X
    Categories: 金融

通貨スワップはロシアに対する「武器」となり得る

当ウェブサイトでは通貨スワップや為替スワップについて議論することが非常に多いのですが、これについてときどき提示している、「通貨スワップを武器にする」という具体例をひとつ紹介しておきたいと思います。そもそも論ですが、ときとしてカネの力は軍事力を上回ります。通貨スワップは「それを締結すること」だけでなく、「それを締結しないこと」も武器になり得ます。そして、冷静に考えてみれば、憲法の制約から軍事力の行使が難しいわが国は、通貨スワップこそ、うまく「武器」として活用すべきではないでしょうか。

どうでも良い論点

(※冒頭は通貨スワップと為替スワップについて議論する際にいつも付記する「断り書き」です。この節については本論とまったく無関係なので、ご興味がなければ、網掛け部分が終わるまで読み飛ばしてください。)

「通貨スワップ」と「為替スワップ」は、当ウェブサイトが著名になるきっかけとなった用語のひとつです。

ただし、通貨スワップと為替スワップには、それぞれ2つの意味があります。

通貨スワップについては “Cross Currency Swap” という意味と、 “Bilateral Currency Swap Agreement” という意味があり、為替スワップについても同様に “Foreign Exchange Swap” という意味と、 “Bilateral Liquidity Swap Agreement” という意味があります。

当ウェブサイトではこれについて、 “Cross Currency Swap” を「CCS」、 “Foreign Exchange Swap” を「FXS」、 “Bilateral Currency Swap Agreement” を「BSA」、 “Bilateral Liquidity Agreement” を「BLA」と称することにしています。

図表0 CCS/FXS/BSA/BLA
通貨スワップ 為替スワップ
デリバティブ Cross Currency Swap,  CCS Foreign Exchange Swap,  FXS
国際金融協力 Bilateral Currency Swap Agreement, BSA Bilateral Liquidity Swap Agreement, BLA

(【出所】著者作成)

ちなみに本稿で議論しているのは国際金融協力の世界における通貨スワップ(BSA)と為替スワップ(BLA)の話であり、デリバティブの世界における通貨スワップ(CCS)と為替スワップ(FXS)の話ではありません。

しかし、当ウェブサイトで通貨スワップ(BSA)や為替スワップ(BLA)の話をしているのに、ときどき、通貨スワップ(CCS)や為替スワップ(FXS)のことだと意味を取り違えた読者コメントが寄せられることがあります。

しかも、それで指摘が正しければまだ良いのですが、たいていの場合、CCSやFXSの説明自体が誤っているから始末に負えません。

たとえば、『【速報】カナダ・韓国間の為替スワップは通貨スワップではない!』には、こんなコメントを頂いたことがあります。

『為替スワップ』と一般にマーケットで呼ばれるものは、FWDと言って、足元で通貨を交換し、満期日にそれぞれの通貨の『将来価値』の価格で再交換する取引です。(満期日で交換する元本金額を、現在価値に引き戻して手前で交換する、と言った方がわかりやすいか)会計上も実態上も、有利子のローンではありません。用語の使い方を間違っているか(カナダ政府の言ってるbilateral liquidity swapの誤訳)、なにか誤認されているのではないでしょうか。そもそも、『通貨スワップだからよくて』、『為替スワップではダメ』というものでもありません。マーケットでは、一般にボラティリティが大きい長期の取引には通貨スワップを、6ヶ月以内等の短期の取引を為替スワップで行うことが多い、というだけで、外貨運用調達手段、ポジションのヘッジ手段としては何らかわりありません。

このコメント、まさにCCSとBSA、FXSとBLAを完全に混同していて、「なにか誤認されている」のはコメント主様の方でしょう(しかも、肝心のCCSとFXSの説明も完全に間違っていて、なにかと残念です)。

なお、BSAとBLAについては当ウェブサイトで何度も説明していますが、CCSとFXSの違いについては特段、当ウェブサイトで解説するつもりはありません。もしどうしても知りたいのであれば、個別にメールをください(当たり前ですがこれは当ウェブサイトの活動の範囲ではないため、有料です)。

