「粉飾決算」という言葉があります。これは、わかりやすくいえば「儲かってもいないくせに儲かっている」「財政状態が不健全なのにあたかも健全である」かのごとく決算書を発表する行為のことです。わが国の場合、上場会社がこれをやれば金融商品取引法違反であり、犯罪とされているのですが、外国では必ずしもそうではないようです。それを読み解くカギが、「インチキ会計基準」であるIFRSと「トレーディング商品」にあるように思えてなりません。

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リーマン危機とIFRS

2008年の金融危機とIFRS9

知られると不都合な事実とは、こういうことをいうのでしょうか?

2008年9月、米国の大手投資銀行の一角を占めていたリーマン・ブラザーズが経営破綻し、これにより国際的な金融危機が発生しました(これをわが国では「リーマン・ショック」と呼ぶことが多いようです)。

ただ、この「リーマン・ショック」は、本来の震源地である米国よりも、むしろ、欧州に対して深刻な打撃を与えました。なぜなら、当時の欧州の金融機関は、普通の商業銀行でありながら、「証券化ビジネス」など、リスクの高いビジネスに深く関与していたからです。

欧州諸国は当時から「四半期決算」が一般的でしたが、このままで2008年9月期決算をすれば、どの金融機関も巨額の損失計上を余儀なくされる、という事態に追い込まれていたのです。

これが日本の場合だと、決算をごまかせば、後日、厳しい刑事罰が待っていますし、ごまかさずに決算をすれば巨額の損失を余儀なくされ、銀行等の金融機関は「自己資本比率」が8%を割り込んで業務停止処分を喰らうおそれもあります。

ところが、欧州の場合、まったく事情が異なりました。

何と、彼らは「会計基準そのもの」を歪めることで、決算を乗り切ったのです。

英フィナンシャル・タイムス(FT)は2008年10月31日付の記事で、ある欧州系金融機関(※といってもタイトルでばれてしまいますが…)が、会計基準の変更により、最大250億ユーロ(当時の為替相場で324億ドル相当額)の損失計上を免れたと報じられています。

Accounting changes aid Deutsche Bank profits(2008/10/31付 FTオンラインより)

これは、国際的な会計基準を策定する団体「国際会計基準審議会」(IASB)が金融商品会計基準である「IAS39」を突如として改定し、これにより、銀行等が保有する、時価が暴落した不良資産を「塩漬け」にすることを容認する、きわめて恣意的なルール変更のことを指しています。

保有目的区分とは?

ここで重要な概念が、「保有目的区分」です。

日本の会計基準だと、企業が保有する運用目的の有価証券は「売買目的有価証券」、「満期保有目的の債券」、「その他有価証券」の3つに区分することが必要です(※)。

(※ただし、有価証券にはほかにも「子会社・関連会社株式」という区分もありますし、また、保険業の場合は「責任準備金対応債券」という区分がありますが、これらの区分の説明については割愛します)。

こうした区分については、基本的に当時はIFRS(IAS39)も米国基準もまったく同じでした。

IFRSでは、「トレーディング」、「満期保有目的投資・債権」、「売却可能資産」と呼ばれていたのですが、基本的には会計処理は日本と同じです。

図表1 保有目的区分(2008年当時)
日本基準IFRS会計処理
売買目的有価証券トレーディングFVPL
満期保有目的の債券満期保有目的投資・債権償却原価法
その他有価証券売却可能資産FVOCI

(【出所】著者作成)

ここで、「FV」とは “fair value” 、つまり「時価」のことを意味していて、「PL」とは「損益計算書」、「OCI」とは「包括利益計算書(純資産直入)」のことです(詳しい内容については割愛します)。

そして、「売買目的有価証券」(IFRSでいう「トレーディング」)で保有する資産は、毎期、時価(FV)評価をしたうえで「PL処理」(時価変動を毎期の損益として処理すること)をしなければなりません。

早い話が、リーマン・ショックで時価が急落した資産をしこたまトレーディングで持っていて、このままだと巨額の損失計上を余儀なくされる、という状態ですね。

一方で、「満期保有目的の債券」、「満期保有目的投資・債権」の区分で保有する金融商品については、そもそも時価評価自体が必要ありません。そこで、トレーディング資産を時価評価の不要な満期保有目的投資・債権の区分に振り替えたことにすれば、時価評価逃れが出来てしまいます。

