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人間の合理的な行動から考える「買占めをどう防ぐか」

ゲームの理論で読み解くと、トイレットペーパーを買い占めるのが合理的だ――。こんな、一見すると「とんでもない」主張があります。ただ、非常に残念なことに、一定の条件を置けば、この議論は正しいのです。これについて、設例をトイレットペーパーではなくマスクに置き換えたうえで、昨日の『緊急措置法の発動により悪質な「テンバイヤー」駆除へ』の理論を自己検証しておきたいと思います。

『ITメディアビジネス』というウェブサイトに数日前、こんな記事が掲載されていました。

トイレットペーパーを「買い占める」ほうが”合理的”であるシンプルな理由 (1/2)(2020年03月04日 13時11分付 ITメディアビジネスより)

リンク先記事は、昨今、トイレットペーパーが全国の小売店の店頭から姿を消しているという話題に関連し、買占め行動について

倫理的には褒められたものではないが、経済学の観点からいえば買い占めに走る行動がむしろ当然で、『買い占めないほうが非合理的である』といっても過言ではない

と喝破する、やや挑発的な記事です。

ただ、タイトルだけを読んで、「この記事の著者はトイレットペーパーの買い占めをしろと言っているのか?」と短絡的に考えるべきではありません。多少、表現は挑発的ですが、経済学でいう「ゲームの理論」、あるいは「囚人のジレンマ」と呼ばれる考え方を使えば、こうした行動が説明できるからです。

リンク先記事はトイレットペーパーの事例を使っていますが、もう少しわかりやすく、マスクで考えてみましょう。そして、こんな設例を置きます。

前提条件①「ある国は人口が10人で、この国の国民は毎日1人あたり1枚のマスクを必要としているが、この国では毎日12枚ずつマスクが生産されている。

現実には「人口が10人しかいない国」というものはありませんが、ここでは「モノのたとえ」ということでご理解いただけると幸いです。

普通に考えたら、1日12枚マスクが生産されるのであれば、1日1人1枚、マスクが行きわたるはずです(しかも、余った2枚を災害などに備えて貯蔵することもできます)。

しかし、この設例に、こんな条件を付け加えたら、どうなるでしょうか。

前提条件②「この10人の国民はお互いにマスクを何枚買ったかという情報交換ができず、また、『マスクの生産が止まった』という噂が流れており、あなたを含めた全国民はこの噂を信じている。

このとき、それぞれの国民は、次の行動を取ることができるものとしましょう。

  • (A)毎日、自分が必要なマスクを1枚だけ買い続ける。
  • (B)マスクが手に入らなくなるのに備え、毎日3枚ずつマスクを買う。

さて、あなたがこの国の国民だったら、どういう行動を取るのが合理的でしょうか。

結論からいえば、(B)の行動を取らざるを得なくなります。というのも、前提条件②から、あなたは「今店頭に並んでいるマスクを買わないと、もうマスクが手に入らないかもしれない!」と判断するからです。

もし、国民のすべてが(A)の行動を取れば、引き続き、すべての国民にマスクが1枚ずつ行きわたり、在庫として2枚のマスクが残るはずです。しかし、現実には国民のすべてが(B)の行動を取ろうとするため、結果的に

  • マスクを3枚買った人が4人
  • マスクを1枚も買えなかった人が6人

となってしまうのです(ちなみに1人1枚で良いのにマスクを3枚も買ってしまった人はどうするのでしょうか。マスクを買えなかった人に高値で売り付けるつもりでしょうか)。

こうした状況を防ぐためには何が必要でしょうか。

これを検討するうえで、前提条件②を書き換え、

  • (1)国民の間で、「他の人は何枚のマスクを買ったのか」という意思疎通が可能である
  • (2)マスクの生産者が「『マスクの生産が止まった』というのは根拠のない噂だ」と発表する
  • (3)「合理的に考えてこの噂はウソだろう」と、噂を信じない賢明な国民が続々と出現する
  • (4)買占めに罰則を適用する/強制的な配給制を導入する

というパターンを考えてみましょう。

まず(1)については、一見すると良い選択肢ですが、実際、どこの誰が何枚買ったかという情報を好感しようとしても、みんながお互いに正しい情報を伝えるという保証はありません(とくに、「自分は不安だから、1枚しか買わないと言いながら、こっそり3枚買ってやる」と思うかもしれません)。

次に、(2)については、マスクの生産者(あるいは政府)が「マスク不足はデマですよ~!安心してください!」と広報する、ということですが、これについてはそもそも噂というものが根拠なしに広まるものであることから、噂をコロッと信じてしまうような国民であれば、あまり効果がなさそうな気もします。