通貨スワップの特徴

通貨スワップはハード・カレンシーとの交換でなければ意味がない

どうでも良い前置きはこれくらいにしておきましょう。

通貨スワップ(BSA)とは「二ヵ国間の通貨当局が通貨を交換する協定」のことであり、為替スワップ(BLA)とは「二ヵ国間の通貨当局が民間金融機関に通貨を供給する協定」のことで、両者は似ていますが別物です。

  • 通貨スワップ(BSA)とは:二ヵ国間の通貨当局が通貨を交換する協定
  • 為替スワップ(BLA)とは:二ヵ国間の通貨当局が民間金融機関に通貨を供給する協定

以下、本稿では「通貨スワップ」とはBSA(つまり “Bilateral Currency Swap Agreement” )

のことを、「為替スワップ」とはBLA(つまり “Bilateral Liquidity Swap Agreement” )のことを指すことにします。

ポイントは、通貨スワップの場合は、その国の通貨当局が相手国の通貨当局から外貨を借り、通貨危機の際の通貨防衛などに使えるという協定であり、また、為替スワップの場合は民間金融機関が外貨不足に陥った場合に、相手国の金融機関に対して外貨を供給するための協定です。

日本の場合だと、外貨準備を管轄しているのは日本銀行ではなく財務省ですので、通貨スワップは財務省がインド、インドネシア、タイ、シンガポール、フィリピンの合計5ヵ国の中央銀行との間で締結しています(図表1、※ただし通貨スワップは日銀が財務省の代理人として締結しています)。

図表1 日銀が財務省の代理人として締結している通貨スワップ
契約相手 交換上限 交換条件
インド準備銀行(RBI) 750億米ドル お互いの通貨を米ドルと交換する
インドネシア中央銀行 227.6億米ドル インドネシア側がルピアを担保に日本からドルか円を借りる
タイ中央銀行 30億米ドル お互いの通貨を米ドルと交換する(タイは円の引出も可能)
シンガポール通貨監督庁(MAS) シンガポールが30億米ドル、日本が10億米ドル お互いの通貨を米ドルと交換する(シンガポールは円の引出も可能)
フィリピン フィリピンが120億米ドル、日本が5億米ドル お互いの通貨を米ドルと交換する(フィリピンは円の引出も可能)

(【出所】日銀『海外中銀との協力』のプレスリリース等より著者作成)

このうち、インドネシアについては日本が一方的に227.6億米ドル相当の米ドルか日本円をインドネシアに支援するという協定ですが、それ以外の各国については、いざというときには日本も相手国から米ドルを引き出すことができる、という協定です(上限はシンガポールが10億ドル、フィリピンが5億ドル)。

もっとも、日本は100兆円を超える外貨準備を保有しているため、常識的に「日本が相手国からドルを借りる」ということはあり得ませんので、これらの通貨スワップは事実上、いずれも相手国が日本からドルを借りるためのものです。

「スワップを武器に」の真意とは?

さて、この5つの通貨スワップの特徴(共通点)とは、いったい何でしょうか。

それは、いずれも相手国が「米ドルで」日本から通貨を引き出すことができる、という点にあります。

といっても、日本銀行は米ドルを発行する権限を持っていませんので、相手国が米ドルでスワップを引き出す場合には、日本銀行ではなく、日本の財務省が外為特会で保有する米ドル資金が相手国に貸し付けられます。

また、インド以外とのスワップについては、相手国がドルだけでなく日本円でも引き出せます。

もちろん、これは「円の国際化」を国是とする財務省による象徴的なものであり、現実に通貨危機が発生した場合は、相手国としては米ドルで外貨を欲しがることが多いのだとは思いますが、日本円自体も国際的な金融市場では米ドル、ユーロに次いでパワフルな「準基軸通貨」です。

