ネセサリーロスで読む 日経世論調査と日韓関係の未来

日経新聞が先月、興味深い世論調査を実施しています。これによると、11月22日以降に実施された日本経済新聞社の世論調査で、日韓関係を巡って「関係改善のためには日本が譲歩することもやむを得ない」という回答が21%だったのに対し、「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」が69%に上った、とする記事です。ふたつの選択肢が対応していないというのはご愛嬌として、国民世論の7割が日韓関係の積極的な改善に否定的だったという点は事実ですが、これに関連し、本稿で紹介したいのが、「ネセサリーロス」(必要な敗北)という考え方です。

トップダウンとボトムアップ

以前、『韓国首相来日を「日韓関係破綻」の布石と見る理由』のなかで、簡単な組織論の話題を紹介したことがあります。

韓国首相来日を「日韓関係破綻」の布石と見る理由

これは、日本のようなボトムアップ型・コンセンサス重視社会だと、企業にせよ役所にせよ、何か組織としてアクションを起こす、どうしても「強いリーダーのトップダウン」ではなく、「現場レベルからのボトムアップ」で動くことが多い、という性質がある、という議論です。

私自身も長年、日本の企業社会にドップリと浸かってきた人間ですので、こうした「ボトムアップ」の事例は数多く存じ上げているのですが(※ただし、その具体的な事例については当ウェブサイトに書くことはできません)、外国企業に勤めたことがある人からすれば、いろいろ信じられないこともあるでしょう。

もう少しわかりやすい事例を挙げれば、日米のリーダーシップの違いがあります。

米国だとドナルド・J・トランプ大統領という強烈な個性を持ったリーダーが、メキシコとの国境の壁建設、米中貿易戦争、米軍の世界からの撤退加速、といった「政権公約に従った政策」を鋭意実行中です。

これに対し、日本だと、安倍晋三総理大臣は2006年9月に登板した際、「美しい国・ニッポン」を掲げ、防衛庁の省昇格、改憲のための手続法制定といったさまざまな成果を挙げたのですが、結局は「消えた年金問題」などに足を取られ、1年で政権を投げ出さざるを得ませんでした。

個人的には、第一次安倍政権の失敗は、当時はオールドメディア(とくに朝日新聞)の力がまだまだ強かったこともあり、偏向報道の末に潰されたというのが本質だと思うものの、安倍晋三氏が「米国型の強いリーダー」を志向したという点も、現場の官僚の反発を生んだのかもしれません。

日経世論調査、7割弱が関係改善に後ろ向き

ところで、日経新聞に先月、こんな記事が掲載されました。

「韓国に譲歩する必要ない」69% 日経世論調査(2019/11/24 21:00付 日本経済新聞電子版より)

これは、日本経済新聞社の世論調査で、日韓関係を巡って「関係改善のためには日本が譲歩することもやむを得ない」という回答が21%だったのに対し、「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」が69%に上った、とする記事です。

ふたつの選択肢が対になっていないなど、あいかわらず設問がおかしいのはご愛嬌でしょうか。

また、今回の日経世論調査は、ちょうど韓国政府が日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)の破棄を事実上撤回すると発表した22日午後6時をはさんで実施されたため、こうした報道発表が調査に影響を与えている可能性は否定できません。

ただ、こうした不正確さがあるにせよ、日経新聞という典型的な「オールドメディア」の調査で、7割弱が「日韓関係の改善を急ぐ必要はない」と答えたというのは、なかなかすごい話だと思います。要するに、日本国民の7割が、韓国との関係改善に後ろ向きだからです。

