史上最長政権「空飛ぶ総理大臣」、外国訪問は81回

安倍政権が明日、終わります。通算在任日数は3188日、連続在任日数は2822日で、どちらも史上最長の政権となり、さらに外国訪問回数は81回と歴代内閣でもトップクラスの外交力を発揮しました。ただ、当ウェブサイトが考える安倍政権の「罪」とは、中国の習近平国家主席を国賓として招こうとしていたことだけではありません。国内経済の回復が中途半端なものに留まったことであり、逆にいえば、これこそが政権を引き継ぐ菅義偉「総理」にとっての課題なのでしょう。

安倍政権の成果

歴代最長の安倍政権が明日終わる

昨日自民党総裁に選ばれた菅義偉氏が明日召集される臨時国会で首班指名され、菅義偉内閣が発足することにともない、安倍晋三氏は内閣総理大臣を辞職します。安倍総理の在任日数は明日の時点で連続2822日、通算3188日と、どちらも史上最長政権となりました(図表1図表2)。

図表1 歴代総理大臣の通算在任日数と組閣回数
総理大臣通算在任日数組閣回数
安倍 晋三3,1884
桂 太郎2,8863
佐藤 榮作2,7983
伊藤 博文2,7204
吉田 茂2,6165
小泉 純一郎1,9803
中曽根 康弘1,8063
池田 勇人1,5753
西園寺 公望1,4002
岸 信介1,2412

(【出所】首相官邸HPの情報をもとに著者作成)

図表2 連続在任日数の上位順
内閣総理大臣連続在任日数在任期間
安倍 晋三2,8222012/12/26~2020/09/16
佐藤 榮作2,7981964/11/09~1972/07/07
吉田 茂2,2481948/10/15~1954/12/10
小泉 純一郎1,9802001/04/26~2006/09/26
中曽根 康弘1,8061982/11/27~1987/11/06
桂 太郎1,6811901/06/02~1906/01/07
池田 勇人1,5751960/07/19~1964/11/09
伊藤 博文1,4851892/08/08~1896/08/31
岸 信介1,2411957/02/25~1960/07/19
桂 太郎1,1431908/07/14~1911/08/30

(【出所】首相官邸HPの情報をもとに著者作成)

功罪半ばする安倍政権、外交では顕著な成果

当ウェブサイトでは、とくに第2次安倍政権発足後に関しては、日本の外交的な立場を飛躍的に強化したという意味で顕著な事績があったと考えている反面、期待された「アベノミクス」については、大成功を遂げたのは金融緩和くらいなものであり、財政政策は中途半端なものに留まったと考えています。

とくに、2度に及ぶ消費税・地方消費税の増税は、野田佳彦前首相が路線を敷いたようなものではあるにせよ、せっかく回復途上にあった日本経済を確実に疲弊させましたし、それ以外にも「レジ袋増税」に代表されるように、財務省の権限が非常に強かった政権でもあったといえます。

しかし、少なくとも「首相なんて誰がやっても一緒だ」という無責任な発言をする人が日本からほぼ一掃されたのは非常に良いことだったと思います。

そして、まずは麻生太郎総理が提唱した「自由と繁栄の弧」が安倍総理の「セキュリティ・ダイヤモンド」構想に引き継がれ、そのまま「自由で開かれたインド太平洋」として、いまや日米をはじめとする自由・民主主義同盟国家が共有しているのは、後世への遺産となるでしょう。

その意味では、安倍晋三総理とは歴史に名を残す大宰相であったことは間違いありません。あらためて安倍総理には感謝申し上げたいと思います。

外交とは「価値と利益の同盟」

ところで、普段から当ウェブサイトで述べているとおり、「外交」とは何も難しいものではありません。

国が人間の集合体である以上、外交も人間同士の付き合いの延長線上で考えれば良いのです。

一般に人は考え方・生き方が似ている人、ウマが合う人と仲良くなる傾向にありますが(その典型例が友人、恋人などでしょう)、相手とウマが合わなくても、利害関係上は絶対に付き合わなければならないこともあります(たとえば、学校、職場など)。

外交もこれとまったく同じです。

日本は自由、民主主義、法治主義などを信奉する国と価値を共有しています。だからこそ、米国、豪州、カナダ、ニュージーランド、英国、インド、ASEAN諸国、欧州連合(EU)、台湾(※)のような諸国と連携して行かねばならないのです(※本稿ではあえて台湾を「国」と称します)。

※厳密に、インドやASEAN諸国が日本と基本的価値を共有しているといえるかは微妙ですが(とくにベトナムなどは民主主義国家ではありません)、少なくともインドは一党独裁国家ではありません。

