金融政策と為替介入をごっちゃにする韓国銀行のデタラメ報告書
韓国銀行が「アベノミクス式通貨政策を通した雇用の安定は韓国では無理」とする報告書を公表したそうです。いちおう、中身を読んでみたのですが、ちょっと何を言っているのかよくわからないという点も多く、こんな報告書を出す中央銀行があるという事実に驚愕しているというのが正直なところです。中央銀行であれば、金融政策と財政政策の違い、フィリップス曲線、為替操作、ルールによる統治などの基本的な考え方を理解してから報告書を書くべきではないかと思ってしまうのですが…。
2018/12/28 12:25 追記
いろいろとエラーや誤植がありましたので修正しております。年の瀬ということもあり、エラーが頻発し、読者の皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。「すまないさん」様、「りょうちん」様、ご指摘大変ありがとうございました。
レーダーに食傷気味な新宿会計士
当ウェブサイトによくコメントを寄せてくださる「りょうちん」様から昨日、「最近は『徴用工』『慰安婦』『レーダー照射』が食傷気味」だとのご指摘を頂きました。これについては、「りょうちん」様に言われるまでもなく、私自身も少々、食傷気味です(笑)
こうしたなか、「りょうちん」様からリクエスト(?)を頂いていたのが、こちらの記事です。
韓銀「アベノミクス式通貨政策を通した雇用安定、韓国では無理」(2018年12月27日15時32分付 中央日報日本語版より)
だいたいタイトルだけで内容が想像できるのですが、どんな記事であっても読まずに批判するのは間違っています。そこで、まずは要点を抜粋・要約し、日本語を整えて箇条書きにしておきましょう。
- 韓国銀行は27日に発刊した報告書のなかで、日本の「アベノミクス」のような通貨政策を通した雇用安定政策は韓国では無理があると警告。雇用安定のためには通貨政策より欧州のような積極的財政政策を考慮する必要があると提言した
- 同報告書では「アベノミクス」が「金利下落と同時に円安を誘導しながら輸出企業の収益性が改善されて雇用が拡大する効果をもたらした」としつつ、「所得不平等の悪化と労働市場の二重構造拡大という副作用が発生した」とし、日本と同じやり方を韓国に当てはめるのは無理があると分析した
- 韓銀の研究員は「対外依存度が高い状況で為替レート調整を通じて対外部門を浮揚すれば、対外衝撃に脆弱になり、雇用不安定がむしろ深刻化するおそれがある」と話した
この短い文章のなかに、ここまでツッコミどころがあるとは、驚きです。ここまで来ると、これも一種の「文才」(?)といえるかもしれませんね。何より恐ろしいのは、この報告書を出したのが、一国の中央銀行である、という点でしょう。
金融緩和は「円安誘導」のためではない!
当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』ではこれまでくどいほど繰り返してきたのですが、日銀が採用する量的質的緩和(QQE)の目的は「デフレ脱却」にあり、「円安誘導」ではありません。
2013年4月にQQEが発動されて以降の為替相場は1ドル=100~125円ていどで推移していますが、別に金融緩和と比例的に円安になっているわけではありませんし、この6年間で麻生副総理や日銀が「望ましい為替相場水準」を示したことは、ただの1度もありません。
それに、「金利下落と同時に円安を誘導しながら輸出企業の収益性が改善されて雇用が拡大した」という韓国銀行の報告書は、事実誤認も甚だしいといえます。
総務省の統計によれば、日本のGDPは名目値で2012年に489兆127億円だったものが、542兆7920億円へと、約11%伸びています(ただし「対前年比増加率」の累積値は10.3%です)。
そして、GDPの寄与度分析を見れば、2013年から2017年の5年間における貿易の寄与度の累積値は、輸出が5.1%、輸入がマイナス2.5%であり、純額で2.6%に過ぎません。これは、GDP全体(10.3%)において、貿易が4分の1しか寄与していないということでもあります。
中央銀行のくせに、経済統計上の数値を無視して経済成長を議論するとは、なかなかぶっ飛んだ発想だと思います。
不景気脱却の処方箋は金融政策か、財政政策か?
一方で、韓国銀行の報告書には「欧州のような積極的な財政政策」という文言が出て来ますが、はて、それはどこの「欧州」のことでしょうか?(笑)
というのはさておき、一国経済が疲弊しているときに有効なのは、財政政策(つまり、減税や公共事業)と金融政策(つまり、利下げや量的緩和)のどちらなのでしょうか?
