当ウェブサイトが「発明」（？）した用語のひとつに、「セルフ経済制裁」というものがあります。いや、「発明した」というのは言い過ぎかもしれませんが、当ウェブサイトではこの用語を、「韓国で反日感情が強まるあまり、結果的に日本から韓国に対して経済制裁を適用したのと同じような経済効果を韓国が自分自身で招いている」という意味で利用してきました。その「セルフ経済制裁」の最新版とでもいえばよいでしょうか、今朝の韓国メディアに韓国の航空産業が「日本の輸出規制で危機に直面している」とする記事が掲載されています。

「セルフ経済制裁」とは…？

「セルフ経済制裁」という用語があります。

個人的には、「ＮＨＫをぶっ壊す」ほどではないにせよ、今年を代表する「流行語」のひとつだと思う次第です（※ただし、『相変わらず恣意的な流行語大賞の正しい楽しみ方とは？』などでも述べたとおり、なぜか今年の「流行語大賞」には含まれていないようですが…）。

この「セルフ経済制裁」という用語を初めて使用したのが誰なのかはよくわかりませんが、遅くとも今年２月６日付で某ウェブ評論サイトに掲載された論考以降、世の中でこの言葉が強く意識され始めた（らしい）、ということが確認できます。

その某ウェブ評論サイトとは、なんと…当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』です（笑）。

韓国が「セルフ経済制裁」を喰らう？ソウル市の条例案に思う（2019/02/06 14:00付 当ウェブサイトより)

…といっても、「セルフ経済制裁」という用語を初めて使ったのが当ウェブサイトなのかどうかはわかりませんが、少なくとも個人的には、「これって自己制裁だよねぇ…」と感じながら上記記事を執筆した記憶があります。

あくまでも私の記憶ベースですが、世の中的に「セルフ経済制裁」という表現は今年の４月から５月以降にかけて広まり始め、日本が韓国向け輸出管理適正化措置を打ち出した７月１日以降、あっという間に人口に膾炙したものだと思います。

経済制裁あれこれ

それはさておき、当ウェブサイトではその後もさまざまな思考実験を通じて、経済制裁にはだいたい７つの形態、５つの名目があるのではないかと思うようになり、その成果には今年８月に『総論：経済制裁について考えてみる』という記事にまとめました。

簡単にいえば、経済制裁には

• ①相手国に対するヒトの流れの制限
• ②相手国に対するモノの流れの制限
• ③相手国に対するカネの流れの制限
• ④相手国からのヒトの流れの制限
• ⑤相手国からのモノの流れの制限
• ⑥相手国からのカネの流れの制限
• ⑦情報の流れの制限

という、少なくとも７つの形態があり、それぞれ、

• （１）積極的経済制裁：「経済制裁する」と宣言して実施する制裁
• （２）サイレント型経済制裁：なにか別の名目で実施する実質的な経済制裁
• （３）協調型経済制裁：諸外国と合同で実施する経済制裁
• （４）消極的経済制裁：相手国が困っているときにわざと助けないこと
• （５）セルフ経済制裁：相手国の自爆により経済制裁と同じ経済効果が生じること

という、少なくとも５つの発動名目があります。

ただし、当ウェブサイトでは何度も報告してきたとおり、（１）の形態の経済制裁を発動するのは、なかなか困難です。

というのも、わが国が単独で特定国に対して経済制裁を実施したら、相手国の恨みも買いますし、また、国内でさまざまな利権を持っている人がそれに抵抗することも予想されるからです。

さらには、日本はスパイ防止法をはじめとする国内法がきちんと整備されていないため、（１）の形態だと、たとえば①や⑦については発動する手段がなく、相手に対して実質的に打撃がある経済制裁は、②～⑤に限られてしまいます。

ちなみに、日本政府が７月１日に発動した韓国向けの輸出管理適正化措置を巡って、日本政府は「経済制裁・貿易報復措置」ではないと公言していますので、これが「韓国へのモノの流れの制限（つまり②）」を意図していたとしても、形態としては（１）ではなく（２）の「サイレント型制裁」です。

しかも、『総論　対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』でも報告したとおり、内容としてはいかにも中途半端であり、実質的に「経済制裁」としては機能していません。

あるいは、日本が韓国産のヒラメなどの検疫を強化するなどの措置も、「（２）サイレント型」でいう「⑤相手国から日本へのモノの流れの制限」という言い方ができなくもありませんが、経済的に相手国に与える打撃はきわめて限定的であり、「経済制裁」と呼べる代物ではありません。