ただし、利害関係(あるいは戦略的利益)を考えたら、日本は価値を共有していない無法国家ともうまく付き合って行かねばなりません。

その「価値を共有していないが、うまく付き合って行かねばならない国」の典型例が、中国であり、ロシアです。なぜなら、(残念ながら)中国は「世界の工場」のような状態にあり、産業的には無視できない状況にあるからであり、また、ロシアは日本の安全保障上、正面から敵対するには面倒だからです。

さらには、日本から遠く離れた中東地域、南アメリカ大陸、アフリカ大陸などであっても、利害関係の観点からは関係を持ち続けるのが適切でしょうし、遠く離れているからこそ、領有権などの利害対立が生じにくくて付き合いやすい、という側面もあるのかもしれません。

空飛ぶ総理大臣

外国訪問回数は随一

そして、外務省『総理大臣の外国訪問一覧』によれば、安倍総理は2012年12月の第2次政権発足以来、今年1月まででじつに81回も外国を訪問しています(図表3)。

図表3 2006年以降の総理大臣の外国訪問一覧
総理大臣回数在任日数
安倍晋三総理大臣(2次以降)81回2822日
野田佳彦前首相16回482日
菅直人元首相7回452日
鳩山由紀夫元首相10回266日
麻生太郎総理大臣13回358日
福田康夫元首相8回365日
安倍晋三総理大臣(1次)8回365日

(【出所】外務省『総理大臣の外国訪問一覧』を参考に著者作成)

まさに「空飛ぶ総理大臣」の名にふさわしいでしょう。

回数だけで成果を測るべきではないとのご指摘はあると思いますが、在任日数が長いという点を考慮に入れても、それにしてもすごい回数です。452日在任していて7回しか外国に出かけなった菅直人元首相とは大きな違いですね。

(※もっとも、菅元首相の場合は、在任中に東日本大震災が発生したという特殊事情もあるため、外国訪問回数が少ないことだけを咎めるのは酷というものかもしれませんが…)。

対中外交、これで良いのか?

さて、外交分野で顕著な事績があったとすれば、日本にとっての基軸である日米同盟を根本的に立て直し、欧州、ASEAN、インド、中東、アフリカなど、幅広くさまざまな地域との外交関係を強化したことだけではありません。

日中関係についても、民主党政権下と比べ、少なくとも首脳同士の往来や会談が可能なくらいには好転したことは間違いないでしょう。

もっとも、武漢コロナ禍の直前に、安倍政権は習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席を国賓として招こうとしていたことについては、当ウェブサイトとしてはまったく評価しません。というのも、日本は中国と基本的な価値を一切共有していないからです。

問題は、それだけではありません。

中国は現在、ウイグルやチベットなどで民族浄化を行っているとの報告も多数出ていますし、香港には国家安全法を適用し、民主化運動などを弾圧し始めています。

さらには、台湾に対しては以前から武力併合を宣言していますし、東シナ海では日本領の尖閣諸島周辺海域への侵犯、南シナ海では違法な埋立による事実上の海洋侵略行為、インド・ネパール国境でも武力衝突を続けるなど、ほぼ全方位に軍事的な不安をばら撒いている状況にあります。

そのような国のトップを「国賓」、つまり天皇陛下の賓客として招くことは、明らかに日本の国益に背く行為であり、また、全世界に対し誤ったメッセージを与えます。せっかくの「自由で開かれたインド太平洋」構想を、日本が自分で否定するようなものだからです。

したがって、少なくとも習近平氏を国賓として招くためには、中国がウイグル、チベットの人権弾圧を停止し、責任者を処罰すること、香港国家安全法を廃止すること、台湾に武力侵攻をしないと宣言すること、東シナ海・南シナ海・中印国境などの侵略行為をただちにやめることが必要です。

それができないならば、日本は中国の国家主席を国賓として招くべきではありません。

このあたりは次期政権への課題といえるかもしれません。

日本の外交力の源泉とは?

さて、当ウェブサイトとしては、これまでも、これからも「この人が首相/総理だから」というだけで盲目的に信頼(あるいは批判)するのではなく、政治について議論する際には是々非々の姿勢を大事にしたいと考えています。

功罪でいえば、安倍政権については「功」の方が大きかったと思いますし、とりわけその「功」が顕著に出た分野が外交だったことは間違いないでしょう。しかし、武漢コロナ禍の影響もあり、経済は非常に落ち込んでいるのが実情です。

こうしたなか、外交の重要な目的のひとつは、戦争を防ぎ、諸外国と友好を結ぶことにありますが、留意点はそれだけではありません。日本の外交力を支えているのが経済力であるという点については、絶対に忘れてはならない点です。

とくに、あたかも日本に戦争を禁止したかのような日本国憲法の規定に縛られており、なかには「日本は諸外国から武力で侵攻されても反撃してはならない」などと主張する憲法学者、政治家、マスメディア関係者もいるほどですが、そうであるならばなおさら、経済力を強化しなければなりません。