その答えは、その国が「開放経済」なのか、「閉鎖経済」なのかによって異なります。
閉鎖経済の場合、財政政策を打てば金利が上昇しますが、別に国内の金利が上昇したところで、外国から資本は流入して来ません。しかし、開放経済の場合は金利が上昇すれば為替相場が自国通貨高となり、輸出競争力が損なわれることで、結局は財政出動の効果は打ち消されてしまいます。
2008年のリーマン・ショック直後に麻生太郎総理が率いる日本政府が積極的な財政出動を行いましたが、日銀が金融緩和に協力しなかったため、結局はせっかくの財政政策が効果を発揮せずに終了したことは、記憶に新しい点です。
このように考えていくと、開放経済においては金融政策がセットで行われるべきであることは間違いありません。
韓国の場合、輸出がGDPの4割を占めており、マクロ経済政策を講じるうえでは、極端な外需依存の状況を無視することはできません。韓国銀行の報告書が言う「財政政策を中心とした政策」を講じた場合には、まさにウォン高により輸出競争力が急落し、経済がボロボロになってしまうでしょう。
フィリップス曲線を無視する中央銀行
ちなみに、金融政策はもう1つ、経済社会にとって重要な意味を持っています。
それは、「雇用とインフレの関係」です。
世界各国で失業率とインフレ率の関係を調べると、両者には密接な相関関係があることが知られています。これが「フィリップス曲線」と呼ばれるものです。簡単にいえば、インフレ率が上昇すればするほど失業率は下がる(つまり雇用が増える)という現象です。
逆にいえば、インフレ率が下がる(つまりデフレになる)と、失業率は上昇する(つまり雇用が失われる)、ということでもあります。
いちおう、私なりに理屈付けると、世の中で物価が上がる(つまりインフレになる)と経営者が期待すれば、「将来賃金水準も上がるから、今のうちに優秀な労働者を確保してやれ」とばかりに、雇用を増やそうと考えます。
しかし、世の中で物価が下がる(つまりデフレになる)と経営者が期待すれば、「放っておけば人が余り始めるから、いま慌てて従業員を雇わなくても、もっと人件費が安くなってから人を雇えば良い」、などと考えるようになります。
そういう理屈はともかく、ここで大切なことは、「インフレ率と失業率には逆相関がある」、という事実です。
韓国の場合は文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の主導下で、経済の実情を完全に無視し、最低賃金だけを引き上げる政策を強行しました。しかし、インフレ期待などの条件を無視しているがために、結局、経営者としては「人件費総額を抑えるために雇用を抑制する」という行動に出ているのです。
つまり、政府も中央銀行も、見事に経済学の「け」の字も知らない人たちなのではないかと思ってしまいます。
為替操作国の悲哀
ただ、あくまでも私の見立てですが、韓国の場合、「透明性の高い、ルールに基づいた統治」というものが苦手なのではないかという気がします。
それは中央銀行であっても例外ではありません。
昨今の金融規制の潮流は、「為替相場は市場メカニズムに委ねる」ということであり、中央銀行や規制当局としての役割は、「市場メカニズムが機能するように監視すること」です。ところが、韓国銀行は直接、為替介入をしており、そのことは米国財務省からも「為替監視レポート」で指摘されてしまっているほどです。
要するに、韓国銀行は為替操作を通じて、市場メカニズムを破壊しているという言い方もできるでしょう。
金融規制の世界でも、中国や韓国は、「ペッグ制度を採用しているのではない限り、為替は市場原理にゆだねる」というルールを無視していることで知られていますが、こういう無法国家の中央銀行が公表するレポートは、いろいろツッコミどころだらけだということでもあります。
いずれにせよ、韓国メディアを眺めていると、ときどきはこの手のアサッテな記事が出て来るので、それはそれでツッコミを加えつつ眺めるというのが正しい対応ではないかと思うのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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記事更新ありがとうございます。
TOPページから記事全文が見えるようになっております。
たぶんタグ等の範囲が誤っている可能性があります。
ご確認願います。
失礼します。
すまないさん 様
いつもコメントありがとうございます。
ご指摘大変ありがとうございます。早速修正いたしました。
引き続きご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
>韓国の場合、輸出が内需の4割を占めており、マクロ経済政策を講じるうえでは、極端な外需依存の状況を無視することはできません。
ここでは内需→GDPの誤りでしょうか?
