時間もカネもかかる 非上場株式の競売が困難である理由

譲渡制限が付された非上場株式の売却が非常に困難であり、非現実的である、という点については、当ウェブサイトではかなり以前から申し上げて来た点です。実務家としての視点で申し上げるならば、合弁会社などの場合、譲渡制限が付されていることが一般的であり、そのような株式を差し押さえたとしても、競売・換金するまでに非常に困難が伴いますし、その過程で株価の鑑定評価(バリュエーション)なども行わねばなりませんので、コストがかかり過ぎます。これについて、メモとして、私自身の理解をまとめておきたいと思います。

譲渡制限株式の強制売却

このところ、「譲渡制限株式の譲渡」について、当ウェブサイトへのアクセスが多いので、私自身の理解をまとめてみました。

登場人物は、次の3者です。

  • A:裁判で訴えられて負けた側、Cの株主
  • B:裁判で訴えて勝った側
  • C:非上場会社(譲渡制限会社)
  • D:裁判所で競売にかけられたC社株式の落札者

ここで、設例を置いてみましょう。

BはAに対し1000万円の損害賠償を求めて訴えを起こし、勝訴した。しかし、AはBに対して、いまだに1000万円の損害賠償金を支払おうとしない。そこで、BはAが保有するC社株式を差し押さえ、裁判所にC社株式の競売を申し立てた。

さて、名義変更までの詳しい手続は会社法や民事執行法などの法令で定められているのですが、大まかにいえば、だいたい次の3つの段階から構成されています。

  • ①裁判所がC社株式を競売手続にかける
  • ②落札者Dが出て来てC社株式がAからDに移転する
  • ③DはCに対して株主としての名義変更を求める

譲渡制限株式の譲渡はとっても面倒

まず、ここでの大前提として、C社は非上場会社であると同時に、株式譲渡制限会社である、という点です。

そもそも株式とは、株式会社の出資者(つまり「社員」)の地位のことであり、株主としてはその株式会社におカネを出資するかわり、会社経営に参加したり、株主として権利行使したり、配当金を受け取ったりすることができます。

しかし、株式会社の場合は資本の払い戻しが厳しく制限されており、株主は基本的に、株式会社に出資したおカネを「返せ」とは言えません。このため、株主としては、自分が株式会社に投資したおカネを回収するためには、自分が持っている株式を他人に譲渡する、という手段を取るしかありません。

そこで、株式会社の場合、株式は自由に譲渡できるのが基本です。

ただし、これを株式会社の側から見れば、まったく知らない人がいきなり株主として経営に参加して来るおそれがあるということです。そこで、非上場会社の場合は、「株式の譲渡には会社の取締役会の承認が必要だ」とする「譲渡制限」を設けていることが一般的です。

(ちなみに株式公開して上場するときには、会社の定款からこの「譲渡制限条項」を削除しなければなりませんが、この点については本稿では関係ないので割愛します。)

基本的に株式は譲渡が自由ですから、譲渡制限がついている株式であっても、株式を譲渡すれば、それは当事者間では有効になります。しかし、会社に対して株式の譲渡を主張するためには、新株主が会社に対し、「株式を買ったから承認してね」と要求しなければなりません。

この場合、会社としては

  • 譲渡を認める
  • 譲渡を認めず、会社が指定する第三者に売却することを指定する
  • 譲渡を認めず、自社が買い取ることを指定する

という3つの対策を取ることができます。

これが、譲渡制限会社の株式譲渡の「大前提」です。

そもそも鑑定評価が難しい

以上を踏まえたうえで、譲渡制限株式の譲渡について、流れを見ていきましょう。

まず、裁判所はBからの申し立てを受けてC社株式を差し押さえた段階で、評価人を選定し、その株式を評価するのが一般的です(裁判所が決める『民事執行規則』第111条第1項~第3項)。その際、Bは裁判所に対し、C社の過去数期分の財務諸表を提出しなければなりません。

では、Bはこれを出すことができるのでしょうか?

