先週の『ジャーナリスト・篠原常一郎氏の金正恩「危篤」説』で紹介した、「金正恩危篤説」に、「続報」が出て来ました。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、この「篠原説」を裏付けるような記事が掲載されたのです。中央日報によると、脱北者である安燦一(あん・さんいち)世界北朝鮮研究センター理事長が20日、自身のユーチューブ動画のなかで、「金正恩が白頭山で妹の金与正を後継者に指名した」と述べたのだそうですが、これをどう考えるべきでしょうか。
篠原常一郎氏の「金正恩危篤説」
以前、『ジャーナリスト・篠原常一郎氏の金正恩「危篤」説』で、日本共産党の元専従経験者で国会議員秘書などを歴任されたジャーナリストの篠原常一郎氏による、非常に興味深い仮説を紹介しました。
それは、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)が重篤な状況にあり、これを受けてフランスから医師団が北朝鮮を訪問しているほか、不測の事態に備えて「金一族の集団指導体制」に向けた動きも見られる、というものです。
金正恩の容体悪化について篠原氏は「循環器系の疾患」や「脂肪吸引手術の失敗で心臓または脳に血栓が生じてしまった」などの可能性を指摘されていますが、下手をすると金正恩はすでに死亡していて、影武者が金正恩のフリをしている、というストーリーも成り立ちます。
また、篠原氏は、(金正恩の叔父にあたる)金平一(きん・へいいち)などが次々と北朝鮮に帰国しているなどと指摘しており、もしこれらの情報が正しければ、まさに篠原氏のいう「金一族の集団指導体制」に向けた布石といえるかもしれません。
(※もっとも、そもそも北朝鮮という国に関して、かなり限定的・不確実な情報を前提に、当ウェブサイト側で議論をどんどん膨らませるのはやや危険ですが…。)
「集団指導体制」への移行?
ところで、新型コロナウィルス騒動の発生の前後から、たしかに金正恩の動静については、あまり目にしなくなりました。ただ、その数少ない例外でしょうか、北朝鮮メディアは1月25日に1枚の興味深い写真を発表しています。
金正恩氏の叔母が6年ぶり登場 体制固め狙いか(2020/1/26 17:43付 日本経済新聞電子版より)
金正恩氏の叔母、約6年ぶりに姿を確認 夫は国家転覆で処刑(2020年01月27日付 BBCより)
金正恩が真ん中に座り、その隣に妻の李雪主(り・せつしゅ)、さらにその隣に金慶喜(きん・けいき)、さらにその隣に金与正の姿が確認できます。
(※なぜか朝鮮中央通信のウェブサイトにアクセスできないため、写真そのものはリンク先の日経電子版やBBCのウェブサイトで確認していただきたいと思います。また、金慶喜については、ウェブサイトなどによっては「金敬姫」と表記されていることもあります。)
ここで金慶喜が登場したのかについて、日経電子版の記事では「金一族への忠誠心を高め、内部の結束を強める狙い」と述べているのですが、ここでは篠原氏の主張する「金一族への集団指導体制」という言葉が頭をよぎります。
中央日報の報道が「篠原説」を裏付け?
いずれにせよ、金正恩に不測の事態が発生した際には、金与正あたりを祭り上げつつも、実質的には金一族が集団指導体制を取るというのが、北朝鮮のとりあえずの方針である、と考えるのは、それはそれで説得力はあります。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。
「金正恩、白頭山で後継者に妹・金与正を指名」(2020.02.21 09:15付 中央日報日本語版より)
中央日報によると、脱北者である安燦一(あん・さんいち)世界北朝鮮研究センター理事長が20日、自身のユーチューブチャンネルで、「昨年10月に金正恩が白頭山(はくとうさん)を訪問した際、随行した幹部に『私の後継者は金与正同志』と話した」、と述べたそうです。
安燦一氏はまた、
- 金正恩の健康状態が良くないため、1月にフランスの医療関係者が極秘で平壌(へいじょう)を訪問して金正恩を治療した
- (後継者指名を急いだ理由は金正恩が)若い年齢であるにも関わらず健康状態が良くない(ためだ)
- トランプ政権が米国に敵対的な人物を相次いで除去している点も意識した可能性がある
などと付け加えたそうです。
両氏の情報源がどういう関係なのかはよくわかりませんが、安燦一氏の情報源が篠原氏の情報源と別だという前提ですが、両氏の主張内容は非常に整合しています。
ただし、中央日報によれば、「ある対北朝鮮情報関係者」は「後継者を公開すれば権力の低下もあり得るという点で、金正恩が本当に指名したのかはやや疑問」、「追加の情報確認が必要」などと「慎重な立場」を見せたとしています。
制裁、コロナ、金正恩 三重苦の北朝鮮?
