果たして「桜を見る会」は国政を揺るがす大問題なのか

「桜を見る会」問題で、安倍晋三総理に対し「引退すべき」とする声が出て来ました。元大阪府知事の橋下徹氏は12月10日に放送されたBSフジ『プライムニュース』で、「国家のリーダーがホテルへの確認を行わず、秘書から『補填はない』と聞いただけで国会答弁をしていた」ことが事実なら、本当に残念だが安倍さんの議員辞職もやむなし」と述べたのだそうです。

桜を見る会問題で「安倍は辞めろ!」

『桜を見る会』問題で、安倍晋三はウソをついた。安倍晋三はただちに政治家を辞めるべきだ」――。

もし、本気でそう思っている人がいるのであれば、どうぞそう思ってください、としか言い様がありません。

「前夜祭疑惑」の落としどころと菅総理の解散総選挙』などでも触れたとおり、「桜を見る会の前夜祭問題」とは、例年総理大臣が主催している「桜を見る会」を巡って、安倍総理の個人事務所が2015年から19年にかけ、「前夜祭」で経費を負担していたとされる問題です。

具体的には、「前夜祭」では参加者1人あたり5千円の会費を徴収していたものの、安倍総理の個人事務所が「前夜祭」の不足額を補填していたとされるもので、それを政治資金収支報告書に記載していなかった疑いなどが持たれているそうです(参加者1人あたり2~3千円程度でしょうか)。

また、前夜祭には安倍総理の選挙区の有権者も招かれていたため、形のうえでは安倍総理の事務所が選挙区内の有権者に間接的に経済的利益を供与していた、という見方も成り立ちます。そうなると公選法上の「買収」が成立する可能性が出て来ます。

しかし、安倍総理くらいの人物であれば、有権者1人あたりせいぜい2~3千円を補助しなくとも小選挙区で当選できますし、また、報道等によれば、前夜祭に参加した有権者らは地検に対し、むしろ飲食物に物足りなさを感じていたと証言しているようです。

というよりも、状況に照らし、安倍総理側が「有権者を買収するつもりで、参加者1人あたり2~3千円を補助した」のではなく、「見込みよりも参加者が少なかったせいで不足が出てしまい、止むを得ず事務所が補填した額を1人あたりに換算したら2~3千円になった」と見た方が正確でしょう。

いずれにせよ、東京地検は「買収」での立件は難しく、せいぜい政治資金規正法違反での罰金刑で略式起訴するのが関の山だと判断しているようです。

なぜ検察から情報が小出しに出て来るのか

ただ、情報が小出しに出て来ている理由はよくわかりません。

真っ先に思いつくのは、検察は成果が上がらないときには情報をわざと小出しに報道機関にリークし、事件を大きく見せる、というものです。「森友学園問題」の際、財務省が公文書を改竄していたという情報を大阪地検が朝日新聞にリークした(2018年3月)のは、そういう狙いがあったのかもしれません。

あるいは、『検察が捜査情報をリークするとしたら、その目的は何か』でも報告したとおり、ウェブ評論サイト『アゴラ』の新田哲史編集長(報道アナリスト)は「官邸は事態をコントロールするために、検察が捜査情報をリークするのをあえて黙認していた」とする説を唱えています。

どの説が正しいのかについては憶測の域を出ませんが、今回は「検察によるクーデター」というよりも、官邸が「公設第1秘書が安倍総理本人に断らずに独断で補填した」とういストーリーに落ち着かせるために、検察の世論誘導を黙認した、という可能性が高そうな気がします。

あるいは、人によっては菅義偉総理らが安倍総理の再登板の芽を潰すために、このタイミングでわざとこの問題をぶつけた、などと述べているようですが、個人的には新田氏が指摘するとおり、単に検察審査会などのタイミングが重なっただけ、という可能性が高いように思えてなりません。

安倍総理の事務所がお粗末だったという問題

いずれにせよ、安倍総理は9月に辞任するまで、内閣総理大臣としての連続在任日数が2822日、第1次政権を含めた通算在任日数は3188日で、どちらも「歴代最長」を達成しました。

最後の方は武漢肺炎の蔓延を「これ幸い」とばかりに、メディア、野党を挙げての「安倍潰し」の動きが広まりましたし、また、連続執務が続いたため、持病の潰瘍性大腸炎が悪化したことが辞任の直接の原因となったのですが、その精神的プレッシャーは大変なものだったと想像されます。

正直、あれだけ叩いて「5年間で桜を見る会の前夜祭の経費を1千万円近く補填したこと」くらいしか不祥事が出てこなかったというのも凄い話ではありますが、ただ、安倍総理には政敵が多いわけですから、とくに「政治とカネ」の問題については、細心の注意を払っても払い過ぎ、ということはなかったはずです。

その意味では、今回の話に関しては「公設第1秘書を罰金刑で略式起訴」というのが落としどころとしては最も腑に落ちるものです。

もちろん、安倍総理自身の判断で、しばらくは派手に動かないように謹慎なさるのかもしれませんが、べつに安倍総理自身が何らかの犯罪を行ったわけではない以上、議員辞職などをする必要はまったくありません。

プライムニュースで野党が吠える!

