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米韓通貨スワップ待望論と11年目の通貨危機

先日、『韓国の新金融委員長から日韓スワップ待望論、なぜ?』のなかで、韓国で今月、日韓通貨スワップの再開に対する期待がある、という話題を紹介しました。これに関連し、さらに調べていくと、『ソウル新聞』という韓国メディアには、「日韓通貨スワップがダメなら米韓通貨スワップにすれば良いじゃない」、といった「米韓通貨スワップ待望論」も掲載されていたようです。米国がわざわざ韓国のために骨を折ってやるのかどうかは見物でしょう。

しつこい「日韓スワップ待望論」

日韓通貨スワップ巡る財務省の詭弁

先日、当ウェブサイトでは『韓国の新金融委員長から日韓スワップ待望論、なぜ?』のなかで、韓国の新任の殷成洙(いん・せいしゅ)金融委員長が日韓通貨スワップの再開に言及した、という話題を紹介したばかりです。

日韓請求権協定を踏みにじる判決を下しておきながら、それを是正せずに放置する。

日本が輸出管理の適正化措置に踏み切ったら、それに対して逆ギレし、WTOに提訴したり、日韓GSOMIA破棄を通告したりする。

そんなめちゃくちゃな相手国に対し、わが国の「虎の子」ともいえる貴重な外貨準備のドル資金などを貸し付けるような事態があれば、それこそ日本国民の理解が得られません。

もちろん、日本政府内部では、「韓国に対して通貨スワップを提供したい」とする考えが跋扈していることは事実でしょう。ここで参考になるのは、財務省の山崎達雄国際局長(当時)が2014年4月16日に述べた次の答弁です。

日韓通貨スワップを初めとする地域の金融協力は、為替市場を含む金融市場の安定を通じまして、相手国、日韓の場合は韓国だけじゃなくて、日本にとってもメリットはあります。
というのも、日本と韓国との間の貿易・投資、あるいは日本企業も多数韓国に進出して活動しているわけでありまして、その国の経済の安定というのは双方にメリットがある面、それからまた通貨という面でいうと、むしろ通貨を安定させるという面、ウォンを安定させるという面もあるわけであります。
そういうことで、私どもとしては、当時、日韓通貨スワップを拡大したのは、むしろ、韓国のためだけというよりも、日本のため、地域の経済の安定のためということがあったということだけ申し上げたいと思います。

国民の税金で救済すべきなのか?

この答弁(あるいは詭弁)、よく覚えておきましょう。要するに、財務省のなかでは

  • 多数の日本企業が韓国に進出しているため、韓国経済の安定は日韓双方にメリットがある
  • 韓国の通貨・ウォンを安定させることは金融市場の安定につながるため、日本にもメリットがある
  • よって、日韓通貨スワップの拡大は、日韓双方および地域経済の安定のためである

ということになっているようなのです。

むしろ為替市場が安定している状況だと、韓国は通貨が下がり過ぎず、上がり過ぎないように、積極的に通貨・ウォンの市場に為替介入してきますし、韓国政府の不当な為替安誘導が続けば、日本企業の競争力を不当に阻害することにもつながりかねません。

また、韓国に多数の日本企業が進出していることは事実ですが、これらの日本企業は「自分の判断で」韓国にわざわざ進出したわけですから、そんな日本企業を助けるために、日本国民の税金負担に跳ね返りかねない日韓通貨スワップを締結するのはナンセンスです。

個人的には、同じ日本国民の税金を使って日本企業を助けるのならば、自己責任で韓国に進出した企業すべてを助けるためではなく、自称元徴用工問題で不当な不利益を負わされている日本企業を優先的に助けるべきではないかと思うのです。

米韓スワップ待望論

ソウル新聞「米韓通貨スワップが必要」

翻って、韓国メディアにこんな記事を発見したので紹介しておきましょう。

【ソウル広場】韓米通貨スワップは必要である(2019-09-11 04:16付 ソウル新聞より【※韓国語】)