相手国にとっては、「日本円でも引き出せる」という選択肢があるのは良いことですし、また、日本円で引き出せるようにしていれば、日本にとっても「円の国際化」にいくばくかは寄与します。

もっとも、インド(総額750億ドル)、インドネシア(総額227.6億ドル)、フィリピン(総額120億ドル)の3ヵ国については、それなりに大きな金額ですが、タイとシンガポールについてはそれぞれせいぜい30億ドルていどであり、あまり緊急時に役に立つとは思えません。

(※もっとも、そもそもシンガポールの場合はカレンシーボード制を採用しており、外貨不足に陥る可能性がそこまで高いとも思えず、通貨スワップよりも後述する為替スワップの方がニーズが強いのではないかと思います。)

さらには、日本は次のような国とは通貨スワップを締結していません。

  • 台湾
  • ベトナム
  • ラオス
  • ミャンマー
  • ブルネイ
  • マレーシア

このうち、とくにマレーシアとのあいだでは、2017年5月5日付で財務省が『日=マレーシア間の二国間通貨スワップ取極の締結に係る基本合意』とする文書を公表しているにも関わらず、その後、日本がマレーシアとの通貨スワップ協定を成立させたという続報はありません。

いずれにせよ、日本としては、巨額の外貨準備で米ドルなどの外貨を潤沢に保有していることに加え、日本円自体が国際的なハード・カレンシー(準基軸通貨)でもあるため、まさに「通貨スワップを武器にする」ことができるのです。このことから、

  • 現在通貨スワップ協定を保有していないアジア諸国との通貨スワップを推進する価値がある
  • 現在通貨スワップ協定を保有しているアジア諸国についてはスワップ増額の価値がある

という2つのことがいえるのではないかと思います。

為替スワップの特徴

為替スワップは「ハード・カレンシー」同士の融通

さて、その一方で、為替スワップについては、おもに銀行間資金貸借市場(コール市場やレポ市場など)の流動性の逼迫に対応するため、という性格があります。なぜなら、為替スワップは通貨スワップと異なり、「相手国の民間金融機関に対して自国通貨を貸し出す」という協定だからです。

現在、日本はこの為替スワップを、合計8つの中央銀行との間で締結しています(図表2。なお、流動性供給を行うのは中央銀行の役割であるため、為替スワップについては財務省は関係なく、日銀が直接、外国の中央銀行との間で契約を締結しています)。

図表2 日本銀行が締結する為替スワップ一覧
契約相手 交換上限 交換条件
FRBニューヨーク連銀 無制限 日本円と米ドルを交換
欧州中央銀行(ECB) 無制限 日本円とユーロを交換
イングランド銀行(BOE) 無制限 日本円と英ポンドを交換
スイス国民銀行(SNB) 無制限 日本円とスイスフランを交換
カナダ銀行(BOC) 無制限 日本円と加ドルを交換
豪州準備銀行(RBA) 1.6兆円/200億豪ドル 日本円と豪ドルを交換
中国人民銀行(PBOC) 3.4兆円/2000億元 日本円と人民元を交換
シンガポール通貨庁(MAS) 1.1兆円/150億シンガポールドル 日本円とシンガポールドルを交換

(【出所】日銀『海外中銀との協力』のプレスリリース等より著者作成)

このうち人民元だけは「国際的なハード・カレンシー」ではありませんが、それ以外の通貨は基本的に「国際的なハード・カレンシー」(法規制も少なく、国境を越えて世界で広く取引されている通貨)であることがわかります。

というよりも、むしろ為替スワップとはその特徴上、「資本取引に制約がある通貨」との協定は馴染まず、むしろ金融危機の際に、国際的に広く活動している民間金融機関が「どうしてもその通貨が欲しい」というときに、主要6中銀がお互いに通貨を融通するための協定、と考えるべきでしょう。

ちなみに、日本は米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、加ドルをそれぞれ無制限に引き出せることになっていますが、現実にはリーマン危機以降、金融市場の極度の逼迫という状況はあまり生じておらず、日本が細々と米ドルでNY連銀からドル資金供給オファーを受けているくらいです。

なお、日中「為替」スワップの意義については、『危険なパンダ債と「日中為替スワップ構想」』や『通貨スワップと為替スワップを混同した産経記事に反論する』などで詳しく議論していますので、そちらの方をご参照ください。

為替スワップも武器にできるのか?

