【資料】コロナショックによる為替スワップの実行状況
本稿は『【資料】リーマンショック時に実行された為替スワップ』に続く「資料集」です。米FRBが公表しているエクセルデータをもとに、米国が世界14ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局と締結している為替スワップ協定に基づく、5月11日実行分までの為替スワップ融資額の状況を簡単にまとめておきたいと思います。
為替スワップとは
本稿は「資料集」です。
武漢コロナウィルス蔓延の影響で世界的に米ドル資金市場が逼迫したことなどを受け、米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は世界9ヵ国の中央銀行・通貨当局との間で、為替スワップ協定を締結しました。
もともと為替スワップは6ヵ国・地域(日本、米国、英国、欧州、スイス、カナダ)の中央銀行がお互いに常設・期間無制限のものを保持しているのですが、FRBの新しい為替スワップについては、存続期間はとりあえず最低6ヵ月間を予定しているそうです。
ところで、「通貨当局同士の為替スワップ協定」とは、相手国の中央銀行を経由して、相手国の民間金融機関に対して通貨を貸し付けるという協定で、「相手国の中央銀行に直接貸し付けるものではない」、「融資の回収責任は相手国にある」、という点に特徴があります。
似たような用語に「二国間通貨スワップ」、「多国間通貨スワップ」などの用語があるのですが、その一方でデリバティブ、為替取引の世界でも「通貨スワップ」や「為替スワップ」などの用語が一般に用いられていますので、用語の混乱には注意が必要です(図表1)。
図表1 スワップあれこれ
擁護と略語 | 一般的な英語表記 | 特徴 |
---|---|---|
為替スワップ=BLA | Bilateral Liquidity Swap Agreement | 相手国の民間金融機関に直接、短期資金を貸し付けるオペ |
二国間通貨スワップ=BSA | Bilateral Currency Swap Agreement | 相手国の中央銀行との間で通貨を交換する取引 |
二国間自国通貨通貨スワップ=BLCSA | Bilateral Local Currency Swap Agreement | 相手国の中央銀行との間で自国通貨を交換する取引 |
多国間通貨スワップ=MSA | Multilateral Currency Swap Agreement | 通貨スワップを多国間協定化した枠組み |
金融用語としての為替スワップ(FXS) | Foreign Exchange Swap | いわゆる「バイセル」と呼ばれる、民間企業同士の資金取引 |
金融用語としての通貨スワップ(CCS) | Cross Currency Swap | 民間企業同士のデリバティブ取引。多くの場合はISDA契約の存在を前提とする「通貨・ベーシススワップ」 |
(【出所】著者作成)
なお、細かい違いについては『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』あたりをご参照ください。
為替スワップの実行残高
さて、米国との為替スワップの場合、入札自体は随時行われているようですが、データが更新されるのに少し時間が掛かります。最近だと、だいたい毎週1回更新されるようです。
ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” をもとに、5月7日実行分までの入札情報をもとに、各国中央銀行の借入額を列挙しておくと、図表2のとおりです。
図表2 2020年5月11日(月)時点の為替スワップ実行額
相手先 | 金額 | 平均金利/日数 |
---|---|---|
日本銀行 | 2202.32億ドル | 0.34%/80.99日 |
欧州中央銀行 | 1432.15億ドル | 0.36%/81.73日 |
イングランド銀行 | 258.80億ドル | 0.34%/68.36日 |
韓国銀行 | 187.87億ドル | 0.62%/83.89日 |
スイス国民銀行 | 100.60億ドル | 0.33%/82.01日 |
シンガポール通貨庁 | 84.24億ドル | 0.53%/79.71日 |
メキシコ銀行 | 65.90億ドル | 0.77%/84.00日 |
ノルウェー銀行 | 54.00億ドル | 0.34%/84.00日 |
デンマーク国民銀行 | 42.90億ドル | 0.34%/82.36日 |
豪州準備銀行 | 11.70億ドル | 0.32%/84.00日 |
カナダ銀行 | なし | ― |
NZ準備銀行 | なし | ― |