翻訳エンジンなどを参考に日本語訳したうえで、内容を要約・箇条書きにしておきましょう(ただし、肩書等については誤植等も含めて原文のままです)。

  • 通貨スワップとは異なる通貨をあらかじめ約束した為替レートで交換する取引であり、他の通貨による「マイナス通帳」に近い
  • 1997年11月11日、韓国政府の当時の財政経済院次官補は、「ミスター円」と呼ばれた大蔵省の榊原英資次官と会い、日本の金融機関の韓国の金融機関に対する貸出満期延長や中央銀行間通貨スワップ締結などの助けを求めたが、断られた
  • 結局、同年11月21日に韓国政府はIMFに緊急救済資金を申請したのだが、これに関する韓国政府高官による後年の回顧録によれば、ロバート・ルービン米財務長官に会って助けを求めたものの、米系金融機関の動きが止まったと述べている
  • それから11年後の2008年9月15日、リーマン・ブラザーズの破産により、国際金融市場では韓国が危険だという噂が回り、ウォン相場は急落したが、通貨危機再来を防ぐために、韓国銀行と企画財政部は米FRBを1ヵ月説得して300億ドルの通貨スワップを結んだ
  • この通貨スワップは当時の月額輸入額とほぼ同じであり、大した規模ではなかったが、市場はこれを好感し、米国との通貨スワップ締結直後の10月30日におけるドル・ウォン相場は1ドル=1250ウォンと、前日(1ドル=1427ウォン)から大きく下落した

日本の恩には一切言及しない記事

…。

このソウル新聞の記事、よっぽど日本のことが嫌いなのだということだけはビビッドに伝わってくる記事ですね。

リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機に際しては、2008年12月12日時点で日本も韓国に対する30億ドルの円建て通貨スワップを200億ドルに大幅増額しているのですが、ソウル新聞の記事では、このことにはいっさい触れられていません。

また、1997年の韓国通貨危機に際しては、日本の金融機関は最後まで韓国に対する与信を維持しようとしたということを、当時の国際金融市場の現場にいた真田幸光氏(現・愛知淑徳大学教授)が、ちょうど1年前に配信された、次の記事で証言しています。

国は通貨で韓国に「お仕置き」する/1997年「通貨危機」のデジャブ(2018年9月17日付 日経ビジネス電子版より)

「日韓通貨スワップは日本にとってもメリットがある」という寝言をつぶやく人であれば、真田氏の次の下りを100回くらい読むべきでしょう。

普通の国は助けられたら恩義に感じるものですが、韓国は逆です。義のない国です。そんな国を日本は助けてはいけません。/1997年の通貨危機では日本は最後まで韓国を助けた。というのに韓国人は「日本がドルを貸しはがしたから通貨危機に陥った」と言って回る。日本は恩をあだで返されたのです(「『人民元圏で生きる決意』を固めた韓国」参照)。/米国も今の状況下では簡単に日韓スワップは認めないはずです(「米国はいつ『韓国放棄カード』を切るのか」参照)。それを許したら「米国はそんなに怒っていない」と韓国は考え、ますます北の核武装幇助に走るでしょう。

(※ちなみに余談ですが、リンク先記事は日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏との対談記事ですが、現在になって読むと、このレベルの論考がすでに1年前の時点で存在していたという事実に驚かざるを得ません。)

なぜそんなにスワップが必要なのですか?

それはさておき、ソウル新聞の記事は、こう続きます。

  • 韓国ウォンは、国際金融市場での決済通貨である基軸通貨ではない。基軸通貨である米ドルやユーロ、円に比べて変動幅が大きい。先月ウォンドル為替レートの前日比変動幅は4.9ウォンで、7月(3.4ウォン)より大きくなった。今年に入って変動幅拡大を続けている
  • 人民元が1ドル=7元を超え、米国が中国を為替操作国に指定するなど、米中貿易戦争が米中為替戦争に拡大され、さらに日本が(韓国に対して)貿易報復を実行しているからだ
  • 本来、為替レートの上昇(※)は輸出企業にとっては有利だが、それと同時に変動幅が大きくなると、企業経営の不確実性が高まるため、問題だ

(※ちなみにドル・ウォン相場はコンチネンタル・タームを採用しているため、日本語だと通常、「ドル高・ウォン安」となることを「ウォンが下がる」と表現しますが、韓国語ではウォン安のことを「為替レートの上昇」と表現します。これは単なる日本語と韓国語の表現上の違いです。)

記事を読んでいただければわかりますが、韓国メディアはナチュラルに「貿易報復」などの敵対心に溢れる用語が用いられているという事実を知ると、改めて失望を禁じ得ません。日本の韓国に対する措置は「輸出貿易管理の適正化」であって「貿易報復」ではないからです。

ただ、その点はさておくとして、韓国ウォンの為替変動幅が大きくなること自体が、韓国のように為替ポジションが脆弱な国には大きく響いてくるのです。

そのうえで、ソウル新聞は次のように主張します。

為替市場の変動幅を減らすことに加え、通貨危機を未然に防ぐためには、外国為替のセーフティネットを拡大しなければならない。外貨準備高は8月末基準で4015億ドルだったが、これは外国人が保有している株式や債券(652兆ウォン=約5500億ドル)より少ない