さて、為替スワップとはその性質上、「民間金融機関が相手国通貨へのアクセスを失ったときに有効なスワップ」です。

そもそも国際的なハード・カレンシーではない人民元建ての為替スワップについては、「中国本土で人民元建ての債券(いわゆる『パンダ債』)を発行する」という常軌を逸した行動をした邦銀を救済する、という意味がありますが、それ以外の為替スワップは、いずれも正当なスワップです。

ただし、図表2の為替スワップについては、シンガポールとの為替スワップが存在しているのに香港やニュージーランドとの為替スワップが存在しないなど、違和感がないではありません。

もっとも、そもそも論として邦銀がニュージーランドドルや香港ドルで積極的にコールマネーを調達しているという話はあまり聞きませんので、単純にその必要性がないと日銀が判断しているだけなのかもしれませんが…。

通貨スワップを武器にする

さて、以前からの繰り返しでくどいようですが、日本は130~140兆円という潤沢な外貨準備を保有していて、この外貨準備を財務省が蓄えこんでしまっているのですが、これについてはもう少し積極的な活用をしても良いのかもしれません。

そもそもハード・カレンシーの国・日本がそこまで巨額の外貨準備を保有していなければならない理由はありませんので、少しずつこれを売却し、その分、国庫短期証券のロールオーバーをやめれば、財政再建にもつながり一石二鳥です。

(いや、著者試算によれば外貨準備の含み益は40~50兆円に達していますので、そもそも論として外貨準備を日銀勘定に付け替えるなどすれば、昨年の消費税の増税など不要でしたし、それどころか消費税の税率を一時的にゼロ%に引き下げても良いくらいでしょう。)

ただ、ここまで巨額の外貨準備をすぐに売却することなどできないという実情もありますので、武力の行使が難しい日本にとっては、せめて軍事力を補完するための「経済的な武器」として、これをもっと活用すべきではないかと思います。

その具体的な使い方とは、「その国と通貨スワップ協定を結ぶこと」に加え、「特定の国と通貨スワップ協定を結ばないこと」です。

その具体例としては、ロシアや台湾との通貨スワップが考えられます。

たとえば日本はロシアとの間で長年、北方領土交渉が停滞していますが、その一方でロシアは「石油依存」のモノカルチャー国家でもありますので、ロシアに対して「日露通貨スワップ」などを「武器」として使うのはいかがでしょうか。

ロシアは現在、クリミア半島の併合問題などで国際社会から厳しい経済制裁を受けていますが、そのロシアに対し「北方領土交渉の進捗次第では通貨スワップを提供することもやぶさかではない」とチラつかせるだけで、かなりの交渉力を発揮するでしょう。

あるいは、北方領土問題や漁業権問題などの交渉が片付かないなかで、ロシアの周辺国(たとえばモンゴルやウクライナなど)に対し、これ見よがしに通貨スワップ協定を結んで牽制する、というのもアイデアとしては面白いかもしれません。

あるいは、日本は公式には台湾を「国」として認めていませんが、国際的な金融協力の世界では、中央銀行は政府から独立しているという建前があるので、日銀が財務省の代理人として、台湾の中央銀行である「中華民国中央銀行」とのあいだで日台通貨スワップを推進しても良いかもしれません。

とくに現在、中国がコロナウィルス問題で揺れているタイミングでもありますので、台湾がWHOから排除されるなど、中国から嫌がらせを受けている点を逆手に取り、台湾を日米の「通貨連合」から事実上の同盟に引き入れるというのも、発想としては興味深いのではないかと思う次第です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、どうして本日、この記事を執筆したのかを知りたい方は、のちほど掲載する予定のもう一本の記事をご参照ください(その記事を公表すればこちらからリンクがつながる予定です。なお、現時点では記事タイトルは未定です)。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 更新ありがとうございます!