スウェーデンリクスバンク | なし | ― |
ブラジル銀行 | なし | ― |
合計/平均 | 4440.48億ドル | 0.37%/80.72日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
ここで、図表が「2020年5月11日付」となっているのは、為替スワップに基づく流動性貸付の実行は条件決定日から数日のタイムラグを伴うからであり、現時点では5月7日までの条件決定・5月11日までの実行予定が明らかにされているからです。
また、「平均金利」は現在の残高に対応する年利、「平均日数」は5月11日時点において実行されているスワップ貸付の利息と期間を加重平均して算出しているものです。
貸付の期間は「7日物」(つまり1週間物。休日の関係で「6日物」になったり、「8日物」「10日物」になったりすることもある)と「84日物」(つまり3ヵ月物。休日の関係で「83日物」になったり、「84日物」になったりすることもある)の2種類です。
各中央銀行の借入額の推移
次に、今回の為替スワップの現時点までにおける各中央銀行の借入額をチェックしておきましょう。
現時点で借入残高があるのは10ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局です。
図表3-1 日本銀行
図表3-2 欧州中央銀行
図表3-3 イングランド銀行
図表3-4 韓国銀行
図表3-5 スイス国民銀行
図表3-6 シンガポール通貨庁
図表3-7 メキシコ銀行
図表3-8 ノルウェー銀行
図表3-9 デンマーク国民銀行
図表3-10 豪州準備銀行
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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貴重な資料ありがとうございます。
それにしても大韓民国の登り階段それも小刻みに登る一方のグラフは、他にない実に特徴的ですね。
『ドルがないニダー』
『ドルとったニダー』
と
の連呼が眼に見えますね、それも毎週毎週!
悪化する一方の経済へのてこ入れ、失業対策などで、ただでさえ財政赤字を膨らませているところに、コロナ対策に巨額の補正予算をあらたに組むとなっては、赤字国債の大量発行に追い込まれているはずです。そんなもの本当に市中で消化できるのか、さぞかし利回りが上昇してるかと思って、、ちょっとその手のサイトを覗いてみたら、1年物から30年物までの韓国国債の利回り、1年前には1.7~1.9%だったのが、なんとすべて顕著に低下しているようです。とくに短期物ほど値上がり幅が大きく、1年物で利回りが0.8%を割り込んで、1ヶ月前よりさらに下がっています。
これって、韓銀がスワップで得たドルを市中銀行に押しつけて、その資金で無理矢理国債を買わせてるって可能性はないでしょうか? それなら札割れ続きでも、やたらにスワップの実行をやりたがってる不思議な状況の説明にもなるかと思うのですが、どうでしょう。所詮素人考えかも知れませんが。
伊江太 様
何となくですが、基本的に国内の企業・個人の負債救済や短絡的な雇用確保の為に必要なのはウォンなので、政府は量的緩和〔紙幣印刷〕と国債発行を併せて資金調達を図ることになるのだと思います。
外貨調達目的の国債発行ではないので、無理な利回り設定しなくてもことが足りるのかもしれないですね。
国債価格値上りの件は、米国の利下げに追随して韓国も利下げしたので、相対的に割安感のでた発行済国債が買われたことによる変動なのかと・・。
為替スワップの件は、調達した米ドルの使用用途が市中銀行のドル建決済に限定されてるみたいですので、カタチとしては①韓銀が政府保証債を担保に市中銀行保有の決済用米ドルを借り受けてドル売り介入、②市中銀行が韓銀から差し出された政府保証債を担保に為替介入相当額の米ドルををスワップ活用で補填。・・との「スライド〔玉突き?〕運用」ならあり得るのかと思ってます。
それならば、韓銀は国債を市中銀行に押し付けて米ドルを調達してるってことになるんですけどね。
スワップの入札設定額をリスク想定額、実行額を為替介入相当額に置き換えれば、毎回の札割れ実行にもそれなりの意味があるような気がしてきます・・。
*市中銀行にどの程度の新規国債が消化できるのかは分からないのですが、〔用意しすぎて〕適量を超えたシチューがダイレクトに消化できないことだけは経験則からも明らかです・・。
m(_ _)m
いつも、楽しみに読ませていただいております。
本記事も、他所でお目にかかれない貴重な労作ですね。
図表1ですが、「用語と略語」の項目が、「擁護と略語」となっています。(コメント転載不要です)