韓国側に起因する行為ばかり

もっとも、日経の記事だけでは、なぜ7割の人が「日本が譲歩するくらいなら関係改善を急ぐ必要がない」と答えたのかについて、その背景はよくわかりません。

しかし、昨年秋口以降に発生した日韓関係の諸懸案を眺めてみると、下記⑤を除けば、いずれも韓国側に起因する、極めて非合理で非友好的な行為ばかりであることが明白です。

日韓間の主な懸案のうち、昨年秋口以降に発生したもの
  • ①旭日旗騒動(昨年9月頃~)
  • ②自称元徴用工判決問題(昨年10月30日)
  • ③レーダー照射事件(昨年12月20日)
  • ④天皇陛下侮辱事件(2月頃)
  • ⑤日本による韓国向けの輸出管理適正化措置(7月1日発表)
  • ⑥慰安婦財団解散問題(7月頃)
  • ⑦日韓請求権協定無視(7月19日)
  • ⑧日韓GSOMIA破棄決定(8月22日)
  • ⑨対日WTO提訴(9月11日)

また、⑤についても『韓国政府「人員の5割増」だけでは問題は解決されない』などで報告したとおり、結局は韓国側の輸出管理体制に重大な問題があったからこそ日本政府が発動した措置であり、「韓国側に原因がある」という意味では、ほかの項目とまったく同じです。

韓国政府「人員の5割増」だけでは問題は解決されない

さらに、このリストはあくまでも「昨年秋口以降に発生したもの」に限定したものであり、それ以前から存在する懸案も多く、ほんの一部を列挙しても、いくらでも出て来ます。

文在寅政権以前から存在する懸案のほんの一部
  • 日本領である島根県竹島を韓国が不法占拠している問題
  • 日本海の呼称を勝手に「東海」「韓国海」などと呼び換えている問題
  • ソウルの日本大使館跡地前の公道上に慰安婦像が設置されている問題
  • 釜山の日本総領事館前の公道上にも慰安婦像が設置されている問題
  • 韓国で子供たちにウソの歴史を教えている問題
  • 韓国の政府、国民が一丸となって、全世界で日本を貶めている問題
  • 日本ブランドのイチゴなどを不法に持ち出して栽培するなどの知的財産権侵害問題

ネセサリーロス

こうしたなか、当ウェブサイトではときどき、「ネセサリーロス」という考え方を書き込んで下さる読者の方がいらっしゃいます。

この「ネセサリーロス」とは、一般に、スポーツ選手などがより強くなるためには経験しなければならない「必要な負け」のことですが、この「ネセサリーロス」、「いちど手痛い失敗を経験することで、社会全体として「これをやってはならない」と学ぶ必要がある」、とうい意味に応用できるように思えるのです。

何の話を申し上げているのかといえば、たとえば上記②の自称元徴用工問題を巡って、昨日の『上皇陛下侮辱の国会議長が「ゴミ法案」を強行するわけ』などでも報告した「徴用工財団」のように、韓国側からはいつもの「インチキ外交」に基づく解決策が多数出て来ていることに応用できる、という意味です。

「財団方式による解決」は、安倍総理が保守派の多くの意見を押し切るかたちで2015年12月の日韓慰安婦合意で採用されたものですが、案の定、韓国側が政権交代とともにこの合意を反故にし、慰安婦財団を解散してしまいました。

ただ、こうした「財団方式による解決の失敗」は、日本が韓国と向き合ううえでの「ネセサリーロス」だったのかもしれません。

先ほど紹介した日経の世論調査は、設問がおかしいため、必ずしも全幅の信頼を置くことができるものではありませんが、ここで是非、紹介しておきたいのが、当ウェブサイトでしばしば引用する「日韓友好論の3類型」という考え方です。

日韓友好論の3類型
  • ①対等関係論:日韓両国は対等な主権国家同士として、お互いに尊重し合い、ともに手を取り合って、未来に向けて発展していけるような関係を目指すべきだ。
  • ②対韓配慮論:日韓両国は対等な関係だが、過去の一時期に不幸な歴史もあったことを踏まえ、日本がある程度、韓国に配慮することで、「名よりも実を取る」ことを目指すべきだ。
  • ③対韓追随論:日韓友好はとても非常に大切であり、韓国が「もう良い」というまで過去の不幸な歴史を反省し、謝罪し続けるべきだ。

この①~③は、当ウェブサイトとしての主張として申し上げているのではなく、あくまでも「日本国内にこのような考え方がある」、というだけの分類に過ぎませんが、日本国内の「日韓友好論」はだいたいこの3つのいずれかに当てはまっていると考えて良いでしょう。

行き着くところに行き着くのか?