話は変わりますが、私の内需という概念の誤りがないかネットで確認しようと検索したらこんなとんでもない記事を見つけました。
https://imidas.jp/ichisenkin/g01_ichisenkin/?article_id=a-51-001-10-02-g204
>一方、日本は外需型だ。国内市場も大きな規模を持ってはいるが、すでに経済は成熟、さらには少子化なども手伝って、大きな成長が見込めない状況になっている。こうしたことから、日本は海外へ活路を求める外需型にならざるを得ない。
これは個人サイトならまだしもイミダスという歴史ある書籍の執筆者だというのですから・・・。
りょうちん 様
いつもコメントありがとうございます。
ご指摘の通り、「内需」は「GDP」の誤りです。早速修正いたしました。
引き続きご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
りょうちん 様
恐らく玉手氏の(というか2000年代エコノミストの多くの)「内需型経済」「外需型経済」は
GDPに占める輸出額の割合ではなく、GDPの増減に対する輸出額の変動の寄与度を以て、タイプを分けていたと思います。
外需の割合等の根拠は抜きにして、ぶっちゃけ
『日本は独力で好景気を演出することは出来ない』って意味で「外需型経済」という言葉を使っていたはず。
『日本はGDPに占める輸出額の割合が低い』論については主に「輸出依存型経済」とか使っていたかと。
デフレ脱却のためお金ばらまく(金融緩和)
↓
お金の価値下がる(物の価値相対的に上がる)
↓
金利差高いドル買われる(円売られ円安)
↓
円安で輸出企業潤う(仕事増える、雇用改善)
↓
日本経済やや持ち直す ← 今ここ
なのですね。私も中央日報の記事読んで「ちょっと、なに言ってるニダ」のサンドウィッチマン状態でしたが会計氏の解説で納得できました。
ところで「風が吹けばブレザーが売れ残る」って知ってましたか?風吹くと、猫やらネズミが出てきて桶屋が儲かるわけですが、この経済連環、普通は儲けた桶屋さんで話が終わります。でも現実はそんなわけなくて、儲けた桶屋は殺到するオーダーに応えるために大量の竹を仕入れます。竹が売れると聞いてお爺さんは裏山に竹を切りに出かけます。なんということでしょう、切った竹から花のような女の子が現れます。長じて「かぐや姫」になって月に帰ります。実はかぐや姫は美少女戦士セーラームーン、月野うさぎのかりそめの姿だったのです。悪の半島のムーンと金豚を「月に代わっておしおき」し、世界は平和を取り戻したのでした。この快挙に世のおじさんたちは欣喜雀躍狂喜乱舞、爆発的にセーラー服が人気になり女子高の制服に復活。代わってブレザーの人気が下火になりましたとさ。めでたしめでたし
https://www.youtube.com/watch?v=NJCLX46m1Fk
コーヒーブレイクにうまくはまりました o(*゚▽゚*)o)))♡
どうかお座布団を
ご笑納下さい!
・金豚はカツにして
・ムンはフライにして
食べてしまったということですね。わかります。
>金融緩和は「円安誘導」のためではない!
と、見出しにありますが、私は円高回避のための政策なのだと思います。
政府は、政策(円高回避)による景気回復の期待感のもと、量的緩和による企業への資金供給態勢をコントロールしつつ、法人税の継続的な引下げや即時償却の導入により、設備投資・雇用の大幅な改善を達成しました。
*****
韓国では、ウォン安政策のせいで、ただでさえ物価が高かったのに、最低賃金上昇分の価格転嫁がすすむ状況で、積極的な量的緩和なんてした日には、ハイパーインフレの発生は避けられず、外資が逃げ出して国家は破綻するよりほかありません。(ソフトカレンシーの宿命でもありますね)
財政出動にしても、例えば、現代自動車では、労組が強すぎて、20年近く国内工場の新規建設がない状況で、設備投資も雇用もボロボロなんです。海外(ロシアほか)拠点の利益で生かせてもらってるんですよね。
研究者の方も、内心は「報告書にまとめるまでもない」って思ってたんじゃないでしょうか?
崔碩栄 @Che_SYoung【年末スクープ】第2弾来た!
https://ameblo.jp/yukibakda/entry-12429614879.html
記載部前官追加暴露”青瓦台赤字国債発行を余儀なく”/YTN
https://youtu.be/u1Kk8WmmflU
去年、前政権である朴槿恵政権の負債が多かったように見せるため、
現政権が赤字国債を発行するよう圧力をかけたと元財政部官僚が暴露。
財政部が反対し大喧嘩。経済副総理が大統領に直訴しようとしたら、
大統領官邸が大統領に合わしてくれなかった。
財政統計の改竄にもつながり、
韓国の国家の信用力の低下をもたらしかねない。
格付け機関が韓国国債のレーティングを下げ、韓国経済に大きな打撃