国債デフォルト:日本とアルゼンチン 最大の違いとは

いくつかのメディアによれば、南米の農業大国・アルゼンチンが、またもや外貨建て国債のデフォルトを宣言したようです。もっとも、今回のデフォルト宣言の対象となるのは「国内発行の外貨建て債券」であり、「海外発行の外貨建て債券」ではありません。ただ、安易に何回も何回もデフォルト宣言するような国の債券を、海外投資家が安心して買えるのかどうか、という問題があることは間違いないでしょう。

アルゼンチンがまたもやデフォルト

本日の「速報」(?)です。

アルゼンチンがまたもやドル建て国債のデフォルトを発生させるのではないかとの観測が強まっているようです。

Argentina Default Plan Burns Traders Who Trusted Local Debt(2020年4月7日 6:05 JST付 Bloombergより)

米メディアのブルームバーグによると、アルゼンチン政府が日曜日、アルゼンチンの国内法に基づき、国内投資家向けに発行したドル建ての国債の元利払いを延期させる政令を出したところ、現地の市場では、該当する国債がすでに額面に対して28%前後の価格にまで下落しているのだとか。

記事のタイトルには「デフォルト計画(default plan)」などとありますが、正確には、コロナショックの影響で資金不足に陥った同国が、「国内で発行された外貨建て債券については、年内元利払いを一時的に停止する」という措置です。

ただ、一般に債券や金銭債権の世界では、期日に1円でも支払えなかった場合、あるいは期日を1日でも遅れた場合には、「デフォルト」とみなされ、とくに債券市場ではそんな発行体は信用を失い、まともな投資家からは相手にされなくなります。

アルゼンチンといえば、今世紀初めに海外市場で発行した外貨建ての債券をデフォルトさせ、国内法で一方的に債務再編を宣言し、これに応じない債権者に対する支払いを禁止するなどしたのですが、この扱いを不服とするヘッジファンドが米国でアルゼンチン政府を相手取り、訴訟を起こしました。

結果、2014年6月に米国の裁判所でアルゼンチン側の敗訴が確定し、「ヘッジファンド勢に旧債券の支払をしない限りは債務再編後の債券の利払を行ってはならない」と判断したのですが、アルゼンチン側はこれに応じず、「テクニカル・デフォルト」(定義上の債務不履行)状態に陥ってしまいました。

その後、アルゼンチンでは左派のフェルナンデス・デ・キルチネル政権が倒れ、保守のアルベルト・フェルナンデス政権が成立し、事態が収束するかに見えましたが、2018年には同国を通貨危機が襲い、国際通貨基金(IMF)から600億ドル近い金融支援を受けていました。

先ほどのブルームバーグの記事によれば、アルゼンチン政府は現在のところ、海外で発行された債券の利払については維持しているそうですが、いわば、「国内法と海外法で差別的な取扱いをしていることが鮮明になった」(ブルームバーグ)という状態です。

国債のデフォルトの3要件

先ほどの記事でもありましたが、アルゼンチンがデフォルトさせたとして、国際社会で問題になっているのは、米ドルを中心とする外貨建ての国債です(※なお、2001年にデフォルトさせた債券には、少額ながら日本円建ての債券も含まれています)。

しかし、基本的に国債は「買ってくれる人」がいる間はデフォルトしません(需給やインフレ率などによって金利が上昇することはあるかもしれませんが…)。ここで、あらためて、国債がデフォルトするための3要件を示しておきましょう。

国債の3つのバックストップ
  • ①国内投資家が国債を買ってくれなくなること。
  • ②海外投資家が国債を買ってくれなくなること。
  • ③中央銀行が国債を買ってくれなくなること。

このうち①については、「国内投資家が国を信頼しなくなる」、という事情でもない限り、国内で資金が有り余っていれば、基本的に国債のデフォルトが発生することはありません。

また、国内で資金不足が生じた場合であっても、②海外投資家がその国の国債を買ってくれる状況が生じていれば、基本的に国債のデフォルトは発生しませんが、国内投資家と比べれば海外投資家の目線は厳しいので、むやみやたらとデフォルト宣言をしない、といった規律が求められます。

