安倍晋三総理大臣が(表向きは)日中韓3ヵ国首脳会談(日中韓サミット)に参加するため、本日から中国・北京を訪問します。しかし、不思議なことに、日中韓サミットの会場は北京ではなく成都であり、しかも日付は明日です。その狙いはよくわかりませんが、当ウェブサイトなりの仮説に基づけば、安倍総理は1日前に中国入りすることで、香港情勢や米中貿易戦争で弱っている習近平・中国国家主席に直接面会し、「何らかの要求」を突きつけに行くのではないかと思えてなりません。そして、明日以降の李克強首相その他1名との会談は、正直、金魚のフンのような「オマケ」なのかもしれません。
重要な会談相手は「李克強首相+その他1名」ではない?
安倍晋三総理大臣は本日から中国を訪問しますが、その訪問目的は、24日に成都(せいと)で開かれる「日中韓3ヵ国首脳会談」に参加するためです。
この点、私たち日本人にとってはやや違和感があるのですが、「日中韓3ヵ国首脳会談」と呼ばれる会談に参加するのは、日本は内閣総理大臣、韓国は大統領ですが、中国からは国家主席ではなく首相が参加しています。
今回の会談相手も李克強(り・こっきょう)中国首相とその他1名ですが、いくつかのメディアですでに報じられているとおり、日中韓首脳会談に先立ち、本日、北京に立ち寄って習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と会談するのだそうです。
日韓打開、見通せず 習主席「国賓」にも暗雲―安倍首相、23日に訪中(2019年12月22日20時31分付 時事通信より)
首相、23日から訪中 中韓首脳と会談へ(2019/12/22 21:00付 日本経済新聞電子版より)
世間的には成都での会談に注目が集まっているようですが、個人的に非常に注目しているのは、まさにこの習近平氏との日中首脳会談です。
上の時事通信の記事などでは、来春の習近平氏の国賓訪問に対し、最近、自民党の保守派議員(※青山繁晴参議院議員らでしょうか?)らからの反発が強く、実現に不透明性が高まっている、などとあります。
安倍総理が習近平氏にわざわざ会いに行く理由は、いったいどこにあるのでしょうか。
トランプ・習電話会談
その関連で、個人的に非常に気になっているのが、現地時間金曜日にドナルド・J・トランプ米大統領が発した、次のツイートです。
Had a very good talk with President Xi of China concerning our giant Trade Deal. China has already started large scale purchaes of agricultural product & more. Formal signing being arranged. Also talked about North Korea, where we are working with China, & Hong Kong (progress!).
―――2019/12/21 0:24付 ツイッターより
(※余談ですが、トランプ氏の発するツイートは簡単な英単語しか使われていないなど、表現がとてもわかりやすく、ちゃんと英語を勉強していれば、中学生であっても理解できるのではないかと思うほどです。)
トランプ氏は習近平氏とのあいだで電話会談を行い、(いちおうは)貿易問題について話をしたと述べているのですが、とくに気になったのは、「北朝鮮」と「香港」です。
北朝鮮とはもちろん核・ミサイル開発のことでしょうし、また、香港は連日のデモ問題だと思うのですが、このツイートだけだと、いったいどんな会話が行われたのかについてはよくわかりません。
これについて、香港の英字紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)に土曜日、こんな記事が出ていました。
Donald Trump had ‘very good talk’ with Xi Jinping on US-China trade war deal, Hong Kong and North Korea(2019/12/21 12:23付 South China Morning Postより)
SCMPによると、ホワイトハウス高官は金曜日朝、米中両国首脳の電話会談が行われたことを認め、また、中国の国営テレビ局が、今回の電話会談がトランプ氏側のリクエストで行われたと報じたとしています。
さらに、SCMPは中国の国営新華社通信が土曜日、電話会談を通じて習近平氏の側が台湾、香港、新疆(ウイグル)、チベットなどを巡って、トランプ氏が「ネガティブな発言や行動」を取っていることを懸念すると述べた、などとしています。
この点については、中国国営メディアの報道なので、その会話の内容については、かなり中国の側のバイアスが掛かっているであろうことは想像に難くありません。ただ、先月、米議会が香港人権法案を可決し、トランプ氏がこれに署名し、成立したあとというタイミングでもあります。
(※この「香港人権法案」については、当ウェブサイトでは米国の対香港・輸出管理適正化措置という側面があると考えているのですが、詳しくは『香港人権民主主義法の本質は「対中輸出管理の強化」?』をご参照ください。)
SCMPは、「全国香港マカオ研究会(the Chinese Association of Hong Kong and Macau Studies)」の副会長である劉兆佳(りゅう・ちょうか、Lau Siu-Kai)氏の話として、
「香港人権法の施行の停止」
を求めた可能性がある、などと報じています。
というのも、この香港人権法が「香港における人権侵害」を理由に、米国が経済制裁を実施できる、というものだからです(法治国家である米国にとっては、経済制裁の手段は多ければ多いほど良いと思うでしょう)。
トランプ氏は「成果」を確信したのか?
