「1つの産業に国の命運を委ねる」。「基幹産業において協力してくれる国との関係を自分で破壊しに行く」。韓国とベネズエラには、不思議な符合がいくつもあります。韓国観察者である鈴置高史氏が今年2月に予言した「韓国のベネズエラ化」が、いよいよ本格化しつつあるように思えてなりません。こうした中、昨日、韓国銀行は2019年6月までの経常収支を公表しました。2019年上半期の同国の経常収支は大幅な黒字を維持していますが、それと同時に、データを詳細に眺めていくと、「稼ぐ力」自体が弱くなっていると思わざるを得ないのです。
目次
経常収支とは?
以前、『経常赤字の衝撃 韓国の「貿易危機」は続くのか』のなかで、韓国の4月の経常収支が2012年4月以来、84ヵ月ぶりに赤字に転落した、という話題を紹介しました。
そもそも、韓国の経常収支には、毎年4月に悪化する、という特徴があります。
なぜ4月に悪化するのかといえば、おそらくは配当金などの形で、韓国国内の企業の利益が外国に吸い上げられてしまうからです。
ここで、日銀『「国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)」の解説』や財務省『用語の解説』を参考にしつつ、国際収支の定義を確認しておきましょう。
- 経常収支+資本移転等収支-金融収支-誤差脱漏=0
- 経常収支=貿易・サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支
経常収支は貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計として定義されます。それぞれの概要は、次のとおりです。
- 貿易・サービス収支=貿易収支+サービス収支【実体取引に伴う収支状況】
- 貿易収支=輸出-輸入
- サービス収支=輸送収支+旅行収支+その他サービス収支【例:金融(証券売買等に係る手数料等の受取・支払)、知的財産権等使用料(特許権、著作権等の使用料の受取・支払)】
- 第一次所得収支=雇用者報酬+直接投資収益+証券投資収益+その他投資収益+その他第一次所得【対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況】
- 直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
- 証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
- その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
- 第二次所得収支:居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況。官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払等
- 資本移転等収支:対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況
- 金融収支:直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計。金融資産にかかる居住者と非居住者間の債権・債務の移動を伴う取引の収支状況
最新・韓国の経常収支
韓国の経常収支の特徴
経常収支の厳密な定義は上のとおりですが、韓国の経常収支は基本的に、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支の3項目だけを見ていれば、だいたい説明がつきます。
(※ちなみに、データ自体はできればPC端末から韓国銀行のウェブサイト “Economic Statistics System” にアクセスしていただき、FLASHを実行していただき、そこから “8.1.1 Balance of Payments” を選んでダウンロードすることが可能です。)
そして、韓国の場合はほぼ毎年、3月から4月にかけて、「直接投資収益」が大幅なマイナスとなります(図表1)。
図表1 韓国の経常収支と一次所得収支(2012年4月以降、金額単位:百万ドル)
(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)
ある意味でわかりやすい国ですね。
これこそが、毎年韓国の経常収支自体を押し下げている格好となっており、また、2019年4月は7年ぶりに経常収支が微妙なマイナスとなった、ということでもあります。
6月までの経常収支統計:稼ぐ力が弱まっている?