    >あるいは、日本は公式には台湾を「国」として認めていませんが、国際的な金融協力の世界では、中央銀行は政府から独立しているという建前があるので、日銀が財務省の代理人として、台湾の中央銀行である「中華民国中央銀行」とのあいだで日台通貨スワップを推進しても良いかもしれません。

    「中華民国中央銀行」が「台湾中央銀行」に名称変更してからだと中華人民共和国政府を刺激しそうなので、日台通貨スワップを締結後に名称変更して貰えると尚良しだと思います。

  • ロシア周辺国とのスワップが、二国間交渉の役に立つとは、思えません。日露平和条約締結に合わせて、スワップを締結する事くらいしか思いつきません。
    台湾は、IMF、チェンマイイニシアチブにも加盟出来て居ませんので、多国間協定で救う事が出来ません。
    実際に危機が起きてからでも、日米で救う姿勢を見せれば、大きな影響が出ないうちに、救済出来るのではと思います。

  • 更新ありがとうございます。

    日本と強大国・自由主義陣営とは通貨スワップで強い絆が結ばれてます。それを為替スワップで
    台湾
    ベトナム
    ラオス
    ミャンマー(微妙?)
    ブルネイ
    マレーシア
    ら、見返りと言えば失礼ですが、対中国牽制として親日国には東南アジア諸国と取極して欲しいですね。額は日本円で1兆円〜1,000億円。台湾はもっと必要かな。ブルネイなど超親日だし、島嶼国として重要だと思います。

  • 台湾との通貨スワップは対コミュニスト・チャイナ牽制としては興味深いものではありますが、通貨スワップにせよ他の関係強化にせよ、チャイナ北京政府だけでなく台湾政府自身が正式の国号に「中華」を用い憲法でも国民党による独裁時代からに「一つのチャイナ」を国是としている以上、どうしようもありませんね。

    未だ独立していない台湾という現実の下では、日本がすべきことは、

    1.アメリカだけでなく少なくともイギリスも含めた国々(※)を説得して、「仮に台湾が憲法を改正して一つのチャイナを放棄してコミュニスト・チャイナからの独立を宣言した場合に、3国が一斉に承認すること」を秘密協定として定め、(注※:本来ならば自由民主主義を標榜するフランスやドイツも含めてと言いたいところだが、仏独に代表される大陸EU諸国はコミュニスト・チャイナにより実質的には一種の経済的な支配を受けており親北京から親台湾に翻意させるのは現実には難しいと予想される、実際、IMFが全く自由化されていない人民元を引き出し権の通貨に加えるという掟破りの暴挙をしたのもIMFが北京に近い大陸ヨーロッパ諸国の意向に強く支配されているのが根本的原因と思われる)

    2.同時に台湾に対して国号を改め憲法を改正すれば日米英3国は承認し最終的には安全保障同盟を結ぶ意志があることを強く働きかける

    これら2点を推進して一日も早く実現させることです。

    前にも書きましたが、台湾防衛は我が国の防衛にとって不可欠です。

    台湾が人民解放軍の手に落ちれば八重山諸島や尖閣諸島さらには宮古島の防衛は不可能になります。何しろこれらの島々は沖縄本島からよりも台湾からのほうが近いのです。人民解放軍が台湾の空軍基地に大規模な航空部隊を置けば、より遠隔地である沖縄本島や九州の空自基地の航空部隊では、これらの島々の攻防での航空戦では衆寡敵せずという事態に陥るでしょう。

    そしてこれらの島々を失うということは沖縄本島も北京の手に落ちるということです。人民解放軍が宮古島を手に入れれば宮古島の住民を虐殺してでもあの平たい島に巨大な空軍基地を建設するでしょう。何しろ九州よりも宮古島のほうが沖縄本島には遥かに近いのです。そこに巨大航空基地を作られては沖縄本島を守りようがなくなります。