くどいようですが、現時点において、情報が限られている北朝鮮を巡って、ああだ、こうだと断定的に決めつけるのは早急です。ただ、それと同時に、情報の入手手段が限られているとはいえ、北朝鮮を巡ってはできるだけ客観的な情報を集める努力をする価値はあるでしょう。
ここで参考になるのは、物価と経済制裁の関係でしょう。キーワードは「制裁、コロナ、金正恩」です。
まず、『北朝鮮の物価はいったんは安定か?それが意味するもの』でも報告しましたが、北朝鮮の物価上昇はコロナウィルス騒動に伴う中朝国境の封鎖によってもたらされたというよりも、すでに昨年末ごろから発生していたようです。
2017年12月の国連安保理決議に盛り込まれた「北朝鮮出身労働者の送還」条項が発動されたのが2019年12月のことですが、たしかに国際社会の北朝鮮に対する経済制裁についても「真綿で首を絞めるようにジワジワと効いている」のだと仮定すれば、こうした物価の動きと整合します。
これに追い打ちをかけるように、コロナウィルス蔓延に伴い、北朝鮮が中朝国境の封鎖措置を講じました。
一般にヒトの流れを止めればモノの流れも止まりますが、そのセオリーどおり、北朝鮮には中国からの物資が入って来なくなった、といった報道もあります(※もっとも、本当に「まったく何も入って来なくなった」のかどうかはわかりませんが…)。
これに加えてさらに金正恩の健康不安がうわさされている状況ですが、得てして絶対君主が倒れたら権力争いを始めてしまうという李氏朝鮮の伝統を踏まえるならば、嫌な予感しかしない、というのが偽らざる気持ちです。
View Comments (14)
金正恩が死んだら、文大統領が大泣きしませんかね。
偉大な指導者様が、この世を去られた。韓国も喪に服すニダ。今日からこちらの、刈り上げデブが、新しい指導者様になるニダ。
妄想しか出て来なくて、失礼しました。
興味深い動きです。
シンガポール会談は大々的に報道されました。そのときの西側報道記事に妹の金与正氏を警戒する向きが出ていました。あのかたがどのような存在でどんなことをやっているかを雄弁に語る報道写真数葉も出てます。
更新ありがとうございます。
確かに北朝鮮は「静か過ぎ」ですね。あれだけ朝鮮中央通信とか使ってデマ、誹謗、中傷しまくっている国がダンマリなのは、怪しい。
韓国に対しても米国に対しても、勿論、日本にも何も言って来ません。今、ハナシに出てる金正恩氏死亡〜重体説が事実なら、北朝鮮が自ら破滅に近づくチャンスです。
金三代は、祖父ー父親ー息子の金正恩と、頭領にしがみついた時間は、半減、半減して来ています。それだけ初代が人を騙して、殺戮し続けたかが分かると言うものです。度量は初代が一番上です。
当代はあの風采、太り過ぎは致命的。アレに洋酒・ワインとタバコと葉巻(シガーですか)、肉食を大量に摂り、おやつも食って運動しなかったら、糖尿病か肝硬変、肝癌、シロウトの私でも考えられる病気は一杯あり過ぎです。僅か30歳代であのザマですからね。不摂生の極みです。
金一族の集団体制と言っても帰国した叔父や張成沢の夫人らは核心に入れないでしょう。やはり指名されたかは分かりませんが、金与正氏が本命です。
この女史、常識的に話が通じるなら救いがありますが、兄らと同じ瀬戸際外交しか出来ないなら、自由主義国側が体制崩壊に持って行くのは、金正恩よりやりやすいのではないでしょうか。
恐怖統治に効くのは、トップが自分の親族・近親者を無慈悲に処刑する事。怖くて誰も反抗出来なくなる。だったら、スタートは集団指導体制でも、妹が恐怖の統治者として君臨し続けるためには、残り少ない親族に犠牲者が必要。誰が生贄になるんだろ?