さて、本稿はその「続編」として、韓国銀行が昨日公表した、2019年6月までの経常収支統計を確認してみましょう。
まずは、月次のデータです(図表2)。
図表2 韓国の経常収支(2011年12月以降、金額単位:百万ドル)
(【出所】韓国銀行データより著者作成)
以前の『経常赤字の衝撃 韓国の「貿易危機」は続くのか』では、「2019年4月の経常収支赤字は一時的なものだ」と申し上げましたが、実際、図表2を見ていただければわかるとおり、とくに5月と6月については第一次所得収支が大幅な黒字化したことで、経常収支も最終黒字化しています。
なぜなら、そもそも論として4月に経常赤字化した理由は、基本的に第一次所得収支が大幅なマイナスとなったからであり、配当金が吸い上げられる季節が終了すれば、再び韓国の経常収支は黒字化する、という構図だからです。
その意味では、まったく予想どおりの結果です。
ただし、韓国の経常収支の主要構成項目は、なんといっても貿易収支ですが、最近、韓国は貿易収支の黒字を稼ぐ力が弱まっているように見受けられます(図表3)
図表3 韓国の貿易収支、輸出、輸入(2011年12月以降、金額単位:百万ドル)
(【出所】韓国銀行データより著者作成)
現在のところ、同国の貿易収支は大幅なプラスを維持しているものの、輸出、輸入がともに落ち込んでいることが確認できるでしょう。
半期ごとデータで見れば一目瞭然
ただ、図表3は月次データですので、少しわかり辛いという難点があります。
そこで、ちょうど6月末までのデータが出そろっているという状況を利用して、経常収支、貿易収支、輸出、輸入の4つのデータについて、半年ごとに集計し、改めてグラフ化してみましょう(図表4)。
図表4 韓国の経常収支、貿易収支、輸出、輸入(2014年1月以降、金額単位:百万ドル)
(【出所】韓国銀行データより著者作成)
ちなみに目盛間隔は2004年上半期以降、5年ごとであり、2019年上半期までの15年分をグラフに示してみました。この15年間でみると、2006年上期、2007年上期、2008年上期、2011年上期の4回、韓国の経常収支は半期ベースでマイナスとなっていることが確認できるでしょう。
ただ、2013年上半期以降、韓国の経常収支は強くプラスに転じていたのですが、明らかに2019年上半期において、この傾向が終わり、貿易収支がガクンと落ち込んでいることがわかります。
現時点において経常赤字が常態化する状態にはないことは間違いありませんが、それでも、日本が半導体等の原料など3品目について、包括承認を取り消して個別承認制に切り替えた措置(7月4日に発動)の前の時点でこの状況にあった、ということは、注目に値するかもしれません。
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ベネズエラ化する韓国
韓国は「ベネズエラ化」するのか?
さて、当ウェブサイトで何度も公言しているとおり、私自身は韓国観察者である鈴置高史氏の論説の大ファンであり、同氏の論考は欠かさず読んでいます。ただ、ここで1つ忘れないでいただきたいことは、鈴置氏は最新論考だけでなく、少し古い記事を読み返すと有益なことがある、という事実です。
文在寅で進む韓国の「ベネズエラ化」、反米派と親米派の対立で遂に始まる“最終戦争”(2019年2月12日付 デイリー新潮より)
『デイリー新潮』に今年2月に掲載された、「韓国のベネズエラ化」と題する記事を読み返してみると、じつに示唆に富んでいます。ウェブページで4ページ分という長文ですが、いつもながら説得力に溢れた論考であるため、負担なく読むことができる論考でもあります。
あえて当ウェブサイトの文責において要約すると、
- 米韓関係が急速に悪化しており、米国が韓国に駐留経費負担増を求めるなか、保守層でも米国への反発が広まっている
- 文在寅政権は「韓米同盟こそが諸悪の根源」と考える親北派が中枢部を占めており、今後、韓国国内で「米軍を追い出し同じ民族で団結しよう」との声がますます高まるかもしれない
- キューバがベネズエラを食い物にしたように、北朝鮮も韓国を食い物にするのかもしれない
といったところでしょうか。
驚くのは、これが2月末の米朝首脳会談以前に執筆されたものである、という事実であり、かつ、今日の米韓関係の悪化を見事に予言している点です。
メディアやインターネット上では「日韓関係の悪化」に焦点が当たっていますが、韓国から見て「日韓関係」と「米韓関係」は表裏一体の関係にありますので、じつは、「日韓関係の悪化」は「米韓関係の悪化」とイコールなのです。
ベネズエラへの二重の打撃
ところで、最近になって当ウェブサイトを訪れてくださるようになった方は、「なぜ唐突に南米のベネズエラが出て来るのか?」と疑問に思われるかもしれませんが、これにはきちんとした理由があります。