一般的に考えて、これは難しいでしょう。なぜなら、C社は非上場会社ですから、べつに財務諸表を公表する義務などありませんし、見ず知らずのBに対して、本来第三者に公表する義務のない財務諸表をわざわざ提出する義務などないからです(BがすでにC社の株主であれば話は別ですが、)。

そうなれば、裁判所はほとんど資料がないままでC社の鑑定評価をしなければなりません。

これは、実務上、C社株式を競売の手続に掛けるときにも出て来る問題です。

おそらく、C社株式については最低落札価格を決め、競売をするのですが、経済合理性で考えるならば、それを落札する人にとっては、「C社の経営に参画したい」、「C社から配当金を受け取りたい」などの目的があるはずです。

ということは、C社株を競売手続にかけたところで、応札する人自体がそもそも非常に少ないはずですし、しかも、C社が財務諸表などの情報を開示するとも思えませんので、応札者としては経営の内情などをほとんど知らずに落札しなければならない、というリスクを負うのです。

会社が名義変更に応じる義務はない

さて、裁判所はC社株について、最低落札価格500万円で競売に掛けたところ、運よく800万円で落札するDが出現したとしましょう。

このとき、BはDが支払った800万円から、裁判所のさまざまな費用200万円を引いた600万円を受け取ります。そして、株式はAからDに移転してしまいます。

ところが、Dはその瞬間からC社の株主としての権利が行使できるわけではありません。というのも、現実には、C社の株主名簿を書き換えなければ、DはC社に対し「自分を株主として扱え」と要求することができないからです。

そうなると、DはC社に対し、「株主名簿の書き換え」(つまり譲渡承認)を要求するのですが、C社としてはこれに応じても良いですし、応じなくても良いです。

そして、もしC社が譲渡承認をしなかった場合には、Dに対して、C社が指定する人(たとえば、A)に対して株式を譲渡するか、C社自身が自己株式としてそれを買い取るか、どちらかを指定するのです。

一般に、その際の譲渡価格を決めるときにも鑑定評価(バリュエーション)が必要です(※私の個人的知り合いの意見によれば、そのためのコストは安くて100万円、下手すると500~1000万円は必要なのだそうです)。

時間もカネもかかる、非上場会社株式の売却

以上、非上場の譲渡制限株式を差し押さえたところで、そもそも売却するまでに時間もカネもかかるのです。

実務上、国税局などが差し押さえた非上場株式の場合、国税局はその差し押さえた会社の財務データを所持していますので、その競売手続は比較的容易です。しかし、民事訴訟において、非上場株式の競売は、あまり実例がないようです。

読者コメント一覧

  1. 韓国は約束で縛れない より:

    「売るぞ売るぞ」と永遠に続けられると、頭がおかしい連中の圧力に屈した企業が支払ってしまう可能性があるため、チャッチャと売り払ってもらった方が、長期的にはお得なのではないかと思います。

    売るにしろ売らないにしろ、どうせただでは済まないのですから、長期的な視点で取り組んでほしいものです。

  2. りょうちん より:

    前回のエントリで御教示いただいた法的手続きの段階も素人には難解ですね。
    どうやって日本の資産を差し押さえることができるのか法理論的に理解できない。

    「譲渡制限が付された非上場株式の売却」

    のテキストをコピーしてGoogle検索すると、実に怪しいM&A弁護士の広告がトップに表示されます。
    それだけお金の匂いがする(=弁護士が儲かる)システムなんでしょうねw

  3. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    論壇内容と異なりますが、ウォンがまた動いてます。15:50でドル/ウォンが1,180。う〜ん。どうなんでしょう(笑)。

    1. 埼玉県民 より:

      ついでにレスします。
      KOSPIも引けで2,102.01  -66.00 (-3.04%) です。

    2. 名無し」A より:

      22:06 1185.23

      鎌倉幕府成立しました。

      最近米国時間でウォン安進みますし、明日には対中25%関税発動
      予定ですから、今夜中にどこまで行くか?注目ですね。

  4. ゲンじい より:

    テーマと関係ありませんが、速報です。

    北朝鮮がまた飛翔体発射 韓国軍合同参謀本部が明らかに
    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190509-00000120-kyodonews-int
    共同通信5/9(木) 16:59配信

    1. 引きこもり中年 より:

       独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

       北朝鮮の意図は
      ①韓国が食料支援を正式表明したから、安心して発射した。

      ②韓国に、食料支援の量を増やせと、催促した。

      ③前回の発射では、アメリカの反応が薄かったから、再度、発射した。

      ④アメリカの関心がイランに向いたため、こちらを向いてもらいたかっ
      た。

      ⑤飛翔体発射なら、問題にならないから、安心した。

       の、いずれかではないでしょうか。

       駄文にて失礼しました。

  5. 一法学徒 より:

    会社法の内容は,少し難解で理解は難しいですよね。
    ただ,通常,非上場株式は市場価格が存在しないため,売却価格の算定が困難であるとの感覚は共感を得やすいものではないかと思います。

  6. カニ太郎 より:

    非常に面白い話、ありがとうございます。

    譲渡制限のある株を落札したら大変だということがよくわかりました。

    そこでちょっと質問なんですが、

    譲渡制限のある株を落札したDは、

    C社に「名義を書き換える」か、

    書き換えないなら「譲渡先第三者を指定する」か、

    もしくは「買い取れ」と要求できるわけですよね。

    そのとき、鑑定評価(バリュエーション)額は単なるタタキ台ですよね。

    それこそ、売り主と買い主の交渉で、買取価格は決まるようなものですよね。

    つまり、私が言いたいのは、落札者が、暴○団だったらどうなるのかなと(笑)

    きっと、吹っ掛けてきますよね。

    だからといって、名変は出来ない。

    協議中はずーと、街宣車が出て、戦犯企業と連呼するわけでしょ。

    企業側は耐えられるかな。

    てことは、競売には、きっと多数のヤ○ザが参加すると思うんですが、どうですか?

    1. 通りすがり より:

      < 協議中はずーと、街宣車が出て、戦犯企業と連呼するわけでしょ。

      < 企業側は耐えられるかな。

      発想が朝鮮民族その者と感じるのは私だけですか?
      裁判所とか競売という制度そのものを無視して、違法行為を行うぞと誇らしげに宣言する。

      やはり、朝鮮民族と会話は無理だと思いました。

      1. カニ太郎 より:

        私の発想は、コリア民族ソックリですか(笑)

        すいませんね、不動産関係の仕事してたもので、商売柄、在日が多かったし、競売って聞くと、占有屋とかヤ○ザとか、そんなのにどうしても発想が飛ぶんです。

        仕方ないですね(笑)

        でも、非上場譲渡制限付き株式の本当の価値は、そういう怪しい所にあるんじゃないですかね。

        もし、こんな曰く付きの株が競売にかかったら、参加者がゴマンといるんじゃないかな。

        落札価格も相場より、かなり高値で落札されると思うんですよね。

        私は、その根拠を、素直に書いたつもりなんですよ。

        もし違うなら、わかるように説明してもらえると、助かります。

        1. 門外漢 より:

          カニ太郎様へ

          私もカニ太郎様と全く同じように考えます。多分思考方法が反社並みなんでしょうね。
          会計士様は価値の算定が困難だから・・・と仰いますが、金の匂いがすれば群がって来る輩はいっぱいいます。まして日本じゃないんですから。
          更に競売参加者が握って八百長して来ることもありますから、案外簡単に買手が決まるように思います。なにしろ日本じゃないんですから。
          多分挺対恊の息のかかった者が落札して、毎日街宣を掛けるんですよ。随分長く楽しめますね。

        2. 日本人 より:

          自分もその辺が同じ様に心配するところです。
          競売参加者は中国が名乗りを挙げそう…。

          自分も不動産で働いてました。
          法律の隙間 思いもよらないところを突いてくる人たちがいますから。

        3. 日本人 より:

          ちょっと違った
          法の隙間では無く法の悪用。
          でも韓国に 法があっても無いに等しい

  7. カズ より:

    不可能を可能にするのがコリアマジック。
    韓国社会は超法規的措置〔解釈〕の玉手箱。

    評価算定なんかしません。
    「株券に書かれてる額面が評価額だ」

    競売なんかしません。
    「国有化して早期に賠償支給だ」

    買取請求なんかしません。
    「国有化が目的だ」

    あれ?
    ここで名義変更を阻止すれば、裁判所の差押資産売却命令を履行しつつ、韓国政府が賠償金を負担した形になってるのでは?
    つまり、「司法の決定を尊重する」との立場を変えることなく、政府は国際約束違反を是正することができるのだ。バンザーイ‼︎

    〔そんなことは、ありませんm(_ _)m〕

  8. 名無Uさん より:

    徴用工問題は日本の大多数の企業にとって、韓国での経営に大きなリスクとなっているため、その関心は大きなものです。また、今後の日韓関係を占うための最重要懸案です。
    その最先端に立っておられる新宿会計士様のサイトには多数のPVが集まるのは当然です。ですが、コメントが実に少ない…

    5チャンネルの西村博之氏はこうツイートしました。
    ≫「ネットには他者を責めるために時間を費やす人が大勢いて、まともな人はネットで発言とかしない」
    ってのを、言い続けてるけど、未だに理解してない人が多いみたい。
    9割の人はネットを見るだけで、1割が発言する。
    発言する中にヤバい人が居てさらに多く発言する。
    結果、ヤバい発言ばかり目につく