この点、この記事の著者にはかなりの誤解があるようですが、べつにウォン建ての株式が売り浴びせられたところで、株安にはなりますが、そのこと自体が直接の資金繰り破綻の契機になるものではありません(『「韓国経済崩壊」論、本当の脅威は株価暴落ではなく外貨不足』参照)。

また、ソウル新聞は韓国が「スイス、カナダ、オーストラリア、中国など7ヵ国と通貨スワップを結んでいるが、米国との通貨スワップは2010年に、日本との通貨スワップは2015年に、それぞれ終了した」と述べます(※ちなみにカナダとのスワップは通貨スワップではなく為替スワップなのですが…)。

そのうえでソウル新聞は、驚くべき主張を繰り広げるのです。

  • 日韓通貨スワップは再開される可能性が極めて低いが、米国との通貨スワップは再開してみる余地がある
  • 韓国政府がホルムズ海峡に派遣する可能性も、トランプ大統領の圧力で企業の対米投資が増える可能性も高く、韓米間の経済信頼関係はより厚くなることができる
  • 存在するだけで市場心理を安定させる韓米通貨スワップがあれば(※後略)」

最後の下りについては、翻訳エンジンの能力の問題か、それとも原文の問題かわかりませんが、いったい何を言っているのか解読できませんでしたので、省略しています。

米国が通貨スワップに応じますかね?

さて、ソウル新聞の記事、ひととおり読んでみたのですが、正直、「米韓通貨スワップが存在することによる韓国側へのメリット」についてはひしひしと伝わってくるものの、それを結ぶことの米国側のメリットというものが一切見えません。

はたして、米国が韓国との通貨スワップに応じるものでしょうか?

以前、『通貨・為替スワップに関する雑学:人民元建てスワップの伸長』でも紹介したのですが、米国が外国と締結しているスワップは、メキシコを相手とする90億ドルの米墨通貨スワップだけであり、それ以外に通貨スワップは存在しないようです。

ちなみに、昔はカナダとの間でも通貨スワップ契約を保持していたようなのですが(いわゆるNAFTAスワップ)、現在、カナダとの間の通貨スワップ契約は存在していません。あるのは「日米英欧瑞加6中銀」による、期間・金額無制限の為替スワップだけです。

米国が外国と締結するスワップ
  • 通貨スワップ:メキシコとの総額90億ドルのスワップ
  • 為替スワップ:いわゆる6中銀間の期間・金額無制限のスワップ

おそらく米国は、基本的に金融市場の混乱などの特殊要因がない限り、外国とスワップを結ばない方針のようですが、そんな米国が韓国のために通貨スワップを結んでくれるのかどうかはよくわかりません。むしろ、米国のことですから、通貨は「言うことを聞かない韓国を懲らしめる」ために利用するような気がします。

なにより、米国が韓国とスワップを締結した2008年当時といえば、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機という特殊な事情に加え、米韓関係が現在とは比較にならないほど良好だったという事情があることを忘れてはなりません。

米国が韓国の期待に沿って米韓通貨スワップを結んでくれるのか、はたまた「人為的通貨危機」を通じて韓国に懲罰を加えるのか。

ちなみに偶然かもしれませんが、韓国は1997年、2008年と、11年ごとに通貨危機が発生しています。今年は2008年から11年目だという事実を踏まえると、「11年目の通貨危機」という仮説にも関心を抱かざるを得ないのです。

新宿会計士:

View Comments (38)

  • 米国は受けますかね?
    民主党の大統領なら可能性は有ったかも知れませんが、トランプ大統領ですよ。
    只でさえ、在韓米軍を引き揚げたくてウズウズしていると言うのに…

    しかも、韓国経済の歪みは何ら是正される事もないので、また十数年後には同じ事の繰り返しになる様な国ですよ?
    もう一度、世界経済の荒波に溺れれば良いと思うのですが…

  • 一時1176ウォンまでウォン高になっていたのにまたじわじわウォン安が進んでますね
    いよいよ終わり(弾切れ)が近いのか

    • >>いよいよ終わり(弾切れ)が近いのか
       → そうかもしれませんね。

      9月1日~10日の貿易収支がまだ発表されてないような。
      いつもは12,13日ごろには発表されるのに。
      どうしたのだろう?

  • おはようございます(*^^*)

    厚顔無恥というか自己中というか、お馬鹿と言うか、他力本願というか・・・

    経済専門の方いないんですかね?