金正恩が無くなれば権力闘争、クーデター、アメリカの介入で決着しそうですね。変な火の粉が飛んで来なければいいですが。
新宿会計士様、興味深いニュースを紹介下さり有難うございます。
全くの個人的な感想で根拠は何もないのですが、リンクしておられる日経電子版とBBCからの記事に同じ写真が掲載されていますが、その写真の中の金正恩は従来の彼とは少し顔つきが違う印象があるのですが。従来の様々な彼の写真では見たことのない表情だと感じます。
その夫を処刑した叔母の復権は一つの可能性として挙げられている金正恩が既に死亡していることの裏返しではないか、という推測をこの見たことのない表情の金正恩の写真が裏付けているように感じるのは単なる気のせいでしょうか。
仮に金正恩が死亡し金王朝が3代続いた血縁による独裁制から血縁に基づく正統な男子後継者を欠いた軍部主導の集団指導体制となれば、北朝鮮の核問題が良くも悪くも動く可能性が大きくなり、我が国としては気の抜けない事態になることだけは確かです。
アメリカも大統領選が終わるまでは動けないでしょうが、大統領選挙が終わった時に、金正恩は生きているのかどうかが非常に興味深い。
迷王星様
私もそんな気がしておりました。
金正恩の最近の写真に違和感を感じます。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
完全なる主観ですが、北朝鮮の救いは国内に新型コロナウイルスが入っ
てないことでしょうか。何しろ、国内で新型コロナウイルスが流行してい
れば、おおいばりで国際社会に支援を要求しているでしょうから。
駄文にて失礼しました。
引きこもり中年 様
私はコロナウイルスは北朝鮮に入っているのではないかと推測しております。
国境封鎖したと主張していますが、おそらく民間人も役人・軍人も水面下でこっそり密貿易していると思います。
衛生環境が最悪の国内がパニックになることを恐れて発表していないか、ウィルス検出できていないだけかどちらかでは無いかと思います。
身分の低い者の死者が出てもコロナウィルスか他の感染症か、単なる餓死か判別する方法もないし、そんなの構ってられないという感じではないかと。
北朝鮮にも感染者は出ていますよ。
つい先日、感染して隔離施設に収容されていた元政府高官がこっそり出歩いていたことが発覚し、後日お星様になってます。
まともな医療設備のない北朝鮮で感染が拡大したら一大事でしょう。電力不足による停電が度々起きている地域もあるそうですから。
にゅるす 様
レスありがとうございます。
今朝起きたらこんな↓ニュースが・・・
https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20200222-00164105/
最近動向が報じられていないように見受けられる日本人料理人の方、ご健在なのでしょうか?
まさか健康悪化の責任を問われてたりしませんよね…
金正恩氏が,現在自分の身に何かが起こった場合の後継者を指名するとしたら金与正氏しかないでしょう。ただ,実際に金正恩が亡くなったとき,側近や国民が納得するかどうかは知りません。
1月以降の金正恩氏関係の主な記事ですが,本当がどうかは別として時系列でまとめると,
脂肪吸引手術を(中国人医師団から?)受けた。
やせた。
狭心症か血管の手術を中国人医師団から受けた。
フランス人医師団の診断を受けた。
1週間程前に錦繍山太陽宮殿を訪問した。
狭心症の入院期間は2週間くらいが標準なので,一応,矛盾なく並んでいるようです。
でも,宮殿訪問の時の写真は1年前の訪問時の動画と比べると,元気がないように感じます。
金正恩氏の健康状態ではコロナウイルスに感染したら命が危ないので,国民より自分の生命を重視したコロナ対策だったかもしれませんね。
昨年12月末の人事では,ベテラン(長老)を大量に引退させてそれより若い世代に交代させた,というのは複数の情報から確かだと思いますが,採用基準が実務能力より忠誠心だったらしく,その結果として外務省や宣伝省など重要な部署が,まともに機能しなくなってきている,という報告もあります。
万が一の場合に備えて米軍も展開しているそうなので,北朝鮮はしばらく何もできないでしょう。
更新、ありがとうございます。
≫脱北者である安燦一(あん・さんいち)世界北朝鮮研究センター理事長が20日、自身のユーチューブ動画のなかで、「金正恩が白頭山で妹の金与正を後継者に指名した」と述べた
『ユーチューブ動画』ですか…
そう言えば、ユーチューブ動画を上げ、その内容が世界のメディアに取り上げられたことを確認した上で削除して逃げた岩田健太郎という感染症の教授がいましたね…
メディアというものは、その時々で採用する戦術が似通って来るものですから…
朝鮮中央通信が『重大発表』を言い出すまでは、自分はまだ静観します…