日経世論調査は②の考え方の妥当性を尋ねたものだと見て良いと思いますし、上記①、③について日本国民がどう考えているのかはわかりませんが、少なくとも日経世論調査では世論の7割がこの②の考え方を否定したということは間違いないと思います。

それから、もうひとつ紹介したいのが、「日韓関係の落としどころ」です。

日韓関係の落としどころ
  • ①韓国が国際法や約束をきちんと守る方向に舵を切ることで、日韓関係の破綻を避ける
  • ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することで、日韓関係の破綻を避ける
  • ③韓国が国際法を破り続け、日本が原理原則を貫き続けることで、日韓関係が破綻する

このうち②の考え方は、先ほどの「日韓友好の3類型」でいうところの②または③に対応したものですが、日本国民がこれを拒絶しているということであれば、日韓関係は結局のところ、

  • 韓国が国際法や約束をきちんと守る方向に舵を切るか、
  • 日韓関係が「行き着くところに行き着く」か、

の2つしかない、ということでもあります。

いずれにせよ、韓国が日韓GSOMIA破棄の事実上の撤回に追い込まれ、一時的に日韓友好の機運が高まっている(※というよりも、韓国メディアなどが無理やりそういう機運を演じている)ようにも見えますが、本質的な日韓関係の膠着状況は、まったく変わっていません。

日本国民のあいだで、じわじわと「日韓友好を諦める人」が増えて来るようであれば、そう遠くない未来に「ボトムアップの結果」として、日韓関係の破綻が現実味を帯びてくるのを見ることができるかもしれません。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    マスコミの世論調査など誰も信用していない。いくら統計学の屁理屈を持ち出しても一般の国民の常識はたった数百のサンプルで一億もの有権者の意向を図れるはずがないと思っている。

  2. 匿名 より:

    世論調査と言えば チャイナの習近平の国賓招待の是非を世論調査しないのはヘンですね。ほとんどのマスコミは「心の宗主国」であるチャイナへ遠慮してるか?はたまた 政権への忖度なのか?

  3. 七味 より:

    >日本国民のあいだで、じわじわと「日韓友好を諦める人」が増えて来る

    友が信じた道を往くのなら、黙って見守るのも友情ではないでしょうか?

    ( ´Д`)ノ~ トモヨ サラバ

  4. クロワッサン より:

    更新お疲れ様です。

    ネセサリーロスに通じるものとして「失敗学」が挙げられると思います。

    1個の致命的なミスの背景には30(29?)個の軽微なミスがあり、更にその背景には300個の異常・兆しがある、というハインリッヒの法則などです。

    日韓関係が破綻する事は、日本が韓国に対する配慮や特別扱いを続けるなどの非対等関係から読める人には読めたのでは無いでしょうか?

    そして、日米関係に関しても、同じ事が言えるかと思います。
    なので、日本が米国に守られるだけの一方的な関係は、早く是正すべきだと思います。

  5. 匿名 より:

    ネセサリーロスは失敗から学べという概念だと受け取れば良いと思ったのですが
    いままでの日本国の体制は失敗から学ばない(敵からの被害見て見ぬ振りをする)事を強要されていたといえますね。

    失敗(敵からの被害)から対応することができるようになったのは邪魔者が自滅しつつあるからですかね? 考えすぎ?

