今年も隣国発の呆れ果てる話題から無縁ではいられなそうです。三菱重工は昨年末、韓国国内での知的財産権の差押に関する公示送達が効力を生じたことに対し、即時抗告を申し立てたのだそうです。これについて個人的には「余計なことをやらなくても良いのに」という思いもありますが、それ以上に申し上げたいのは、そろそろ日本企業も相手国のリーガルリスクを徹底的に査定しなければならないのではないか、という点です。
デタラメ国家のデタラメ判決
自称元徴用工問題の核心部分は、韓国の最高裁に相当する「大法院」が2018年10月30日と11月29日に下した判決が、結果的に日韓請求権協定に違反する状態を創り出しているという点にあります。
韓国政府はこれについて、「三権分立の建前がある」などと騙り、「政府としては判決に介入できない」などと述べるなど、ほとんど解決に向けた努力をしていません(『【速報】韓国首相、自称徴用工問題巡り「対応には限界がある」』等参照)。
しかも、2019年には、日本政府が日韓請求権協定に従い、問題を解決するための外交協議や国際仲裁手続を申し入れたにも関わらず、韓国政府はそれらを一切合切すべて無視するという暴挙に出ました(『「河野太郎、キレる!」新たな河野談話と日韓関係』等参照)。
さらには、韓国国内の一部のメディアには、「韓国国内では国際法よりも韓国の法律が上位規範である」などとする議論も掲載されているようです(『慰安婦問題で国際法秩序を根底から否定する韓国弁護士』等参照)。
どうして日本企業が韓国の憲法秩序とやらに従わなければならないのか、心の底から理解に苦しむ点ですが、やはりこれもデタラメ国家のデタラメ国家たるゆえんなのでしょうか。
売却?できるものならどうぞ!
こうしたなか、最近の自称元徴用工問題の潮流といえば、「売却スルスル詐欺」です。
調べてみると、現時点でこの自称元徴用工問題を巡り、日本企業3社が韓国内の資産の差押を受けているようです。具体的には、日本製鉄と不二越が非上場の合弁会社株式、三菱重工業は特許権と商標権です。
いちおう、日本政府としては「日本企業に不当な不利益が生じることがあってはならない」などと言い続けており、これは「資産の売却をしたら直ちに対抗措置を講じるぞ」という意味だと思われますが(私見)、そもそも論として、売却はできるものなのでしょうか。
たとえば、日本製鉄や不二越の場合、差し押さえられている資産は合弁会社株式ですが、『時間もカネもかかる 非上場株式の競売が困難である理由』でも報告したとおり、一般に合弁会社株式を裁判手続で売却することは極めて困難です。
そもそも合弁会社(日本製鉄の例でいえばPNR社)の株式にはたいていの場合、譲渡制限条項が付されており、合弁企業(PNR社の例でいえばポスコ7割、日本製鉄3割)以外の第三者が株主になることは想定されていません。
そんな株式、誰が買うのかは知りませんが、もし万が一裁判で強制売却が実現したとしても、その株式を購入した者はただちに株主になれるわけではありません。株主名簿を書き換えなければ会社に対して株主であると主張できないからです(いわゆる対抗要件)。
当たり前ですが、取締役会のメンバーは日韓両国の合弁会社から派遣されていますので、取締役会が株式譲渡を承認することはあり得ません。裁判で株式を買ったとしても、その株式を買った者は結局その株式を会社の指定する第三者(またはその会社)に譲渡する以外に換金する方法はありません。
そして、その譲渡価格を決める(バリュエーションを実施する)際に、財務デューデリジェンスを実施しなければなりませんし、時間もカネもかかります。
また、個人的には特許権や商標権の鑑定評価、売却の実務に詳しいわけではないのですが、それでもさまざまな法令を調べてみると、やはり特許権や商標権の移転には、鑑定評価や競売など、それなりのハードルもあるようです。
自縄自縛の韓国の独り相撲
もちろん、『非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい』でも報告したとおり、韓国が法治国家なのかどうか怪しいという点を踏まえるならば、裁判所が超法規措置として、株式の強制的な名義書換を認める可能性はあるでしょうし、また、韓国政府が株式などを購入するという可能性もあります。
もっとも、もしも韓国で「超法規的な名義書換」がなされたら、その瞬間、「韓国は会社法すら満足に運営できない国」と世界中のビジネス界が認識するでしょうし、韓国政府が株式を購入したら、その瞬間、「三権分立だから政府は介入できない」というこれまでの韓国政府の言い分が崩壊します。
要するに、非上場株式、特許権、商標権を本気で売却しようとすれば、時間とカネをかけなければなりませんし、もしも時間とカネをかけて頑張って売却を実現したとしても、日本政府が対抗措置をチラつかせている状態にあるのです。
しかも、差し押さえられている資産はいずれも日本企業にとって、「強制売却されると困る」というものではないため、事実上、放置していても問題がないのでしょう。その意味では韓国にとって自縄自縛、という言い方をしても良いかもしれません。