ここで、(3)、つまりひとりひとりの国民が賢く行動するというのがいちばん望ましい選択肢ですが、残念ながら、これは国民のモラル向上に期待するというものであり、即効性はありません。

このように考えていくと、「確実に国民ひとりひとりに1枚ずつマスクを行きわたらせる」という観点からは、結局は(4)の選択肢が手っ取り早い、ということになりそうです。

ということは、昨日、『緊急措置法の発動により悪質な「テンバイヤー」駆除へ』で紹介した、「マスクに対する国民生活安定緊急措置法第26条第1項(配給・割当て)の適用」は、ある意味では合理的な選択肢だといえるかもしれません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もっとも、理論的には「強制的に実現するのが手っ取り早い」という結論になるのかもしれませんが、私自身はそれでもやはり、(3)、つまり国民ひとりひとりが賢明に行動することに期待したいと思います。

結局、批判ばかりで何も具体的な対案を出さない特定野党、特定メディアがのさばっている理由も、それらを支持する国民が一定数存在しているからですが、国民が活発な議論を交わすことで知的レベルが少しずつでも向上していけば、日本社会は少しずつ良くなるはずです。

これこそ、当ウェブサイトを続けている理由なのかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (38)

  • 〉実際、どこの誰が何枚買ったかという情報を好感→交換です(y゚ロ゚)y訂正訂正!

  • 経済そしてそれに含まれる流通のこともあまりよくわからないのですが、この買い占め問題、過去からずっと引きずっていて、あまりよい改善策が見当たらないように思います。

    結局は、法的な縛り、統制をかけて、供給が行き渡るようコントロールするしかないように思うのですが・・。

    • 一国民様

       台湾では保険証を持って行けば毎日、一人2枚まで買えるそうです。そしてどの薬局で在庫があるということを簡単に調べられるアプリも出回っているそうですし、緊急事態には輸出も禁止されるとか。

       したがって台湾ではいつでも手に入るので日本人のように買い占めは起こらないそうです。でも、日本はこのシステムを導入するつもりはなく、罰則で取り締まるようですから取り締まりに引っ掛からなければ買い占めは自由ですから、入手難は解消しないでしょうね。お役所のお役人は認知症になっているのでしょうが、外国のシステムなんか真似したら沽券にかかわると思っているのでしょうかね。

       どっちがお得かよ~~~~く考えてみよう(かつてのサクラフイルムのコマーシャルでした)。

      • ○○老人様

        コメントありがとうございます。
        私も罰則を設けたところで、あまり解決策にはならないのではないかと思っております。
        また、供給のコントロールというのも、仰っている台湾での取組をイメージしております。

        我が国では、今後、生産量が月産6億枚になるとの報道がありますが、1日あたりですと2000万枚。
        医療機関等での使用頻度や日本の人口を考えると、これでも足りないくらいだと思います。

        余談ですが、私の在所(県庁所在都市)を歩いていますと、相変わらずたばこを燻らせて歩いている人を見かけますが、2~30メートル先からでも煙の粒子の固まりが流れてくることがよくあります。
        これをまともに浴びるわけですが、ナノサイズのコロナウィルスであっても、こうやって漂ってくる、エアロゾルとして、とすると感染しないわけがないとも思ってしまいます。

        マスクは感染をさせない効果はあるが防ぐ効果はあまりないなどと言われますが、私は上記のような場合は、やはり有効ではないかと思っています。

      • >>惚け老人様
        台湾さん、良いシステムですねえ。

        犯罪が割に合わない社会にすることが防犯になるとか。
        買い占めのインセンティブを認めた上でそれが割に合わないシステムを作る。

        また、(水に溶ける)ポケットテッシュは売れ残ってるあたり、ちまちま小分けで売るだけで効果はあるかも。
        もちろん今突然小単位で売り出したらそれこそ「暴利だ」と言われかねないので、
        りょうちん様(2020/03/05 at 14:50、記事は5日の「緊急措置法の〜」)
        のマスク自動販売機とか普段から整備(在庫とか周知とか)しておくといいのかな。

      • > でも、日本はこのシステムを導入するつもりはなく、

        日本で実現するのは、技術的には問題ないのに、野党の大反対で実現できないのでしょう。
        マイナンバーで一人n枚/日、なんてすぐ出来ます。もっとも、n=0.1 位から始めないと、当初は生産が追い付かないカモ知れませんが。