    この発言はかなり信憑性が高いと思っています。自分は9割どころではなく、99%がコメントしないと思っています。
    考えてもみてください。毎日、原稿用紙1枚分の意見や提案を会社に提出するだけでも、かなりの負担となるでしょう。文章を作りコメントするのは、文章を書くのがかなり好きな人物に限られます。毎日、日記を書いて公開しているようなものです。

    このたびの『譲渡制限が付された非上場株式の競売が困難である理由』を列挙された記事は、新宿会計士様の勝利宣言でしょう。新宿会計士様の論拠を叩き潰そうとしていた勢力は、ただ遠巻きにして様子見に徹しているのでしょう。
    そしてまた、機会を窺って襲いかかろうとするでしょう。

    1. りょうちん より:

      んー。

      >考えてもみてください。毎日、原稿用紙1枚分の意見や提案を会社に提出するだけでも、かなりの負担となるでしょう。
      >文章を作りコメントするのは、文章を書くのがかなり好きな人物に限られます。
      >毎日、日記を書いて公開しているようなものです。

      好きではないですが、毎日2万字の以上の文章を作成するお仕事でした。
      あまりにもタイピングが多すぎて腱鞘炎になる同僚もいました。
      ディクテイターや人工音声入力を導入してみようとしたこともありました。
      結局、Realforceの30gモデルを購入し、定型文はIMEに登録し、なんとかこなしていましたが、海外の同じ職種の人間からCrazyと言われています。それでいて年収は半額ですからw
      (もっともあっちは訴訟保険の額が天文学的になっているので実際には倍になっていません。)

      文章を書くのが好きな国民性は、江戸時代のブログがたくさん発見されていることから民族的なものですね。
      平安時代から娯楽文学が存在し、江戸時代には世界一の識字率があり、職業作家が文豪でなくても食えたとかというのは特異的です。

  9. がぶりえる より:

    更新ありがとうございます。

    スレの趣旨とは異なりますが率直な感想として「徴用工と称する詐欺集団の弁護士」って云う人種は、度胸があるのか又はバカなのかと思ってしまいます。
    何故かと言うと「瀬取り」を行っていた会社なぞば業界ぐるみで「韓国政府が悪い(だから保障を)」とやってますが、弁護士は「韓国政府が悪い」とは言えないわけでいつ何時、韓国政府から切捨てられるかわからない状況なのでしょう。
    そう考えると文氏の支持率低下及び日本の制裁等開始されれば「自分(弁護士)を支持してきた民衆がいつ敵に回るかわからない」恐怖だと思います。ぶっちゃけて云うとムッソリーニやカダフィ―みたいに民衆により吊るされるか分からない恐怖で私ならバックレます。

    スレに戻りますが結構読み応えある内容で商法上のルールに沿った方法論としては素晴らしい内容と感服する次第です。
    しかしながら私としては「韓国は斜め上のウルトラCを使っても通す」という考え方を持っていると確信しています。従いましてルール無視または網目を潜ってで換金に至るルートは無いのでしょうか。
    浅学ゆえ以下一件しか思い浮かばないのですが例えば、韓国が「徴用工と称する詐欺集団」に対し金額を支払い、差し押さえ資産を国庫に入れてしまう等のケースは考えられないのでしょうか?
    以上駄文にて失礼したします。

  10. 774 より:

    Aが株式を差し押さえられても所有権はAにあります。
    競売とは売却ですから所有権が移転します。
    BからDに移転するのであれば、その前にAからBに所有権が移転している。
    よって競売の前に会社Cが譲渡制限を解除した事になります。
    競売がAからDに所有権が移転する場合も事情は変わらない。

    競売で応札したDがC社に株主登録を請求し同時に譲渡制限の解除を求めるという説明は矛盾しています。譲渡されたのなら既に譲渡制限が外されています。譲渡制限の解除を要求する必要性がない。譲渡制限付きのままでの売買=譲渡はできない。

    1. 新宿会計士 より:

      774 様

      コメント大変ありがとうございます。

      >BからDに移転するのであれば、その前にAからBに所有権が移転している。
      >よって競売の前に会社Cが譲渡制限を解除した事になります。

      なりません。
      「譲渡制限の解除」が何を指しているのかはわかりませんが、少なくともそのような概念は、会社法には存在しません。

      >譲渡されたのなら既に譲渡制限が外されています。譲渡制限の解除を要求する必要性がない。譲渡制限付きのままでの売買=譲渡はできない。

      このあたり、詳しく学習されるのであれば、まずは「対抗要件」について調べることをお勧めします。

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