いずれにせよ、本件については韓国の「独り相撲」を眺めていれば良いのではないかと思う次第です。
三菱重工業が即時抗告
さて、3社のうち三菱重工の知的財産権を巡り、資産差押命令決定に関する「公示送達」の効力が12月29日と30日に相次いで生じた、という話題については、『韓国市民団体「三菱は強制売却が嫌なら謝罪と賠償を」』などでも取り上げました。
これに、続報があったようです。
三菱重工が即時抗告 韓国内資産の差し押さえ効力発生で
―――2021.01.03 16:41付 聯合ニュース日本語版より
日帝強制労役賠償に応じない三菱、韓国の裁判所に「即時抗告」
―――2021.01.04 07:02付 中央日報日本語版より
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)、『中央日報』(日本語版)によると、三菱重工側はそれぞれの差押命令に対し、公示送達の効力が生じた翌日、つまり12月30日と31日に、相次いで即時抗告を実施したのだそうです。
そういえば昨年8月、日本製鉄も公示送達の効力発生直後に即時抗告に踏み切っていますが(『日本製鉄の即時抗告、本当の狙いは「引き伸ばし」?』等参照)、韓国のような非法治国家の法的手続にもちゃんと応じる日本企業の几帳面さはさすがだと思います(※褒め言葉ではありません)。
それはともかく、聯合ニュースは「三菱重工が差し押さえや資産売却に対し、可能な全ての法的手続きを取る姿勢を示したものと受け止められる」、中央日報は「三菱重工業が差し押さえ、資産売却に関連し、可能な法的手続きをすべて踏もうという意志を示したもの」と述べています。
即時抗告は日本企業からのメッセージ?
もっとも、正直、原告側としても、あるいは韓国政府関係者も、今回の三菱重工側の即時抗告にホッとしているのではないでしょうか。この即時抗告が行われることで、裁判の手続はさらに引き伸ばされるからです。
というよりも、正直、なぜ三菱重工や日本製鉄がこんな中途半端に即時抗告の手続をする必要があるのか、疑問です。そもそも韓国で公示送達の手続が取られた理由は、両社が裁判関連の書類の受領を拒否したから(あるいは日本の外務省がそれを届けなかったから)でしょう。
いわば、公示送達自体が「日本企業は韓国の裁判の手続には応じない」という姿勢の象徴に見えるのですが、即時抗告をしたことは「日本企業は韓国の裁判の手続に応じる」という姿勢の象徴に見えてしまうのです。
もっとも、今回の即時抗告は、日本企業としても、ホンネでは日韓関係が壊れることを願っていないという証拠と見ることもできます。
もう少し踏み込んで言えば、「即時抗告で時間を与えてやるから、その間に立法をするなり、判決を下した大法院の判事を『公捜処』が逮捕するなりして、韓国国内で問題を処理しろ」という通告だ、という解釈も成り立つのかもしれません。
もっとも、この仮説が事実だったとしても、個人的には「そんな温情を韓国にかける必要などあるものか」と疑問に感じます。
ビジネスをやっていれば、正直、世界中に法治国家ではない国などいくらでもありますし、場合によっては、「リーガルリスク」、つまり「相手国内の法律や日本との条約が守られない国でこれ以上ビジネスを展開することのリスク」を冷徹に査定し、判断することも必要です。
とくに韓国に進出している企業の経営者の皆さまにとって、「韓国は隣国であり、特別な国だ」、という勘違いでもあるのかもしれませんが、むしろ必要なのは、「隣国」というだけの理由で過度に特別視せず、「日本とは違う国だ」「外国だ」という大前提を忘れずに、相手国でのビジネスリスクを常に査定することです。
そろそろ日本企業にとってはこのあたりのリスクを全体的に評価すべき時期が到来しているように思えてなりませんし、日本政府にも「非法治国における事業縮小・撤退」に対する税制優遇措置を設けるなどの支援策があっても良いのではないかと思う次第です。
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同感です
相手の土俵にあがる必要ありません
ひたすら「無視」がベストかと思います
>「非法治国における事業縮小・撤退」に対する税制優遇措置を設けるなどの支援策があっても良いのではないか
これは強烈なあてこすりですよね。取締役会とは去勢された宦官集団に過ぎないのでは近ごろそう思えてならないのですが、先取精神溢れるビジネスマンは「エコノミックアニマル正義警察(使わせていただきます)のような連中」を相手しててもしょうがないです。
更新を有難う御座いました。
>当たり前ですが、取締役会のメンバーは日韓両国の合弁会社から派遣されていますので、
>取締役会が株式譲渡を承認することはあり得ません。
ここがこの手の手続きに無知な私には理解出来ないところです。
この件についての韓国側の嘘偽り・捏造・国際法違反等々、数々の不法行為を鑑みると、「韓国にある取締役会そのものが法にそって公正に機能するハズ」との『暗黙の前提』はキケンでは?
