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金正恩危篤説は否定されたのか?

北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)らしき人物が「2020年5月1日」という看板の前に姿を表わした、という話題が報じられています。これをもってわが国のメディアは「金正恩健在説」に傾いているようなのですが、正直、この点についてはいくつかの疑念も残っています。個人的には、「金正恩健康不安説」も「金正恩健在説」も「どちらが正しい」と結論付けるだけの材料がないというのが、現時点における評価としては適切ではないかと思う次第です。

金正恩危篤説

北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)が脂肪吸引手術の失敗により危篤に陥った可能性がある、とジャーナリストの篠原常一郎氏が述べたとされる話題については、当ウェブサイトでは以前からときどき取り上げています(『ジャーナリスト・篠原常一郎氏の金正恩「危篤」説』等参照)。

その後、米CNNが4月下旬に「金正恩危篤説」を報じた(『【速報】CNNによる「金正恩危篤説」と市場の反応』参照)ことで、金正恩の容体については「脳死状態にある」、あるいは「すでに死亡している」、といったものまで入り乱れました。

もっとも、情報源によっては、金正恩が重体に陥った理由は「脂肪吸引手術」であったり、「心筋梗塞」であったりとさまざまであり、また、時期についても「昨年末頃」であったり「今年」であったりとバラバラです。

この点、もし本当に金正恩が危篤状態にあり(あるいはすでに死亡していて)、その原因が「脂肪吸引手術の失敗」によるものだとしたら、北朝鮮政府としては頭を抱え込むに違いありません(『もし「金正恩死亡説」本当なら北朝鮮政府は頭抱える?』参照)。

「金正恩」が姿を見せた!

では、真相はいったい何だったのでしょうか。

これについてはすでに国内外の様々なメディアに報じられているとおり、金正恩「本人」が5月1日に公の場に姿を見せたのですが、これをもってこれらのメディアは「金正恩健康不安説にはピリオドが打たれた」、などと報じています。

参考までに、3つほど情報源を示しておきます。

金正恩氏、3週間ぶり姿現す 国営通信が報道

北朝鮮の国営朝鮮中央通信(KCNA)は2日、同国の最高指導者<<…続きを読む>>
―――2020年5月2日 8:53付 AFPBBニュースより

北朝鮮、金正恩氏の視察動画放映 国営テレビ、健康不安払拭狙いか

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは2日、<<…続きを読む>>
―――2020.5.2 20:08付 共同通信より

金正恩氏、20日ぶりに報じられた「動静」の意図

「重体説」や「死亡説」が流れていた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が、20日ぶりに公の場に姿を現した。<<…続きを読む>>
―――2020/05/04 6:00付 東洋経済オンラインより

AFPBBニュースの記事によれば、金正恩が平安南道(へいあんなんどう)順川(じゅんせん)にある肥料工場の竣工式に参加したそうです。また、共同通信の記事によれば、朝鮮中央テレビは金正恩の姿を撮影した動画も公開したのだとか。

また、これら以外のいくつかの記事によれば、金正恩は「2020年5月1日」と書かれた看板を背景にした檀上で笑顔で座っており、金正恩本人はマスクを着用していないものの、会場ではマスクを着用した人物がちらほら見られた、といった情報もあります。

こうした状況証拠に照らすと、「2020年5月1日に実施された式典に金正恩のような人物が参加した」という可能性は高いと見て良いでしょう(実際、いくつかのメディアは「キム委員長が」公式の場に姿を表わした、などと断定的に述べています)。

また、金正恩がしばらく表舞台に登場しなかった理由についても、合理的な説明はつきます。たとえば、東洋経済オンラインの記事によれば、金正恩の動静がしばらく報じれなかったことは、過去にも何度かあったのだそうです。たとえば、

  • 短いときで2016年の11日間(4月25日~5月5日)
  • 長いときでて2014年の39日間(9月5日~10月13日)

という具合です。

また、今回の「空白期間」が生じた理由も、結局のところ、「地方視察」を名目に、金正恩自身が新型コロナウィルスを避けていたためだ、という説明も成り立つでしょう。

それは果たして金正恩なのか?