しかし、そんなことをしたら、粉飾決算であり、違法です。そこで、IASBがやったことといえば、それを「合法化すること」だったのです。

これぞまさに、合法的粉飾決算の極みでしょう。先ほどの英FTの記事によれば、

  • トレーディングで保有していた金融商品については、そのままだと巨額の損失計上が不可避だった
  • そこでIASBは急遽、デュープロセスを無視して、トレーディングで保有する金融商品を、2008年6月末に遡ってその時点の時価で振り替えたことにして良いことにした
  • その結果、●●銀行は最大で250億ユーロもの巨額損失の計上を免れた(※●●には実名が入ります)

ということが記載されているのです。

問題は、それだけではありません。

IASBはその後、2009年11月には「IFRS9」という、「粉飾決算」に悪用されかねない、史上最悪レベルの会計基準を公表。欧州連合(EU)当局からしばしば突っ返されるという醜態をさらしました(ただし2018年1月から強制適用開始)。

こうした事件があったことからも、私は、IFRSにより作成されている欧州系金融機関の決算書については一切信頼できないと考えています。

国際決済銀行(BIS)は「欧州金融機関のリスク」を問題視

ただ、金融機関の場合、金融商品会計だけでなく、もう1つの重要な規制を受けています。

それが「銀行自己資本比率規制」です。

これは、銀行等の金融機関に対して一定水準以上の自己資本を持っておくことを義務付ける規制のことで、計算式は次のとおりです。

自己資本比率=自己資本÷リスク・アセット

ここで、自己資本比率を高めようと思えば、自己資本を増やすか、リスク・アセットを減らすか、そのいずれかしかありません。ところが、欧州系の金融機関が、この「リスク・アセット」の金額を過小に見積もっているとの疑惑が、以前から出ています。

議論の前提は、自己資本比率を計算する際の、「標準的手法」と「内部格付手法」の2つの方式です。簡単にいえば、

  • 標準的手法…金融機関が持っている資産などに対し、あらかじめ決められている「リスク・ウェイト」を掛け合わせて加重平均して「リスク・アセット」を計算する方法
  • 内部格付手法…金融機関が独自に統計などを取り、内部で格付を付与することで、自分たちで計算上のパラメーターを決めて「リスク・アセット」を計算する方法

のことです。

世の中の大部分の銀行などは「標準的手法」を使うことが一般的ですが、「高度なリスク管理を行っている」とされる金融機関は、当局承認(日本の場合は金融庁の承認)を得た場合だけ、内部格付手法を使ってリスク・アセットを計算することができます。

そして、標準的手法と内部格付手法でどのくらい、リスク・アセットに差が出るかといえば、極端なケースでは2~3倍の開きが出ることもあるようです(※このあたりの情報源については伏せます)。

この「リスク・アセット」の計算方式は国際的に共通しているのですが、これを策定しているのが、スイス連邦・バーゼル市内に本部が置かれた国際決済銀行(BIS)に事務局を持つバーゼル銀行監督委員会(BCBS)です。

少し古いデータですが、2013年7月にBCBSが公表したレポートによれば、日本、米国、欧州の金融機関を比べてみたときに、欧州の金融機関は最大で自己資本比率を2%以上嵩上げしている可能性があることがわかっています。

Regulatory Consistency Assessment Programme (RCAP) – Analysis of risk-weighted assets for credit risk in the banking book(2013年7月付 BCBSウェブサイトより)

リンク先記事のP8によれば、欧州の中で最も酷い銀行は、2.2%程度、自己資本比率を嵩上げしているとされていますが、これはリスク・アセットを計算する際のパラメーターを不当にいじって、リスク・アセットを低く抑えているという疑惑ですね。

なお、この資料はBCBSが公表しているものであり、どなたにでも読めます(※ただし英語ですが)。

共通通貨の欠点

自力で危機を乗り切った日本

では、金融危機が発生した場合、諸国はどうやってそれを乗り切ったのでしょうか?