(※余談ですが、個人的には日本国憲法下でも武力の行使は可能だと考えているのですが、日本国憲法を改正することは、極論を唱える勢力の社会的影響力を削ぐという点からも重要だといえるかもしれません)。

その意味では、国内経済をおざなりにして良いというわけではありません。あくまでも外交と内政はセットなのです。

菅政権に期待すること

さて、『「外交に弱く、派閥に振り回される菅政権」は本当か?』でも触れたとおり、一部メディアは「菅義偉政権は外交に弱い」と決めつけて報じているようですが、これについてどう考えるべきでしょうか。

安倍政権が外交に強かったことは確かだと思いますが、それと同時に、財政出動、減税、規制改革など、日本経済を強くするための施策が十分だったのかと問われれば、その点は疑問ではないでしょうか。

逆に、菅義偉氏は総務大臣経験者であり、「ふるさと納税」のような政策を思いつき、実行に移した人物でもあります。たとえば、世間では「携帯電話料金」への注目が集まっていますが、もう一歩踏み込んで、総務省が管轄する電波利権そのものについても改革の余地があるかもしれません。

具体的には、テレビを設置したすべての家庭から、事実上、強制的に受信料を徴収しているNHKという組織については、抜本的な改革が必要です。

そもそもNHKに「公共放送」としての資格があるのかどうかもさることながら、とくにインターネット時代となってきたことで、NHKが騙る「公共放送」という存在が本当に必要なのかどうか、国民的な議論が尽くされているとは言えません(というよりも、そのような議論すらなされていません)。

少なくとも英国のように数年に1度、NHKの存続について国民投票を義務付けることは必要でしょうし、また、受信料の事実上の強制徴収を維持するにしても、受信料水準の決定、その使途(とくにNHK職員に対する異常に高額な人件費など)を含め、もっと私たち国民の監視の目が必要です。

その意味で、国民経済のさらなる強靭化こそが、安倍政権から菅政権に引き継がれる最大の課題であり、「外交に弱い」とされているのであれば、それを逆手にとって、どうせコロナ禍で外国訪問もできないのですから、いっそのこと2~3年は国内経済に集中しても良いのかもしれませんね。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    >日本は自由、民主主義、法治主義などを信奉する国と価値を共有しています。

    日本は信奉しない、信じない国だというのが自分の意見です。信奉ではなく、その方がみんなにとっていいから、という「選択」の社会だと思って。

    1. 阿野煮鱒 より:

      日本語はムズカシですネ。

  2. だんな より:

    外国訪問回数は、在任期間が長いから、当たり前のように思います。それよりも重要なのは、外国要人との関係の強さだと思います。
    かつて日本の総理大臣で見た事が無い位置に、安倍首相が存在して居た感覚が有りました。
    世界のリーダーの中で、リーダーシップを発揮していたように思います。

  3. 自転車の修理ばかりしている より:

    >安倍総理は(中略)今年1月まででじつに81回も外国を訪問しています。

    安倍首相、お疲れ様です。病気を抱えながらの長旅は辛いこともあっただろうとお察しします。必ずしも毎回成果が上がっていたものではなかったとも思いますが、外交は積上げですからそれもヨシです。少なくとも外訪するたびにボッチ飯になったり嘲笑されたりして、国家の品格を落とすどこぞの「変わったヒト」よりは遥かにマシです。

  4. 匿名 より:

    この強烈な高齢化のなかで微成長を続けただけすごいと思いますよ。生産年齢人口なんてもうずっと右肩下がりなんですから

  5. より:

    外遊回数もさることながら、バルト3国とか中央アジア諸国とか、日本の首相として初めて訪問した国が多数あるということがまず素晴らしいと思います。
    長期政権の賜物とも言えますが、安倍首相ご本人の強い意志もあってのことでしょう。国際社会にあって、日本の存在感を大いに高めることができました。これだけでも、安倍首相の業績は大いに賞賛されるべきであると思います。

    参考: https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page24_000037.html

  6. 名無Uさん より:

    ≫そのような国のトップを「国賓」、つまり天皇陛下の賓客として招くことは、明らかに日本の国益に背く行為であり、また、全世界に対し誤ったメッセージを与えます。せっかくの「自由で開かれたインド太平洋」構想を、日本が自分で否定するようなものだからです。

    m(_ _)m

  7. 迷王星 より:

    民主党の野田政権による立法により既定路線になってしまっていたとはいえども、二度も消費税率を上げたのは安倍政権の失敗の中でも最大の失敗ですね。

    特に昨年10月には日本の景気は既に後退期に突入していたにも関らず、不況突入という現実を認めずに消費税率10%への引き上げを強行して日本経済を低迷させたのは安倍政権の犯した最大の罪です。

    そのタイミングで弱り目に祟り目とばかりに、中華コロナとその対策のために日本経済が崩壊の危機に瀕してしまった現状は、神がその罪を咎めて引き起こした罰なのではないか?と個人的には感じています。

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