韓国ですよ?
例えば、取締役会のメンバーの構成で「愛国心の帰属先」とか、もっと一歩進めて取締役会のメンバーに圧力(恐喝を含めた)が掛かったら「論理的な法治国家ではこうなるハズ」と言うごく普通の前提は成り立たなくなるかも。
いつも楽しく拝読させていただいております。ガス田掘りと申します。
個人的な経験では、韓国人あるいは韓国法人と話が揉めたとき、彼らは彼らに対する無視・無反応を「全面降伏」と思い込んで更に居丈高になる(そして際限のないトラブルを生む)ことが多かったです。これを防ぐには、相手を徹底的に追い込んで無視・無反応の状態を引き出すか、公的(これ重要)な手続きを一枚かまして放置するかのどちらかでした。今回の三菱の対応もこれに準じたものではないかと思う次第です。
個人的な話ですが、私は過去に水産資源や日本海海底資源の調査・開発に関わった経験があります。韓国・北朝鮮・中華共産との交渉で無理・無茶・無法ぶりに散々手を焼いてきましたが、そこで学んだのが、「外交・企業活動・個人関係を問わず、無視・無反応は最悪の結果を招く」です。ただ、我が国の中には「無視・無反応」を相手に失礼のない(失笑)最良の抗議と勘違いしている方(役人や経済界トップの一部)が未だに多いのが実に残念です。
上記のことを強く印象付けたのが2009年のPICES*と日韓漁業協定の監査です。PICESは日本語では研究者の会合ですが、実態は国連の海洋資源分配機関であるICES**の日本海・太平洋WGであり、裏ではドロドロといた海洋資源権益の陣取り合戦が行われてました。
当時の福田首相は中韓との外交交渉において「ルーピー並み(以上かも)の無能な勤勉」を地で行かれたので、我が国はアメの援護が全くない鴨葱状態に追い込まれました。日本が黙っている間に日本海における海底資源の日本権益を完全放棄させられる直前まで追い込まれ、慌てたアメの援護と麻生外務大臣の素敵すぎる恫喝があってチャラになったのは苦い思い出です(笑)。