当ウェブサイトとしては、根拠のない憶測の類いを断定することは控えたいと思うのですが、それでもトランプ氏が(肝心なところはぼかしながらも)あのようなツイートを発した理由を考察するのは、あくまでも「可能性の議論」としては大変興味深い知的格闘でしょう。
個人的には、トランプ氏は習近平氏との会談を通じ、米中貿易戦争、あるいは香港、ウイグル、チベットなどの人権問題を手掛かりに、北朝鮮核開発に対する中国の何らかの協力を確約したのではないでしょうか。
折しも、北朝鮮が今年5月以降、短距離弾道ミサイルを相次いで打ち上げているタイミングでもありますし、また、「クリスマスプレゼント」と称してICBMの発射実験を行うのではないか、といった観測も出ています(『「中国が北朝鮮制裁解除を提案」、とんでもない話だ』参照)。
このように考えていけば、トランプ大統領の「盟友」である安倍晋三総理大臣が、このタイミングで北京を訪問すること自体、昨今の「日米同盟の更なる深化」という文脈からは、何ら不自然なものとは思えないのです。
つまり、安倍総理はトランプ大統領がしたのと同じ要求(北朝鮮非核化への協力要請、香港・チベット・ウイグルなどでの人権侵害の即刻停止など)を、習近平氏の国賓訪問と絡めて議論しに行くのではないでしょうか。
日中関係がかつてないほど日本に有利に?
以上の議論は、あくまでも報道やツイートから推理しただけのものに過ぎません。
ただ、冷静に考えてみれば、2019年は、習近平政権が国際社会からはかなり深刻な挑戦を受けた年である、という言い方をしても良いのではないかと思います。
中国経済が実質ゼロ%成長に陥っているのではないかとの疑念もあるなかで、貿易という客観的な統計から確認する限りは、米国との関係は、中国経済にとっては死活的に重要です。これに対し、中国は米国経済にとって、死活的に重要とはいえません。
トランプ政権が仕掛けている米中貿易戦争の正体とは、まさにこうした米中間の非対称性を突くものであり、中国にとっては完全に弱みを握られた格好となっています。
香港でデモ活動が沈静化しない理由も、やはり、米中貿易戦争によって中国が急所を突かれ、動けなくなっている、という事情があるように思えてなりません。
あくまでも当ウェブサイトとしての私見ですが、中国共産党にとって、懸念は2つあります。
1つ目は、米中貿易戦争が長引き、中国の実体経済の減速に波及し始めた場合には、中国人民の不満が中国共産党にダイレクトに向かうなど、独裁体制が不安定化しかねない、という点であり、2つ目は、香港におけるデモ活動が深圳などの内地(メインランド・チャイナ)に「飛び火」するという点です。
だからこそ、中国にとっては急所である米中貿易戦争を何とか収め、香港情勢の鎮静化に努める必要があるのですが、こういう局面においてトランプ氏の「盟友」(?)である安倍総理が、習近平氏の目にどう映るのかは明白でしょう。
こうした状況から、今回の安倍総理訪中の「最大の注目点」は、何といっても本日の北京訪問ではないかと思う次第なのです。
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>「何らかの要求」を突き付けに
もしそうなら日本も大したもの
と思いますが、そうではないと
考えます。会計士様には珍しく
希望的観測のように感じます
北朝鮮関連、来春の訪日について
意見を交わす程度ではないで
しょうか。会談後にどのような
報道がされるのか楽しみです
本音は、国賓来日取り止めと
なるぐらいの要求を突きつけて
欲しいです
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
たしかに、世界的には米中貿易交渉の第一段階合意について、または米
中対立の行方に関心があります。もし安倍総理が習近平国家主席から、中
国の考えを聞き出すことが出来れば、外交分野で世界に存在感を示すこと
が出来るでしょう。
蛇足ですが、世界的には日中韓サミットなどには関心はないでしょう。
駄文にて失礼しました。
投稿お疲れさまです。
私も憶測の域を出ない内容になりますが、今日の習近平との会談は、あまり濃い内容にはならないのではないか、と思います。
北朝鮮非核化や拉致問題解決への協力など原則的かつ定型的な要請は行うでしょう。