    ということで、台湾を北京の手に渡せば速やかに日中国境は屋久島・種子島と南西諸島との間に退かされる羽目になります。

    しかもその状態で九州防衛が可能かも実は疑わしい。何故ならば近畿圏は伝統的に戦後は左翼が強く有力な自衛隊基地、特に空自基地がないからです。特に韓国が最終的にチャイナの属国に戻り朝鮮半島南部に人民解放軍の航空部隊が自由に展開できるようになれば、沖縄本島が北京の手に落ちると九州は挟み撃ちの形になりますからね。

    まあそこから先は大袈裟で心配し過ぎだとしても、「情けは人の為ならず」の言葉通り、少なくとも台湾防衛は台湾の為である以前に我が国自身の為に不可欠なのですが、その台湾防衛に日本がコミットする為には台湾国民自身が覚悟を決めて北京から独立宣言をしてくれない限り、北京-台湾の争いは内戦に過ぎないので日本(だけでなくアメリカですら)としては手出しが出来ません。他国の内戦に干渉するのは時代遅れの帝国主義そのものです。

    台湾が独立宣言しておらず北京と台湾とが互いに自分こそがチャイナの正統な統治主体であると主張し合っており、我が国がその中の北京政府を正統と認めて国交を結んでいる現状では、地球全体でのパンデミック予防の観点から台湾のWHO加入を認めるべきだと主張するのは必ずしも内政干渉ではありませんが、通貨スワップ締結は国交を結んでいる統治主体である北京政府に対する完全な内政干渉であり、両者は全くレベルが全く違います。

    北京を無視して通貨スワップを台湾と結ぶならば、それを合理化できるだけの建て前としての名分がなければなりません。そしてそれには台湾自身が独立宣言をし我が国が承認して国交を結ぶことが不可欠です。

    • 迷王星さま
      良いご意見だと思います。
      台湾は心配するばかりで、良いアイデアが浮かびませんでした。日米だけで解決しようと考えて居たのが、間違いだったと気づきました。
      日米英のみならず、EUやCPTPPも巻き込んで、対中包囲網の最前線として、台湾を守っていく事が、より良い方法かと思います。

  • 新宿会計士 様

    更新ありがとうございます。 やはりブログ主様は金融のプロなので
    本日のようなテーマの場合には一段と鋭い考察をされますね。 特にロシアや
    台湾に対してBSAの提案は政府の要人にぜひ聞いてもらいたいです。
    北村国家安全保障局長が先月プーチン氏と異例の会談をしました。茂木さんは
    勿論ですが、河野さんでも会談が実現しなかったにも拘らず外交的には
    格下の北村氏と会談をしたのは、財政的に苦しいロシアの窮状を打開するには
    やはり日本のお金が欲しいのだと思います。またコロナウイルス問題で
    世界の経済状況は更に悪化が必死ですし(結果的に石油の価格が低下)、日本が
    BSA と引き換えに4島返還にふみこんで交渉する時だと思います。
    むろん反日メディアがすぐに、食い逃げ外交にはまるな、などと妨害するで
    しょうからまず森元総理を密使として派遣してロシアの本音を探るべきと思います。
    会えばいつも4島返還の問題をまず持ち出してばかりでは相手も嫌になります。
    give and take に則り BSA と4島返還の密約を持ち掛けることこそ外交手腕
    ではないでしょうか ? コロナウイルスにより中国は更なる経済悪化、そして
    中国の銀行がデフォルトの危機に直面します。今年は中国の銀行はかなり多くの
    債権の償還が来る予定で昨年からネットではデフォルトするのではないかなどと
    話題になっていましたが現実味を帯びてきています。
    中国からも既存のBLA の実行をお願いされる状況になるやもしれません。
    そうなれば日本が台湾に対してBSA を持ち掛けても中国からのクレイムが来る
    ことはないでしょう。(韓国は歯ぎしりをするかもしれませんが)
    初めて日本はお金の力を外交に生かせる時期が来ていると思います。

    これが実現したら今年は良い年になりそうです。