        転売屋には、転売益を所得税から分離して、転売益臨時課税(税率80%とか)を設ければ良いと思うのですが、何故かそういう気配はありませんね。

    • 日本は自由経済主義の国ですので、経済に対して
      人道的な観点から法的縛りや統制を掛ける事は基本的にタブーです。

      これをやってしまうと国が自由に物価や経済指標を操作出来てしまうので
      自由経済が根底から崩壊してしまいます。

      転売に関しても、人道的・感情的な側面を除けば
      「価値のある物を高値で売る」という、どこにでもある経済活動に過ぎないですし。

      余りにもやり過ぎなのは確かなので、何らかの対策をして欲しいとは思いますが。

    • トイレットペーパーはね、実儒なんですよ。
      だから心配はありません。
      日本のトイレットペーパーは全部メイドイン ジャパンだから、日本の企業が増産してくれています。

      て日本中の家庭がペーパーを買い揃えて不足はなくなりますよ。

      日本中の小学生も中学生も高校生

      約50日学校へ行かない

      50日間日本中の学校のトイレットペーパーを使えない、日本中の子供が。

      日本中の親がペーパーを買わねば日本中の子供がお尻を拭けない

      日本中の小中高で使う分のトイレットペーパーを日本中の家(親)が調達しなければならない。

      うして日本中の家庭にトイレットペーパーを買い揃えば今回のペーパー不足は終わります。

  • 経済学での「経済人」という概念を知った時に、学校教育というのは子どもという可能性の獣を経済人にするためのものだったのだなあという感想を持ちました。
    まあ失敗する場合がほとんどのようですがw

    • それ以前に瞬時に完全に合理的な判断を下してその通りに行動する、そんな現実離れした「経済人」の概念を前提に(つまり公理として)学問を組み立てられてもねえ。

    • 躾は大事です。
      所かまわず放尿されては困ります。

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    ゲームの理論で考えると

    (A)毎日、自分が必要なマスクを1枚だけ買い続ける。
    (B)マスクが手に入らなくなるのに備え、毎日3枚ずつマスクを買う。

    のどちらもハズレと思います。

    (C)最初の一人がマスクを12枚総て未来の生産分を含めてのマスクを買う。

    が正確と思います。この結果マスクを得る為に法外なコストで9人は一人からマスクの購入を余儀なくされるでしょう。

    テンバイヤーの行動する論理はこの論理です。

    人間は自らの利益の為に他者を徹底的に食い物にする。

    現代社会では残酷な迄の性悪説に則り一般国民を支配するべきではないでしょうか。

    以上です。駄文失礼しました。

    • > 性悪説に則り一般国民を支配するべき

      ネタとして書いているだけとは思うけど、そういう支配をしている国は他所にはすでにあると感じます。日本ではそういうやり方を好ましく思わない人が多数派であることを、私は願っています。

    • パーヨクのエ作員様、

      >現代社会では残酷な迄の性悪説に則り一般国民を支配するべきではないでしょうか。

      正しい。

      -->匿名様、

      残念ながら我が日本国民はそうじゃないというのは単なる幻想か願望に過ぎない。

      残念ながら悪人のいない社会は存在しない。日本でもです。

      そして悪人の行動が社会全体に対して悪影響を及ぼす段階に至れば、意思決定をしていない大多数の一般大衆も同様の悪い行動に走る。

      言い換えれば、大多数の一般大衆とは善人なのではなく、善とも悪とも行動を自分で決められないで様子見をしているだけなのです。ここで善の行動とは、たとえ買い占めでいくら品不足になろうとも決して買い占めに走らず我慢する、という行動です。残念ながら、大変な品不足を前にして、この手の善の行動を選ぶ人は文字通りホンの一握りに過ぎない。

      従って社会で悪人による買い占め効果が品不足という形で一般大衆に不自由感を感じさせる段階に達すれば、一般大衆もこぞって買い占めに走ろうとして、ますます品不足が深刻化する、それだけの話です。

      だから緊急事態においては「大衆は悪である」という性悪説に基づいて危機管理の行動計画を建てねば管理が破綻し社会全体がパニックに陥るリスクが極めて大きくなる。

      3.11は恐らくは明治以降の近代日本の歴史の中で最も我慢を強いられ(何しろ東北の近代化に使われるべき国家予算は併合によって朝鮮半島に流れて東北の近代化は久しく放置された)日本国民の中でも最も忍耐強い人々支え合って暮らして来た東北地方で起こったから図らずも善意による秩序が完璧に近いレベルで維持されたのであって、あれが大阪あたりで起こっていれば大変なパニックになったことでしょう。

      • 訂正

        「最も忍耐強い人々支え合って」→「最も忍耐強い人々が支え合って」

  • お一人様一個限りとかにして手数を増やすくらいがせいぜいですかね

    「お客様感謝デー
    2つ以上お買い上げのかたは、個当たり怒りの100%割り増し
    そしてなんと10個以上お買い上げの方には販売価格の個数乗で販売致します」