ベネズエラは事実上、原油という「モノカルチャー経済」ですが、ベネズエラは1999年に就任したウゴ・チャベス大統領(故人)のもとで、反米国家・キューバとの関係を深め、結果的に米国を敵に回したことで、石油産業が壊滅状態となり、現在は治安の悪化とハイパー・インフレに苦しんでいます。
ベネズエラは、たしかに石油埋蔵量では世界一とされるものの、ベネズエラ産の原油の多くは「超重質油」といわれる加工が難しいものであり、いかに埋蔵量が多いとはいえ、加工するためには先進国の石油メジャーなどの協力が必要とされているようです。
このため、チャベス政権の石油合弁会社の国有化政策などに反発した外国メジャーがベネズエラから撤退したことで、石油精製施設のメンテナンスが滞り、結果的に莫大な石油埋蔵量を誇っていながら、国民は食うや食わずの状態になってしまっている、という流れです。
つまり、石油の埋蔵量自体は多いが、米国など先進国の協力がなければ輸出自体が停滞してしまう、という状態だと見ればよいでしょう。
これに加え、米国で「シェールオイル革命」が発生し、世界的に石油価格が低迷していることも、石油に依存した「モノカルチャー状態」であるベネズエラに大きな打撃を与えています。
すなわち、現在のベネズエラは、石油産業が米国に依存しているにも関わらず、米国との関係を損ねたことで石油生産が大きな打撃を受けていることと、世界的な石油価格の低迷という、二重の打撃を受けている格好なのです。
参考:ベネズエラの苦境(クリックで拡大)
(【出所】Share America)
韓国とベネズエラ、3つの共通点
「ベネズエラにとってのキューバ」は「韓国にとっての北朝鮮」に、「ベネズエラにとっての原油」は「韓国にとっての半導体」に、それぞれ置き換えると、うまく説明が付きます。
いうまでもなくキューバは反米国家であり、北朝鮮も反米国家です。当然、ベネズエラが米国との関係を損ねた要因の1つがキューバに接近したことにありますので、韓国が現在の調子で北朝鮮に近付き続ければ、そのうち米国との関係は修復不能なほど悪化します。
確かに韓国にとって半導体は「稼ぎ頭」ですが、それと同時に、日本産の高純度フッ酸など、高品質な素材がなければ、ただちに生産が停滞してしまうという特徴があります。その意味では、日本に命綱を握られてしまっているのです。
奇しくも韓国経済にとっての「稼ぎ頭」である半導体については、供給がダブつき気味であり、価格が国際的に低迷しています。
つまり、ベネズエラと韓国には、
- 反米国家と手を結び、米国を敵に回していること
- 基幹産業の命綱を握る国と関係を悪化させたこと
- 基幹産業の製品価格が世界的に低迷していること
という、3つの重要な共通点を抱えているのです。鈴置氏も論考のなかで、非常に重い発言をされています。
「韓国は『第2の日本』ではない。親米派と反米派が内戦を繰り広げ、常に政情が不安定なラテンアメリカの国々に、もともと近いのである。」
逆に、ベネズエラと韓国の違いといえば、「すぐ隣に民度の高い先進国があり、大した努力をしなくても先進国になれるほど恵まれている」という点と、文在寅(ぶん・ざいいん)氏がウゴ・チャベスほどの指導力も能力もない、という点くらいでしょうか。
キャピタルフライト?
さて、現在のところ、韓国の経常収支統計からは、どうもこの国の「貿易黒字を稼ぎ出す力」が根本的に弱まっているように思えてなりません。
もちろん、経常収支をはじめとする統計は、毎月のデータだけでなく、「トレンド」で判断しなければなりませんが、少し長いデータで見ても、韓国の産業の減速は明確になりつつあります。
さらに、先月、日本が発動した「韓国向け輸出管理の厳格化措置」を受け、韓国政府が大騒ぎしていますが、韓国が騒げば騒ぐほど、むしろ世界の半導体需要者は韓国以外のサプライヤーからの調達を増やそうとするでしょうし、長い目で見れば韓国が自分で自分の首を絞めているようなものだといえます。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道によると、本日は日本政府が『包括許可取扱要領』を発表するそうです。
日本、あす「包括許可取扱要領」発表…実際に及ぶ影響・波長を予測(1)(2019年08月06日11時20分付 中央日報日本語版より)
韓国はこれに戦々恐々としているようですが、韓国政府がいちいち大騒ぎすれば、却ってキャピタルフライト(資本逃避)という動きが本格化する可能性にも留意が必要なのかもしれませんね。
※本文は以上です。
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