こうしたなか、これに関してなかなか興味深い、というか、情けない対談があったようです。12月10日付で放送されたBSフジ『プライムニュース』の様子が、昨日、同ウェブサイトに掲載されています。

「桜を見る会」問題で安倍前総理は引退すべきか

政治とカネをめぐる問題で紛糾した臨時国会は、会期が延長されることなく閉幕した。世論調査では菅政権の支持率が急落したが、野党の支持率は依然低迷している。<<…続きを読む>>
―――2020年12月14日 11:30付 BSフジLIVE プライムニュースより

今回の『プライムニュース』、出演者は元大阪府知事の橋下徹氏、立憲民主党の長妻昭副代表、日本共産党の小池晃書記局長の3名です。

「政治とカネを巡る問題で紛糾した」、とありますが、1千万円弱の政治資金規正法違反(不実記載)の疑い(プラス国会での虚偽答弁の疑い)を長々と糾弾することが、そこまで国政の重要な課題なのかどうかは疑問です。

たしかに内閣総理大臣という地位にある人物が大規模な汚職や不正などに手を染めていたのだとしたら、それはそれで大問題ですが、果たしてこれが「大規模な汚職や不正」といえるものなのでしょうか。

おそらく、国会質疑を眺めていた圧倒的多数の日本国民は、野党議員に対し、「もっと他にやることがあるだろう?」と呆れていたのではないかと思います。

番組では橋下徹氏が「国家のリーダーがホテルへの確認を行わず、秘書から『補填はない』と聞いただけで国会答弁をしていた」、「これが事実なら、本当に残念だが安倍さんの議員辞職もやむなしと思います」などと述べているのですが、逆に国家のリーダーがいちいちホテルに確認を取るべきとも思えません。

「本当に残念だ」とは、橋下徹氏の認識の方ではないでしょうか。

一方、長妻明氏は「罰金だけで済んでしまえばモラルハザードとなり、選挙の公正性も問われる」としたうえで、「国会で徹底的に追及する」と宣言したようですが、どうぞそうなさってください、とい言いたい気持ちでいっぱいです。

なぜなら、それをやればやるほど、立憲民主党への支持率はさらに低迷することが目に見えているからです。

(※なお、日本共産党の小池晃氏の発言については引用しません。引用する価値すらないからです。)

スキャンダル追及も結構ですが…

さて、当ウェブサイトで普段から申し上げているとおり、国会議員の本職とは、「法律を作ること」です。

新しく法律を作ることもあれば、いまある法律をより良い姿に変えることもありますし、また年に1回以上、予算について審議する必要もあります。あるいは外国との条約を承認することも国会の重要な機能です。

そして、日本は法治国家、つまり「法律が支配する国家」であり、その法律を作ることができるのは国会だけです。だからこそ、国会議員には国庫から多額の歳費などが支給されているわけですし、国政調査権、不逮捕特権など、さまざまな特権を保持しているのです。

正直、現在の国会(とくに特定野党の議員)が、その役割を果たしているとも思えません。

そういえば最近、菅義偉内閣に対する支持率が低迷しているという話題がありました(『内閣支持率急落に「政府・与党が危機感」=時事通信』等参照)が、野党がこの体たらくで政権交代が生じるとは、なかなか考え辛いところです。

当ウェブサイトとしても、現在の自民党政権にまったく問題がないと述べるつもりはありません。

2019年10月の消費税等の増税を筆頭に、日本経済を殺しかねない致命的な判断ミスがいくつかあるからであり、もしも自民党よりももっと「愛国・保守的」な政党が存在したとすれば、個人的には、そのような政党に躊躇なく自分自身の票を投じるつもりです。

しかしながら、立憲民主党を筆頭とする野党勢力がまともに政策の勉強もせず、その場しのぎ、揚げ足取りの国会質問に終始しているのを見ると、残念ながら自民党政権はまだ当分は安泰だと思わざるを得ないのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (というより、自分がその典型かもしれないので)
     本日の朝日新聞の(社外の人間の)記事で、「朝日新聞の政権を揶揄する記事に、読者が『スカッとする』との反応を返している」と(朝日新聞で)書いてました。もしかしたら、もはや「桜を見る会」の問題も、自分仲間内で溜飲が下げるための手段になっているのではないでしょうか。(私も(無意識のうちに)ここで朝日新聞や韓国を批判して溜飲を下げているのかもしれません)
     蛇足ですが、日米のメディアとも(SNSに対抗するためか)、トランプ大統領や自民党を感情的に反発するためのものになっているにではないでしょうか。
     駄文にて失礼しました