    あっ、粛清しちゃって素人ばかりか。

  • 更新ありがとうございます。

    日本が最後まで韓国を助けようとした時も「日本が一番行動が遅い」などと非難した韓国です。日韓は無いでしょう。

    【米国との通貨スワップは再開してみる余地がある】(嘲笑)。余地があるんですか?米国に?外貨4,000億ドルなら不要でしょ(笑)。

    二国間貿易(FTA)締結でも、「我が国の経済的領土は増えた。地球の◯◯%だ」などと、相手国を利用するような失礼な発言を繰り返す。スワップでも例えばスイスと100億フラン結んだら、枠いっぱい自分のモノという表現をする。

    締結国はどう思うでしょう。もう盗まれた気がするのは私だけじゃないと思う。韓国とのスワップなんざ、泥棒にくれてやるようなもの。何処国も相手にされない事が第一です。

  • 前回の米韓スワップ時に、韓国はスワップを為替介入に使ってしまって、切られた経緯があるという記憶です。
    また、為替操作の疑惑を払拭出来ません(というか、日常的に市場に直接介入していると、思ってます)。
    米韓スワップを締結するより、為替操作国指定を受ける方が、はるかに現実的だと思います。

  • 韓国を干物にする方法。

    国際会議の場で、麻生財務大臣が、

    「チェンマイ・イニシアティブについての日本政府の見解を申し述べさせていただきたい。

    そもそもチェンマイ・イニシアティブというのは、通貨の信用度が比較的高い日本と中国、そして韓国という3カ国が貢献国となって、他のアセアン諸国に対し、共同で通貨のセーフティーネットを提供しましょうという建て付けの取り決めですわな。

    この貢献国・3カ国も、もちろん受益側に回る可能性は、条約の条文上では、否定はされておりません。
    されてはおりませんけれども、条約の建て付けとして、貢献国が受益側に回るなどという事態は想定しておらないわけですよ。

    ですから、仮に貢献国の一国が受益を必要として申し出た場合にはですね、わが国としては、いったいどのような事態が起きたのか、真意はどこにあるのか、状況はどれほど逼迫しておるのか等々を慎重に調査し、充分に見極めた上でないと対応はできないと。
    早い話、そういう事態に対しては、自動的には対応できかねますよということを他の貢献国には理解しておいてもらわんと困る、そういうことです」

    みたいなことを麻生財務大臣に発言してもらうだけで、韓国は干物になるでしょうね。

    • あ様
      麻生財務大臣が総理大臣だった時に、韓国にスワップを食い逃げされているので、何も言わなくても財務大臣に在任していただくだけでも韓国が勝手にいじけて干物になっちゃうじあないでしょうか。🐧

    • 確か中国が似たような文脈で会合ではなした上で「CMIには人民元で対応してよいか」とやって韓国が激怒(裏で)してたのを中央日報で見たような。

  • >韓国が外国と締結しているスワップは、メキシコを相手とする90億ドルの
    この「韓国」は米国の誤りですよね?

    • じゃっく 様

      ご指摘大変ありがとうございます。さっそく修正いたします。
      引き続きのご愛読とお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

  • > 2008年12月12日時点で日本も韓国に対する30億ドルの円建て
    > 通貨スワップを200億ドルに大幅増額しているのですが、

    そうでしたっけ?

    普通二国間通過スワップは、互いに自国通貨を出し合うものですが、かつての日韓スワップだけは殆ど唯一の例外で、韓国は「ウォン」を出すけど、日本が出すのは「円」ではなく「米ドル」という、特異なものだった様におもうのですが。

    韓国側が、「円なら要らん。」と言った様な気がします。

    そんなアホな通貨スワップは二度と結んではなりません。

    • 円ならいらないと言ったと思います。
      だけど、破談になりそうになって、円でもいいとも言ったと思います。
      偉そうなコジキです。

  • 今月22日、文在寅さんが米韓首脳会談(決まりましたっけ?)で、なにを議題とするのでしょうね。
    米韓首脳会談でおばさんに予想される議題を挙げてみました。

      ①日韓GSOMIA破棄の再考を引き換えに、日韓問題への介入を再度打診する。
    (このしつこさは、問題の本質を理解していない愚者の強気によるものかと。笑)

      ②米韓スワップ締結を要請する。(ムリ筋中のムリ筋ですが。)

      ③次回の米朝会談に関与させて欲しいと願い出る。(米朝両方から、却下されます。)

      ④在韓米軍駐留費について、再考を願い出る。(鼻で笑われます。)

    さて、韓国は半島人の本性を全開して、日韓問題に限らず、米韓問題でも、関わり合った全ての国に訴訟を展開するようです。(中国、北朝鮮はまだでした。笑)

    【韓国】「米国は責任を認めて謝罪せよ」~済州4.3事件関連団体、国連で国際社会に向けて米国糾弾
    https://anonymous-post.mobi/archives/13749

    このことを知ったら、トランプさん。文在寅さん本人への好悪のみならず、韓国人への好悪に発展しそうですね。

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