ただ、安倍総理大臣が習近平を国賓招待する意図を考えたとき、どこかの記事で読んだ記憶があるのですが、ひょっとして憲法改正を邪魔されたくないからかもしれません。もしそうだとすると、わが国を取り込もうとして融和的な姿勢を見せている習近平に対して、わが国もまた中国を取り込むべく融和的にならざるを得ない、と安倍総理は考えているのかもしれない、従って、わが国もまた強硬的な発言は出来ない、と考えているのかもしれません。従って、私は、今回の安倍総理の訪中はあまり体勢に影響は与えないのではないか、と考えています。
本当は、安倍総理には、米中覇権戦争を見据えて、米国に同調すべく、トランプ氏のようにもう少し明確な表現で米国にエールを送ってほしいのですが…
いつもありがとうございます。
会計士さんの仰るように日本有利に進めばうれしいです。是非そうなることを願っています。
日本の隣に領土的野心を隠そうともしない共産国があるというのは、きわめて危険なことと考えますが、偉い人たちはお金が第一と見えますね。
個人的には、チベット、ウイグル、香港を足がかりに支那の分裂、抗争を図り、せめてそのうち一国を自由主義陣営になればと、でもズルをするのが得意な国民性から見ても自由主義は困難でしょうね。
つい南北朝のようになればと思ってしまいます。
安倍首相と習近平主席の会談の中身は、読めませんね。
大国同士で、お互いに成果が、有ったように見せるとは、思います。
習近平主席も上からは、来ないと思いますが、安倍首相が何を言えるかは、分からない。
中国の弱みは、指摘の通り、経済が不況に陥ると共産党一党支配体制への反発が激しくなる事でしょう。
中国が経済成長著しかった頃は、それによって市場が広がり、先進諸国と利害が一致していました。
今は、成長による市場規模の広がりという視点から、技術と生産拠点の奪い合い、さらにはプラットフォームを通じた市場支配、という国家間の競争に視点が切り替わりました。
中国をこのまま自由にさせることは、今後のテクノロジーの発展に毒(技術のあからさまな政治利用)を混ぜ合わせるようなもので、どこかで歯止めが必要だったと考えます。米国の仕掛けた貿易戦争はちょうどその役割を果たしているように見えます。
頭を押さえつけられた中国は非常に不快だと思いますが、あきらかな無理筋には進めないようです。
その代わり、中国国内を中国一色に染め上げ、不況に陥っても一党支配体制が崩れないよう、盤石な管理体制を目指している様子が伺えます。それを達成するのに必要になるのは情報統制で、OS含めたソフト的なプラットフォームを中国だけでコントロールする道を選択したようです。
ハード的な技術については、これまで通りファンドを通じて手に入れて育てていき、中国製品で代替可能なものはそれしか国内工場で使わせないように仕向けて行くでしょう。
https://jp.techcrunch.com/2019/12/10/2019-12-09-china-moves-to-ban-foreign-software-and-hardware-from-state-offices/
この状況を踏まえて、日本の立場を考えていく必要があります。
日本の技術は中国にとって必要なもので、まだ切り離せるものではありません。日本は中国の需要を満たしつつも、競争力の源泉である技術は死守する必要があります。
それに軍事や外交方面の影響力を加えて、双方の利点を主張しつつ安全保障に関しての要請をしていくしかありません。
今後、中国は技術の発展や国内情勢のコントロールに失敗するかもしれませんが、相手の失敗を期待して戦略を組むのは得策じゃありません。常に競争していることを意識して国内問題に取り組む必要があります。
今回の首脳会談に際し、中国側の日韓への「もてなし」に随分差があるみたいですね。
23日 習近平:文在寅とランチ、安倍総理には夕食会を開催
24日 日中韓サミット:終了後、文在寅は即日帰国、安倍総理は滞在(翌日へ)
25日 安倍総理は世界遺産視察(李首相が同行)
かなりの厚遇です(むしろ文在寅への冷遇と言うべきか)。
うーむ、国賓としての習近平の訪日は、今のところ避けられそうもない感じですね…
習近平を国賓として招聘する安倍総理の真意が今一つ見えません。
明らかにデメリットの方が大きいとしか思えないのですが。
新茶狼さま
部下との会食。お客様とは、夕食会と観光。
それくらいは、違うでしょう。
これだけ露骨に差をつけられて、韓国が文句を言わないのが、不思議ですね。
これからかな。
だんな 様
コメントありがとうございます。
むさくるしい小部屋でお茶も出ない説明会、小奇麗な会議室でコーヒー付きの政策対話くらい違いますね(笑)
新茶狼様
だんな様
おまけの韓国は宗主国様と
ランチできるだけで喜んで
いるかもしれませんね
親分に日本を叱ってもらうニダ!