  • デマや誤解による買い占め、という点についてはほとんど心配してません。

    トイレットペーパーなどいくら買っても使用量が増えるものでもないし、置き場所に困るほどのストックはしないでしょう。食べ物にしても、消費量以上には継続して買いません。需要<<生産力である限りは短期間で落ち着くので、普段から無くなる前に買うようにする程度の対策で十分です。

    問題なのは、需要≧生産力の時です。マスクは感染症が流行すると毎回爆発的に売れて、市中在庫が枯渇します。それに拍車を掛けるのが転売屋で、品薄だからこそ悪影響が大きいということになります。
    それが業腹なんですよね。

    • ピークを過ぎたソフトエンジニア様

      >トイレットペーパーなど、置き場所に困るほどのストックはしないでしょう。

       南海トラフで大地震が起き、富士市あたりが津波で根こそぎ破壊されるとしばらくは(どのくらいか分かりませんが)トイレットペーパーは手に入らないでしょう。輸入すればよいことですがひと月くらい古新聞を揉んでと言うことができない時代なので、いかがなものでしょう。まして私は報道しない自由を主張する紙の新聞を30年ほど取っていないのでそれもできません。

       アジア、アラブでは何千年も水を使って素手で洗っていたから問題ないでしょうし、同じ方法をとれるなら問題ないでしょう。そのため、水洗の地域では左手は不浄の手と言うことになっているとか。

       私はこの方法を取るつもりがないので、常にかなり長期間トイレットペーパーが手に入らなくても困らないように所定量を常にストックしています。

       食料も同様で、数日位は空腹を抱えなくても済むようにしています。

       どのような対策をするかは個々人が自由に行えばよいと思います。

      • 惚け老人 様

        >どのような対策をするかは個々人が自由に行えばよいと思います

        おっしゃる通りです。
        ただ、私が言いたかったのは、需要<<生産力という条件でデマや誤解によって購入する、通常より膨らんだ分の追加のストックは大した量にならないだろう、ということです。その間の物資の不足程度であれば、多少のストックがあれば乗り切れるということです。

        普段から大地震や大噴火を想定して、というのは見習いたいと思います。私も一定量の水と食料は保持するようにしています。

  • 転売ヤーのように必要以上に物資を買い占めてそれを定価以上の高値で転売しようとする輩のインセンティブを抑止するために「転売で高額な所得を得た者には優先的・重点的に税務当局が調査する」と政府があらかじめ宣言しておくという手はどうでしょう。
    儲けの約半分が税金に取られると思えば、ガチ転売ヤー以外の多くの転売ヤーは、転売なんてリターンのわりにリスクが高くてバカバカしいと考えるのではないかと。

  •  この一件を通じて、日本人の民度なるものも所詮は中韓のそれらに比べて少しはましという程度だということを痛感させられました。
     私にとっては武漢肺炎の蔓延よりもこちらのほうがショックです。
     肺炎検査を制限したのは正解でした。怪我の功名に近いですが。

  • 新宿会計士様

    わかりやすい事例をありがとなのです♪

    ゲーム理論って、各プレイヤーが利益の最大化とか損失の最小化を目指して行動するって前提があったと思うのです♪

    事例ではマスクの獲得枚数が利益として考えられてると思うのですが、実際には、マスク獲得による感染する危険性の低減が利益になると思うのです♪

    あたし自身もそうなんですか、マスクを買えなくてマスク無しで過ごしていく中で、無くてもいいかな?って方向に傾いてるのです♪今欲しい理由は、電車の中でマスク無しだと白い目で見られるのが嫌だってことなので、そういうことがなければ、マスク争奪戦からは降りたいとも思ってるのです♪

    ゲームのルールに則ると上手く行かなくても、ルールが変わればプレイヤーの行動も変わると思うのです♪

    そういった意味では、マスク無くても、まず大丈夫ってことの宣伝も解決策のひとつなんじゃないかと思うのです♪

    ゲーム盤をひっくり返すのです♪
    チャイッッ(ノ`□´)ノ⌒┻━┻

  • 背に腹は変えられない、心意気だけではどうにもならないことも重々承知ですが、個人が自律心を持つ、行動を振り返る良い機会とも思います。「火事場泥棒は最も卑怯」という倫理観、道徳心が求められています。ピンチには違いなく窮屈ですが、少しずつ身を律する、譲る気持ちを思い出す機会にしないと甲斐はないです。日頃の備蓄も大事ですが、本当に最小限必要なものは何かという観点で日頃から過度に物を持たない生活に慣れることも大事だと思います。偉そうにすみません。

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