  2. 引っ掛かったオタク より:

    コレもあるいは小選挙区制の弊害なんでしょうかナァ
    政権・与党全否定の0・1デジタル野党ではネェ…
    本来野党議員の仕事は支持者の意見や要望を時の政権が実施する施策に反映させることであり、そのために与党の政策に野党の意見要望を盛り込ませたり政策を修正させたりするものだと考えておったんですが…
    そも“野党”は選挙民から大勢となるまでの支持を得られなかったから野党なのですが…何故支持を得られなかったのか根本的に理解できていないか、政権批判だけしておけば任期間年収2000万以上が保証される現在の己が立ち位置に安住していたいだけなのか…

    マアイズレニセヨコノママ時ヲ進メルナラ大部分ノ野党ハじり貧ィャィャ均衡縮小路線ヲ辿ルノデセウ…

  3. 匿名 より:

    安倍さんが首相に再選することはもうないと考えて、将来の首相のことを考えないと。
    菅首相は情報をあまり表に出さない感じなので水面下で何やってんの?という不安があります。

  4. わんわん より:

    >国会議員の本職とは、「法律を作ること」です。

    仕事しろよ って感じです w

  5. ちょろんぼ より:

    いつもお世話になっております。

     桜問題は野党・マスコミ関係者にとって国会で何度も取り上げるべき重要な案件です。
    何故なら、問題の発端として「赤旗」を発行する機関共産党の保守・自民党に対する
    「妬み・嫉み」等、心の問題から来る根源的な問題だからです。
    共産党や〇〇民主党とか野党では絶対開く事ができない、国費を使った行事だからです。
    共産党主催の「桜を見る会」を開いても、国費を使った行事にはなりません。
     心の問題であるから、桜問題無くして他の問題を取り上げる事はできません。
    だから、春のコロナ問題初期段階であり非常に重要な時期であろうが、取り上げられない
    事は決してあってはならない事なのです。

  6. 犬HK より:

    政治家を辞すべきかどうかはさておき、仮に知らなかったにせよ、トップとしての責任を免れるものではありません。
    誰しもが一般的に考える結論だと私は思いますね。

  7. カズ より:

    この程度のことで職を辞さなければならないのなら、野党の面々はどのようになってしまうんでしょうね・・?

    結果的に安倍氏にとっての「錯誤の所為」であったとの判断が下されたのであれば、事態の是正と謝罪・経緯の説明義務はもちろんのことだとしても、罪に問われる性質のものではないのでは?

    最終的な審判は、国政選挙の結果に委ねられることなのかと・・。

  8. 匿名29号 より:

    ロッキードのピーナッツ1こ分にも満たない額です。普段、政治とは別世界にいる家内でさえ「この人達、他にやることないの」と呆れていました。

  9. 欧州某国駐在 より:

    この件は読売新聞のスクープだそうですが、ありていに言えば新聞社に誰かが情報を漏らしたわけですよね?秘書絡み事案なんてもともと極めて限られた人の間でしか共有されていない情報、具体的には、捜査担当の検察官と検察幹部そして首相官邸幹部くらいでしょうか?合理的に推定すれば、新聞社に情報を漏洩したのは官邸幹部か検察幹部になるのでは?情報を漏洩させた人(人達?)の目的は何なのでしょう?所詮こんな事件はせいぜい罰金刑、安倍さんはなんだかんだ言っても不起訴でしょう。でもマスコミや市民団体、バカ野党は騒ぎます。市民団体などが改めて検察審査会に安倍さんの起訴を申し立てたりすると結果的にやっぱり不起訴でしょうけれど安倍さんの政治活動に制約がでる可能性もあります。「桜」をだしになんだか裏でうごめくものを感じる気味の悪いハナシだなぁ・・・とコロナ感染者大量発生でTier3になってまた生活に制約が生じた国で思いました。

    ところで安倍さんより菅さん大丈夫なんですかね?
    元農水相の吉川さんでしたっけ?この人が逮捕、起訴されたりしたら政権の蟻の一穴になったりしませんかね?

    1. りょうちん より:

      「逆に本当に追求されたくないことに注目されないための害の無い疑似餌だったんだ!!」
      「な、なんだってっーー!!」

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