さらに、③については、国債が自国通貨建てで発行されている場合には、中央銀行自身が国債を買い支えることができます(一歩間違えれば「財政ファイナンス」という禁じ手になりかねませんが…)。したがって、自国通貨建てで発行された国債がデフォルトするということは基本的にあり得ません。

しかし、その国債が外国通貨建てだった場合、この③というバックストップが使えないため、アルゼンチンのように国内が資金不足の国は、②にすがるしかないはずです。それなのに、過去に8回もデフォルト状態に陥った国の国債など、海外投資家から見向きされないのは当たり前の話でしょう。

日本の国の借金論

ただし、こんな記事を紹介すると、必ず

日本も国の借金がたくさんあるから、いずれデフォルトするに違いない

と言い出す人が出てきますが、くどいようですが、この考え方は、100%間違っています。

「国の借金」(正確には「中央政府の金融負債」)の金額が1000兆円を超えているという事実をもって、「日本は財政危機だ」などとする珍説を唱える人も多いのですが、もし「日本が財政危機だ」ということを多くの投資家が信じていれば、なぜ日本国債の利回りがゼロ・マイナスの領域にあるのでしょうか。

あるいは、中央政府の金融負債の金額が多いか少ないかについては、その国のGDPもさることながら、本来ならば、経済成長率、インフレ率、そしてその国の資金循環構造そのものとの関係で判断されるべき筋合いのものでしょう。

資金循環統計:ついに家計の現金が1000兆円を超過』でも説明推したとおり、現在の日本には家計に1000兆円を超える現金預金、500兆円を超える保険年金資産が眠っていて、それらが預金取扱機関や保険年金基金などの機関投資家に流れ込んでいる状態です。

資金循環統計:ついに家計の現金が1000兆円を超過

しかも、中央銀行である日銀が量的緩和政策を続けるなか、国内市場では国債の絶対量が足りないという状況が常態化しています。資金循環構造から見て、日本がいま、最優先で実施しなければならないのは、「財政再建」ではありません。「国債増発」です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ちなみに、当ウェブサイトでは少し前から中央銀行・通貨当局間の「通貨スワップ」について議論して来たのですが、冷静に考えたら、通貨スワップは「使い様」によっては非常に便利な協定です。

あまり考えたくないのですが、万が一、日本がアルゼンチンとの間で通貨スワップ協定を保持していたとすれば、おそらくアルゼンチンは躊躇なく、日本から外貨(米ドルまたは日本円)を引っ張ることでしょう。

その意味で、昨今のコロナショックにおいて、日本との通貨スワップを引き出すのではないかとの懸念がある国といえば、インドネシアでしょうか(『インドネシア、米国に対しても通貨スワップ締結を要求』、『通貨スワップ「BLCSA」と為替介入の関係を考える』)。

通貨スワップ「BLCSA」と為替介入の関係を考える

状況については引き続き注視したいものです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. りょうちん より:

    解説を願いたいのですが、アルゼンチンの債券なんてとっくにジャンク債ではなかったのですか?

  2. カズ より:

    >日本とアルゼンチン 最大の違い違いとは?

    デフォルト慣れに伴う使命感の欠如でしょうか?

    自給率の高い国では、「食っていくのに困らない」って事情もあるのかもですね。

    1. 名無しのPCパーツ より:

      逆に言えば工業化しなかったせいとも言える。
      耕作機械やらは全部輸入だとか・・・

  3. だんな より:

    私も日本とのスワップは、インドネシアが引き出す可能性が、一番高いと思います。

  4. ボーンズ より:

    アルゼンチンのデフォルト…久々に聞きました。
    ハードカレンシーでの決算とかバーター取引でないと怖くて取引できませんね。

  5. ケロお より:

    またですか。何年ぶり何回目でしたっけ。

  6. りょうちん より:

    国債と言えばこんなニュースが。

    https://rd.kyodo-d.info/np/2020040701001455?c=39546741839462401

    日本も出せば良いのに。

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