ぐらい考えてそうです
H 様
コメントありがとうございます。
コウモリ外交のツケが回っていそうですね。
むしろ、THAADやGSIMIAなどの対中姿勢でランチを共にしてくれるだけでもラッキーかと。
習近平を国賓として招聘する安倍総理の真意は国民には見当がつきません。いくら総理の記者会見を聞いても大雑把な原則論をさらりと言うだけ。私でも代わりにやれます。「両国には様々な懸案があることは承知しております。だからこそ 首脳同士が会談をして解決していく努力が必要だと考えます。」
中韓首脳会談の報道が中央日報から出ました。
<韓中首脳会談>文大統領「最近の状況、北朝鮮にも決して得にはならない」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191223-00000034-cnippou-kr
北朝鮮をどうにかしてください。
韓国に訪問してください。
韓国が独立したのは、1919年だという事にしてください。
中国が発展するときは、韓国も混ぜてください。
と言ったところでしょうか。
まさに「乞食外交」ですね。恥ずかしいとも思わないのでしょう。
中国側の発表のニュースが見たいですね。
日本、安倍総理は中国側から訪日を断ってくれる様な話の内容でも構わないのでは、経済界からは文句が出るかもしれませんがね。
中国に尻尾振ってる安倍総理、この先アメリカとの板挟みで身動き出来なく成るのでは無いでしょうか。
別稿でも申し上げたのですが、香港暴動だけでなく、暴動は広東省でも起こっていると現代ビジネスが報じていました。であれば、習近平体制が、米中貿易交渉でも思うような結果を出せなかった背景であるやもしれません。ひょっとすると、かなり余裕のない状態かもしれません。
>つまり、安倍総理はトランプ大統領がしたのと同じ要求(北朝鮮非核化への協力要請、香港・チベット・ウイグルなどでの人権侵害の即刻停止など)を、習近平氏の国賓訪問と絡めて議論しに行くのではないでしょうか。
言わば”手負いの熊”状態の習近平さんを更に追い詰める?何のために?いえ、待ってください。このタイミングで安倍総理との会談に応じたということは、習近平さんも安倍総理と会いたい理由があるということですよね。
でも、北朝鮮がややこしい中、わざわざ、日中韓サミットに赴く理由が、習近平氏との会談であるというなら、納得です。内容は見えてきませんが。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
心配性のおばさん様へ
北朝鮮の状況次第では、安倍総理には、何事もなかったように、(後々
問題にならないように上手く)習近平国家主席と握手をすることが、求め
られるのではないでしょうか。(もちろん、日本に出来るのか、という疑
問もありますが)
駄文にて失礼しました。
小母さんへ
喧嘩している夫婦があるとしましょうか。
旦那の方がちょっと分が悪い。何しろカアチャンは財布を握っていて旦那の小遣いを加減できる。
で、旦那はカアチャンの弟を呼んで一杯呑ませて、「スマンが、姉ちゃんを宥めてくれよ」と頼む。
弟が強かな奴なら「兄貴ぃ、今度ライブがあって彼女と行きたいんだが・・・」とライブのチケットくらいはねだるでしょう。
良い奴なら「義兄さん、ボクに任しておいてください」となるでしょう。
え?安倍さん?どうでしょうかねえww