そうなると、韓国に対して実効的な経済制裁を加えたいと思うならば、諸外国（とくに米国）を巻き込んだ方がよいことは間違いないのですが（つまり「（３）協調型経済制裁」）、このタイプの経済制裁も、諸外国の協力がなければ実施は困難です。

勝手に経済制裁！

以上より、日本が韓国に対して（１）～（３）の名目で経済制裁を発動することは何かと困難ですが、その一方で、意外と有効な経済制裁手段があります。

それが、（４）と（５）です。

とくに、（５）の「セルフ経済制裁」の典型例が、韓国側で不買運動だの、「ノージャパン」運動だのが広まった結果、韓国に対して経済的な打撃が生じるという効果のことですが、どうもセルフ経済制裁の兆候が出始めているようなのです。

これに関連し、韓国メディア『中央日報』（日本語版）に今朝、こんな記事が掲載されていました。

日本の輸出規制で危機に直面した韓国航空業界「体質改善が急務」（2019.11.12 06:59付　中央日報日本語版より）

これは「日本の輸出『規制』による日韓間路線の乗客減少により、韓国の航空会社で国際線の売上高が約730億円減少したことを、『キム・グァンオク総括本部長』が韓国国会国土交通委員会で明らかにした」とする記事です。

中央日報の記事は日本語文法的におかしいため、この「キム・グァンオク総括本部長」なる人物が「韓国航空協会」の人物なのか、それとも「ともに民主党」所属の国会議員なのかがよくわかりません（文脈に照らせばこの人物は韓国航空協会の人物なのだと思いますが…）。

しかし、この短い記事によれば、「キム・グァンオク総括本部長」は「10月を基準に韓日間路線の旅行者は前年より43％減少し、これにより国際線売上被害も年間7800億ウォンに達する」と述べたのだそうです。

「日本のせい？知らんがな。」

正直、これを「日本のせいだ」といわれても、日本国民のひとりという立場からすれば、「知らんがな」という感想しか出て来ません。

そもそも論として、日本の（輸出「規制」ではなくて）「輸出管理適正化措置」は、あくまでも安全保障上の要請から出てきた措置であり、経済制裁でも貿易報復でも何でもありませんし、べつに日本政府は韓国人観光客を排除しようとしているわけではありません。

それどころかわが国は「ビジットジャパン・2020年4000万人」目標を掲げ、韓国を含めて各国に「日本にいらっしゃってください」と大々的に呼び掛けているほどです。日本の輸出管理適正化措置を「輸出規制」と勝手に勘違いして激高し、「ノージャパン運動」を繰り広げているのは、韓国の側でしょう。

もっとも、韓国国民が日本の輸出管理適正化措置を「輸出規制」と勘違いしている理由は、韓国では政府・メディアが一丸となって、さかんに「輸出規制」だの、「貿易報復」だのと捏造・喧伝している効果が大きいのかもしれませんが、それにしても日本政府の責任ではありません。

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ただ、韓国側では旅行産業などを中心に、「ノージャパン」運動の余波が続いているらしく、たとえば関西国際空港の場合、今年の冬は新規路線が相次ぐ中国路線が約40％増える一方で、韓国路線が前年比31％減少する見込みだ、などと報じられています。

関空冬ダイヤ、中国便増加、韓国便をカバー（2019.10.24 18:5付　産経ニュースより）

いわば、韓国の航空会社が日本路線を減便する一方で、空いた穴を「韓国以外」の路線が埋める格好ですが、こうした動きが日本全体に波及するのかどうかについては、興味深い点でもあります。

さらに、ちょうど１ヵ月前の『東洋経済オンライン』には、韓国で「脱日本」の流れが続いているとする記事も掲載されています。

｢ボイコットジャパン｣から2カ月､続く余波／日本の経済界は当惑､韓国財界から同調の声（2019/10/12 5:00付　東洋経済オンラインより）

このように、韓国側で続く「ノージャパン運動」は、日本経済にも少なからぬ打撃を与えているのではないか、という説もある一方で、『韓国人観光客が減って旅行収支が過去最大』などでも報告したとおり、むしろ韓国人観光客の減少が日本経済の打撃になっていないというデータも存在します。

いずれにせよ、「日本に打撃を与えてやる！」と息巻いていた結果、それが韓国に対するセルフ経済制裁として跳ね返っているのだとしたら、これは皮肉というよりほかないでしょう。