の不誠実な対応、怒髪天を突くのではないですか。ダヤニ家が起こした訴訟も750億ウォン支払いを命じられながら、「賠償金を投資に回さないか?」ーーーホントにド厚かましいというか朝鮮人は何も信じられません。

    また、今はワクチン代にしろ?(嘲笑)自国民用確約分も満足に無いクセに、朝鮮製か中国製を渡す気じゃないの?まさに韓国は、国際愚連隊国ですね。何しろイランをコケにするぐらいですから(爆笑)。

  7. りょうちん より:

    疑問なんですが、ワッセナーアレンジメントに参加していない、中国・ロシアから輸入しているという線はなぜ無視できるのでしょうか。
    彼らなら、ウラン濃縮用のフッ酸生産はお手の物です。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      中共はともかくイラン空軍のF-14継続運用にも協力的だったロシアは有りそう…と思いましたが、両国とも勢力圏外かつコントロールに不安のある状態での核兵器の拡散は望まないのではないでしょうか?

  8. イーシャ より:

    南朝鮮が購入しようとするワクチンを、70億ドル分まで順次差し押さえられれば面白いのにね。

    1. イーシャ より:

      改めて振り返ると、ダヤニ一族によるダナの株式仮差押えを認めたのは英国の裁判所でした。
      南朝鮮がかろうじてワクチンの購入契約をしているアストラゼネカの本社所在地は、イギリスのケンブリッジ。ワクチンの入手権利を差し押さえることもできるかもしれません。

  9. 匿名 より:

    これは面白い事件ですねw
    米さんの介入を受けづらいタイミングを狙ったのでしょうか。最終目的がまだ分かりませんが、南鮮からのフッ化水素輸入再開の線は薄いようにも感じます。起こしてる騒ぎの質としては、各種支払いを強硬に請求するのかな、というのが今の印象です。

    トランプ「どれどれ、請求書の内訳を見せてみなさい」



    トランプ「■刑」

  10. WindKnight.jp より:

    イランの人口は 8000万人ということを考えると、
    70億ドルを使いきれるかどうかは分かりませんが、
    かなりの部分を使うことになるでしょうね。
    ま、凍結される続けるよりは、ずっと良いと考えているでしょう。
    購入するイランも販売するアメリカも。

    さて、韓国の銀行に、残っているでしょうか?

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告