例えば日本の場合、1990年代には「住専問題」に端を発する金融機関の経営危機が表面化。大手都市銀行は合併を余儀なくされ、いくつかの銀行には公的資金が注入され、中には経営者が刑事訴追されるなどしたケースもありました。

また、銀行再編の過程で、多くの融資先企業なども、経営再編に加え、民事再生法や会社更生法の適用申請を余儀なくされたケースは多数あります(※このあたりは私自身も駆け出し会計士時代に最前線で経験しました)。

ただ、日本の場合、1つの特徴があるとすれば、「国際的な支援を全く受けずに、自力で金融危機を乗り切った」ことです。

結局、今から20年以上前に20社以上存在していた大手金融機関(都銀10社、信託銀行5社、長信銀3行)はわずか5グループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友、りそな、三井住友信託)に集約されてしまいました(図表2)。

図表2 20年間で日本の銀行はどうなったのか?
区分1998年3月2018年3月
都市銀行105
地方銀行6464
第二地銀6441
信託銀行74
長信銀30
合計148116

(【出所】全銀協データより著者作成)

金融危機の事例は欧州に集中

しかし、ここで1つ、重要な事実があります。

ドイツを含めた欧州諸国では、銀行が経営難に陥ったとしても、政府が銀行を救済することは難しい、ということです。2008年の金融危機では、ユーロ圏を含め欧州各国が国際社会からの支援を受けましたが(図表3)、その理由は、その国の金融当局が外貨・共通通貨を調達できなかったからです。

図表3 日本と欧州の金融危機の比較
経緯結論
日本1990年代の住専危機や長信銀の経営破綻、2000年代の不良債権問題などが相次いで噴出した最終的にはいくつかの金融機関グループの経営破綻も経て、外国の支援なしに日本は自力で解決した
アイスランド英国などの外国人から預かった預金を外債投資などに投資するというシンプルなビジネスモデルで巨額の預金を集めたものの、2008年に国内3つの銀行が相次いで経営危機に陥ったGDPの数倍という巨額の債務を抱え、自国で金融機関の経営破綻処理をすることができず、最終的にはIMFなどの国際社会からの支援を受けた
アイルランド国内の銀行の経営危機を受け、2009年にアイルランド政府が資本注入を行おうとした同国はユーロ加盟国でもあり、単独での資本注入ができず、EU、ECB、IMF(トロイカ)からの支援を受けた
スペイン国内の貯蓄銀行(カーハ)が巨額の住宅ローンの焦げ付きを抱え、相次いで経営危機に陥った2012年に国際社会からの支援を受けながら、カーハを7行に集約する経営再編を行った
キプロスロシアなどからの「オフショア預金先」として人気があったが、大手銀行の預金の払い戻しができなくなった2013年に国際社会からの支援を受けながら、預金の払い戻しを凍結するなどした

(【出所】著者作成)

政府が銀行救済できないのが欧州諸国

ここでよくわかるのは、2000年代の金融危機は大部分が欧州に集中している、ということです。

とくに、アイスランドを除けば、いずれの国も危機が表面化した時点でユーロ圏に属していたという共通点があります。欧州といえば「先進国」というイメージがありますが、その「先進国」であるはずの欧州に、ここまで危機が集中する理由は何でしょうか?

その最大の理由は、ユーロという通貨の構造的な欠陥にあります。

たとえば、ある国において政府が一時的に巨額の財政支出を余儀なくされるとき、一般的には特別法により国債などを発行して対応するはずですし、一時的に国債発行残高が増えた場合に、中央銀行はその国債を市中から購入するなどして金利の急騰を防ぐ仕組みがあります。

しかし、ユーロ圏の場合、中央銀行である欧州中央銀行(ECB)がどこの国にも属しておらず、かつ、特定国の国債の発行残高が急増したときに、ECBがその国の国債を市中から購入する、という仕組みもありません。

とくにユーロ圏共通財務省の創設に対してはドイツが強硬に反対していているのですが、日本などでは普通にできることが、ユーロ圏では実施できないというのは、非常に重要なポイントでしょう。

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ユーロ圏発の金融危機?

こうした状況で、ドイツで銀行の経営危機が表面化してしまうと、果たしてどうなるのでしょうか?

おそらく、ドイツ政府には銀行救済などできません。怖いのは、「インチキ会計基準」であるIFRSを使っている欧州で、金融機関が不良債権をしこたま抱え込んでいる状態が長引いている中、ドイツ政府が問題の先送りを続けていることではないかと思います。

  • ドイツを含めた欧州の金融機関は、インチキ会計基準であるIFRS9のもとで損失を隠している可能性が高い
  • 仮にユーロ圏で金融機関の経営破綻が再発した場合、ユーロ圏各国政府にそれを救済する能力はない

ちなみに、この状態はべつに今に始まったものではありません。

ユーロ圏独特の問題は、2008年の時点ですでに生じていて、彼らはその抜本的解決から目をそむけ、逃げ続けてきたのです。その意味で、ひとえにこの問題はユーロ圏が自ら解決しなければならないはずのものですが、彼ら(とくにメルケル)にそれを解決する意思や能力があるのかは疑問です。