もっとも、上記の議論はすべて、5月1日に出現した人物が「金正恩本人である」、という前提を置いている点には注意が必要です。

北朝鮮のことですから、そこに映っている金正恩が「実在」するとは限りません。写真や動画に出ている人物が「演技」をしていて、別撮りした金正恩の姿をうまくデータ処理してはめ込んでいるという可能性も否定できません。

あるいは、そこまでまどろっこしいことをしなくても、そこに映っているのが「影武者」という可能性だってあります(一説によると、金正恩には複数名の「影武者」がいるのだそうです)。早い話が、健康不安説を打ち消すために北朝鮮が影武者か何かを使って作成した捏造写真だ、という可能性ですね。

残念ながら、当ウェブサイトには人相をチェックして解析するという機能はありません。

しかしながら、『米朝首脳会談の「真の目的」は「生体情報の確保」か?』でも触れたとおり、米国の情報機関であれば、すでに過去2回に及ぶ米朝首脳会談を通じ、声紋を筆頭に、金正恩自身の生体情報を保有しているのではないでしょうか。

よって、もし「すでに本体が死亡している」のだと仮定すれば、写真や動画では「影武者」を使ってごまかすことができたとしても、「声紋」の都合上、肉声を発することはできませんし、ましてや米朝首脳会談を再び実施することはできません。

※余談ですが、安倍晋三総理大臣が昨年、しきりに金正恩との会談を呼びかけていたのは、非常に合理的な行動です。なぜなら、日本政府としても金正恩の生体情報を獲得するチャンスが出て来るからです(日本政府が実際にそれをやるかどうかは別として)。

現時点での結論は尚早

いずれにせよ、現時点までの報道により、「金正恩危篤説」や「金正恩死亡説」が完全否定されたと見るのは尚早でしょう。

やはり、ドナルド・J・トランプ米大統領が金正恩と再び会わない限り、「2018年6月にシンガポールで、2019年2月にベトナムで、それぞれトランプ大統領の前に出現したのと同一人物である」、という確証は得られないからです。

というよりも、米国政府であればすでに「2020年5月1日の式典」については、写真、動画等をもとにした画像解析を実施しているでしょうし、「金正恩本人説」、「金正恩影武者説」いずれが正しいかについても、すでに証拠を掴んでいることでしょう。

そして、仮に後者が正しかったとして、米国が現段階でそれをマジメに公表するでしょうか。

むしろ、北朝鮮を「泳がせる」ために、その事実を伏せるかもしれません。

いずれにせよ、現時点においては「金正恩危篤(死亡)説」を裏付けるだけの情報がないのと同様、これを打ち消すだけの情報がないと見るのが正解でしょう。

新宿会計士:

View Comments (42)

  • Money1さんのサイトで耳の形で見ると本人ではないかとおっしゃっておられます。
    ホンペオ国務長官との会談時の写真と比較されています。
    会談時が本物であるとの前提ですので、会談時が本物なのかというのはさておいて興味深いです。

  • COVID-19の重症化リスクは①男性、②肥満であることがわかっています。すると、金正恩本人であれ、影武者であれ、新型コロナウイルスに感染すると、重症化する可能性が高いです。誰もがいつか感染するならば、彼は感染した時が最期かもしれません。

  • 恋ダウト様
    私も、その記事を読みましたが何故か違和感が残ってます。🐧
    耳の形も同じ角度から撮影された写真ではないので「似ている」以上の判断が出来ないでいます。🐧

    北朝鮮の権力構造が「金予正中心の集団指導体制」に移行していけば金正恩死亡説に傾くし、全ての権限が金正恩に集中していけば生存説に傾きます。🐧

    一番解りやすいのは、誰でも適当に理由を付けて殺しまくれば生存していると考えて良いと考えます。🐧

    • ハゲ親父🐧 様
      私も違和感はありました。同じと言うより似ているなと言う物もありましたから。
      ここまで大事な日に姿を現さなかった事が引っかかります。
      耳の形までこだわって影武者を作ったという可能瀬も十分あると思いますね。

  • 私の関心は、3Dプリンターで作られた置物でも顔認証は有効か?ってことだったのですが・・、動画も公開されてたのですね。

    ま、マスターサンプルが確定してなければ、個体の別は判っても、どの個体が本物なのかは特定できないのかもなんですけどね。

  • トランプ大統領との会談時の写真と比べてみて、
    歯並びが違うように見えたのですけど。

  • 更新ありがとうございます。

    私が見た感じでは耳、眉毛、目の形と、顎から首のライン、そして後方から見た時の体型が違うように思います。先入観があるのを引いても、極めて怪しい。

    各国のメディア、政府首脳らが金正恩の死亡・危篤・消息を言い出してから、急に映像を出して来ました。化学工場の落成式に「5月1日」をわざわざ入れるのも変だ。

    いつ撮ったの(笑)?祖父の誕生日祭にも出席しないのに、バランスが取れてないと思う。影武者じゃないかな?