    1. 匿名 より:

      外務省の無能連中は、交渉締結を最高の成功と思ってるから、そのための国益を損なう譲歩や後に禍根を残す結果でも失敗と思わない

  6. もまも より:

    そういえば当時、安倍首相のいう「うつくしいくに」を「にくいしくつう」という意味だとか言ってキャッキャと盛り上がってるメディアがいましたね。

  7. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    日本経済新聞というオールドペーパーでも70%の回答者が「日韓関係の修復を急ぐ必要無い」とは、正直驚きました。50%ぐらいが落ち着き所と思ってましたので。

    あまり極端に振れるのも良し悪しですが、もはや日本人としては日韓関係はメーターを「振り切った」状態なんでしょうね。

    「ネセサリーロス」(必要な敗北)という考え方で言うと、対韓には何度も煮え湯を呑まされてます。でも懲りなかった。敗北が足らなかった(笑)のでしょうか?

    ようやく十分な状態なので、相手が毎日の如く失策を繰り返しているのを、眺めて必要あれば早めに対処、しかし積極的に関知せずで良いと思います。

  8. だんな より:

    ナセサリーロスは、変換されませんでした。
    日本は、対韓国との関係構築を、アメリカの影響下で行った事も有り、譲歩を繰り返して来ました。
    もう、慰安婦合意で、最後にしてもらわないと、日本人も納得しないでしょう。
    韓国は反日で成立した国で、その後も国内の葛藤、矛盾をを反日に蓄積し、日本が解決してあげる図式でした。
    結果は、その都度解決したかのように見えても、蒸し返され、反日を巨大化させました。
    ずっと日本は、意味なく負け続けて来たのです。
    韓国の反日は、徐々に韓国人のコントロール不能な物となり、反日モンスターに韓国が飲み込まれる事になるでしょう。
    日本は、非韓三原則を守ることで、韓国に対するのが一番です。

  9. 匿名 より:

    日本が意味なく負け続けてきたのではなく、アメリカがそのように仕向けて、日本が譲歩せざるを得なかっただけだと思います。

    韓国はアメリカが戦利品として人為的に独立させた人口国家というか「地域」であり、まともな主権国家ではないです。アメリカの傀儡で、反日の基地外、李承晩が異常な反日政策をして、反日が国是になりました。

    ようやく一般の日本国民も、韓国に対する正しい認識が浸透してきたのでしょう。いい傾向だと思います。

  10. 与太 より:

    米国に49年間在住のオヤジですが、”necessary loss” は当地では「必要な損失」と解釈される場合の方が多いです。

  11. ラジオはMMT より:

    サイト主さんには、ぜひ日韓の防衛費にも注目していただき、何か有益な中身を引き出していただけたら、と思っています。

    河野太郎氏のサイトによれば、韓国の防衛費がすでに日本を追い越しているそうです。したがって、韓国が軍事大国を目指しているのは間違いないのですが、このまま統一朝鮮が発足すると、その軍事力は大変なものになるでしょう。非常に危険な状況です。

    https://www.taro.org/2019/10/%e9%98%b2%e8%a1%9b%e4%ba%88%e7%ae%97%e3%81%ae%e6%af%94%e8%bc%83.php

  12. ワヤンゴレ より:

    Necessary Lossの翻訳は「必要な失敗」でなく「必須損失」、より積極的には「健全な損失」だと思います。まずLossを「失敗」訳すと対語(反対語)として「成功」があることになりますが、Lossの対語はProfit「利得」となります。行為の対称・非対称も出てきたので、このような二対でバランスで考えるのがふさわしいように思います。念のためですが、「健全な」と訳したのは「対称性」が保たれた状態を想定してのことです。私見ですが、日経調査に関しては世論を反映していると理解します。具体的には以下のとおり。①従来の日韓関係は一方的・非対称であり、結果的に不健全であった、②現行の日韓関係がいったん崩壊することしかありえないと予想している。③崩壊した地点(ゼロレベル・貸借なし)から再構築(脱構築)されることに期待している(以上、主格・行為者は日本の世論、集合的な認識)。

  13. 福岡県民 より:

    いいことだ
    早く破綻したほうがいい
    憎悪には憎悪で返すだけ

    安全保障云々という人がいるが、米韓同盟がある限り、最低限のことは大丈夫
     

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告