そして、ユーロ圏発の金融危機は、彼らに事態収拾能力がないという意味で、非常に長引きます(欧州債務危機がその典型例です)が、下手をすればリーマン・ショックなどをはるかに上回る危機が世界経済に襲い掛かることも考えなければならないでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、先日紹介した『髙橋洋一氏と朝日新聞論説委員の討論は「大人と子供の勝負」』のなかで、財務省の「増税プロパガンダ」がコロコロ変遷してきたという話題を紹介しました。

そのなかでも傑作なのが、「大震災リスクがあるからこそ、日本は今のうちに消費増税でそれに備えるべきだ」、とする理屈です(※このロジックは朝日新聞の原真人編集委員が口にしたところ、髙橋洋一氏からその場で完膚なきまでに叩き潰されたという代物でもあります)。

ただ、その理屈が通るならば、「将来、金融危機の危険性があるのなら、日本は今のうちに消費減税と財政出動をしておかねばならない」、という理屈も通るはずであり、「少なくとも日本は財務省のプロパガンダに乗せられて消費税の税率を上げて良い局面ではない」、ともいえるのではないでしょうか。

※本文は以上です。

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    入国規制解除に失敗すれば日韓関係「自然消滅」実現も (40コメント)
  • 2020/05/18 15:30 【時事|韓国崩壊
    米中対立局面で日韓関係をあまり「放置」できない理由 (55コメント)
  • 2020/05/18 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事 COVID-19編~8~ (79コメント)
  • 2020/05/18 11:11 【時事|金融
    日米為替スワップは「日本が米国を助ける手段」なのか (22コメント)
  • 2020/05/18 08:00 【時事|外交
    中央日報「日本がコロナ経験共有を韓国に求めて来た」 (25コメント)
  • 2020/05/18 05:00 【外交
    時事「政府、中国などへのビジネス渡航解禁」記事の怪 (23コメント)
  • 2020/05/17 15:00 【時事|外交
    産経「日本政府がWHOのコロナ対応検証を提案へ」 (18コメント)
  • 2020/05/17 09:00 【読者投稿
    【読者投稿】武漢肺炎で中国はわざとウソを流したのか (44コメント)
  • 2020/05/17 05:00 【韓国崩壊
    韓国メディア「約束破りは韓国の文化。日本は理解を」 (116コメント)
  • 2020/05/16 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事通常版 2020/05/16(土) (199コメント)
  • 2020/05/16 09:00 【時事|韓国崩壊
    米中コロナ対立の折、日韓関係決める「3つの守り神」 (61コメント)
  • 2020/05/16 05:00 【マスメディア論
    新聞崩壊?「押し紙」認めた判決契機に訴訟ラッシュも (51コメント)
  • 2020/05/15 16:30 【時事|外交
    トランプ氏「米中断交すれば5000億ドル節約」 (26コメント)
  • 2020/05/15 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事 COVID-19編~7~ (82コメント)
  • 2020/05/15 11:11 【時事|経済全般
    鈴置論考「韓国は反面教師」説を裏付ける安倍発言 (17コメント)
  • 2020/05/15 08:00 【経済全般
    コロナとは経済問題 無駄な既得権を飼う余裕は消える (28コメント)
  • 2020/05/15 05:00 【RMB|日韓スワップ|韓国崩壊
    中国は「使えない中韓通貨スワップ」で韓国を支配へ? (21コメント)
  • 2020/05/14 15:00 【時事|金融
    【速報】ネコと和解せよ (26コメント)
  • 2020/05/14 11:11 【時事|経済全般
    特別定額給付金で「ミス頻発」は「歳入庁」実現の好機 (20コメント)
  • 2020/05/14 08:00 【時事|金融
    米国の対中輸出管理強化と「コウモリ国家」の命運 (20コメント)
  • 2020/05/14 05:00 【韓国崩壊
    慰安婦問題は韓国を滅ぼす「ブーメラン」となり得る! (75コメント)
  • 2020/05/13 15:30 【マスメディア論|時事
    朝日新聞「コロナを日韓関係のリセットの契機に」 (46コメント)
  • 2020/05/13 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事通常版 2020/05/13(水) (121コメント)
  • 2020/05/13 11:00 【マスメディア論|時事
    ひとりの医師の誠実な気持ちを踏みにじったテレビ朝日 (52コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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