  • これが後に伝わる、キム・ジョンウソ事件である。。。

    あっ、ここだけの話ですよw

      • だんな 様

        誰もレス返さないと思ってた上に、座布団までくださり、誠に恐縮です。ありがとうございます♪

        個人的に今回の件は、どっちもありえてよくわかんない世界だなぁ・・・ってのが正直なとこです。

        健在にしておいた方が利になる国、あるいは健在じゃない方が利になる国が見えてくる、リトマス試験紙みたいな感じですねぇ^^;

  • この件の主題は「生きていようが、そうでなかろうが、世界の大多数にはもう関係ない」という事実です。
    ようするに、もうどうでもいいのです。

    • 二代目から三代目に変わった時に、三代目は若くて英明だから北朝鮮が変わると宣った方々が大勢居ましたが今や無かった事にしています
      同じように三代目がどうなろうがただの代替わりでは何も変わらないでしょう

    • 通りすがり様

      >この件の主題は「生きていようが、そうでなかろうが、世界の大多数にはもう関係ない」という事実です。

      私も左様に存じます。金正恩氏が本物偽物はどうでもよく、安定してくれるのであればそれでよしということだと思います。

      半島情勢での懸念は、その一点に尽きる。なので、当の北朝鮮が「大丈夫だ」というのであれば、忙しい最中です。注意は払うとしても、それ以上のことは意味がないと存じます。

  • 5月2日に報道された金正恩氏の動画や画像が本物が替え玉かは,アメリカの専門機関を含め複数で確認したはずです。トランプ大統領は最初それを見て「今はコメントできない」と言っていた段階では分析が完了していなくて,今日「元気でよかった」と発言したのは,確認が完了した1つの証拠でしょう。日本でも何人かが分析していると思います。ついでにトランプ発言からわかるのは,アメリが政府が金正恩氏の状況について,正確な情報は把握できていなかった,ということです。元気な金正恩氏を見たとき,すぐには信じられなかったのですから。
    問題は,韓国筋から出てきた「金正恩氏は手術はしていない」発言です。韓国政府が金正恩氏の状態について,最も正確に把握していたのは確かですが,韓国が諜報活動で調べた,というより,北朝鮮からの指示で北朝鮮の主張をスポークスマンとして宣伝しているように見えてしまいます。北朝鮮政府内には,元学生活動家や共産主義者が多いのですが,北朝鮮の工作員も抱え込んでいる可能性が,何となく感じられてしまいます。複数の情報ソースが,金正恩氏が手術した,という間接的証拠を複数つかんでいるので,個人的にはそちらの説を支持したいです。あと,今までのところ,高英起氏情報が,当たっている割合が最も高いように見えます。
    前にも述べましたが,北朝鮮情報は,噂として伝わってくる情報を分析するしかないので,精度・確度は高くないですが,複数のルートの情報を突き合わせて,いちばんもっともらしいストーリーを組み立てていくしかないと思います。

    • 読み落としそうな目立たない記事を張っておきます。高英起氏情報より,少し詳しい部分があります。朝鮮日報情報です。
      http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/05/04/2020050480031.html
      金正恩氏は右側の手首関節の内側に0.5センチメートルほどの褐色のあざがある。丸い形状であり、負傷によるあざではないと推定される。4月11日に労働党政治局会議を開いた金正恩氏の手首にあざはなかった。心臓内科の専門医はこのあざについて、「医療行為で太い注射針が刺されたことでできた皮膚の穴が塞がってできたあざだ」とし、「これは心血管造影術と関連があるのではないか」と語った。大韓心血管インターベンション学会のキム・ムヒョン会長(東亜大病院循環器内科)は「あざが20日の間に新たにできた点や形や位置からみて、橈骨(とうこつ)動脈を通じた心血管造影術を行った可能性が80%程度ある」と指摘した。 金正恩氏は今回の竣工式で左足を引きずる姿も見られた。以前よりも手首や顔がむくんで見えた。しかし、医療専門家はこの程度の症状では疾病の可能性を推測するのは難しいとした。

  • 正義の味方あるいは悪の首領が死体を見せずに行方不明になると、しばらくしてパワーアップして戻ってきます。

    サイボーグ金正恩、復活!原子炉内臓、どんな銃撃も跳ね返す、飛ぶのは嫌いだから地上を亜音速で走る!ってならないかな。髪型も鉄腕アトムに似ているし。

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