駄文失礼
*) North Pacific Marine Science Organization
**) International Council for the Exploration of the Sea.
ガス田掘り 様
激しく同意です。
また、今まで福田元首相が中共や韓国の肩を持つ理由が良く判りませんでしたが、正体(パブロフの犬)が良く判りました。
毎日の更新御疲れ様です。南朝鮮側に解決の意思や能力が欠如している事が前提とします。そうすると目的が日本から簡単に現金を引き出す事、貶める事しか考えていないと思われますねそうすると慰安婦案件での財団方式とか、日韓宣言での謝罪が成功体験としてしつこく要求してくるのに符号します。阿部氏のころから対韓対応が【自分で考えなさい】式になり発言が自滅する方向で楽しく...もとい興味深く見分しています。無視=黙認とされない為にしないといけませんねね
企業として、法に沿った手続きを淡々とやっている、と感じます。相手が無法でも法と名の付くものが有れば守っておくことが反撃の材料にもなると言うことかな、と。日本政府とは綿密に連携していると思います。
社内で韓国のリーガルリスクを話題にすると、それを「差別だ」とか言い出して潰す集団がからなず出てくるのでしょう。声の大きさにそういった話題が潰されてしまうところ、なんとかうまく通せるところ、いろいろあるんだと思います。
実際のところ、そういううるさい一部を刺激しないようこっそり手を引き気味にしているというのが平均的な日本企業の姿かと思われます。
ただ、面倒なのが、そういう韓国リスクの被害を受けるのは、がっつり付き合ってるところやいやいやでも続けているところじゃなくて、なんとか逃げたいのに逃げ切れない、そんな企業だったりします。日本製鉄や三菱重工なんかまさにそうですね。ほんの少ししか関与していない、そのほんの少しの部分に的確に喰らい付いてくる。そういう狡猾さが彼らにはあります。
日本に限らず世界中でそういうことをして彼らは生き延びています。さしたる能力も努力もないのにそれなりの地位を築いているのはそういった彼らの文化が影響しているんだと思います。
日本はもっとこのめんどくさい隣国の対処法を学んでいかなければいけません。決してユルい相手ではありません。本気で考えていかないと今まで通りズルズルとやられっぱなしです。
最近日本が会得しつつある「丁寧な無視」は有効な方法です。それでもどんどん揺さぶりをかけてきますが、本気で無視が最上です。アグレマンの件だってそうです。アグレマン出しちゃったにしろ出さなかったにしろとにかく何もしない。わざわざ報道の否定も肯定も要りません。
そういう意味で即時抗告とか無駄なことしなくてもいいのになというのは新宿会計士さまと同感です。とにかく反応した数だけ新聞記事が増えちゃうだけですから。話題を絶やしたくないだけの彼らに対しての燃料補給にしかなりません。
○○経営塾ではそんなこと教えないので、日本の大企業のサラリーマン経営者に期待するのは無理と思います。
グローバルスタンダードとかいう「きれいごと英才主義」の上澄みだけすくって飲んで育っている人材が、苛烈な現実にひ弱なのは経営層に限らないと思います。
2日前のシンシアリーさんのブログに「2020年、韓国の対日貿易収支の赤字幅が増加・・日本不買による(?)赤字幅減少は1年で終わりか」というのがありました。
https://sincereleeblog.com/2021/01/02/jouhounoyugami/
対日貿易赤字が前年(2019年)比で9%近く増加したという報道を受けて、「日本不買、どうなった~」的なコメントが多数という、いかにもカノ国らしい反応を皮肉った内容ですが、ここで紹介されている数字が結構面白かった。
日本からの輸入が急増した結果ではないようです。むしろ前年より3.5%ほど減少している。それより対日輸出の落ち込みがひどい(11.8%)のが原因。サイト主さんが常々指摘されているように、隣り合った経済大国(笑)同士の貿易としては、輸出入とも驚くほど金額が小さいのが事実ですが、それでも対韓輸出については総輸出額の7%程度を占めています。しかも昨年の輸出が、全体として対前年比7%近く低下した中でのはなしですから、カノ国はまあ固い顧客という位置づけにはなるんでしょう。一方で対韓輸入額の減少は全体の減少幅よりずっと大きい。
三菱重工と言えば日本のリーディングカンパニーのひとつですから、相手国のカントリーリスクなんかに配慮せずに経営を行っているはずもないでしょう、結局、経済界のカノ国に対するスタンスは、「生かさず殺さず」、別に欲しいというほどの物もないから買ってはやらない。しかし、欲しいというなら売ってはやるよと、おおよそそんなところに向かいつつあるように見えるのですが。今回の三菱の即時抗告なんか、企業にとって特段必要なことでもなければ、何らかの直接的利益もないのは、もちろん承知の上でしょう。フェードアウトを進める過程での激変緩和措置。とりあえずは「欲しいというなら売ってやる」を、形を変えて実行したってことではないでしょうか
更新ありがとうございます。
【韓国政府が株式を購入したら、その瞬間、「三権分立だから政府は介入できない」というこれまでの韓国政府の言い分が崩壊します。】(会計士様)
三菱重工業が即時抗告をした事は、肯定的に認めたいと思います。言われっぱなしでしたら、又何を言い出すか分かりません。多分、日本政府のお墨付きがあるのでしょう。
文政権が空中分解したら、消えるハナシなら良いんですが、韓国人には無理な事でしょうね。いっそのこと朝鮮国が散り散りバラバラになればいいんですが、、。それじゃ世界中にタカリ屋が蔓延しますし(日本は減ってくれるだけでラッキーですが)。
ま、関知しない、関わらない、与えないです。ところで、もう日本製鉄や三菱重工業や不二越らには迷惑、損害が出ています。ガツン!と日本政府は韓国に鼻血を出して貰えませんかね。待ち遠しいです!